演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

桐山 泰典

俳優

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卵かけご飯、大好き

__ 
今日はどうぞ、宜しくお願いします。
桐山 
はい! よろしくお願いします。
__ 
最近は、桐山さんはいかがでしょうか。
桐山 
中野劇団の本公演 と、コント公演 が終わって。年明けに東梅田落語倶楽部 でネタ下ろしするので、その準備をしています。あとは土日どちらかの深夜にやみいちの稽古があって。平日は高校で教員をしているので、なかなかぼーっとする時間がなくて・・・
__ 
そうそう、桐山さんは落語をされるんですよね。確か、「玉子亭掛御飯」という名前で。すごく面白い名前ですよね。
桐山 
あ、そうなんですよ。まず名前で興味を持ってくださったりして。卵かけご飯、大好きなんですよ。
__ 
実は私も今日、食べてきました。
桐山 
おいしいですね〜。
中野劇団

京都を中心に活動する劇団。脚本・演出の中野守氏の織り上げる、緻密なプロットのコメディ。

やみいち行動

面白い事や面白くない事をや面白いかどうかよく分からない事などを行う即興的演劇的行為集団。(公演チラシより)。年二回、京都大学文学部学生控室(通称ブンピカ)にて公演を行っている。脚本はなく、役どころの最低限の約束事によって成立する。無料。

中野劇団第13回公演「チャットルームでなぐり合い!」

公演時期:2011/11/4〜6。会場:in→dependent theatre 1st。

「スイス金鉱」

スイス銀行主催のコントバトル企画。11月の第1回に、スイス銀行、ドアーズ、中野劇団の3団体が参加。

東梅田落語倶楽部

落語家・桂出丸に師事する社会人の落語演者集団。年に数回、大阪で発表会・寄席を行っている。

おいおい白身どうしてん

桐山 
いいですよね、卵かけご飯。
__ 
桐山さんは、卵かけご飯に何をかけて召し上がられますか?
桐山 
僕はバターをかけますね。あとはkiriというクリームチーズ、ポテトチップスを砕いてかけたり、サバ缶を炒めてかけて食べるのも美味しいですよ。
__ 
具材をかける系なんですね。
桐山 
それが、色んな変遷を経て、実は今はあまり何もかけてないんです。
__ 
それは、醤油しかかけないという事ですか?
桐山 
はい、醤油はかけます。色んな方にお土産として全国の醤油をもらったりするんですよ。そのぶん卵は上等なものをと心がけています。・・・卵の話ばっかりじゃないですか?
__ 
実は卵かけご飯は、このサイトのテーマの一つなんですよ。
桐山 
えっそうなんですか。知らなかったです、ごめんなさい。
__ 
いえいえ、どこにも書いていないので・・・。でも底流にしっかりとあると思います。
桐山 
そうなんですね。へええ。
__ 
考えるに、その、ご飯と卵だけがあの料理の要素だけではないのではないかと。具材の風味、出自という縦糸と、混ぜる時の気温や食べる人間の状態が様々に絡まり合う営みだと思っています。味覚にしたって複合体験な訳ですから、最も単純な料理ですが。風味と温度という、全く違う現象が一つになる体験そのものだと思うんです。
桐山 
マリアージュですね。
__ 
はい! そこに何をかけるかというのはけっこう重要なテーマだと思っています。私は最近、何もかけないんですよ。すると卵の甘みとご飯の甘みだけが・・・
桐山 
そうそう、そうですよね。ああ、ついにそこまで。
__ 
あえて塩味を外すことで、素材と繋がる。
桐山 
おいしいと思います。僕も醤油がたまたま無かった時にそうして食べて。それ、冷やご飯で作ると、卵の風味が生きますよね。
__ 
そうですよね! もう一つ考えなくてはいけないのは、白身について。欲張りな発想で、白身を抜いた黄身だけで作る玉かけご飯なんてものは・・・
桐山 
うーん。
__ 
ですよね。
桐山 
白身がおいしいんですよね。僕も、黄身だけを使う料理がなんとなく許せないんですよ。おいおい白身どうしてん、って。
__ 
白身には白身の味わいが、黄身とは比較されるまでもなく、確固として存在すると思うんです。黄身こそが美味しいという構造から脱却せずにご飯と卵を混ぜあわせてしまって、果たして僕らは多様性について語れるんだろうか、と。
桐山 
何か、卵かけご飯でここまで語り合えるんですね。嬉しいなあ。

狂ちゃんが今も

__ 
桐山さんがお芝居を始められたのは。
桐山 
僕は完全に大学からですね。最初はSF研究会に入ろうと思ってたんですが、新歓説明会行こうとして迷って辿りつけなくて。その時近くにあった潔癖青年文化団(現・劇団ケッペキ)の立て看を見て、新歓公演を観たんですよ。蓮行さんの「希望の島奇譚」という作品でした。
__ 
ああ、初演ですね。
桐山 
桶雅景さんも出てはって、役者さんがみんな凄く面白くて、大好きで。この人たちなんか本気で怒ったりしてる!って感動して。
__ 
その頃に、何か思い入れのある役はありますか?
桐山 
新人公演でケラリーノ・サンドロヴィッチの作品 を上演した時に「バカの狂ちゃん」という役をやらせてもらいまして。終了後、「狂ってたよ」って言ってもらったんです。徹頭徹尾バカな彼に、ものすごく感情移入することができた感覚があって。何か、あの狂ちゃんが、今もまだ身体のどこかにいる気がするんですよ。たまに、うずくんです。
__ 
それが、桐山さんの演技のおかしみに通じているのかもしれませんね。
ケラリーノ・サンドロヴィッチの作品

劇団健康時代の「スマナイ。」という、映画「モンティ・パイソンのホーリーグレイル」のパロディ作品でした。バカの狂ちゃんは、周囲がおかしくなっていく中で、「バカにもいいとこあるですよ〜」とひたすら楽しく歌い続ける役でした。(桐山さんより)

ツッコミはじめました

__ 
中野劇団とやみいち行動に出演される事が多いと思うんですが、二つを比べて、何だか笑いの形がちょっと違いますよね。
桐山 
そうだと思います。中野劇団ってきっちりと作るんですよ。中野さんが僕に求めている役割もあるのかな、とも思います。
__ 
中野劇団だとツッコミも多いですよね。やみいちはボケ倒しなのに。
桐山 
落語を始めてみて、それまでできなかったツッコミもやらざるを得なくなったんです。それで、いけると思って下さったのだろうか、と・・・。どういう風に見てはりますか?
__ 
変な話、中野劇団では笑いを取りに行く、やみいちでは笑われる、みたいな感じだと思うんです。その、とぼけたキャラクターは、ご自身のどこから出てきているのでしょうか?
桐山 
「とぼけた」・・・うーん、「とぼけた」という表現は、僕の中では「大人の余裕が出た表情」なんです。竹中直人さんとか。僕はどっちかというとむしろ、目の前の事に心奪われすぎてたりとか、突然来た事に反応しきれないというか、そういう、視野狭窄なんですかねー。あと、自分は多動気味なので、もしかしたらそういう部分が、そう思われるのか・・・。
__ 
多動気味! やみいちだと確かに、そんな感じですよね。
桐山 
それでそこに、何も言えないくらいどんどんセリフがかぶせられてくるから。焦って、えっえっ、てなって。

もう一度始める

__ 
桐山さんは、一時期芝居を遠ざかっていた時期がありますよね。
桐山 
そうですね、仕事に就いてから3〜4年、遠のいていました。
__ 
もう一度始めるというのは凄くエネルギーのいる事だと思いますが。
桐山 
そうなんですよ、何の舞台を観ても辛く感じる事がありました。何で僕はあそこにいないんだろう、って。でもブランクが長かったので、芝居の世界にどう戻ったらいいのか分からなくて。活動再開したのは、由良部正美さんの舞踏のワークショップからでした。
__ 
あ、そうなんですね。
桐山 
それから、まだ何かやれるかも・・・、と少しずつ思えてきて。やみいち行動に復帰させてもらったり、中野劇団に出させてもらったり。これからも、働きながらできる範囲で続けていきたいな、と思います。

質問 藤田 かもめさんから 桐山 泰典さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました、ニットキャップシアターの藤田かもめさんから質問です。「1.女性の色気ってどうしたら出ますか?」
桐山 
凄い質問ですね・・・うわ、何だろう。女の子役をやった経験からですけど、身も心も相手の事を好きになる、それも堂々と好きになる、という姿勢がいいと思います。「誰がなんと言おうと、私はこの人の事が好きなの!」って、堂々としていると色気が出るんじゃないかと思いますね。
__ 
ああ、分かります。男性もそういうのを見るとほれぼれしますね。「2.自分は女性らしい男性だと思いますか?男性らしい男性だと思いますか?」
桐山 
うわっ、難しいですね・・・半々だと思います。または6:4で男性かと。
__ 
ジェンダーフリーでいいと思います。

共犯関係以上の何か

__ 
次の方への質問を頂きたいのですが。
桐山 
そうですね、「どういう時に幸せを感じますか?」でお願いします。
__ 
かしこまりました。ところで桐山さんは、どういう時に幸せを感じますか?
桐山 
色々ですね、仕事からの帰り道に街の光を見上げる時、受験に合格した生徒とハイタッチした時、舞台に立っている時にお客さんと気持ちが通じあった時・・・とかですかね。
__ 
気持ちが通じ合った時とは?
桐山 
うーん・・・基本的に、共演者・お客さんと共犯関係を結べる事はあるんですけど、それをもう一つ超えた次元で通じる時って、あると思うんですよ。役者も観客も全員が、その次元に行けてびっくりしている、みたいな。もちろん錯覚かもしれないですけど。
__ 
なるほど。
桐山 
そういう時は後で、良かったよと言ってもらえたり。前に一度落語の時に、気づいたら、喋っている自分を完全に俯瞰で見ているもう一人の自分がいたんですよ。幽体離脱だ!と思って。ほんの一瞬だけそういう認識がありました。
__ 
理想の自分?
桐山 
その瞬間まで相当ウケていて、かなりいい感じでやれていたんじゃないかと思います。でもそう認識した瞬間に、崩れそうになったのであわててその状態から離れました。何とか戻したんですけど・・・
__ 
自覚した瞬間、消えるんですね。
桐山 
ギリッギリのラインだと思うんです。共犯関係以上の何かだと思うんですよ。滅多にないと思うんですが。そういう瞬間って、客席にいても感じられるものなんじゃないかなと思います。
__ 
まず、生身で同じ時空間にいないと成立しない共犯関係というものがあって、さらに上の階層でのやり取りがあるという事ですね。パフォーマンスと、客席からの反応と、様々なものが一致したんでしょうか。
桐山 
そういう事かなと思います。
__ 
小学生の頃、物凄くおいしい目玉焼きに出会ったんですよ。元は只の卵なのに、風味が何だか構造的で。味覚のフレームを総動員しないと分からないような味でした。卵かけご飯も同じ事で。
桐山 
多層的ですよね。

少しでもいいから自分から

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
桐山 
長く続けたいな、というのはあります。あと、今まではとにかく呼んでもらえたら嬉しいな、幸せやな、と思ってたんですが、少しでもいいから自分から何かをやりたいな、と思えてきました。
__ 
具体的なイメージはありますか?
桐山 
来年、役者の落語会を京都でやってみたいですね。
__ 
劇研寄席 みたいな。
桐山 
ああ、劇研寄席。大好きです。ああいう事を、定期的に出来たらいいなと思います。長く続けていけたらな、と。
劇研寄席

アトリエ劇研の年中行事。俳優5〜6人による新春落語。

名入れ済みお箸

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
桐山 
ありがとうございます。
__ 
どうぞ。
桐山 
(開ける)お箸ですか! ちょっとこれは・・・卵かけご飯の話に関連してますね。
__ 
はい。そのお箸、裏側に・・・
桐山 
うわっ! えっ! いいんですか? これ、めちゃくちゃ嬉しいです。ほんまに幸せです。
(インタビュー終了)