演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

福井 しゅんや

脚本家。演出家。俳優

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fukuiiiiii企画「歪ハイツ」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い致します。最近、福井さんはどんな感じでしょうか。
福井 
最近は、次の公演の稽古が主な感じですかね。
__ 
歪ハイツ。「ゆがみ」ハイツ?「いびつ」ハイツ?
福井 
歪ハイツと書いて、「ひずみハイツ」です。「ふせい」って読んだ人もいました。ちょっと呼び方難しいですかね。
__ 
どんな作品になりそうでしょうか。
福井 
作り手側の気持ちとしては、これ見せて大丈夫かな?というぐらいのものを作っています。それに拒否感を持つ人もいるでしょうし、何か感化されてしまう人もいるかもしれないです。逆に僕はそういう要素が全くないから書けたんですけど、ちょっと劇薬というか、危険な。
__ 
そう、チラシに15歳未満入場禁止とありますね。性的描写や残酷描写がある?
福井 
性的な描写は全くないんですけど、残酷描写はあります。血がいっぱい出るとかではないんですけど、しんどい人にはしんどいんで。見る前に思い留まってくれるようにその但し書きを付けています。
__ 
自分達のやっている事に自覚的ではあるんですね。
福井 
少なくとも僕はそうですね。役者全員がそうだとは限らないですけど。・・・・あんまり危険危険言い過ぎるとハードルが上がってしまいますけど、僕がお客さんだったら嫌だなあと思う事を書きました。脚本家として乗り越えなくてはいけない部分に触れた脚本が書けたんじゃないかと、自己満足じゃないんですけど。
fukui企画

福井しゅんやの個人ユニット。2011年8月「不肖、死スベシ。」にて旗揚げ。

fukuiiiiii企画「歪ハイツ」

公演時期:2014/2/14~15。会場:元・立誠小学校。

脚本家としての課題

__ 
脚本家としての課題が、この「歪ハイツ」にはあると。それは何なのでしょうか?
福井 
僕は不合理なものに興味があるんです。辻褄が合わないけど強度がある、そういう物語が好きなんですね。尊敬している作家がつかこうへいさんなんですけど、合理不合理では判断が付かない強度を持つ脚本なんですよ、つかさんの作品は。
__ 
そうですね。
福井 
そこに強く惹かれています。この大学に入ってからもそんなに演劇は好きじゃなかったんですけど、つか作品に触れて「こういう事でええんや」と。それまで僕は映画監督になりたくて、だから物語を作りたかったんですけど、それは合理化をしないといけないという恐怖もあったんです。書いてはやめ、書いてはやめをしてたんですけど、ストーリーが骨太なら、辻褄が合っても合って無くてもいいんだな、って気づきました。特に演劇はそういう性格が強いと思います。
__ 
なるほど。辻褄が合っていなくても素晴らしい作品は多いですね。
福井 
でも、今回はモチーフになったある事件を参考し、社会心理学・精神心理学・臨床心理に則って緻密に出来た本なので。理には適った本だと思うんですね。好きとかじゃないんですけど。そうした、足りてない部分に向き合った作品を、大学院の卒業と東京での就職の間の時期でやっておきたいと思いました。プロとしてやる前に。それが発端でした。
__ 
ありがとうございます。非常に素敵な時期に公演をされるんですね。

fukuiiiii企画「うねる物語と、お前とおれとおれの剣」

__ 
去年の夏に上演されたfukuiiiii企画「うねる物語と、お前とおれとおれの剣」これがですね、大変面白かったんです。
福井 
ありがとうございます。
__ 
この話の大きな特徴は転調でした。最初はジャンプ漫画だった劇中劇が、別の作者の手による創作になり、「あいのり」や「テラスハウス」のような恋愛番組に変貌してしまう。そのダイナミックな転変が素晴らしかったです。そのモチーフになった番組について考えたんですが、これら番組の違いは「距離」の性質の違い、なのではないかと。
福井 
はい。
__ 
恋愛と距離は非常に良く似た性質のもので、どちらも人間を困らせる問題です。恋愛を物語の中心に据え、距離を視覚化したのが「あいのり」だったのでしょうね。一方、「うねる物語」。芝居の最初は能力モノアクション漫画が多少のギャグを含みながら始まり、それがあいのりになってしまうと同時にギャグは一切入らなくなる。その落差に客席はずっと笑い続けている。しかし、僕ら観客が笑ってたものは純粋な恋愛そのものだった。そのおかしさに分かっていながら笑うのを止められない、その共犯関係。
福井 
そうですね、どう壊すかで行き着いたのが「あいのり」だったんですよ。「テラスハウス」も見たんですが、正直クソみたいだなと思ったんです。僕は「あいのり」をずっと見ていたんですが、あれは恋愛に器用じゃなかったんですよ。付き合うか付き合わないかのせめぎ合いが良かったんです。「テラスハウス」は付き合った後もずっといられるじゃないですか。あれはホンマくだらんなと思いまして。あまり参考にはしていません。
__ 
なるほど。あいのり、お好きなんですね。
福井 
僕はその、どちらかと言うと女の子の気持ちで見ていて。「なんで男が待ってんねん」て気持ちで見ていて。見返してみたらやっぱり面白いんですよね。主人公のかんすけという漫画家の作品を壊す材料として「あいのり」をもう一度見なおして。中学の3年間で見たあいのりがホンマに面白くて、その面白さを詰めた感じです。作品自体は賛否両論だったんですけど。
__ 
(笑う)
福井 
怒って帰る人もいれば、「『面白くない』言ってる人の気持ちがわからん」って言ってくれる人もいて。でも一番嬉しかったのは兄に褒められた事ですね。今までの作品で一度も褒められたことが無かったので。嬉しかったです。
__ 
去年の夏に拝見しましたが、内容を結構覚えてるんですよ。船に集められたダークヒーロー達が、暗転と同時にあいのりを始めるんですからね。
福井 
僕も漫画家を目指していて、ずっと読んでもらっていた親友に「ストーリーは良いけど絶望的に絵は下手」と言われて諦めた事があって。まあそこも下敷きに。ジャンプにも、たまに面白くない作品がありますよね。こうすればもっと面白くなるのに、とか思う経験もあって。
__ 
なるほど。
福井 
実はこの作品の出発点は下北沢で見たお芝居でした。それがですね、「何でみんな笑わんの」ってぐらい面白かったんです。いや、コメディではないんです。「うねる物語」の前半でやってたような、「あ・・・頭が!頭が疼く!」みたいなノリの芝居で、お客さんがずっと黙って見てたんですよ。僕は見ている内に、「10秒後こいつの頭にトマトが降ってくる」とか勝手に想像しちゃうわけですよ。ずっと僕だけ顔を隠して笑ってたんです。今思うと最低の客やったと思うんですけど。その作家さん的には、あの芝居で真剣に感動させようと思ってたんでしょうけど、その能力が稚拙やと凄い事になるんやなと。僕が親友に言われたように。周りのお客さんも「なんやこれ」と思ってた人はいるんじゃないかなと。その経験を3年ぐらい寝かして作った作品でした。まあ、役者さんの中には「この芝居の何が面白いのか分からない」と思っている人もいたと思います。物語を壊すことに面識がない人からすれば当然だとは思いますけど。
__ 
悪趣味ですね。
福井 
最初は結構、濃いジャンプ漫画から入って。稚拙なジャンプみたいなシーンが続いて「この芝居ヤバい」「おいどうした」って思わせて、そこでさらにあいのりが始まって、ついてきてくれるかどうか。あいのりを見る感覚、つまりキャラクターに感情移入出来る人はきっとすごく楽しめたんだと思うんです。でも客観的に全体の構成を考えながら見る方は、何やこれと思われたのかもしれないです。
__ 
私は・・・どうでしょうね。感情移入もしたけど、構成が壊れている作品は大歓迎なので。
福井 
自分の作品を成功・失敗では考えないですけど、この公演は失敗だったのかなと。でも自分の糧になる作品になったと思います。
fukuiiiii企画「うねる物語と、お前とおれとおれの剣」

公演時期:2014/8/1~4。会場:人間座スタジオ。

造形大の思い出と、向こうへ行く事について

__ 
造形大の思い出を教えてください。
福井 
色々あるんですけど、演劇以外だったら、STEPSというダンスサークルに入ってストリートダンスを4年間やっていた事です。上手くは無かったんですけど、演劇以外のアプローチを学べたというか。例えばセリフを喋る時のリズム感で、ここのリズムがおかしいから次のリズムがおかしくなるみたいな。ダンスのリズム感というのは芝居に活かされたりしたし、友達と呼べる人もダンスサークルで出来たし。彼らとは今でも交流があります。
__ 
福井さんは就職で東京に行かれるんですよね。向こうでもfukui企画をやって欲しいですね。
福井 
そうですね。映像制作の会社で、構成作家とかの仕事を頂いていまして。向こうの仕事の忙しさとかがまだ分かってないので。まあ、自分の好きな事は出来なくなるじゃないですか。
__ 
そうですね。
福井 
そこはしっかりとしながらも、もしお芝居がやれるようになったら(というか絶対やりたいと思ってますし)、自分がホンマにやりたいと思っているものを見せる。それを世の中に見てもらえるようになったら本当に嬉しいです。

映画と演劇の二択

__ 
fukui企画を立ち上げた経緯を教えてください。
福井 
立ち上げたというより、僕一人のユニットで。名前にもずっと(仮)が付いてる感じなんで。そもそも説明させて頂くと、僕は映画監督になりたかったんですよ。造形大にも映画学科はあるんですけど、舞台の演出の方が役者の動かし方が分かるようになると何かの本で読んで。それを鵜呑みにして舞台芸術学科に入ったんですね。それは僕は全く後悔してないんですけど。
__ 
なるほど。
福井 
脚本にしても、映画と演劇のそれって決定的な違いがあると思うんですよ。映画は、物語の核心を隠していくために描写を削る事が正義で、舞台はそれを出す事が正義だ、と学んでいったんです。隠すという事は、多分もう、何回もやれば上手になっていくと思うんですよ。緻密さは映画の方が絶対あると思う。物語の求心力も強いと思う。一方演劇は役者のものと言われていますよね。
__ 
役者が支柱となって物語を支える、というより、一体になっていると。
福井 
そうですね、俳優の一挙手一投足に集中してみているお客さんに、しかも彼らは向き合っているじゃないですか。演劇は衰退しているんですけど、そういう面では優れていると思うんですよ。優れた演劇を見た時の発見は凄いものがあって。そういう思いがあって、回り道かもしれないですけど、演劇学科に入ったんです。出す事を学んで、その後、隠していけばいいや、と。戯曲を書く事を始めて、上演しないと意味がないと学んで、それで始めたのがfukui企画です。
__ 
なるほど。ちなみに、最初に書かれた作品はどのような。
福井 
かいつまんで言うと、ミュージシャンを目指して東京に出てきたヒモとその彼女の話で、最終的にヒモがオカマになる話です。というか、ニューハーフとしてゲイバーで働き始めるんです。上演時間は2時間10〜15分ぐらいありました。僕は遺作にしたいなと思うぐらい、思い入れは強いですね。2回生の時に上演して、手探りで演出していました。
__ 
素晴らしい。
福井 
最初の作品で、根を詰めて書いたものなんです。面白いなんて言ってくれる人は限りなく少ないんですけど、僕は大好きです。「不肖死スベシ」という作品でした。
__ 
気持ちは良く分かります。自分が作ったもの、というのがありますしね。

泉の出ていればこそ

__ 
今、何に興味がありますか?
福井 
脚本を書くことですね。それを仕事にするんですけど。今は、稽古が終わってからも別の脚本を書き続けています。今すごくしんどい芝居を書いているんで、次のはめちゃめちゃコメディを書こうと思って。1年2年前にものすごいコメディだけの芝居を書いた事があったんですけど、それはめちゃめちゃ評判が良かったです。僕の芝居は賛否両論多いですけど、その「大勇者伝」は、僕の感覚では100%のお客さんが面白いと言ってくれました。
__ 
いつか、どんな脚本が書けるようになりたいですか?
福井 
うーん、それを決めてしまうと、目標が決まってしまいそうで。
__ 
では、自分の作品を見に来てくれたお客さんに、どう思ってもらいたいですか?
福井 
毎回変わるので一概には言えないんですけど、今3本並行して書いているんですけど、その内の1本はホームドラマで。
__ 
ええ。
福井 
女優を目指して家出同然で上京した女の子がAV女優になって、AVの企画ということを隠して帰省すると、東京に行くのを最後まで反対していたお母さんが死んでて。AV女優とその家族の一日を描いた話です。僕はそうした作品を書いた事がないので、書いてみたいなと思っています。
__ 
新しい挑戦ですね。
福井 
いやもう、才能っていうのはある日急になくなると思っているんで。まだ泉が出ている内に書こうと思っています。

質問 高山 涼さんから 福井 しゅんやさんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた、高山涼さんから質問を頂いて来ております。「今までお芝居をやっていて、一番面白かった事は何ですか?」という質問を止めて、「一番芝居をしたいと思う国はどこですか?」
福井 
うーん。日本でやりたいです。本当に、言語が全てやと思っているんで、極力、自分の芝居は日本だけでやりたいなと思っています。でも3年ほど前に、ポツドールの「夢の城」という作品を見たんですが、言葉とかじゃない部分で人を惹きつけていたじゃないですか。そりゃあ海外には通用するやろうなと。それはもう、見ていて悔しさとか色んな感情が渦巻きました。僕は言葉の力を信じているので、こういった作品を作ることは一生出来ないだろうなと。
__ 
なるほど。
福井 
ちなみに、芝居をやっていて面白いと思ったのは「大勇者伝」のゲネをやった時、出トチリが原因でシーンがまるごと2つ3つ飛んだ事です。思いっきり自然で、ゲネだけ見た人にはいきなり始めての人物が当然のように出てきてびっくりしたと思います。

東京へ!

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
福井 
とりあえず東京は新天地なんで。京都を離れるというのは寂しいですけど、僕のジャンルで「この人には勝てへんな」と思う人が東京には死ぬほどいると思うんで。一人ずつボコボコにしていく気持ちで。

メイプルシロップ

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
福井 
恒例のやつじゃないですか。こんな僕にも貰えるんですか。
__ 
大したものじゃないので。
福井 
(開ける)あ。
__ 
メイプルシロップです。
福井 
ありがとうございます。料理もするんで嬉しいです。使います。
(インタビュー終了)