正しい方法で
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。最近、前田さんはどんな感じでしょうか
- 前田
- よろしくお願いします。昨日はすごく落ち込んでしまって。人のために生きるのがしんどくなりまして。私は演劇をしているけれど、人のために生きてはいないんですけどね。そして、バリバリと演劇に出るサイクルは何年か前に終わっていて。
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- ええ。
- 前田
- 舞台への出演という機会を使って人の興味のあることに近づくのはもっとやっていきたいんです。24歳の時にやった公演で「私には一体何がやれるんだろう、どんな手立てが使えるんだろう」みたいなことを言ってました。私は昔から変わってないみたいです。人と一緒にやろうという本能がなくて、けれど、正しいことを正しい文章や仕方で思いついてはいないなあと。私も他人の作品には出るし大事に思っているんですけど、みなさんが客演するときの「了解」に・・・
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- 了解という形で折り合いを付けるのに躊躇いがある?
- 前田
- 折り合いは既に付いているけど、この付け方でいいのかしら。きっと違うわ、と思っていて。その代わりに、「私はこう生きている」という自覚が自信になるといいなあと。
失礼さ
- 前田
- 人に紹介された本とかを読むのがとても好きなんです。でないとあまり手に取らない。人伝えでなら、正しい方法を使って興味の源泉に行けるかもしれない。そういう傾向があるにも関わらず何故か、一緒に作ろうという人達との活動が積み重なっていかないような気がしていて。26歳ぐらいの頃はちょっと脂が乗っていて。演劇を重ねるのがとても、「そのもの」だったんです。自分という存在をしてまるで自分の従事者として役割と時間を決めていた。そんな感覚を持ちそうになってしまって。
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- 自分が持っていたであろう権利を奪っていたのではないかと自問自答している?
- 前田
- 結局、奉仕もしきれていないのではないか。
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- まず、そうした思いを持つ事は過去の26歳のご自身への失礼ではないと思いますよ。とても優しい考え方だと思います。
- 前田
- 今一緒にやろうと言ってくださっている方に対しては失礼かもしれない。失礼と言い方が違うかも。大事に思っています。
*前田コメント
演劇で役者をすることが、自分の思う「演劇すること」であり、「自分の時間」そのものでした。これは恐ろしい感覚かもしれませんが、またそうありたいと願いもするのです。「奉仕」はこれと近しい感覚です。信心を全うしようとした、ということです。人とやる事がどうであれ・・・、しかし、こうした切り離しと共にある時、私は本当に奉仕しきれていたのでしょうか。 この切り離しは、とても失礼な事だと恐れます。(受け入れる為に切り離し この件で葛藤していると自分は尊大で傲慢になっていきます) 不信感と絶望を、白状したい近年です。 こんな強い気持ちは、怖がられる。一緒にやろうという人はいなくなる。 けれど、こうした気持ちは多くの人の中にあると思っています。 言ってしまった、その方が真実に近づくんじゃないかと思い、ここに出します。
イグレーヌ・バリエーション
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- 「イグレーヌ・バリエーション」、大変面白かったです。人が自由な時間を奪われた時代では空気が独特な粘り方をするようで、そんな次元の中では主体を持たない言葉は空間の中で遊離していき、意味と離れたところで美しい造形を結ぶものだと思いました。役柄の濃淡が震えていくような。ご自身としたらどんな体験でしたか?
- 前田
- それが、作るという事については色々と考えさせられる体験でした。演劇を見る体験を客席の中で起こし続ける事は出来るのか。私は最近演劇を見れなくなっていて。それは悲観的なことではないんですが。
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- というと。
- 前田
- 「イグレーヌ・バリエーション」はもっと方法に耽溺できたのではないかと思っています。俳優がやりたかった局面には、もっと耽溺を重ねて突入していかないと、本当はもっと行けたと思っています。
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- 耽溺と客観の間で、ほどほどを取るという考え方もあるかと思いますが。
- 前田
- 実は、頭で溺れるということになってしまっていたのではないかと。それは知ってる感動、知ってる問題意識を取り寄せて行動だったんじゃないか。もちろん、行けると思って公演に臨めるようなものではないんですけど。出来る範囲でやろう・尊重し合いながらやろうとしているなととても感じていたんです。耽溺で行けた世界はどういうものだったのか、すごく惜しいなと思いました。制作過程で翻訳作業をいっぱいしてたんですけど、文章から「ああーっ」て思うのと、耳とかから「ああーっ」って思うようになるのと、ぴちょんぴちょんって音から「ああーっ」って思うのは別々の体験で、その一つ一つをもっと大事に・確信を持てたんじゃないかと思っていて。また、作品からも何がしかの方法を要請してくる力は感じていたんですけど、そこにぴゅって行くとなんか・・・本当はそこに行けるだけの核は持っていないのに。脚本と演出と客席の面白さ、そういった手がかりの面白さはすごくあったんですが。
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- 一つ言えるのは、非常に冒険的な公演だったという事です。言うほど「知っている問題意識に終始していた」か?
- 前田
- 知っていたから演劇を観れなくなった。すごく好きな漫画を本棚に揃えてしまって読まなくなった。同じことだと思っています。演劇を観始めたのは学生劇団からでしたが、すべてが知らない感動で、しかもいちいち語られていることにも感動していたんです。それが、いつからか内容に感動するのをやめてしまった。問題なのかもしれないと思っています。最近気付いたんですが、この作品があって良かったかどうかという観点で見ようとしているぞ、演劇作品の中で優れているか否かを量ろうとしているぞ、と。蛇というモチーフを「蛇ってこういう事だよね」「滝みたいだよね」と受け止められたらいいのに。もちろん思いはするんですけど躍動感をもって思えなくなっている。それが何か、こう、恐ろしい。
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- 自分の感受性が枯れ始めている。人の、そのままの姿を受け止められなくなるぐらい繊細になったのかもしれない。今は「推し」ってありますよね、アイドルに対する感情。パフォーマンス以上に、彼らの人生に物語を見出す事がエンターテインメントになっているようにも思う。
- 前田
- それを大事にして好きになるし、また、しんどくもなりますよね。プロフィールになっていくみたいな。人生を担保に。演劇を見に来てくださいというのも、一つの人生の区切り、けじめのためにお知らせしているところがあります。けれどそこを、自分の精神の一番に近いところに置かないで生きたい。
「イグレーヌ・バリエーション」
公演期間:2021年2月26~28日。会場:京都芸術センター。 アーカイブサイト(記録が見られます):https://baracke-2.jimdosite.com/
*前田コメント
公演後何ヶ月かして記録していた「作品」を見ると、自分たちがどんな機能であったのか、見えてきました。演劇を見れないことと、稽古が出来ないことは、前田の中で重なっています。インタビューの中で作品を語れませんでした。「翻訳」を巡る試行錯誤は非常に面白く、語りたい事が沢山ありました。けれど作る事において私の問題に直面し、クリア出来ていないのです。
10に至る
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- 前田さんのサイトを見ました。
- 前田
- 私はあそこでは編集者で、いっぱい文章書くという感じじゃないんです。
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- 大変ユニークな形態ですよね。前田さんの表現を全て拝見できたわけじゃないんですが、ストーリーや主張よりも描写の方が明確ですよね。お客さんに1から10まで説明するんじゃなくて、10を説明するために別の入り口やルートを用意するような。でもお客さん全員が10に至るわけではないので、そのもつれが楽しい。前田さんの表現には、人が行動するキッカケの底にある、物理的な怒りの存在を感じる。
- 前田
- そうですね。怒り。私の原動力の型というのは「これは嫌や」から始まっていると思います。恨みから始まっている。
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- 怒りは大切ですよね。
- 前田
- 作品を作るときはいつも、空っぽになった時から作ってるような気がしています。もう何もないみたいな、出涸らしの。高田ひとしさんと演劇をやっていた頃に、「強方向」と名付けたものがあって。生きてくのが大変だなあ、みたいな、考えられる前にそうなっちゃうみたいな。tabula=rasa 時代に「強方向」 として発表しました。その後の時期で、心身喪失した時期に、初めて自分の作品を作りました。「対人関係について」 というタイトルだったんですが。どれだけ人を大事にしたらいいんでしょうね。
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- どれだけ人を大事にしたらいいか。人間から逃げ続けているといつか酷い目に遭いますからね。相手にマウントを取らないように立ち回っていてもやっぱり自分の居場所を失うのではないか。ワリを食うのではなく、役割を世界に委ね続けて、気が付いたら遠くに流されている。それはそれで良いのかもしれないけれども、おそらくは自分の立つ瀬は減っている。
- 前田
- 分かります。なんか。ごめんなさい、分かりますなんて言っちゃいましたけど、やっぱり隅っこみたいな。保てなくなる。難しさを感じます。時々は目を開けていなければあかんのですかね。
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- 「寄り添う」という言葉が大人気になって15年ぐらい経ちますけど、だからもう具体的に何をどうするかまで固定されてますけど、本当のところは「寄り添う」は戦争状態まで含んでるんじゃないかなと思う。相手のエゴをそのままにしてしまうんじゃなくて、向き合って対応する=勇気を持ってやりあう事を避けずに話す。
- 前田
- 正しいことを巡って喧嘩をするのはしんどいですね。言葉を尽くしたら伝わるんだけど。介護職で働いていた時に、利用者さんがどちらでもよいことで「うーん」って唸ってしまったんですよね。私は「そうかぁ、うーんかー」て一緒に、ずーっとなってたんですけど、先輩は生き生きした心で働いていて、「こっちしたらー?」って。私は、誰に寄り添うという以前に、新しいものを見つけられずに働いていて。結局なんか、有効に本心が働く領分が分からなくなってしまった事があります。
tabula=rasa
京都を拠点に活動する演劇のカンパニー。2009年に高田ひとしを主宰に設立。活動は、いくつかの連続的なシリーズを並行的に上演するスタイルを取る。(公式サイトより) 現在、活動は終了している。 ・ツイッター:https://twitter.com/tabularasakyoto ・演劇フリーペーパー「とまる。」による特集:http://tomarumaru.web.fc2.com/shm/index.html
tabula=rasa「無題1~強方向もしくは問答」C.T.T. vol.90(2011年1月)上演会
参加|高田斉、前田愛美 ・“「強方向」は収束していく力です”(C.T.T.京都チラシより)
「対人関係について」C.T.T. vol.103(2013年6月)上演会
C.T.T.オフィシャルブログ 上演目的:感覚が分散するー自分の感覚を追っていこうと思う。そして最終的にこうなるという意味で、対人関係についての習作を発表したい。私にとって重要なものが、他人にとってはどうなんだろう。ただそれだけをみたい。
*サイト紹介
「総合住宅まなみ」私を統合するところです。検索で出てくるようになりました。 https://manamisougoumaeda.wixsite.com/mysite 「作品さん.com」というサイトを作りました。私の歴史になることから離れた、作品さんの生を生きてほしい。現在「シオガマ」がアップされています。次回「対人関係について」アップ予定です。https://manamisougoumaeda.wixsite.com/sakuhinsan *Shipのサイト。昔書いた「私にとっての演劇」レポートです。メニュー「前田愛美」を選ぶと前中後編出てきます。“使われない私の生”、”俳優の機能とは” https://www.program-ship.com/ship2/manamimaeda/index.html
あの時
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- お芝居を始めたのはいつからですか?
- 前田
- 見たのは18歳で、始めたのは19歳です。
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- どんな作品を作りたいと思われますか?
- 前田
- 3つくらいの分岐がありまして。一つ目は温かい気持ちから何かを作ってみたい。もう、恨みはそんなにないなあと自覚するときもあって。二つ目は、「自分は一体何なのか」を喋り倒すみたいなのが多いのですが、異色なのに、実家がなくなるかもしれないという時に作った、つまり外部からの影響で作った作品があって。三つ目はやっぱり、これまで作ってきたような作品しか作れないかもしれない。
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- 何かを作る時に野心とかはありますか?
- 前田
- 野心。
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- 誰も知らない考え方や作り方やイメージを表現したい?
- 前田
- それは若干逆かもしれなくて、作品を見せる時にそれがつまらなかったら、それはひどい奴だなぁと思う。プレッシャーはすごいです。
質問 浅野 有希さんから前田 愛美さんへ
世界一美しい透明スイーツレシピ
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 前田
- ありがとうございます。(開ける)透明ですか!すごいなあ。これ作ったら幸せになれそうですね。