演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

坂本 見花

脚本家。演出家

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__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い致します。坂本さんは最近、どんな感じでしょうか。
坂本 
年末という事もあってバタバタしています。今回、年賀状DMを送ろうという事になったんですよ。お客様に手書きのメッセージを書いています。
__ 
大変ですね。演劇を抜いたらどんな感じですか?
坂本 
実は今年、結婚したんです。なので、式でご祝儀を下さった方や、お世話になった方に年賀状を(笑う)。
浮遊許可証

2003 年活動開始。作演出家・坂本見花によるプロデュースユニット。高い物語性と〈少女的〉というべき独自の空気感を武器に、一貫して良質なファンタジー作品を発表しつづけている。近年は外部提供作品も増えつつあり、坂本見花は2013年よりリコモーションに所属。作家として活動の幅を広げている。

「Sherry,Go home 〜フランケンシュタインと赤い靴〜」

__ 
前回公演「Sherry,Go home 〜フランケンシュタインと赤い靴〜」。大変面白かったです。美術品のような印象の作品でした。オーバルシアターの白い部屋に、宇宙の広がりがキュっとまとまった不思議な作品でしたね。その中で、Sun!!さんの存在感が似合っていて、途中から強い違和感を持ち始めて、それをサカイヒロトさんが客席と我々を繋いでいるというか。強い構造を持ち、なんか設定が不確かな少女が出てくるという、矛盾に支えられた作品でしたね。
坂本 
ありがとうございます。嬉しい感想です。サカイヒロトさんが仲立ちというのはまさにその通りで、最近のご自身のWI'REの作品でもサカイさんご自身がお客さんへ語りかける事があるんです。実は、サカイさんには最初はキャストではなく共同演出と美術をお願いしていたんですが、キャスティングが難航して。困っていたところへ「僕がセリフを喋ることもできますよ」と。で、試しに喋ってもらったらバッチリで。
__ 
なるほど。
坂本 
酸素が足りない宇宙船に密航するというのは日常生活では起こりえないシチュエーションなので、いかにリアリティをもたせるかについては話をしましたね。さらに、「Sherry,Go home」では、色々なメタファーを盛り込みました。チェリーパイ、赤ちゃんの声、ラジオ、この宇宙船は何を意味しているのか。
__ 
隠喩が散りばめられている。
坂本 
それらを最終的にひとつの絵としてお客さんに渡す。そうでなければお客さんが混乱するので。最後には、宇宙飛行士がチェリーパイの入っているカゴに耳を当て、ラジオを聴いているかのように宇宙のどこかにある少女の声を聴こうとする、という演技プランが出てきました。流石、でしたね。私が楽しんでましたね(笑う)。
__ 
いいシーンでしたね。
坂本 
サカイさんは演者としてSun!!ちゃんと向き合って感じた事を今度は美術家として作品にフィードバックして作っていかれたんです。サカイさんの中で循環するものが、劇空間として立ち上がっていく過程はとても面白かったです。
「Sherry,Go home 〜フランケンシュタインと赤い靴〜」

公演時期:2013/9/7〜9。会場:オーバルギャラリー。

次の瞬間には笑い合っている関係

坂本 
今回は音楽家の方にも入って頂いたんです。ノイズ系の音楽を製作されている、石上和也さんという方です。劇中に登場する重要な音として「遠い星から聞こえてくる赤ちゃんの声」がありましたが、それは宇宙船に乗っている二人にはどうにも出来ないものです。物語を決定づけてしまう要因が、手の届かないところにある。その距離感。本来なら喜ばしい出来事であるはずの「赤ちゃんの生存」によってシェリーは死ななければならない、その残酷さも音に託しました。
__ 
確かに、複雑な感情でしたね。
坂本 
ここは、最後まで完成形が見えなかった。音楽の石上さん曰く、私とSun!!ちゃんとサカイさんの間にはいつ喧嘩するのか分からない緊張感があったそうです。でも、次の瞬間にはすぐ笑い合っている、そんな雰囲気だったみたいです。

「型破り」

__ 
ところで、坂本さんにとって魅力のある俳優とはどんな人でしょうか。
坂本 
抽象的な言い方をすると、作品を愛しながら壊す人、ですかね。結局、ストレートにやっても仕方がないんですよ。ストレートにやるんだったらホンを読んでもらえばいいのであって。役者でしか出来ない事をやってほしいんです。「そうはやらんでいいやろう」みたいな、一見壊していてメチャクチャなんですけど、私には合理的に見えるんです。そう見せてくれるような人が好きです。
__ 
素晴らしい。
坂本 
スタッフさんも、「坂本さんがやりたかったのはこういう事でしょう」と、豊かにイメージを叶えて見せてくれる。そんな役者・スタッフさんが好きです。
__ 
「型破り」。メチャクチャをやればいいという訳では決して無い。合理的な型をまといつつ、まるで客席と会話しているようなそんな感触が、その「型破り」に近いのではないかと考えています。
坂本 
うーん、なるほど。
__ 
その、驚きの瞬間というか。その時は芝居をやっていて幸せになりますよね。

ホンを書く高校生

__ 
坂本さんがお芝居を始めたキッカケを教えて下さい。
坂本 
私は大阪府立寝屋川高校に入学しましてですね。そこは文化祭を頑張る不思議な高校でした。3年になったら演劇やらなあかんやろという風潮になるんです。2年以下は体育館ではなく小さい講堂で「小劇」というのをやったり、映像作品を作ったりするんですね。高校一年生のとき、私達のクラスはHIVに感染した女の子の話を映像作品としてやる事になって。4人で台本を書く事になりました。女の子本人を主人公にするのではなく、クラスメイトの男の子の目線から描こう、というアイデアが出たりして。皆なんて頭がいいんだろうと感心してました。台本は4分割して書く事になって、私は最後のパートを書きました。
__ 
それが最初の脚本だったんですね・
坂本 
自分のノートにバーっと思いついた事を書いたんですよ。それを、先生が「見せなさい」と、一つ一つ添削してくれて「ここはとても良い」とか「ここはもう少し考えないとあかん」と。ありがたかったですね。撮影を終えて編集を始めるとこれが大変で、規定時間に収まらないとか、エンドロールが入らないとか。そうした困った事が、工夫によって上手い演出に転化していくのが超面白くて。台本楽しいとなって、もっと書きたくなったんですね。

OVAL THEATER提携公演 / 浮遊許可証10周年企画第2弾 リーンカーネーション・ティーパーティー

__ 
次回公演「リーンカーネーション・ティーパーティー」ですね。とても楽しみにしております。初演 を拝見しましたが、クライマックスが緊張感のあるいいシーンでしたね。少女小説家である妻を、覆面投稿者である夫が壁に追い詰めるシーン。夫婦なのに生き方が違いすぎて触れられない二人の関係が、とても危うかった。
坂本 
今は再演に向けて迷走しています。というのは、初演はカフェで上演したんですが、そのときすでに劇場で再演することは決めていたんです。つまり、何かしらのっぴきならない衝動があって再演に踏み切りました、というような立派な状態ではないんです。この芝居を語り直す必然を掘り起こす必要がある。そして掘り起こせる要素がたくさんあるからこそ迷走しているんですよね。
__ 
何か眠っているんでしょうね、きっと。それが掘り起こされた瞬間に立ち会えれば嬉しいです。
坂本 
ありがとうございます。頑張ります。

質問 gay makimakiさんから 坂本 見花さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた、gay makimakiさんから質問を頂いてきております。「好きな指はどの指ですか?」
坂本 
えっと、まず親指ではない。中指でもない。薬指でもない・・・。足の薬指が好きです。
__ 
それはどうしてですか?
坂本 
私、無意識にそこを触っていて。触っていると心地良いんですよね。
__ 
ありがとうございます。ちなみに、宮階さんは小指だそうです。何故なら小指は不要だから。その存在感が好き、なんだそうですよ。

坂本 (突然、紙と鉛筆を取り出し)短歌を贈ります。 このゆびは人さしゆびと名づけられ 星座を指した、戦旗を指した 笠原玉子『われらみな神話の住人』

質問 木村 雅子さんから 坂本 見花さんへ

__ 
もう一つ、トランク企画の木村雅子さんから質問を頂いてきております。トランク企画はインプロショーですね。役者はこの先何が起こるのか全く分からないんですけど、それが面白いんですよ。さて、質問です。「今、メチャクチャワクワクしている事はなんですか?」
坂本 
次に書く台本です。それしかない、私(笑う)。

「そこで本当に起こっているんだ」

__ 
見に来たお客さんに、どう思ってもらうのが理想ですか?
坂本 
「ここで起こっている事は本当の事なんだ」と思って欲しいですね。ドキュメンタリーという意味じゃなくて。役者の演技が「そこで本当に起こっているんだ」と感じてもらいたいですね。
__ 
鬼気迫る、という事ですね。物語の再現という訳じゃなくて、いま目の届く距離にかの人がいる事。それは、何故でしょうか。
坂本 
私が興奮して見ている時、「本当の事なんだ」と思うから、ですね。現代劇でも歌舞伎でも、同じように思います。私の書くものはファンタジーであり、一見するとただの「つくりごと」なのですが、私、座右の銘的に思っている事があって。「リアリティとは現実に似ていることから生じるのではなく、わたしたちの魂の願望を言い当ててくれることによって生じるのではないか」って。これは「十二国記」の評論にあった一節なんですが。
__ 
魂の願望からリアリティが生まれる。
坂本 
「十二国記」は、主人公の女子高生が色んな超人的能力を得て一国の王になるという英雄譚で、それは現実にはあり得ないけど、魂の奥底にある願望を汲み取っているからここまでのリアリティがあるのだ、と。これも受け売りですけど(笑う)現実と似てるからリアリティを感じるんじゃなくて、現実からは遠いけれども、私達の根源的な望みや悲しみをすくい上げてくれているから共感出来るし、リアリティがあるのだと。そのことは思い続けていますね。
__ 
魂が震える、揺れるところを見たいですね。
坂本 
はい。それを書きたいです。演劇が面白いのは、役者は何回も同じ芝居を演じていて、もちろん結末も全て知ってるんですよね。そうした存在が、また自分の運命を頭からたどり直している。そこには、潜在的な色気を見る気がするんです。
__ 
構造が生む、かすかな色気。
坂本 
そうだと思います。それは狙う所じゃないんですけどね。まるでファンタジーです。見ようと思っても見えない。でも視界の隅でチカチカと光っている。でも焦点を合わせようとすると見えない。そういうものをつかみとろうとすることが、ファンタジーを書くという行為なんだと思います。

赤い曖昧

__ 
生まれて初めて、面白いと思った経験は何ですか?
坂本 
生まれて初めてではないと思うんですが、幼稚園の時に先生がパンドラの箱のおはなしをしてくれて、それが面白いと思った経験がありますね。
__ 
パンドラの箱。
坂本 
たぶん。それと、小学校一年の時に童話の「赤いくつ」のダイジェスト版を読んで、それにハマりました。2つに共通するのは禁忌ですね。やっちゃだめ、というところから深くなったり発展していくのが面白いと思ったのかな。
__ 
「赤いくつ」って、どんな話でしたっけ。
坂本 
ある女の子が赤い靴を買ってもらってとても喜ぶんですけど、お母さんのお葬式にまでその靴を履いていってしまうんですね。それはもちろんけしからん事で、女の子には呪いが掛かってしまい、脱げなくなった赤い靴が勝手に踊り出すんです。そのまま踊って森の中にまで入っていってしまって、イバラで足が傷付いても踊りは止まらず、最後は木こりに両足を切断されて助かるという。
__ 
そんな話でしたね。キツイですね。
坂本 
でも子供向けの絵本だから、最後には女の子と木こりが笑顔で立っているというシーンで終わったと記憶してます。
__ 
無理矢理ですね。
坂本 
そうですね、無理矢理です。でも、潜在的な色気は隠していても見えますよね。男性が足を切るというのは残酷だけど、何かのメタファーなんだろうと思います。「フランケンシュタインと赤い靴」という副題もこのお話からとりました。

青の曖昧

__ 
いつか、どんな演劇を作りたいですか?
坂本 
作りたいもの・・・。演劇かどうか分からないですね。それは小説かもしれないし、メディアアートかもしれない。浮遊許可証に関わってくれている人が、私の物語はメディアアートに向いていると言ってくれていて。・・・どんな物語が作りたいか。それを思うと、いつも青空が出てきます。
__ 
青空。
坂本 
視界の中に青空しかないか、凄く高いところにいるか。いつの頃からか、螺旋の塔みたいなものがずっと私の頭の中にあるんです。子供の頃から、ふとした瞬間に思う風景です。その塔に住んでいる人たちは物語が生活の一部になっていて、生まれた頃から何がしかの物語を持っているんですよ。壁が全くない空中回廊、あるいはどこからでも空が見える螺旋の形の塔と、そこで暮らしている人たちの物語、を、私はいつか書くんです。でもそれは今の私には書けないから、おばあちゃんになってから書こうと子供の頃は思ったんですね。
__ 
その風景があるんですね。
坂本 
その風景しか出てこない。
__ 
それは、塔なんですか?
坂本 
街かもしれません。とにかくどこからでも空が見えるんです。遠藤彰子さんの絵、だったのかな、が小学生の図工の教科書に載っていて、その絵も簡素な布だけをまとった人たちが白い建物の中にいて、多分一つの大きなお城みたいな街みたいなところで、空があり得ない方向から見えている。そういう世界を作りたいと思うんです。
__ 
そこに行きたい?
坂本 
いや、自分がそこに行きたいとは思わないですね。行けたら楽しいと思うんですけど。
__ 
でも描きたいと思う。
坂本 
そっちの思いの方が強いかな。いい景色を見た時に、それを描きたいと思うんです。そんな貧乏根性があるんです。

ワイヤー・ブックエンド

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
坂本 
やったー。大きい。クリスマスらしい事をしなかったから、いまクリスマスが来たみたいです。(開ける)あ、バッチリです。欲しかったんですブックエンド。
(インタビュー終了)