ペレイラさんの今
- __
- 今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。最近、いかがお過ごしでしょうか。
- ペレイラ
- 最近は忙しくさせて頂いてますね。自分の劇団で11月の17~20日まで公演させていただくのと、今働かせて頂いてるところの仕事で、学校公演に出演させていただくんですね。それに加えて、また別で、僕の母校の定時制高校に劇団で公演をしに行くことになりまして。その3つが11月に三週間続けてって感じです。非常に充実しています。
- __
- 人気者ですね。
- ペレイラ
- いえいえ、人気者ではないですけど。でも来年は2月に庭劇団ペニノの公演もあります。
- __
- そう、今年5月に庭劇団ペニノ「ダークマスター」へ出演をされましたね。東京公演は来年の2月。頑張ってくださいませ。その話はまたあとで伺えればと思います。演劇以外はどうですか?
- ペレイラ
- 演劇以外はやってないですね、友達と飲んだりはしますけど、休みも不定期なので、1時間ぐらい遊ぼうと思ったら一人でカラオケにいくぐらいで。休み、無いですね、1日休みというのはもう3か月ぐらいないです。
- __
- ヤバイですね。適当に休むべきですよ、過労死だけは・・・
- ペレイラ
- はは、大丈夫です。自分で調整できるので、そんなには。放置すると後で詰まってくるので、まあリボ払いみたいなものですよ。
プロトテアトル
プロトテアトル「prototheatre=試作劇場(あるいは試作演劇)」2013年6月、主宰FOペレイラ宏一朗を中心に近畿大学に通う同級生で旗揚げ。扱う作品に決まった形はなく、それは演劇が未完成=試作品であると認識しているから。団員全てが個別に主導するワークショップ「n,o,t,e.プログラム」や劇団による短編演劇祭「フェスティバル」など、本公演だけでなく独自の企画も行っている。 【受賞歴】2015年2月、第四回本公演「ノクターン」がウイングカップ5最優秀賞を受賞。(公式サイトより)
プロトテアトル短編演劇祭フェスティバル#2
- __
- さて、11月には短編演劇祭ですね。どんなフェスティバルになりそうですか?
- ペレイラ
- 前回は本当に夏祭りで、7ジャンル7作品の新作を書きました。会話劇、コント、時代劇、エンタメ、音楽劇、不条理劇、沈黙劇。雑多としていてお祭り感はあったんですけど、ちょっと演劇祭というのからは離れたというところがあったのかな、と。今回は関西の劇作家さん4名の方々に短編の脚本を依頼しました。
- __
- 非常に魅力的な作家陣(久野那美(点の階)、野村有志(オパンポン創造社)、福谷圭祐(匿名劇壇)、山本正典(コトリ会議))ですが、どんな選ばれ方をされたんでしょう。
- ペレイラ
- どの方も、僕が公演を見て面白いと思った劇作家さんです。30分から45分という指定でお願いして、A・Bのセットでの上演となります。ショーケース公演という形に近いと思います。
- __
- ありがとうございます。公演情報を拝見したところ、テーマは「戦争」、のようですね。
- ペレイラ
- はい、脚本のテーマを指定させていただきました。「戦争」と「平和」と「お祭」の3つ、そのすべてを混ぜて使ってもいいし一つだけでもいい、という指定をさせていただきました。ただ、結構内容がそれぞれリンクしているところがあって。そういう部分にお祭りを感じるところもあるんじゃないかと思っています。
- __
- なるほど。お客さんに、どんな風に感じてもらいたい公演でしょうか。
- ペレイラ
- 演劇の懐の深さだったりとか。楽しめば良いんだ、と思ってもらいたいですね。演劇をやっている人って疲れている人が多いと思うんですね。若い人は色々なものを意欲的に見ていて、多種多様な演劇があふれていることに無感覚になっていたり、疑いをもつ人も多いんじゃないか、僕もそういう時期があったんですね。これも演劇と呼ぶのか、ではなく、「演劇だからいいじゃん」ぐらいに感じてもらえたらと思います。作品を鑑賞するというよりも、演劇を楽しむ、ぐらいの感じで来てもらえたらより面白く思えるのかなと。
- __
- 意気込みを教えてください。
- ペレイラ
- 盛り上げたいです。作品だけの演出だけじゃなくて、公演としての盛り上げの演出を考えています。単に上演しても十分面白い作品なんですけど、やっぱりお祭りと言っている以上は。戦争と平和という、考えざるをえないテーマですけど、それをあんまり意識させないような時間になればいいなと思います。普遍的なテーマですけど、祭も原始時代からありますし、人間もそれから遠くないので、それを何も考えずに見てもらえたらなと。
プロトテアトル短編演劇祭フェスティバル#2
2015年、8月。 新企画、短編多ジャンル演劇祭として誕生した「フェスティバル」。 2回目となる今回は、関西で活躍する4名の劇作家の書下ろし短編をペレイラが演出。 文化祭の時期に、世代・作風を超えた演劇祭を行います。 ■上演スケジュール 11月17日(木) 20:00~(A) 18日(金) 20:00~(B) 19日(土) 13:00~(A) ☆16:00~(B) 20:00~(A) 20日(日) 11:00~(B) 15:00~(A) 18:00~(B) ☆=アフタートークあり トークゲスト:can tutku 番頭 中野聡さん ■作品群 「戦争くんと平和ちゃん」・・・A 作・福谷圭祐(匿名劇壇) 「あかい木の下のカナ江」・・・A 作・山本正典(コトリ会議) 「一つの石と二羽の鳥」・・・B 作・久野那美(点の階) 「アカガミキタカラ、ヨマズニタベタ」・・・B 作・野村有志(オパンポン創造社) ■演出 FOペレイラ宏一朗 ■出演 西琴美 豊島祐貴 小島翔太 小山亜衣 FOペレイラ宏一朗 野村眞人(劇団速度) 有川水紀 ■スタッフ 舞台監督/ニシノトシヒロ(BS-?) 舞台美術/竹腰かなこ 音響/近松祐貴(オリジナルテンポ) 照明/山口星(NEXT・lighting) 制作/竹内桃子 宣伝美術/アラキハルカ(SODA TOWER) ■会場 カフェ+ギャラリー can tutku ■チケット料金 ・一般 前売り2500円 当日2800円 ・学生 前売り2000円 当日2300円 ・高校生以下 前売り・当日1500円 ・AB共通券(予約のみ) 一般4500円 学生3500円 高校生以下2500円 予約はこちらから→http://ticket.corich.jp/apply/76157/001/
新作を書く
- __
- 最近のテーマを教えてください。
- ペレイラ
- 新作を書こうと思っています。今年の1月にリーディング公演をしたんですが、実は自分の書きたかったテーマで書こうとしたのにどうしても書けなかったんですね。そのテーマにもう一度挑みたいと思います。書ききるというのが戯曲作家としての最低条件なので。何故出来なかったのかを考えて。作家と演出家が同居するんですよ、僕。それぞれの僕がやりたかったことが別々にあったことに気付かなかったんです。終わってから、二作品に分けて書こうと思うようになりました。演出家としての自分に振り回されないように。
- __
- なるほど。では、演出家としてのテーマはいかがでしょう。
- ペレイラ
- 演出家としては俳優に仕事を任せることが中々出来なかった部分があって。信じていなかった訳ではないんですが、僕がやってきたことはそうではなかったんですね。ペニノに出た時に分かったんですが、タニノさんの演出を受けて、ペーペーの僕に演技を任せて下さったんです。これは素晴らしいことなんだな、と。
- __
- 俳優を信頼する。
- ペレイラ
- 演技に対する俳優の責任を上げることで、作品のクオリティは上がるんだな、と。演出家が作りたいもの、たとえば「0.何秒の間を作って下さい」とか、そういう自分から出てきているものだけではなくて、俳優から出てきたものを信頼するというか。絶対的な指定を事細かにすれば全ての俳優が完璧になるかもしれませんが、その俳優でやる意味はない。プロデュース公演ならそうした技術は必要になるかもしれませんが、劇団でやるのであれば、俳優から生まれてきたものを信頼し、生かすというのは重要なことなんだと思います。もちろん、取捨選択は自分の中で行いますけれども。伸びしろを期待するというか。どれも全部当たり前だとは思いますけど、僕は出来てなかったんですよね。
- __
- なるほど。
- ペレイラ
- 言葉を尽くす。俳優に通じる、共通する言語でちゃんと話す。そういうことが大事なのかな。最近、深津さんに深く関わられていた方とお仕事する機会がありまして、お話を聞いているとやっぱり深く俳優を信頼しておられて、言葉を尽くされていた方だった、と。そして、最後まで劇作家として演出家として立っておられた方だったと思っているので。
- __
- 任せるのは大変勇気がいることだと思いますが、いかがですか。ちなみに私は躊躇なく任せてしまうタイプです。そちらの方が楽なので。
- ペレイラ
- やっぱり、演出家も俳優も、埋没を選ばずに演劇をするというのなら、お互いに言葉を尽くして・お互いに何でもしなければならないと思うんですね。やっぱり、お互いにあんまり言い合わない安定した関係を維持して本番を迎えて、そしてお互いに叩かれてしまうのが悲しいことなんじゃないかなと思うんです。任せると投げるのはちょっと違うのかなと思うんです。
- __
- 任せるためには何が必要ですか?
- ペレイラ
- 任せるためには自分の責任を相手に示さなければならない、というか。ここからは僕の領域だからこれはする、そして、そこの演技はあなたを信頼しているからお願いします、ということだと思います。「適当にやってください」は投げだと思います、僕は。どうしてそういう風になるのかを出せれば、それは指示だと思うんですね。
「エウレカ」
- ペレイラ
- 「エウレカ」では、僕は、この世界で埋没して死んでほしく無かったんですね。夏休みの自由研究が終わらない女の子と、学生運動のデモ隊と警官隊との衝突に巻き込まれた生徒が校舎に逃げてきて・・・
- __
- 生きているのか死んでいるのか分からない。
- ペレイラ
- 僕は個人的に、あの作品で叫びたかったんですね。死ぬな、って言いたかったのは、生命的にというだけじゃなくて。
パイロット版シアターシリーズ『gate#14《Oct》』プロトテアトル 参加作品『エウレカ』
公演時期:2015/10/10~11。会場:KAIKA。
- __
- 影響を受けた作品や人を教えてください。
- ペレイラ
- 演劇系の人だと深津篤史さん、太田省吾さん、水沼健さん、タニノクロウさん、MODEの松本修さん、ハイナーミュラー、そして土田英生さん。でも、僕は関西で、観た人だったり創作に関わらせていただいた人には大体影響を受けていますね。演出家だったり作家だったり俳優だったり、影響を受けてない人は誰もいないと思います。
- __
- 今書きたいテーマは?
- ペレイラ
- 新作は夢について書こうと思っています。ウイングフィールドのHOT PRESSに寄稿させて頂いた時に、自分の視点を書いて下さいと言われたんですが、自分の視点がぼんやりしている事を自覚しまして。それは今の「知りたい情報が何でも手に入る情報化社会において、生きているのか死んでいるのか分からない瞬間」。自分が死んでも世界が動いているような感覚。死んで空から世界を見下ろしている妄想に似ていて、自分の人生だけど、自分が影響できないところで世界の大部分が勝手に動いている・・・そういう夢の感覚をテーマに書こうと思います。タイトルは決まっていて「行進曲-マーチ-」。歩き続けなければいけない人間の夢の話をしようと思っています。
- __
- お金という価値観が強くなりすぎた現在、生の実感はさらに感じにくくなっていると私は最近思っています。時間すらがお金や用事に換算され、時間の浪費とかモラトリアムが持てない、(贅沢なようだが)そういう不幸がある。
- ペレイラ
- 都合の良い夢を見ている時間から醒めた時の方が、現実が終わったという感覚が強い気がするんです。それをテーマに書きたいです。厳しいですね、現実は。だから演劇を創るのかもしれません。
尖ってた
- __
- 戯曲を書こうと思ったのはいつからですか?
- ペレイラ
- そもそも劇団を旗揚げしようと思ったのは、在学中に劇団員の豊島が、「ペレイラが劇団を旗揚げしないのなら俺は演劇辞める」って言ったからなんですよね。
- __
- 前向き過ぎる発言ですね。
- ペレイラ
- まるで「結婚してくれなければ別れる」ですけど、まあじゃあ作るか、となって、じゃあ書こうかと。はっきりと自分から書こうと思った訳じゃないんですよね。今でも、作りたい作品があるからその為の手段という感じなんです。
- __
- 作りたい作品がある、それがモチベーションなんですか?
- ペレイラ
- それはもちろんです。やっぱり尖ってたんですね、「俺が一番、面白いものが作れる」と思ってたんです。2015年に作った「ノクターン」の元となる作品を在学中に作ったんです。記憶についての作品で、一人の人物について大勢が全然違う証言をする作品で、現実にはそこまでズレる事はないと思うんですが、でも今はお祖母ちゃんの声を思い出せないとか、あると思うんですよね。どんな声だったか、どんな姿だったかとか細かいことが。失う事の怖さ、失う事の良さ、についての作品にしたいなと。高校生の頃に同級生が亡くなったんですが、それを忘れてしまうものなんだなあ、残していきたいなあ、と思って作りました。他者によって語られる個人。特に昨今、関係ない不特定多数がネット越しに個人を叩くじゃないですか。現実の知り合いですら、本当にその人を知っていたのか?僕も、亡くなられた同級生の人たちをどう思っていたのか?
- __
- 忘れたくない?
- ペレイラ
- 忘れたくないけど忘れてしまうこと、だとか。そして、生きている人は本当に生きているのか?だとかを考えた作品でしたね。
そもそも僕自身が何者なんだろうか
- ペレイラ
- そもそも僕自身が何者なんだろうか、しばらくの間はっきりとしない時期があって。僕、血が八分の一ポルトガル人で、それが分かったのは小学5年の頃父親に呼ばれて「お前はこれから名字が変わる」と言われて。「あ、離婚するのかな」と思ったんですけど違って、「オリヴェイラ ペレイラ」が付くと言われて。それからようやく半生が過ぎて、人に名前の説明をしてその回数でようやく・・・本当に特殊なんですね、生まれてからずっとそうだと分かっていたならともかく、それまでずっと福島宏一朗として生きてきましたから。一度ポルトガルにも行ったんですけど、そこが自分のルーツだとか言われても全然ピンとこなくて、ただキレイなところだと思ってて。よく「英語がしゃべれるのか」と聞かれますけど関西弁しかしゃべれませんからね。
質問 畑迫有紀さんから FOペレイラ宏一朗さんへ
永久と普遍と
- __
- いつか、どんな本を書きたいですか?
- ペレイラ
- 戯曲でも小説でも、どんな国でもどんな時代でもどんな場所でも上演出来る、ものすごく普遍的だけど面白い、100年先でも1000年先でも上演出来る作品が書きたいですね。
- __
- それは傑作ですね。
- ペレイラ
- ソーントン・ワイルダーの「わが町」が好きなんですけど、実際にあの作品の中で「この作品を1000年後の人が掘り返して」とあって、実際にそれが出来る作品なんですけれども。それに負けないぐらいの作品を書きたいです。そして、個人的には演劇を越える作品を書きたいですね。「これは演劇どころの騒ぎじゃない」というような、そんな作品。
庭劇団ペニノ「ダークマスター」
- __
- さて、庭劇団ペニノ「ダークマスター」。来年2月に東京公演ですね。
- ペレイラ
- 本当に、あの作品でタニノさんに賞を上げたいと座組のみんなが思っています。
- __
- ペレイラさんはその、登場した時とラストでは全然顔つきが違っていましたね。
- ペレイラ
- そういう役どころでしたね。2月は本当に楽しみで、稽古も本番も楽しみです。そう思える事はとても幸せですね。やってる側にしても、こんなに凄い作品に関われるなんて、開演から2時間10分出ずっぱで、ずっと気の休まらない。なんだか後半、自分が溶けていく感覚になっていくんですね。それが、やっていて面白かったですし、お客さんがいる事に緊張していたのが、後半は何一つ気にならなくなるんです。
- __
- 一体感、溶けていく感覚。色んな演出が顔を出す作品でしたが、料理を実際に作るという演出が際だって奇妙に思えたんですよ。
- ペレイラ
- どこまでもお客さんを楽しませるために作られたエンターテイメント作品で、まあ大変でしたけど。
ダークマスター | 庭劇団ペニノ
『ダークマスター』 原作:狩撫麻礼 画:泉晴紀 (株)エンターブレイン「オトナの漫画」所収 作・演出:タニノクロウ 出演:緒方晋 井上和也 大石英史 FOペレイラ宏一朗 坂井初音 ほか ◎あらすじ 大阪にある洋食屋「キッチン長嶋」。超一流の腕を持つマスターが一人でやっている小さな洋食屋。 しかし、偏屈な人間性と極度のアルコール中毒のため全く客がこない。 ある日一人の若者が東京から客としてやってくる。自分探しをしている無職の男だった。 マスターは自分の代わりにここのシェフになれと提案する。しかし若者に料理人の経験はない。 マスターは若者にイヤホン型の小型無線機を渡す。そして自分は二階に隠れ、無線を使って若者に料理の手順を伝えるというのだ。 行く当てもない若者はそれを引き受ける。 そして、やがて有名な行列店になる。 しかしあの日以来マスターの声は聞こえるが姿を見かけない…。 東京公演:2017年2月1日~12日@こまばアゴラ劇場 予定
劇場としての劇団
- __
- そろそろ取材は終わりますが、何かお話になっておきたかった事はありますか?
- ペレイラ
- 劇団員がほしいです。スキルはあがってきていて、いい劇団になっていると思うんですが、もう少し規模を大きくしていきたいなと。今後、劇場としての劇団として機能していくなら、なおさらスタッフの力を持つ劇団員もほしいと思っています。
- __
- 劇場としての劇団?
- ペレイラ
- そうなんです、プロトテアトルは作品を持ち込んで上演の出来る、劇場としての存在を目指したいと思っていて。人と演劇をつなぐ場所。そういう役割を目指していくために、まずは認知されていきたいなとも思っています。
コーヒー
- __
- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。どうぞ。
- ペレイラ
- ありがとうございます。コーヒー好きなんですよ。昔喫茶店と、ホテルのレストランで働いていたんで。好き過ぎて飲み過ぎてアレルギーになった事があります。
- __
- あ、じゃあ贈っちゃダメでしたか。
- ペレイラ
- いえ、今は大丈夫です。うれしいです。ケニア、グァテマラ、エチオピアもある。