TPAM
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- 今日はgallopの伊藤彩里さんにお話を伺います。どうぞ、宜しくお願い致します。最近、伊藤さんはどんな感じでしょうか。
- 伊藤
- ちょうど昨日まで、gallopのメンバーでTPAMに行ってたんです。来年度gallopでTPAMのフリンジに出したいねってみんなで言っていて、その視察も兼ねて。TPAMは1週間位で全プログラムが終わるんですけど、お祭り感がすごくありました。横浜は京都に比べて会場になってる場所が多いのかな、1日のうちにいくつもの会場をハシゴして回れるようなスケジュールが組めました。それから、外国のお客さんがフリンジプログラムにもたくさん来ていました。そこもまた、ちょっと違う雰囲気かなと思いました。
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- KEXのフリンジでも同じようにPRできたらいいですね。来年のTPAM参加、頑張ってくださいませ。
gallop
葵マコ、伊藤彩里、木村悠介、三鬼春奈の4人が、共同演出・出演を行うパフォーマンス・グループ。2008年『馬の最も速い走り方』(京都芸術劇場・春秋座舞台裏)で京都造形芸術大学 卒業制作作品 学長賞を受賞。2009年 chatty+gallop『確固たる空腹へ』(京都|アトリエ劇研)、2017年『ユートピア』(京都|スタジオ・ヴァリエ)を発表。俳優としての言葉、踊り子としての身体、メディア・アーティストとしてのテクノロジーを駆使し、パフォーマー4人のリアルな身体や言語から抽出されたイメージを、パッチワークのようにつぎはぎに構成し制作する。(公式サイトより)
カイテイ舎
2014年に結成。以来継続して、年一回の演劇公演に取り組む。新しい解釈と新しい舞台形態を演出することで、定評ある戯曲に今日的な命を吹き込み、幅広い観客層の鑑賞に堪え得るような作品として上演することを目指しています。
gallop「石飛びこむ、鯉浮き上がる」
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- gallopの「石飛びこむ、鯉浮き上がる」。大変面白かったです。とても静かな作品でしたが、石庭の岩のようにパフォーマンスが浮かび上がるようで、退屈だということはもちろんなく、音楽的な沈黙が全編に漂っていて。淡く、でも記憶には残り続けるような情景でした。面白かったです、というだけじゃなくて、何かを感じるのかを問うてくるような。
- 伊藤
- 前回の作品は鮮やかなシーンがばっと出て切り替わっていって、じっくり見せるというよりはあちこちで爆竹が爆発しているようなリズム感やったと思うんです。今回は、去年とはまたちょっと違う時間の流れで作品が作れたらいいなという事をみんなで話していました。何なら脱がずに。そういう意味で色々チャレンジできて良かったです。成功したとは言い切れないところもあると思いますけど。
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- 「ユートピア」とは確かにかなり様相の異なる作品でしたね。
- 伊藤
- 今回は「白夜」というキーワードをイメージし続けようと言ってました。
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- 白夜そのものに対して、ネガティブでもポジティブでもない、一つの概念に対してただ眺める。そのようなコンセプトがあったそうですね。
- 伊藤
- 前回、お客さんの中にはストーリーを探して観てくれてた方も多かったみたいなんです。でもストーリーを探し始めると、次々に現れる景色の連続みたいなものは頭の中に入って来にくいんじゃないかなという気がします。そういう説明をパンフレットには書いてみました。例えば色々な景色が見えてくるなかで、なんとなくどこか繋がりがあるように思えてきたり、あるいは全然関係のないマカオの田園が突然出てきたり。でも全体から見ると自分にしか見えないであろう景色が見えてくるような。そんな感じがやりたかったのかなと思います。
gallop『石飛びこむ 鯉浮きあがる』
個々の思考と集団による思考、過去と未来、経験と直感。 相反するものさえ複雑に絡み合い、容易にひとつの形にはならないもの。 前作『ユートピア』では理想の場所を模索する姿を通して、現状に対する違和感を描いたgallop。今回は「白夜」をモチーフに新作パフォーマンスを上演します。 公演時期:2019年1月17日(木)〜 2019年1月20日(日)。会場:人間座スタジオ。
gallopの作り方
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- gallopにおいて、構成や演出はどのような形で決まっていくのでしょうか。
- 伊藤
- 再結成してから2回しか作品を作っていないので、こういう風に作っていますっていうのはおこがましいんですけど、去年の「ユートピア」は9年ぶりだったのでほぼ初めての制作に近かったんです。それにメンバー同士も離れた場所に住んでいたので、稽古期間の間に長いインターバルがありました。だから、4人それぞれが自分のやりたい構成を固めて、それをみんなで試してみるっていう決め方をしたんです。それぞれの案について一定期間具体的に稽古してみて、その後どれがいいかというのを決めようという計画だったんですけど…殺し合いみたいになっちゃうじゃないですか。
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- おお。
- 伊藤
- 皆、自分の構成が一番いいと思ってるから、他の人の何が良くないかということを話し始めちゃって、それは結果的に作品にとっては生産的な時間にはならなかった気がする。だから、今年はそれはしないでおこうということになりました。今年のピース作りは序盤から結構うまく進んでいました。「こういうことがやりたい」とか「こういう景色が見たい」とか。稽古の後半期間で、構成の最初からの流れが「こういう感じになるよね」という風に決まっていきました。去年のユートピアでは劇場に入ってもラストシーンが決まらないみたいな事もあったけど、今回は稽古時間の使い方が全然違ったなと思ってます。
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- 去年は泥沼化していたのを、今回はふんわりとした同意を大事にしたということなのかな。
- 伊藤
- いや、「ユートピア」での泥沼化みたいなんを、めっちゃ悪かったとも思っていなくて。「まあまあ、こういうことにもなるだろう」って。でも限られた時間を生産的な方向に活かそうと思うと・・・それと、今年も何となく「ふんわり」というよりかは。
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- ええ。
- 伊藤
- ピースがたくさん出てきた時に、それを構成の頭から組立ててみたら、何となく4人とも「これ以上のものはない気がする順番」、私たちに今出すことのできるピースや景色の構成が見えてきて。これ以外はないね、うんうん、となったんです。公演の1カ月位前にぴたっと一致して、帰り道で木村君と「なんか決まったなぁ」と言い合ってました。少なくとも「白夜」的なイメージに、4人で一緒に着地できる場所を見つけられたのかなと思います。
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- そういう状況に至る稽古場はとても難しいんじゃないかなと思いますよ。
人
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- gallopの稽古において、どのようなことが起きてほしいですか?
- 伊藤
- ちょうどそんなことを横浜で話していたんです。私はパフォーマンスをやるにあたり、私たち自身にも魅力がないといけないんじゃないかなと思っていて。パフォーマンスでは演劇とはまた違う形での魅力みたいなものが必要なんじゃないかなと。演劇は役を演じているから、俳優そのものだけというより、そこに「役」ってものも入ってきている。パフォーマンスでは、自分たちがどういう私生活をしていて、どういう場所に立脚しているか、その人がどのようなチャレンジをしているか、その強度とか必然性をもっと重要視してもいいのかなと思っています。
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- その人に宿っている魅力というのは、舞台に上がったら一瞬でわかりますからね。
- 伊藤
- そうですね。演劇だったら役柄や台詞を武器として戦うこともできるけど、パフォーマンスの場合は自分自身に由来したり、まとわっていたりするものがどうしても使われることになる気がしていて。私自身、「この人、なんか見ちゃうな」ってなるにはどうすればいいのかなと考えています。それをハシゴにしたら、もっと本質的なところに入っていけるような気がしています。
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- 逆に演劇だと、その人自身の人柄というものを持ち出すのは観客としてはあまり良くないかなと思ったりするんですけどね。
- 伊藤
- 演劇だと、役と俳優っていう全然違う別の軸を生きてきた2人が出会うところを観たい。と思うと、その人自身のことを言われても・・・と思うのかもしれませんね。
質問 にさわまほさんから 伊藤 彩里さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた安住の地の俳優、制作者のみさわまほさんから質問を頂いてきております。「最近見た夢の話を教えてください」。
- 伊藤
- 夢の話ですか、何か見たかな。一時期、夢ノートをつけてたことがあったんですけど、人とメールしてた夢を書いたせいで現実とごっちゃになったことがあったのでやめちゃいました。
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- 危険ですね。
- 伊藤
- 一番最初に書いた夢は、広い芝生に立っていて、なんじゃこれはと思っていたら天井の方にも芝生が広がっていて。そしたら視点がぐーっと上の方にあがっていって、私は三角定規みたいな角度の芝生の間に立っていたって夢でした。
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- 聞いてて思ったんですけど、人間って古代から夢を見てますけど、映像技術って夢が一番最初だったのかなと。人間には映像についての本能があるかもしれない、そう考えると不思議だなって。
- 伊藤
- ああ、そうかもしれないですね。夢を再現するために映像が出来たんかな。
寺町二条
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- 演劇を始めたのはいつからですか?
- 伊藤
- 私は高校の演劇部からでした。それまでは演劇ってものは全然知らなくって、大勢の人の前で喋ることも苦手だったんです。友達に誘われて高校の部活の説明会に行ったら、演劇部が出ていてて、なんとか新入部員を勧誘しようと頑張っていました。「オペラ座の怪人」の稽古をやっていて、その中で、セリフを読んでみようっていうちょっとした体験コーナーがあったんですよ。私は、こんな恥ずかしいことはようせん、と思ってました。絶対この部活は向いてないやろうと思ってたんですけど、「じゃあ明日、部活のボックスで待ってるね」と言われて…行かなあかんかな、と、正直に行ったのが最初でした。それからあれよあれよと部員になり、その年に役者デビューもさせてもらい。右も左も分からないまま始めたのがきっかけです。
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- 高校からだったんですね。
- 伊藤
- 具体的に続けていこうと思ったのは、芸術センターで「Jericho」という作品を観た時でした。松田正隆さん作、三浦基さん演出で、内田淳子さん出演の。それを高校生の時に観て、「ああ、こういう演劇もあるんや」と思ったんです。あと、私が高校3年生の時に作った作品を森山直人先生が面白いとおっしゃってくださったんです。それで、京都造形大学に行ったらこういう舞台をやれるのかなと思って。
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- それはどんな作品だったんですか?
- 伊藤
- 「寺町二条」というタイトルで、2組の女子高生の話です。寺町二条の交差点は道路と道路が斜めに交差する感じになってるんですけど、実際にそこにある、朝の開店前のレストラン前と、真夜中のコンビニ前での会話。4人は一応知り合いなんだけど劇中では朝の2人と真夜中の2人は交わらない。共通の友人がいるんだけれども来る気配はない。梶井基次郎の「檸檬」と、高村光太郎の「レモン哀歌」が引用される作品でした。私が高校生だったとき寺町二条には、「檸檬」の主人公が丸善に持っていくレモンを買った果物屋がまだあったんです。
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- めちゃくちゃ高度な話じゃないですか。そりゃ面白いわ。
- 伊藤
- 長いセリフはあまり書かなかったです。「うん」とか「あぁ」とかのセリフで、日陰に入るか入らないかの駆け引きをし続けてるみたいな。「Jericho」を観たあとでめっちゃ頑張ろう!と思ってたのもあったなあ…。顧問の先生に助けてもらいながら作りました。
「わたしじゃない」
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- 6月の「わたしじゃない」について少し伺えればと思います。この作品は、以前アトリエ劇研で上演した記憶がありますが。
- 伊藤
- そうなんです。前回の出演者である増田美佳さん、三田村啓示さん、私に加え、今回はさらにもう1人加わるんじゃないかという話をしています。東京でも上演する予定です。出演者の方からもこういうことをやりたいっていうアイデアが出てきたりしてるので、新しいことにもチャレンジしたりするんじゃないだろうかと思っています。
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- カメラオブスキュラを使った演出ですよね。室内の、映像灯ではない明りを用いた映像という事で、その場の空気感が如実に反映されるんですよね。それがすごく面白いなと思っていて。
- 伊藤
- 5月後半ぐらいから稽古が始まる予定です。東京で上演して、京都に戻ってくる予定です。木村君が演出と、テキストの翻訳をするんです。出版されている「わたしじゃない」の翻訳は女性の言葉で書かれてるんですが、三田村さんが演じることを想定して、フラットな言葉に置き換えるように翻訳し直してくれてました。
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- あの独特な空気感がもう一度見れるのが楽しみです。
軟着陸
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- 一つの物語演劇ではなく、ピースで構成されたパフォーマンス作品を構成演出するにおいて、複数のパフォーマーの間で「これがいいよね」という同意が同時に出来たということに、何か重要なものを感じるんですよ。例えばそれは「勢い」というものではないか。
- 伊藤
- 勢い。
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- ある1人の演出家によるイメージがメンバー全員から同意された時、作品そのものにエネルギーが宿り、傑作として立ち上がるという事がやはりあると思うんですよ。でも、gallopの「石飛び込む、」の場合はトップダウンの演出家が1人いたわけではなく、しかし4人が「これだよね」という合意に着地したということに、強く惹きつけられるものがあります。
- 伊藤
- 私もそう思う、これだよね、となっていったのはすごく変な時間だったなと思ってます。なんであんなにスムーズだったんだろう。
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- 例えばメンバーのうち1人が、自分のやり方やイメージに強いこだわりを持っていたとしても、それがうまく共有されなければ動かないじゃないですか。
- 伊藤
- そうですね。
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- 他のメンバーに、まるで決定事項であるかの如く意思を強く伝えようとしても「そんな事聞いていない」となるわけじゃないですか。根回しと言うか調整や呼びかけをしないといけないんですよね。
- 伊藤
- そうですね、事前の打合せとか裏会合みたいなのを必要だったりとかはしますよね。再結成からまだ2回目ですが、演出家が1人の方がスムーズに決まっていたんだろうなと思います。同じ事をひとつ決めるにも、全員の歩調が合っている事を確認しながら進むからめちゃくちゃ効率悪いなとは思います。
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- そうなんですよね。全員で同じ段階を、例えば1人が一つ飛びにならないようにする。チームプレイだなと思います。
- 伊藤
- 皆がある程度バラバラの方向を見ているけれども、共有するところも多々あってみたいな。これを繰り返していくうちにもっと面白いものが生まれてくればいいなと期待しています。
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- お互いの懐に、ちょうど良く踏み込むのがきっと重要なんでしょうね。
- 伊藤
- そうですね、拒否とか否定ではなくてちゃんと批評をする。「これは面白くない」と一瞬で蹴る事は出来るけど、そうしないように気をつけています。どれだけ馬鹿馬鹿しいことを提案されたとしても、普段の私なら絶対やりたくないような事だって一度はやってみて、その上で改めて自分の意見を言う。そういう風にやってくのが大事なのかも。
同じ方向
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- 今後、どんな感じで攻めて行かれますか。
- 伊藤
- 横浜で話していたのは、メンバーの間で共通する基礎的な身体性を作る稽古をしてみてもいいかなと。一瞬、全員が同じ方向を向く、そんな光景を作り出せるような。変な例えですけど、朝顔を育てる経験が必要なら、馬鹿馬鹿しくても朝顔を育ててみる。私には私なりの朝顔の育て方があって、木村君や三鬼さんのやり方もそれぞれあって、きっと朝顔に対する感想も違う。でも朝顔を育てた結果、なんか「分かるわー」と、共通するような部分も生まれる、みたいな。今はバラバラの状態だから何か共通の経験とか体験をやってみて、その上でメンバーの方向性がどういう風にバラバラなのかを考えてみるのもいいのかなと思ってます。今年は葵マコちゃんがお休みなので、また作品や作り方も変わるかもしれないんですが。
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- なるほど。
- 伊藤
- 私は何年か舞台に関わってなかった時期があったんですけど、ここ何年かまた色々な方からお声をかけていただいたりして嬉しいです。今年は8月にはカイテイ舎の公演も予定しているので、もしよかったらそちらの公演と、その後のgallopもぜひいらしてください。
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- ありがとうございます。楽しみです。
二人静
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- 今日はお話を伺いたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 伊藤
- ありがとうございます。
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- おやつかな。(開ける)あ、可愛い。見たことない。これは和三盆のお菓子?ありがとうございます。