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片岡 百萬両

脚本家。演出家。俳優

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一人芝居の脚本執筆中!!

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い致します。片岡さんは最近、どんな感じでしょうか?
片岡 
最近はおかげ様で忙しくさせて頂いていますね。いまはウチの劇団員の真壁愛がindependentの一人芝居フェス に出るんですが、今その台本を書いています。
__ 
どのような作品になるのでしょうか。
片岡 
前回は恋愛の話だったし、今回はせっかくの一人芝居なので、少し変わった事をやってもらいたいなと思って。女性役ではないものを書こうとしています。
__ 
人間以外ですか?
片岡 
人間ではあります。やっぱり、振り幅の多い役をやった方が貴重な経験になるなと思っていまして。僕も他の所に出させて頂いて、そういう恩恵も感じているんです。ウチの劇団員には色んな役をやらせて、引き出しを広げてもらえたらと。
__ 
作品が上演されるのは一人芝居トライアル二次審査、ですね。
片岡 
審査会という事で、14組中6組なのでどうしても周りを意識してしまうんですけどね。でも見せるのはお客さんだし、一人芝居やねんからその関係性を崩さないようにしてほしいですね。そうした意識を内に秘めて望んで欲しいです。
__ 
そういう意味では、落語に似ていますよね。
片岡 
そうですね。一人芝居の作り方って、一人で喋っててもおかしくないシチュエーションを設けるか・独り言をただただ吐露させる説得力を成立させるために人物設定を練り上げるか、なんじゃないかと。脚本家としての腕の見せ所ですね。裁判での証言とか、留守電に言葉を吹き込み続けるとか。僕が一人芝居フェスに出た時は浮遊許可証の坂本見花さんに脚本をお願いしたんですが、坂本さん「これ、終わっても拍手一つも貰えないかもしれませんよ」って。最高じゃないですかそれ、って。
__ 
脚本と役者の掛け合いの究極が一人芝居なのかもしれませんね。どんなものになるのか、楽しみです。
ミジンコターボ

大阪芸術大学文芸学科卒業の竜崎だいちの書き下ろしたオリジナル戯曲作を、関西で数多くの外部出演をこなす片岡百萬両が演出するというスタイルで、現在もマイペースに活動中の集団、それがミジンコターボです。最終目標は月面公演。(公式サイトより)

INDEPENDENT:13 トライアル

審査:2013/7/9〜10。会場:in→dependent theatre 1st。

應典院舞台芸術祭space×drama2013 特別招致公演 ミジンコターボショートショートvol.11「ゼクシーナンシーモーニングララバイ」

__ 
前回の公演「ゼクシーナンシーモーニングララバイ」。大変面白かったです。当初私は楽しいお芝居を期待して劇場に行ったのですが、実際に受けた印象はそれとはかけ離れた、個人の心情に触れる作品でした。話の筋は、人生に迷って生きる優柔不断な男・シンイチの後をヒロイン・ナンシーが付いて行くというもので、男女同権主義者としては心にクるものがあったんですが、やはり一人の男として、彼の人生は果たして幸せだったんだろうかと。ハッピーな結婚の話だったんですが、そう考えると哀しい感情を掻き立てられるような・・・人生で仕事を見つけられなかった彼は、死後、天国で最高に幸せな結婚式を迎える訳ですが、それは彼の人生にとっては本当の幸せなんだろうか?この話、片岡さんはどのようにして生み出されたのでしょうか。
片岡 
まず、すんごい遠い題材でやりたいと思っていて。僕自身が結婚願望がそんなにないんですよ。じゃあいっそのこと、結婚をモチーフにしたお芝居にしようと。さらに、言い訳ばっかり口ばっかの守るものもない、何の目的もなく生きている男の話を書きたいと思ったんですね。言い訳する奴の話が書きたかったんです。
__ 
なるほど。
片岡 
そして去年、公演直前に入院した話。
__ 
本公演「シニガミと蝋燭」の時、ですね。
片岡 
誕生日の前日にやっちゃって病院に搬送されたんです。ところで入院すると、名前や番号や誕生日が書かれたバンドが手首に巻かれるんですよ。次の日が誕生日だったから一日限りのバンドだったんです。なんや、年齢変わるんかいな、と。稽古場もバタバタしていた状況だったので、僕の状況が誰にも伝わっておらず、期せずして誰も近くにいない、祝ってもらえない誕生日がやってきて、逆に気持ち良かったんです。一人や、と。病室はカレンダーはあったんですが時計が無くて、時間も分からないみたいな残酷さを感じて。人に迷惑は掛けているけど開き直るしかない境地になってました。だって、もう申し訳ないという言葉を重ねてもしょうがなくて。病室から稽古場に連絡を取って、役者さん達に頑張ってもらったんです。そういう、ちょっと死を感じるような事があったんです。人が周りにいっぱいおるけど孤独感がある。そういう感覚は女性には分かってもらえないんじゃないかと思ったんですね。それをやりたい、というのが原動力かなあ。
__ 
そのリストバンドの存在が印象的ですね。誕生日が書いてあるものを手首にはめられるのはちょっとショッキングかもしれません。いや、填めてみないと分からない感慨でしょうけど。
片岡 
そうなんですよ。それにもうその歳ちゃうがなと。もう歳食ったんかいと。去年から入院していたような気になってしまって・・・。劇団員が千羽鶴折って持ってきてくれて、千足りてなかったんですけど。なるべく早く退院したくて、リハビリ以外の時間も頑張ったんですよ。夜中に病院脱出しようとしてみたりして、めっちゃ怒られました。力づくで病院の玄関をこじあけようとしたりして(笑う)。
__ 
「ゼクシー」の主人公のシンちゃんも、言ってみれば寂しい人生だったんじゃないかと思うんです。あの特殊能力も活かせないまま。
片岡 
そうですね。
__ 
私にとっては虚しくて泣ける話でした。
片岡 
男性全てがそうだとは限らないんですが、知人の結婚式にいくと、やっぱり新郎さんではなく新婦さんにフォーカスが当たるんですよね。でも満足気なんですよ。目立ってないけど。目立つ事が良い訳ではないけど。女性がやりたい事をやっているのを見て満足しているというのが、男にはあるんじゃないか。ちょっとロマンチックですが、それを見ているだけでプライスレスというか。シンイチの人生に関して言えば、それが一番のご褒美だったんじゃないかと思うんです。自分が演じてきて、それを感じましたね。
ミジンコターボ-10『シニガミと蝋燭』

公演時期:2012/7/27〜29。会場:ABCホール。

質問 藤本 隆志さんから 片岡 百萬両さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、てんこもり堂の藤本さんから質問です。「靴を選ぶ時の基準は何ですか?」
片岡 
靴ですか?それは・・・すごく面白い質問ですね。
__ 
藤本さん、以前に片岡さんを舞台でご覧になったときにお洒落な方だと思われたそうでして。
片岡 
恥ずかしい。僕はですね、足の長さに対しての甲の高さが高くて。普通に足のサイズに合わせて選ぶと痛くなってしまうんですよ。だから、1.5cmほど長いのを選びます。でも先端が空白になってしまうのが悩みです。あ、柄がうるさいのを選びますね。今もうるさいのを履いています。

旗揚げ前夜

__ 
片岡さんがお芝居を始められた経緯を教えて頂けないでしょうか。
片岡 
高校の演劇部ですね。ものすごく仲の良かった子が部長で、人数が足りへんと。最初は全然本気じゃなかったのに、どこでスイッチが入ったのか。
__ 
なるほど。
片岡 
いっこ下に竜崎がいてたんですけど「こんなふざけた奴が入ってくるなんて。私やめます!」って辞めたんですよ。部長が泣いて「皆仲良くやってくれへんかな」と。したら戻ってきてくれて。卒業するとき引退したんですけど、OBだけで劇団を旗揚げしたんです。1年したら竜崎たちも合流して。惑星ピスタチオの「破壊ランナー」に衝撃を受けて、LOVE THE WORLDに入って。それくらいまでOBの劇団でやってましたね。
__ 
ありがとうございます。ミジンコターボを旗揚げした経緯を教えて頂けますでしょうか。
片岡 
LOVE THE WORLDが解散するとき、僕は放り出された気分になったんです。打ち上げの席で、この2・3年ずっと同じ釜の飯を食った仲ばかりでした。「まだやり足らへん人、一緒にやらへんか」って募ったらぱっぱっぱって手を上げてくれて。嬉しかったですね。で、面白いんちゃうんかって竜崎も連れてきて。劇団名を決める時に、僕以外は「ミジンコターボ」がいいと。僕は百萬両一座がいいと言ったんですけど多数決で負けて。いま、多数決で勝った人は誰も残ってないんですけど。由来は気に入っています。

燃えるビセイブツ

__ 
由来とは。
片岡 
僕らは、その頃も今でも無名だし、宇宙から見れば微生物みたいなもんで。でも、そんなのでも集まって頑張ったら、お客さんと充実した空間を作れるんじゃないか。
__ 
加速して、ですね。
片岡 
ターボエンジンを積んでね。
__ 
ミジンコターボの魅力は、やっぱりお客さんにムリをさせずにあの熱気の渦に巻き込んでいける丁寧さだと思っていますが、いかがでしょうか。
片岡 
自分ではあまり意識はしていないんですけど、エンターテイナーやなと人には良く言われます。お芝居に触れた事の無い人が初めて見るのがミジンコターボなら、その人は演劇に興味を持つだろうとよく言われて。嬉しいのは、「見て元気になれました」という感想です。こっちが元気を貰えますやん、次も頑張れます。
__ 
片岡さんは、お客さんに元気になってもらいたいんですね。

片岡さんが面白がれる

__ 
片岡さんのショートコント公演と、竜崎さんの本公演。ミジンコターボの作品はこの二形態がありますね。それが奥の深さを感じさせているように思います。
片岡 
本公演とコント公演ではやり方が全然違うんですよ。台本も縦書きと横書きで違うし。何より本公演の方はテキストの量が比較にならないほど多くて、役者がセリフを全部言えるようになるまでは「セリフ返せ返せ、感情なんて後からついてくんねん」言うて。
__ 
コント公演の稽古では。
片岡 
やっぱり僕が書いて演出している分、外したくないポイントはあって。でもそこ以外は○○○にしてあって、日替わりのセリフという訳じゃないんですがあえて役者に委ねている部分なんですよ。
__ 
聞いたことがあります。片岡さんが面白がれるのがポイントなんですよね。
片岡 
あんまり良くないんですけどね。
__ 
何だかミジンコターボの稽古はしんどいけれど物凄く充実してるんだろうなあ、と思うんです。
片岡 
実は稽古以外の時間の過ごし方にも興味があって。ある役者さんが、自分の芝居にどうしても納得いかないと。帰り道が一緒な役者を誘って公園で稽古したというのを後で聞いたり。悩んどんなあと。そういうのって、いいなあと思いますね。

どうしたら面白い登場になると思う?

__ 
ミジンコターボが本公演・コント公演共に非常に優れているのは、ダンスやネタだけじゃなくて、出ハケもその一つなんじゃないかなと思うんですよ。そのタイミング、そして方法が本当によく考えられていて、完璧に実行されるのがいつも見事だなあと思うんです。
片岡 
そうですね、注文は凄くしますね。気が付いたらいつの間にかおってほしくて。台本には詳しく書かれていない事もあります。場合によっては、どうしたら面白い登場になると思う?って考えてもらう事もありますよ。
__ 
出ハケは身体での演技の前後段階で役者が表現するチャンスなんですが、だからセリフよりもずっと早くに観客に届くものだと思うんです。だからそれを役者に求めるのは独立性を求めているんですね。
片岡 
若い役者さんって、セリフをしゃべる事だけに集中してしまいがちなんじゃないかと思うんです。セリフがない時こそ頑張ってくれと思いますね。

生き延びる

__ 
今後、描いていきたい作品は。
片岡 
自分の展望としては、全編にわたって山場がない作品を作りたいです。
__ 
というと。
片岡 
ゼクシーは最後の結婚式が超山場でした。そういうシーンが無くても超面白い。そんな作品が作りたいです。印象的なシーンが無くても勝負できる。構成に頼らない作品を作れればと思います。最後にビッグパンチを用意するのもいいけど、それで前半緩んでるんじゃないかと思われないように。痺れさせないまま駆け抜ける作品を作ってみたいですね。
__ 
ミジンコターボ、今後はどんな感じで攻めていかれますか?
片岡 
今話しているのは、「持ち運びが出来る作品を作ろう」という事です。関西を中心というのは変わらず、他の地に持っていけるような。劇場の大きさや状態に関わらず、ブレのない作品ですね。音響・照明などのテクニカルをはじめ、空間を相談しながら作っていくんです。
__ 
持ち運び出来る。それが、ミジンコターボらしさをもっと純粋に高めてくれればいいですね。もちろん、らしさを損なわずに。
片岡 
ウチの人間は大体みんな一人芝居をやっているので、それをパックにして持って行こうぜとも言ってるんです。それだけで3時間ありますね。僕、竜崎、Sun!!、川端、江本と。一人芝居好きなんかと。
__ 
素晴らしい。では、片岡さん個人としてはいかがでしょうか。
片岡 
俳優としてはやっぱり、面白いと形容され続けたいなと思います。エンジョイというか、愉快やなあ。尼崎に生まれて、大道芸人の気質が残っているのか。面白いと思われたいというのがずっと残っていますね。
__ 
なるほど。
片岡 
僕、舞台上で絶命することが多いんですよ。生き延びるような役を演じてみたいですね。死ぬって未知の、経験していない事じゃないですか。経験している事の中で反映出来る芝居がしたいです。

エンドマーク、スタートライン

__ 
・・・「ゼクシー」の話に戻りますが、正直、ミジンコターボの作品として、最も人間性を感じたんです。ネガティブな事をポジティブに変換したミジンコターボの作品作りはとても好きでしたが、同時に、この人達は眩しすぎて直視出来ない、とも思っていました。でも、例えば病室で感じた孤独感をそのまま作品に持ち込んで、それが誰かの琴線に触れるような作品が拝見出来るとは思っていなかったんですよ。意外だと思うと同時に、何だか嬉しかったです。
片岡 
そうした感想を頂けるのは嬉しいです。僕にとっては新天地だったので。
__ 
面白かった上に、泣けたという感想もあったみたいですね。
片岡 
最後のシーン。プロのバイオリニストの方がシンちゃんの亡き父親役で出演して下さいまして。そのシーンのリハーサルで僕は演出なので前から見させてもらったんです。主人公なのに。でも僕抜きでも成立していて、押し寄せてくるエネルギー量がね、バイオリンが良かったという感想だけだったらどうしようと思いました。
__ 
なるほど。
片岡 
これ裏話なんですけど、隙間の時間に、僕と音響王子とそのバイオリニストの方だけで音響のレベルチェックをしていたんです。アイデアとして、「本当はお父さん、めっちゃ下手なバイオリニストだったという設定はどうか」と。実際に音を外してみて貰ったら、やったらめっちゃ盛り上がりました。
__ 
それはちょっと泣けますね。そんな事をやったんですか。
片岡 
人間としてはそれが普通かも。上手だったら出来すぎやろう。下手くそやったんやお父さん!でも、それやったら意味あらへんがな、と。
__ 
天国にまで行ったのに。それは逆に出来すぎですね。
片岡 
これは泣けるけど、そういう人は少ないやろうなという話になりまして。結局、丁寧に弾いて見ただけました。

絵本 ごんぎつね(新美南吉/作 いもとようこ/絵)

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本日はお話を伺えたお礼に、プレゼントを持って参りました。どうぞ。
片岡 
ありがとうございます(開ける)おっ。ごんぎつね。ありがとうございます。キツネ、好きなんで。いいんですか。
__ 
ちょっと荷物になるかもしれませんが。
(インタビュー終了)