演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

山中 秀一

津あけぼの座テクニカルディレクター

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このしたPosition!!(京都・三重)リーディング公演 安部公房「人間そっくり」 京都・名古屋・長野(上田)ツアー

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今日は津あけぼの座テクニカルディレクターの山中さんにお話を伺います。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近、山中さんはいかがお過ごしでしょうか。
山中 
よろしくお願いします。実は今、津市から30分ぐらい離れたところに来ている水族館劇場に出演しています。最初は設営のお手伝いだけのつもりだったのに、話の流れで出演する事になったんですよ。今日は休演日なので、抜け出してきました。
__ 
水族館劇場、噂だけはかねがね伺っていました。観たいと思ってたんです。野外劇なんですよね。
山中 
野外劇場なんですが、とにかく建込みが凄くて。巨大テントを建立し、大量の水が振り、飛行機が飛んだり、客席を増設したり。しかも連日超満員です。毎日台本が増えて、同時にセットも増えていくんです、フェスティバルみたいです。
__ 
その間を縫って、京都に稽古に来られたんですね。来月から三都市ツアーが始まる「人間そっくり」。今日は今回の公演についてのお話を伺えればと思います。
劇団Hi!Position!!

劇作家・演出家・ワークショップデザイナーの油田晃が中心となり2008年2月に結成。以降、津あけぼの座の専属劇団として公演を重ねる。三重県でも希少な「現代演劇の上演を行う」ことを前面に押し出し、演劇の持つ可能性、演劇と社会の接点を探っていくことを劇団の目標とする。劇団システムでは珍しい、油田晃・橋本純司の2名の劇作家・演出家が所属。演劇を作る過程におけるコミュニケーションのメソッドを用いてアウトリーチ活動やワークショップ活動、隔月ペースで名作や古典を舞台上でリーディングする「読み会」も行っている。(こりっちより)

このしたPosition!!(京都・三重)リーディング公演 安部公房「人間そっくり」 京都・名古屋・長野(上田)ツアー

作:安部公房 構成:油田 晃(劇団Hi!Position!!) 演出:山口浩章(このしたやみ) 出演 二口大学(このしたやみ) 広田ゆうみ(このしたやみ) 山中秀太郎(劇団Hi!Position!!) 【京都公演】 2016年6月11日(土)・12日(日) 会場:スペース・イサン 【名古屋公演】 2016年7月1日(金)・2日(土) 【長野(上田)公演】 2016年10月1日(土)・2日(日) 入場料 一般前売・予約・当日共 2000円 U-22割(22歳以下)前売・予約・当日共 1000円

一つの演劇作品で地域を繋げる・1

山中 
今日の稽古は読み合わせをしました。久しぶりの再演なので、忘れてるかと思いきや、意外とすんなり出来たんですよ。もちろん調整しないといけない部分はあるんですが。
__ 
「人間そっくり」のツアーは京都(6/11~12)、名古屋(7/1~2)、長野は上田(10/1~2)ですね。それぞれの地域を渡り歩いての公演ですが、「地域をつなぐことに意義がある」と伺いました。今日はもう少し詳細にその辺りを伺えればと思っています。
山中 
この作品は2012年に東京で初演したんですが、評判を受けて2ヶ月後に京都と三重で上演したんです。14年と15年にもツアーをしていますね。こういう風に再演を毎年出来るというのは小劇場では中々難しいんですが、今年も御協力頂き、ツアーが実現しました。
__ 
小劇場は、新作至上主義みたいなのはありますね。
山中 
この作品はとてもポータブルで、どこにでも持っていけるんですよ。出演者も少ないし、でもお客さんに見せられるクオリティを持っている。だから毎年、違う町に持っていく事が出来るんです。大都市で商業ベースに乗っかるような作品でなくても、各地にある演劇の拠点にいつでも持っていく。僕ら自身も、毎回新しい作品を同じ地域で発表するのではなく、「同じ作品を継続して」「様々な地域で上演する」事で経年変化を感じています。新しいお客さんに出会う事が出来るんです。木材が時間を経る事で深みを増していくのと同じように。
__ 
「経年変化」を求めている?
山中 
40歳を越えて、そろそろ引き算で考えるようになってきた。いつまで演劇が出来るのか?でも、チャレンジし続けたいですからね。
__ 
いつまでやれるか、ですね。
山中 
一応、47都道府県全部回ろうと目標を立てまして。三重発祥のコンテンツというのは中々無かったんですけど、このしたやみさんのお力を借りて、油田が脚本を書いて、山口さんに演出を頼んで。僕らの名刺替わりの作品として作りたかったですね。チャレンジし続ける作品だと思います。現状、安部公房の作品の渦の中にどんどん入っていっています。自分の中の何かがグニャっと曲がる瞬間があると思います。楽しみにしてほしいですね。

私が知らない自分の演技

__ 
初演の時は、どのような手応えがありましたか?
山中 
当初ですが、実は手探りでやっていた部分があります。本当に、この作品のどこが面白いのか分からないまま演じていて、そのまま初日を迎えたんですが、それが却って評判が良かったんです。もちろん演出家の山口さんも、広田さんも二口さんも素晴らしかったのは分かっていたんですが。こちらが作ったものに、お客さんの方で想像してくれる。でもやっぱり俳優って、自分の演技の価値を理解して演技したいものですよね。だから僕も色気が出て、こうしてみよう・・・みたいな感じで演技すると、途端にダメになるらしくて。
__ 
あ、分かります、その感覚。
山中 
役者自身が分かっていないぐらいが良い、みたいな事も言われました。役者の意識なんてものはあまり役に立たない。テキストと、自分についた演出を信じて立つことが役者の仕事なんだなと。もちろんハードな訓練が必要なんですけど。これはチャレンジしたいな、と思いました。
__ 
つまり、言葉は悪いですが、慣れていない味というものがある。
山中 
とりわけ僕の、いわゆる「分かってない演技」が良い、と仰る方も多いんです。でも俳優って、どうしても自分の演技を理解しようとする本能があるじゃないですか。だから僕も色気を出して色々やる、でもそうすると良くないんですね。
__ 
ああ、そこはすごく難しいですよね。自分で分かっていないぐらいが面白い・・・。
山中 
どう言ったら良いのか、中々言葉では表現できないんですけど、そういう自分のフラットさと向き合わないといけない。そこは課題ですね。

一つの演劇作品で地域を繋げる・2

__ 
今回のツアーのキッカケを教えて下さい。
山中 
2014年に、広島・金沢ツアーをやったんです。去年2015年は松山・長崎・宮崎をやりました。今年はちょっと近場ですね。長野・上田と、京都はイサン。どちらも、今後は小劇場の拠点として重要になると思っています。名古屋のナビロフトも新しい拠点になると確信しています。各地域に受け入れの場所が出来つつあるし、そうした拠点を繋げる演劇人が、越境して力試しをする。そんなケースが増えれば、もっともっと豊かになるんじゃないかと思っています。
__ 
拠点同士を繋ぐことで、もう一度豊かになる。
山中 
やっぱり、旅をするのが一番力が付くと思っているんですね。自分達が良く知っているお客さんとだけお付き合いするんじゃなくて、他の地域で、初めてのお客さんに見てもらう経験は、演劇をやっている人には足りていないと思う。他流試合が必要なんですよ。僕らの上の世代の人たちは頑張ろうと思ったら東京に行って、ちょっと売れてTVに出て、それが演劇界スゴロクの上がりだった。いわゆるそう言った、上がりは「ない」と開き直ってます(笑)で、僕なんかは地元で腰を据えて長いことやる方が豊かなんじゃないかなと思って、あけぼの座を作った。でも都会の人たちの方が実は地方であたらしいお客さんを求めていたりするんですよね。今も、そういう状況はたくさんあります。
__ 
色んな地域のお客さんと会えるのはきっと大きいと思いますが、どんな感覚がありますか?
山中 
良く言われるような、「地域によってコレがウケる、ウケない」という感覚は無いように思います。むしろ、どこでも同じなんだなあと思いますね。
__ 
地方にいながら越境をする演劇。それは、お客さんにとってはどんな価値があるんでしょうね。
山中 
僕らも色々な劇団を受け入れしているし、受け入れられているんですが、この間受け入れた劇団こふく劇場がすごく上手かったんですよ。二十年劇団をしていて、素朴な社会人劇団なんです。でも素晴らしい。(都会ではなく)地方で演劇に取り組んで、それが素晴らしい作品を産み出しているというのを知れるだけで僕らにとっては勇気を頂けるんですね。僕らと同じような地方都市の人たちの劇場は全然強い。作品も強いし、それを地域で楽しんでいるんです。無くてもいいけどあったら豊かだよね、という事を確認出来るというのは素晴らしいですね。勇気が出ます。ところで、何でみんなツアーするんでしょうね?僕らもツアーしますけど、それに明確な答えは出てないですね。

津あけぼの座のいま

山中 
オープンから10年になりました。公演が増えてきて、活気はあるんですけど、もう一度、お客さんを増やす活動とのバランスを考える時期に来ています。
__ 
劇場に来てもらわなければ始まらないですからね。
山中 
もう一度、そのあたりの事が出来たらと思っています。でも、バランスですね。どちらかに偏ってはいけないので。創り手も観る人も増やす、そういう舵取りをもう一度する時期なのかな。
__ 
手がかりは。
山中 
創設当初は色々なイベントを行っていました。地元の名士やさまざまなジャンルの専門家を招いてトークイベントをしたり、新米を食べる会と称しておかずを持ち寄って食べたり。そういう活動でお客さんが増えていったんですが、でも最近、それは出来ていないんです。今年はもうプログラムは決まっちゃっているんで出来ないんですけど、来年以降やっていきたいなと思います。
__ 
色々やってる公民館みたいなイメージですね。改めてですが、劇場の運営者として、創客にこだわるのはどんな理由がありますか?
山中 
やっぱり、劇場にお客さんが付くんですよ。劇団と違って、劇場には毎週公演があるんですよね。劇場としては、一発だけの花火ではダメなんです。
__ 
だから定着しないといけない。
山中 
そもそも、誰の為に芝居を作っているかというと、見てもらう人の為にやっているんですよね。仲間に発表するためのものではないし。金銭的にペイするためのものではなくて、自分の考えとか表現を同じ時代に生きている人に問う活動だと思うんです。であればもうちょっと、見に来ててもらう為の努力をしないといけないんじゃないか、と。作品を作る努力は素晴らしいんだけど、それを届けることにもっと力を傾けないと思うんですよね。100人程度の集客で満足していてはいけないんですよ。作る努力はもちろん、知ってもらう為の努力。チラシを届ける、貰った人が来たくなるような努力、演劇をやっている人にはそういう努力がたり無さ過ぎると思うんですよね。
__ 
そういう意味での他流試合。
山中 
そうですね。そして、一回では諦めない。
__ 
そう、劇場に来てもらわなければ始まらないし、芝居を見てもらえれば面白さは分かるんですよ。そこだけが問題なんです。
山中 
見てもらうための努力を惜しんではいけないと常々思っています。例えば新聞取材とかも、こちらから申し出をさせてもらって、実際に取り上げてもらって。こちらの実績資料もまとめて出して。僕も、そういう一連の流れが身に着いてからは楽しくなってきました。でも、やっぱり、口コミに勝るものはないんですよね。
__ 
本当にそうですね。人類が生きている以上、口コミの強さにはずっと勝てないでしょうね。
山中 
津あけぼの座も、広報活動についてはこれまで着実に続けてきたと思います。地元の人に存在を認識していただいて、お芝居というものがあると認識していただいて、そうやって文化として根付くと思うんですね。100人単位の集客で満足していてはいけないと思っています。「あの劇場でやっていた作品が面白かったらしい、見逃した」みたいに思ってもらうぐらいになったら。とにかく、集客に関しては、もっと頑張れると思います。

いつか、どんな劇場が作りたいですか?

山中 
いやもう、老若男女がいる客席、を理想にしています。仕事帰りに学校帰りに芝居を見て帰ろうかな、みたいな事が出来る環境を作りたいと思います。いいじゃないですか、ひと月に一度ぐらいお芝居を見たって、と思うんです。
__ 
劇場で体験することの良さを分かってもらうための努力を惜しんではいけない。
山中 
そうですね。
__ 
認知させていく。
山中 
その為に、僕らはまずチョイスをしているんですね。僕らはまた外に行く事によって、他の地域とも行き来していますよ、と。小劇場の専門家としてのブランド作りをしている。
__ 
劇場に来る機会を増大させるために、ブランドの認知力を高める努力を惜しまず諦めず邁進するんですね。

質問 池川タカキヨさんから 山中 秀一さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました、池川タカキヨさんから質問を頂いてきております。「僕のTwitterをフォローして下さいませんか」。
山中 
はい。フォローします。
__ 
池川さん、読んでますか。山中さんと津あけぼの座のアカウントをフォローしてくださいね。
山中 
お願いします!

惹きつける

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今後、どんな感じで攻めていかれますか?
山中 
攻め方。そういう気持ちはとってもあるんですけど、何て言ったらいいのかな。今までずっと発信してきたので。今度はちょっと匂わせて惹きつけて行きたいなと思っています。あそこは何か、面白いらしいよ、と。

保坂和志・著「カフカ式練習帳」

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
山中 
ありがとうございます。開けてみて良いでしょうか。
__ 
もちろんです。
山中 
(開ける)保坂和志。
__ 
安部公房とカフカなら、ちょっと共通点があるかな、と。随筆集だそうですが。
山中 
ありがとうございます。読んでみます。
(インタビュー終了)