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- 今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。「安住の地」の岡本昌也さんにお話を伺います。最近、岡本さんはどんな感じでしょうか。
- 岡本
- 最近はですね、ついに部屋の掃除をしました。昔から自分の部屋は汚かったんですけど、ちょっとさすがに片付けようと。汚すぎて、友達を部屋に招いたりできなかったので。45リットルのゴミ袋が10袋ぐらい出ました。ようやく、綺麗な部屋になりました。
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- よくわかります。何もないスペースがありがたいですよね。余白のある部屋。何も置かないという贅沢。
- 岡本
- わかります。片付ける前は歩くことさえままならなかったので。廊下ができるんですよね、肩で風を切りながら部屋に入っています。その状態を持続することが今の目標です。
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- 掃除の他には。
- 岡本
- 部屋にプロジェクターを置きました。映画が好きなので、壁に映してミニシアターのようにしています。ベッドをソファー代わりにして映画を見ています。
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- 白い壁があるんですね。大きい壁があったら、まあ映したいですよね映像。
- 岡本
- 是非。安いプロジェクターだと3万円位で買えるので。結構普通に綺麗な写り方しますよ。業務用のものなんですけど。
安住の地
2016年7月に結成。2017年6月に旗揚げ公演を上演予定。京都を拠点に活動。 【所属メンバー】岡本昌也 中村彩乃 にさわまほ 中西一志 森山やすたか 大崎じゅん (公式サイトより)
人間座「幽霊はここにいる」
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- 人間座「幽霊はここにいる」大変面白かったです。
- 岡本
- ありがとうございます。ああ、嬉しいです。
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- 個人的には、岡本さんが演出をするっていうのはとても新鮮な人選でしたね。非常に上手く行ったんじゃないかと思います。
- 岡本
- 嬉しいです。僕も最初は、事の重大さをよくわかっていなくて、最初の顔合わせでコの字形でテーブルが組んであって、真ん中に座らされて「演出の岡本です」で自己紹介して。でも、重大さが分かっていなかったから緊張もしてなくて。
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- あはは。
- 岡本
- 僕以外、ほぼ全員年上なんです。40年以上のキャリアを持つ方もいらっしゃって、僕の人生の2倍以上を演劇をやってる方と一緒に作品を作るという。7回目の稽古から、だんだんと事の重大さが飲み込めてきました。
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- そうでしょうね。
- 岡本
- 結果的には本当にいい俳優さんに助けていただいて。感謝しかないですね。
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- 異種格闘技戦みたいな感じでした。いろんな形の演技スタイルがそのまま出てきてましたね。
- 岡本
- やっぱり僕が、まとめきれなかった、という思いはあります。新劇の人がいれば、小劇場の人もいるし、(僕が連れてきた)日下七海さんみたいな、また違う文脈の人もいる。まとめきれなかったですけど、けれど全体として噛み合うということを目指しました。劇全体を、日下さんがプレイしているゲームという形でパッケージングして、様々な役者さんがすれ違うプレースタイルで演技しているのを、日下さんがまた一つ上から違う演技スタイルで、ゲームとしてプレイしている。その演出が上手くはまったステージがあったんです。それが、個人的には非常に大きな経験でした。
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- なるほど!日下さんと藤原さんが、素の感じで喋っているシーンが間あいだにありました。映像に「PAUSE」と出てて。ああ、確かにゲーム画面でしたね。
- 岡本
- 「幽霊はここにいる」は、政治の話だったりとか労働の話だったりとかが頻繁に出てくる作品なんですが、21歳の僕としては正直興味があまりなくてどうしようかなと思ってたんです。
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- なるほど。
- 岡本
- 脚本上では、日下さんの役は主人公の酒井さんと恋仲になるんですけど、その設定は排除して。すると日下さんの役の存在意義ではなくなってしまって。わーわーと騒いでいる大人たちを見る子供、という演出に落ち着きました。
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- 実は日下さんがプレイしているゲームだったんですね。
- 岡本
- そうですね。だれがプレイヤーとして見えていてもいいのかなと思います。
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- いろんなファイトスタイルがありましたね。最後に出てきた高瀬川すてらが、エンタメの演技スタイルで「お待たせしました」ていうセリフと共に出てきたのが嬉しかったです。
- 岡本
- すてらさんには非常に助けて頂きました。楽曲は全部作ってたんですが、ステラさんが歌う曲だけ思いつかなくて、ピンクレディーでいこう、と。「UFO」と「幽霊」の言葉遊びなんですけど。丸投げしたらあの歌とダンスを完コピで稽古初日から持って来てくださっていて。
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- さすが。そして劇団飛び道具の藤原さんと山口さんも素晴らしかったです。
- 岡本
- お二方には非常にお世話になりました。特に嬉しかったのは、あの作品をそのまま演出するか、それとも構成を変えて異常にするかという事にちょっと迷っていた時期があって。後者を選んだ時に、やっぱりどこか、役者の方には、「普通に行った方がいいんじゃないか」、みたいな・・・「物語をそのままやった方が面白いんじゃないか」みたいな雰囲気もあって。その時に藤原さんに「これはどうすれば」みたいな相談を乗ってもらったんですよ。藤原さんは「ちょっとよくわからないけれども、とりあえずやってみるわ」と言ってもらって。そのスタンスに安心したんです。ただ、同時に「この演出がわかるのは最終日になるかもなあ」と怖いことをおっしゃって・・・でもとりあえずやってみるというスタンスを見せていただいたのがすごく安心しましたね。
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- 役者が分かち合ってくれるということですからね。その中で酒井さんが一本支えてたってていうところはありますよね。
- 岡本
- それは絶対あると思います。やっぱりああいう演出をするにあたって物語の方が弱いとしっちゃかめっちゃかになるし、何がしたかった?みたいになるから。さかいさんの存在は大きかったと思います。
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- 最終的には、物語と演出と役者が、どれもどれかに負けていることがない、そういう渾然一体と言うか、そういう形での「複合」となっていました。
- 岡本
- ありがとうございます。そう言っていただけると。嬉しいな。自分で演出する場合には絶対できない経験でした。本当に良い経験でした。
人間座「幽霊はここにいる」
公演時期:2016/12/15~18。会場:人間座。
複合について
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- 複合というのが、最近の私のキーワードなんです。色んな領分を持っているプロが一つの作品を作る。そういう作品にあたって、お互いが混ざり合わないという形もまた複合なんだなと思っているんですよ。ざっくりとですが、どう思われますか?
- 岡本
- 2年ぐらい前から7作品ほど、ライブハウスで、作品の上演を行ったんです。音楽のライブの中に演劇が30分枠もらえる。だから嫌でも音楽との関わりを意識しなくてはならなくて。音楽とクロスオーバーさせたりとか、詩とクロスオーバーさせたりとか。やっぱり演劇って懐が広いから許容できちゃうんだけどそれぞれがどこから独立しちゃいますよね。音楽と芝居と詩が同時にあって、シーケンスでそれらがすべて別れてしまう。ザッピング的な作品になりました。それはそれで30分の作品として楽しかったんですけど、全体で見たときに一つのまとまりみたいなものだいまひとつないなあ、と。どうしようかなと。
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- まあ、演劇だけをやれ、ということはないですからね。
- 岡本
- 僕自身が結構演劇以外もすごく好きで。今でもいろんなものに興味があります。最初に学生演劇祭で評価を頂いたから続けていることもあるのかなと思う。もし映画で評価を頂いてたんだったら、映画をしていたのかもしれません。
安住の地「渓谷メトロポリス化計画」
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- さて、安住の地「渓谷メトロポリス化計画」ですね。チラシが非常に魅力的ですね。
- 岡本
- 本当ですか。
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- チラシに載っているテキストが気になりますね。「そしてこれから緩やかな衰退を待つだけであったが・・・」。
- 岡本
- 厭世的なイメージがあって。なんだろう、すごく怠惰な子供、な感じなんですよ。さっきも言ったんですけど、例えば政治とか2020年はオリンピックをするとかそう言う世界の目まぐるしい動きを実感していない。僕はそういうことがなくても安泰だし生きていけるのに、みたいな。世界のこととかどうでもいいなというのがあって、それは結構語れるものなんじゃないかなと思っています。自分が子供という自覚があって、その子供から見た大人のごちゃごちゃうるさい感じを表明する、みたいな事をやってみたいです。
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- 安住の地、どんな団体を目指しますか?
- 岡本
- 代表の中村さんって、結構いろんな役ができるんですけど、そういう団体にしたいなと思って。個人的にはラベリングされるのが凄く苦手です。あの劇団はああいう芝居をする、みたいな。その道はその道で極めればいいかもしれないですけど、僕はその時ホットなものを、できるだけ真剣な状態でやりたいなと。中村さんと一緒にやりたいというのも、そういう理由はあります。そんな団体にしたいですね。
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- ラベリングされたくないと。
- 岡本
- そうですね。
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- いつか、何かのスタイルを発見するのかもしれませんね。
- 岡本
- そうですね、それに関しては全然否定的ではないです。もともと劇団をやりたいと思ったのも、何かを積み重ねていきたいと思って旗揚げしたので。やっていくうちに何かこれだなと思ったものを見つけたとしたら、それを極めていくかもしれません。ポケモンで言う、メタモンのような。
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- メタモン。ごめんなさい、私ポケモンは一切やらないので・・・
- 岡本
- メタモンというのは、ゴムまりのようなポケモンで、成長するとどんなポケモンにもなれるんですよ。
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- そのメタモンというのは、メタモンのままで強くなれるんですか?
- 岡本
- 出来ます出来ます。メタモンはいろんなものになれるんですけど、レベルが上がっていくと強い技とか覚えるんです。
安住の地 第一回公演『渓谷メトロポリス化計画』
脚本・演出:岡本昌也 日程:2017年6月30日(金) ~ 7月2日(日) 会場:アトリエ劇研 【出演】 |中村彩乃|森山やすたか|大崎じゅん|私道かぴ|市毛達也| 【スタッフ】 |ドラマターグ:中西一志|舞台監督:中西一志|舞台監督補佐:濱田真輝| |舞台美術:森山やすたか|舞台美術補佐:市毛達也|照明:吉津果実| |映像:岡本昌也|音響:福井裕孝|衣装:大崎じゅん|宣伝美術:岡本昌也| |ヴィジュアルワーク:私道かぴ/大崎じゅん/中村彩乃|情報宣伝:私道かぴ| |web:岡本昌也|制作:にさわまほ|製作:安住の地/アトリエ劇研|
彷徨
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- 安住の地に、どんな事件が起こればいいと思いますか?
- 岡本
- 安住の地は名ばかりで、安住の地を希求するという意味なんです。安住の地が見つからない方がいいと思ってます。求め続けるのが安住の地で、彷徨し続けたいです。
肺が破れて演劇を始めた
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- 岡本さんが演劇を始めた経緯を教えてください。
- 岡本
- 中学校の時から高校2年生まで剣道をやっていて。でも高校3年生の時にある日いきなり胸が痛くなって。呼吸器科に行ったら、肺が破れていたんです。
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- 死ぬところでしたね。
- 岡本
- しかも両方破れてて。レントゲンをとったら、肺がシュークリームぐらいのサイズしかなかったんです。即手術でした。で、剣道はできなくなって・・・なんでだろうかちょっと覚えてないんですけど、何故か演劇部の戸を叩いて。鍵山先生に、演劇部に入れてくださいと。肺が破れたから演劇部に入りました。
演劇って自由
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- 演劇を始めた頃に見た衝撃作を教えてください。
- 岡本
- 舞台だと、唐仁原さんの芝居に初めて出たんですけど、舞台上でセックスをするみたいな高校生の役をやらされて、「ああ、舞台って自由なんだな」と思ったのと、大林宣彦監督の「この空の花」という映画があって。戦争映画なんですけど、全然説教臭くなくて。すごいものを作るじいさんがいるなあと。
しがらみのない
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- 「渓谷メトロポリス化計画」。どんな作品になりそうでしょうか。
- 岡本
- 初めて、色んなしがらみのない状態で作れる環境になるんです。制約なく、好きなメンバーと作品を作ることになりますが、もしかしたら「しがらみ」が良かったのかもしれない。僕自身もわからないですね。そこは客観視できないところなので、不安なのかな。失敗するかもしれないけれど・・・
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- 電気を使った発熱機器って、電気抵抗を用いていますよね。抵抗があるからこそパフォーマンスが成立するところがあるんじゃないかなと思っていて。次の岡本さんの現場は抵抗のない現場。どういう考え方をすればいいのか・・・抵抗がないことで、広がるものがあるという期待をしてもいいのか。さっきの複合だとかザッピングの話も、観客に抵抗を与えるパフォーマンスといえるのかもしれない。ただ、編集をすることで、抵抗は装置となる。いろんなヒントを含んだ話ですね。
- 岡本
- そうですね。
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- ただ、しがらみが無くなったということは、岡本さんの作りたい世界が表現できるということですね。少なくとも。どんな匂いがするんでしょうか。
- 岡本
- もしかしたら、作品自体がうざいと思われるかも・・・これまでは怒られないように作品を作ってたフシがあったんですけど、今回はちょっと怒られに行こうかな、と。扱えないものは扱うな、みたいな事を言われないようにしてきたんですけど、今回は割と。だから猛勉強中です。まあ、大人が騒いでいるテーマを扱うので、それについて説得力を出したいと。
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- そのテーマは具体的には・・・
- 岡本
- あ、それは・・・
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- 見たらわかるということですね。
- 岡本
- 是非見に来てください。
質問 神田 真直さんから 岡本 昌也さんへ
安住の地を目指して
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- 旗揚げの時のテキストを拝見したんですけど、安住の地は奪われるものでもある、と書いていましたね。そして、「自分で作り出せるものである」とは一切書いていなかった。
- 岡本
- たしかに、書いてないですね。
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- 神田さんによると、安住の地というネーミングは、場所を求めるという、自分たちの世代特有の本能が現れているんじゃないか、という事でしたが。
- 岡本
- それはあると思います。同世代って、僕だけかもしれないけど、どこでも生きていけるから、どこで生きればいいのかわからない、他人に所有されている、そういう感覚があるんですよね。彼らに隠れて秘密基地を作る、みたいな感覚を求めているのかもしれません。
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- 自分が誰かに所有されているかもしれないという感覚? なるほど、少し分かるかもしれません。今の世代はすごく育ちが良くて。逆に言えば・・・
- 岡本
- そうですね、すごく過保護に育てられた、というのはあります。親にしても、大切にするということと所有するというのを混同しているのかもしれません。僕は説教されるのが嫌いで・・・説教を聞いている人を演じてしまうんですよ。親の持っている「理想の息子像」を演じてしまう。それが日常になっている。個人的なのかもしれないけど、僕のまわりの同世代はこの話を共有できたりするんです。
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- いろんなタイミングにおいて、オルタナティブ、つまり変更可能な幅を奪われているという事なんだろうか。場合によってはそれを見出す能力持つことができていない、ということだろうか。
- 岡本
- 働いて扶養を外れれば解決される問題なんでしょうか。
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- 何か見つかるかもしれませんね。ともかく、「安住の地」にとても期待しています。
RASAM SPICE CAFEカレーとカレー専用スプーン
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- 今日はですね、お話を伺いたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 岡本
- 嬉しいです。ありがとうございます。開けていいですか。
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- どうぞ。
- 岡本
- (開ける)あ、カレーと、スプーンですか。カレー好きです。ありがとうございます。食べます。