何で演劇をやっているんだろう?
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。山本さんは最近、いかがでしょうか。
- 山本
- 最近・・・はい、あはは。
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- つまり、ハウアーユー、です。
- 山本
- いや、元気ですね。体は健康で太っています。そうですね。でも何も知らずにこれまで芝居をやり始めてきてたんで、ちょっとね。本当に自分が芝居をやりたいのか迷っているんですよね。
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- 迷っている。
- 山本
- やっぱり、自分のものを出すのって色々あるじゃないですか。自分は何も知らずに最初の劇団に入ってしまったので。という事を今やっている一人芝居フェスに思いました。にしても30分一人で舞台に立ち続けるといその覚悟というかちゃんと自分で選択してそこに立っているっていう。そこへいくと、自分は何で演劇をやっているんだろうと。
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- 私は、コトリ会議にしか持ち得ない、正統的なズッコケの勢いが大好きなんですよ。もの凄い一生懸命にやっているけれどもそれが目に見えて間違っているけれども。なんかそういう。
- 山本
- ああ、そうですか、ありがとうございます、自分の作品に対して何も言葉を持ってなくて、解説を加えるのが少し苦手というのがありまして。
コトリ会議
2007年結成。一生懸命になりすぎてなんだか変なことになっちゃった人たちの生活を部屋のすみっこだったり銀河に浮かぶ惑星だったり所かまわず描いています。おもしろいものが好きな劇団です。2010年にspace×drama2010という演劇祭で優秀劇団に選んでいただきました。ますますこの劇団の作品はおもしろくなるなと心密かに確信しながら毎日動きつづける劇団です。(公式サイトより)
ユニットから劇団へ
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- コトリ会議を結成した経緯を教えて下さい。
- 山本
- 元々僕は役者をやってたんですけど、その時にいろんな人たちと出会って。
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- なるほど。
- 山本
- 一緒にやりたいと思う人たちと「のび劇団のび」というユニットを立ち上げてカラビンカで作演をしたのが初めてでした。この人達と芝居をやりたいなと思って、コトリ会議を立ち上げました。第一回は別役実さんの「いかけしごむ」で、お客さんは20人ぐらいしか入らなかったんですけど面白いねと言われて。その時は芝居をやりたいというよりはこの人たちとワイワイしたいなと思うぐらいだったんです。作演はローテーションのはずだったんですけど、そのうちに僕は役者が向いていない事に気づき初めて、それからずっと僕が作演しています。
優しさとはなにか
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- コトリ会議の作品を目にする時にいつも思うんですが、とても雰囲気がいいですよね。
- 山本
- 悪人が出てこないという事でしょうか。
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- やっぱり俳優間の空気感が良い、という事だと思うんですよね。その人達のムードというか。生卵でいうと舞台上の人々が黄身で、白身の固い部分に客席があって、それは水っぽい白身とも行き来できて、黄身の薄い皮を通して舞台を見ているんですけど、コトリ会議ってあの皮膜を破いたり戻したり自由自在だなあと。輪郭が曖昧だけどはっきりと認識も出来る感じ。そうした、醒めながらも曖昧な、現実だとはっきり認識しているけれども白魚のように認識が逃げる感じ。そこは確実にコトリ会議にしかないなあと。サイトにもあるとおり、一生懸命になりすぎて少しおかしくなってしまった人、それはつまり現代に生きる我々全てだと思うんですけど、彼らのせいなのかなと。優しいけれど、おかしくなってしまった人。
- 山本
- よく僕は言うんですけど、奇人変人でくくるなと。僕もよく変人と言われるし、皆さんどこか変人だと思うんですよね。それは一般社会にもいて、軋轢と一生懸命戦って、壊れないようにしているんです。だから、簡単に変人として見られる人は出さない。
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- そうですね。
- 山本
- 僕の周りに、結構変人は多いように思えるんですが、でも彼ら自身が自分と戦ってるんですよね。
割れる世界
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- 山本さんが演劇をやっている理由を教えて下さい。
- 山本
- 実はよく分かっていないです。台本を書くのは、皆さんそうだと思うんですけど、自分を認めて欲しいからクリエイティブしますよね。どんなに有名な人でも。それに尽きますね。でも、批評なんて十人十色と言われるじゃないですか。その通りなんです。で、そうすると書いている意味が無くなっちゃうんですよね。
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- そうですね。
- 山本
- でも、人に見せる訳じゃなく書いている作品もこの世にある訳で。「にくなしの、サラダよ」 もそうなんですけど。もちろん上演する事で見てもらえるというのは僕は嬉しいんですけど、それで自分の世界が壊れてしまうのは恐怖ですね。だから僕は、自分は演出しちゃダメなのかもしれないと思っているんです。固執してしまうから。
コトリ会議演劇公演11回め「にくなしの、サラダよ」
公演時期:2013/4/20〜4/22。会場:カフェ+ギャラリー can tutku。
うっ
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- いつか、こういうシーンを描きたいというのはありますか?
- 山本
- お客さんがドッカンドッカン笑うんだけど、それが最後には涙に変わって、でもラストに一転してホラーに変わって、恐怖で終わるというのが書いてみたいですね。ゾッとして終わるんです。理想なんですけど。
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- 落語で最後にぞっとするセリフで終わる名作がありますよね。
- 山本
- 昔の人が言ってたんですけど、ホラーが一番難しいらしいんですよね。笑わせたり泣かせたりするのは簡単だが、って。僕は中々、そこまでたどりついてないんですが。それを書いてみたいですね。
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- 「にくなしの、サラダよ」は途中までホラーで、でも最後はハートフルになりました。
- 山本
- 全く問題自体は解決していないんですけど、意識を変えるでこれから新しく展開出来るという事が言いたかったんですね。
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- そういえば、夫婦間の対立がテーマでしたね。「桃の花を飾る」 もそうだった。山本さんにとってはそれがテーマなのでしょうか。
- 山本
- 僕は夫婦という関係性を持っていないので、やはり想像によるんですが。でも、誰にでもある子供時代がその人を形成してるんですよね。やっぱり家族があるんですよね。家族環境にある対立を描きたいと思うんです。
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- 家庭環境の違い。
- 山本
- ストレートな愛情表現に、うってなるんです。何故父母は、無償の愛をあんなに私に注いでくれるのだろうかと思って。それが、「にくなしの、サラダよ」は子どもたちが求めていた母親像が勝手に暴走して、みたいな事を考えていたんです。でも本当に恐ろしい思いをしているのは男性なんじゃないか。無償の愛に対する恐れが、実はあるんじゃないかと。
コトリ会議 演劇公演9回め「桃の花を飾る」
公演時期:2011/9/2〜4。会場:シアトリカル應典院。
質問 玉一 祐樹美さんから 山本 正典さんへ
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- 前回インタビューさせていただきました玉一 祐樹美さんから質問を頂いてきております。「山本さんオススメの大阪の劇団を教えて下さい」。
- 山本
- 一つだけと言われたら難しいですね。たくさん面白いところはあるので。角が立ちそうな質問。
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- いくつでも大丈夫ですよ。
- 山本
- うーん。同期の30代を超えた人たちは必死になっているので、本当にみんな昔のようには行かなくなって。それぞれの方向性がガチガチに決まっていって。コトリ会議はその中でも若い方なんですけど。僕らの世代から5年下の劇団がガンガン来られてるじゃないですか。壱劇屋、匿名劇壇、ともにょ企画、色んな方向に開いていこうとされていて、エネルギーがあるのはいいなあと。何で僕は他人事になっているのか?同世代でいうと万博設計の橋本さんが自分の道をしっかり見つけてるし、いま一緒にタッグを組んでいるbaghdad cafe'の泉さんも劇団の方向性を決めてやっているし。僕らだけがぽんと、波に乗り切れていないような気がしているんですよね。でも、答えとしてはコトリ会議で。
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- 分かりました。
心の目、幽霊、必死さ、鈴江さん
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- ホラーと言えば幽霊。昨日、心霊動画を見たんですが、良くみたらうっすい映り方してるんですよね。カメラ写りを見る以上、すごく平面的な存在なんじゃないかと。
- 山本
- ある小説で面白い記述があって。タクシーの運転手が幽霊に会うんですね。バックミラーには映らないけれど、目には見える。これはどういう事だろうか、と。
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- 光が何かを経由すると映らなくなる。でもカメラには写っている。
- 山本
- 人間が感知したものは全て脳みそに貯められていると考えられているけれども、その仕組は本当は解明されていなくて、実は体の細胞一つ一つに記憶が蓄積されていて、視覚以外の半端な記憶がそこに行くのではないかという本もありました。心の目、と言ってしまえばそうなんですけど、それは非常に面白いなと。
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- 脳が感知と記憶を一応やってはいるけれど、肉体が外を体感して貯めている(幽霊はその残響なんだろうか・・・?さらに、我々がそれらを誤検知してしまっている?)
- 山本
- それにしても幽霊は怖いですよね、何をするでもなく立っているだけ。宇宙人と同じく、目的が見えない怖さがある。それは生きている人がやっていても怖いんですけど。
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- 俳優の身体を見た時の印象は、最初に出てきた時にしか分からないという仮説を建てた事があります。俳優が研鑽を積み重ねたらそれはこちらにダイレクトに伝わってくる・・・なんてそう簡単にはいかなくて。最高の心技体でも、必ず上手く客席と交歓がなされる訳ではない。どうしても、どこか一瞬は混沌系に委ねられるんですよね。ただ、精神的なものがかなりあるんじゃないかとは思うんです。身体のどこかで世界をナメた役者がいたとしたらそれは分かるし、影響があるんですよ、きっと。幽霊と宇宙人はこちら(見ている側の者)をナメまくっているので問題外なんです。
- 山本
- あはは。
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- 奴らのだらしない態度が我々のカンに触るんでしょうね。
- 山本
- 劇団八時半の鈴江さんの下で役者を3回ほどやった事あるんですけど、あの人は芝居が出来てくるとそれを壊そうとするんですよね。僕らみたいなヘタな役者を上手く見せるためには、という事で、僕ら自身が必死になって慌てる事が大切だと。
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- なるほど。
- 山本
- いくら難しい演技でも、稽古を通したら出来ちゃうんですよね。だから、途中で難しい演技を与えてくる。これはムリだ!と必死になっている人が面白いんだ、って。
いつかよぎる景色
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- 山本さんはコトリ会議の脚本家・演出をされていますが、お客さんにどんな気持ちになって帰ってもらいたいですか?
- 山本
- やっぱり、どこかほっとした気持ちになってもらいたいですね。エンターテイメントを求める心が僕の中にはあって、観てたくさん笑った後にずっと考えさせられる。劇場を離れて時間が経って、例えば誰かと話している時、TVを見ている時、お茶を飲んでいるような時にふと再来する、そんないいシーンを生み出したいというのはありますね。作品の解釈なんて結構どうでもいいというのはあって、でも、印象に残るシーンを作りたいですね。
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- これまで作られた作品の中で、それはありますか?
- 山本
- あまり見られてはいないんですが、3回目の公演の「右はじの、映らなかった人」という作品。夕暮れの中で一人の女性が男の写真を映す、その情景であるとか。「サリリャンカララワールド」 のラストもそうですね。
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- というと。
- 山本
- 暗い倉庫の中生きている女の子が自分の中でストーリーと生活を作り上げるという話で、最後に光が差し込んで、抒情的なセリフが続いて、「母は思い出すよ」というセリフがあるんです。
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- ちょっと鳥肌が立ちました。
- 山本
- でも中々上手く行かなくて、あまり受け入れられなかったんです。
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- 勇気を持って表現する劇団の芝居が好きなので、やってもらえると嬉しいし、やらなければ何も始まらないですけどね。だから私は、どんな作品の面白さも拾わなければならないと思っています。
- 山本
- ありがたいお客さんやなあと。ありがとうございます。
コトリ会議 演劇公演 5回め「サリリャンカ・ララ・ワールド」
公演時期:2010/4/17〜18。会場:in→dependent theatre 1st。
芝居ってなんだろう
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 山本
- 年末にミソゲキがありまして、そこは遊んだ作品を持って行きたいと思います。来年2月に芸術創造館の芸創セレクション に参加させていただくのと、来年5月末にAI・HALLのbreak a leg にも参加させて頂きます。
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- 楽しみですね。
- 山本
- ええとですね、どのホールさんにも、あまりふざけた事はしません、普通の会話劇ですとお断りしています。こないだのように本番でカレー作ったりはしません。ちゃんとした劇場の中で、異空間の中で芝居したいなというのはあります。それと同時に僕が芝居ってなんだろうと思っている部分はあるので、ある時ふっといなくなるかもしれません。
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- ありがとうございました。今後も楽しみにしております。
芸創セレクション
「芸創セレクション」・「芸創エクスペリメンタルシアター」は、大阪市の主催事業です。該当公演の決定は選定委員会が行い、公募によって集まった個人、及び団体の中から、年間約12の個人及び団体を選定します。また、エントリーについては、大阪市内の小劇場が実施しているアワードとも連携し、2〜3の推薦枠を設定する予定です。(公式サイトより)
次世代応援型企画break a leg
「break a leg(ブレイク ア レグ)」とは、これからパフォーマンスを始める人に向かって 「成功を祈る」という意味で用いられるフレーズ。本事業では、若手表現者に会場を提供し、次代を担う才能の発掘・育成を目指します。 新風を吹き込んでくれる表現者たちの競演にご期待ください。(公式サイトより)
春の野草の香りがするお香
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
- 山本
- ありがとうございます。(開ける)何ですか、これは。
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- ちょっとしたお香ですね、少し火を付けてすぐに消すと香りが広がります。春の息吹の香りがします。置いておくだけでもいい香りがするみたいです。
- 山本
- お香はあまりしないんですけど、部屋に置いときます。ありがとうございます。