夏って感じがしない夏
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- 今日はどうぞ、宜しくお願いします。アガリスクエンターテイメントの塩原さんです。最近はいかがお過ごしでしょうか。
- 塩原
- そうですね、最近は充実してますね。お芝居に関しては。特に、先月に出た黄金のコメディフェスティバルでは賞も頂いたりしたんです。これまで頑張って来たことが形になったなあ、報われたなあ、と。その副賞として作品を丸々一本TV放映して頂いたので、それを見たよと声を掛けられたりしたのも嬉しかったですね。充実はしていると思います。
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- 演劇を抜いたら?
- 塩原
- 昼夜逆転気味で、だいぶガタガタですね。でも、今だけはふんばりどころかなと。友達とも遊びに行ってないですね。夏は全然遊んでない。今年は海に行けなかったので、夏って感じがしないですね。
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- 海にはどんな思い出がありますか?
- 塩原
- 自分は千葉の内房側の出身で、東京湾の、言ってしまえば汚い海で。海に行くとしたら船橋の海浜公園でした。みんなでチャリで行って遊んだり、野球部の時、別荘を持ってる奴がいて。そこで夜通し遊んだりしてましたね。
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- ありがとうございます。青春ですね。
アガリスクエンターテイメント
屁理屈シチュエーションコメディ劇団。一つの場所で巻き起こる事件や状況で笑わせる喜劇、シチュエーションコメディを得意とする。「東京大空襲前日の下町」「高校の文化祭のための代表者会議」などを舞台に“笑えそうにない設定で笑えるコメディ”をつくる。また「床に間取りの線だけを書いて舞台セットにする」「5人芝居を2人で上演することでコントにする」など、なりふり構わない方法でシチュエーションコメディをスマートに上演する実験も行っている。演劇公演以外にも、コントライブの開催やFLASHアニメーションの製作などを手がけるなど、活動範囲は多岐にわたる。また、隔月程度の頻度で新宿シアター・ミラクルにて開かれる「演劇」と「笑い」を自認する複数のユニットによるコントライブシリーズ、新宿コントレックスを主催する。「アガリスクエンターテイメント」及び「Aga-risk Entertainment」が正規表記。「アガリクス」では無い。(公式サイトより)
ナイゲン(全国版)
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- 「ナイゲン」は再演という事で、今回は京都公演もあるんですね。
- 塩原
- 「ナイゲン」はまだ関西には上陸してないですけど、「ナイゲン」自体のファンがいらっしゃるぐらい、僕らとしても大きな作品で。高校を舞台にした結構ノスタルジックな感じなんですが、あくまでもコメディです。実はこのメンバーでやるのは、これが最後なんです。まあ、高校の話なので、年齢的にそろそろ辛いんですよ(笑)。でも、最後の再演ですし、もう一度アイツらに会いたいと思って下さってる方たちにも応えたいですよね。公演自体は、東京は新宿のFACE、京都は元・立誠小学校です。東京は今までで一番大きな劇場なんですが、爆発したいですね。やべーもん見ちゃったなと言ってもらえるような、伝説を作りたいです。京都だとまさに学校なので、その空気感を感じてもらえたら。あと「学校の、学生による自治の話」なのでそれをここ京都という場所で演れるという意味も考えたいです。
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- やっぱり32、3歳で高校生は辛いですか。
- 塩原
- そうですね、芝居の嘘としてもそろそろ・・・作品のリサーチの為にこの作品のモデルである高校に行ったりしたんですけど、ああやっぱり違うなあ、と。彼らの持っている無敵感というのは、あれはもう出ねえなあと思いますね。
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- 実際に年下からタメ口で接されると、確かに違和感を感じますよね。
- 塩原
- 彼にしたら純粋な、この人と喋りたいという表れだと思いますけどね。
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- そうした、もう我々が持ち得ない「無敵感」「勢い」を象徴する作品?
- 塩原
- そうですね、例えばこの「ナイゲン」に出てくる、自分が演じる「どさまわり」という役はものすごく特徴的な考えを訴える、世界中探してもいないくらいニッチな考え方をする奴がいるんですけど。せっかくなので、そんな奴の事を訴えたいですね。
ナイゲン(全国版)
傑作青春群像会議コメディ、最後の再演&ツアー公演決行!! 屁理屈シチュエーションコメディ劇団・アガリスクエンターテイメントが上演する、高校の文化祭の代表者会議を舞台にした会議コメディ。 脚本・演出:冨坂友 東京試演会:2015年10月3日(土)〜4日(日)@にしすがも創造舎(教室での試演会) 京都公演:2015年10月9日(金)〜12日(月・祝)@元・立誠小学校 音楽室(教室公演) 東京公演:2015年11月13日(金)〜14日(土):@新宿FACE(ホール公演)(公式サイトより)
引き寄せられ合う原理主義者たち
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- ニッチな考え?それは、若気の至り的な感じ?
- 塩原
- いえ、単純にニッチですね。聞いたこともないような。学校の会議を舞台にした作品というと、愛校心とか自治がテーマになる事が多いと思うし、実際にそれも語っていますが、彼の考えはほとんど宗教に近い原理主義的なものなんですよ。
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- 原理主義的。
- 塩原
- 理屈が通用しない、そこには理由も存在しない、質問も成立しない。そういう考えを持っているんですね。
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- 彼らとは分かり合えないんでしょうか。
- 塩原
- いちおう会話劇なので、対話の中に救いがあるよね、という方向にはなります。結局、すり合わせるのを見せる、という側面はあります。
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- でも、分かり合えるとは限らない。このサイトでよく扱うテーマの一つに「対話と相互許容」があります。対話→許容というようにセットで考える事が多いのですが、実はここには落とし穴がある。対話をしたら許容だなんて、そんな流れを当然のように考えすぎではないか、と。それこそ原理主義的ではないか。
- 塩原
- そうですね確かに。
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- それは非常に日本人的な、甘くて危険な発想のような気がする・・・。
- 塩原
- そうですね、それが別に最後じゃないですね。「ナイゲン」、結構そういう感じなんですよ。最終的な結論は出るんです。でもそれは、言ってしまえば屁理屈で終わってる。アンサーに屁理屈というガジェットをブチ込んでしまうんですね。ウチが「屁理屈シチュエーション劇団」と銘打ってるのもあって。でも、最後に屁理屈でまとめるのが、結構人間的なんじゃないかと思うんですね。一般的にはシニカルな事をやっていると取られちゃうと思うんですけど、僕らは純粋に屁理屈でベロを出す、というのをやりたいんですね。シニカルな事をやりたいという訳じゃなくて。人間的な事を結局やりたいのかな、と。
色褪せない屁理屈たち
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- 屁理屈の面白さ。アガリスクエンターテイメントがそこに出会ったのはどんな経緯があるのでしょうか。
- 塩原
- メンバーがめんどくさい奴らばっかりなんですよ。シナリオ会議とかでも「??じゃね?」口調で屁理屈をぶつけ合う展開になって。そういうのが元々好きなんでしょうね。それと、世の中で市民権を得ているものを見ていても僕らはムカつく事が割と多いんですよ。ずっと低空飛行していた劇団なので、マジョリティに対して「ケッ」と言う。その為の武装としての屁理屈。
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- なるほど。ユニット美人という凄まじいコントユニットが劇団衛星内にあるんです。三十を越えた女性達がブルマ姿で踊ったりコントをする演劇なんですが、彼らは「モテ」を追求するんですよ。その下地には「モテなさ」が絶対原理としてある。モテないが故に重力を増しているのではないか。そこで、アガリスクの屁理屈はどうか。同じく、「モテなさ」を基点としてはいないか。
- 塩原
- いや、結構あると思います。モテない要素は。でもそれを全面に出した童貞コメディをやったとき、「いや、別にこれは一番言いたい事じゃないな」と気付いちゃったんですよ。元々僕らはヨーロッパ企画さんが好きで、影響されて男がわちゃわちゃするコメディをやったんですが、ウケなかったんですよね(笑)。
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- それよりは、屁理屈が渦巻く世界に身を投じ、今は屁理屈という手段自体が目的になっている?
- 塩原
- そうですね。だんだんと、自分達がやりたい事ばかりをやってたら、屁理屈ばかりやってる事に気付きました。実はウチ、10年ぐらいやってて。最初の5、6年ぐらいはくすぶってたんです。東京の小劇場シーンさえも知らなくて、千葉の公民館とかで300円のチケット代で全然面白くないコメディ作ってたんです。だから、モテなさの純度自体は高いと思います。シュッとするぐらい、言いたい事しか言ってないですね。
質問 西山 真来さんから 塩原 俊之さんへ
スベる事は悪だ
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- いつか、どんな演技が出来るようになりたいですか?
- 塩原
- 僕はコメディアンなので、笑いが取れる人になりたいですね。もう、その劇場で一番。「ナイゲン」でやる役は全然違うので申し訳ないんですが、やっぱりコメディをやるからには、絶対にウケを取らないといけないと思っているので。極論ですけどコメディと謳いながらスベる事は悪だと思っています。もちろん演出として意図したものは別ですけど。とにかく取れる人。エースストライカーになりたいです。客演先もコメディが多いですし。笑いに関しては譲りたくないですね。
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- 前々回インタビューさせて頂いた青木道弘さんがですね、「笑いをフックとして使う」と言って。それは、例えば友達同士での内輪的な感覚がそのヒントではないか、と。特定の人が特定の言動をするから、それが気に入ったりツボに入るからウケるってなる。青木さんの作品でも、内輪的な笑いが発生するという事は、お客さんが特定の文脈をきちんと踏まえてくれるから、という事に尽きるそうです。
- 塩原
- うんうん、まさにそうです。
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- シチュエーションコメディでも同じ、と言えますでしょうか。
- 塩原
- ええ、そうです。
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- 青木さん曰く、そうしたフックとしての笑いが、次のシーンにつながっていく。観客席を内輪に取り込む力を笑いに見いだしているとの事でした。アガリスクではどのような感じで笑いを捉えていますか?
- 塩原
- そうした考えに凄く近いです。かなり同じように考えてて。大事なのはその「内輪」を広げていくことかなと。コメディと謳った演劇で笑わせるという行為は、その場にいるお客さんを共犯関係にさせてしまうし、許容させるんですよね。舞台上のそいつに笑っちゃったという事は、少なくともそいつに乗ってきちゃうんですよ。物語が一つ上に行くんですよね。役が言ってない事まで読み解こうとしてくれるんですよね。「こいつ、何を言ってるんだろう」って。僕らはそれを、「作品の飛距離が出る」って言ってるんですけど。それがコメディというジャンルの強みだと思っています。ぶっちゃけ、瞬発力で言ったらお笑いの方が凄いじゃないですか。舞台に出てきて5秒で笑わせてくる。一方コメディはアイドリングに時間がかかる。でも、その分お話に飛距離が出るんです。「ナイゲン」はそれが特に顕著で。お客さんが、僕らの描いている以上の事を想像して話し合ってくれるんですよ。会議のコメディだからなおさら。もちろんその為になるべく想像出来る「余地」を残すことも大事だと思いますが。
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- 笑いを足掛かりにして、ですね。しかし、その飛距離を出す為には「役作り」が必要ではないかと思います。内面的な意味では「役の人間を研究する」こと。しかし外面的には「お客さんがどう見るかを研究する」事が大切だと思う。それはまあ、「型」の発想かもしれませんが。
- 塩原
- そうですね。役作りも大事だし、笑いに敏感なアンテナを張ることも同じくらい大事だと思います。笑いを取るというのはまさにお客さんの生理を突く行為なんで、「笑いのツボ」って良く出来た言葉だと思っていて、まさにツボなんですよ。コメディをずっとやってると、笑いを取る時にお客さんの生理を突く感覚が生まれる事があるんです。確実にほしい笑いを取れた時とか、確実に客席に手が伸びている感覚があるんですよ。
ずっと欲しいと思っている
- 塩原
- ウチはコメディをやってるんで、やっぱりウチが一番ウケるものをやってますよと胸を張って言えるようにならなきゃなと思います。ちょうどコメディフェスティバルで賞を取ったというのもあって、そこに恥じないようにしたいと思います。「コメディ」と銘打っていながら劇場で笑い声より空調の音の方が目立っている作品もありますが(笑)だったらコメディと言わない方が良いと思うんですよ。
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- ええ。
- 塩原
- お客さんは笑いに来たのに、誰も笑っていないというのは、それは全然達成していないんじゃないかと、やっぱり思っちゃうんですよね。僕らは自戒を込めて、「シチュエーションコメディをやります」と言って、かつそれを達成するという事に注視してやっています。絶対にウチが一番ウケるという気持ちでいます。
ノックか、ヒットか、ホームランか
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 塩原
- 正直に言うと、「ナイゲン」以降の予定が決まってないんですよね。それに賭けちゃってて。もちろんコメディを作り続けていくんですが。それから、僕らの作ったものもいつかクラシックになっちゃうんで、常にアップデートしないといけないというのはぼんやりとあります。でも、僕らが今後どうしていくかというビジョンは無いんです。今はこの「ナイゲン」を僕らの手から離して、色んな人達の手でやってもらえるとようになったらと思います。
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- モチベーションを保ち続ける。
- 塩原
- 重要ですよね。
ショッピングバッグ
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。
- 塩原
- ありがとうございます。京都の思い出として。
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- どうぞ。
- 塩原
- これは。ショッピングバッグ。イチゴ柄。カワイイですね。
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- どうですか、使えますか?
- 塩原
- 使います。こういうビビッドな小物好きなんですよ。