演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫
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まだ涼しい春

__ 
最近はどんな感じでしょうか。
古藤 
今はまだ稽古が始まってないんですけど、次は夕暮れ社弱男ユニット の公演に出させてもらう事になりまして。久しぶりの弱男なんで、ホームに戻ってきたみたいな気がして、楽しみです。
夕暮れ社弱男ユニット

2005年結成。当初はライブハウス、砂浜など劇場外での活動を主としていたが、2008年より活動の場を劇場へと移す。従来の客席・舞台という構造の認識を、骨太な戯曲により再構築することを試みている。過去には、客席を破壊/再生した「現代アングラー」(2008年/次代を担う新進舞台芸術アーティスト発掘事業「CONNECT vol.2」優秀賞受賞)や、劇場の真ん中に客席を設置し、その周りをグルグルまわりながら物語を紡ぐ「教育」(2010年/大阪市立芸術創造館セレクション選出)などがある。(公式サイトより)

イエティ「さらばゴールドマウンテン」

__ 
古藤さんの最近の出演作、努力クラブ とイエティ と壁ノ花団 と衛星 と、どれも拝見しています。
古藤 
ほんまにありがとうございます。
__ 
最近の中で特に印象深かったのは。
古藤 
去年から本格的に演劇に入って、毎回違う方達とやらせてもらっていまして。毎回その、違うんですよ。これが良かったなというよりは、毎回違う事をやっている感じですね。
__ 
毎回全然違う。
古藤 
その中でも今年の頭に出させてもらったイエティと努力クラブは僕の中では特別に印象が強いです。変な意味じゃなくて、真逆だったんですよ。現場とか、経験が。イエティは先輩ばっかりで僕が一番下、努力クラブは僕が上の年代だったり。まあ、努力クラブもキャリアとかは皆さんが先輩だったんですけどね。
__ 
なるほど。
古藤 
イエティでは先輩に必死に食いついて、努力クラブでは今まで出来なかった事とかを出来るようにして。でも、どちらもまだまだ出来る事はあって、反省も残っています。
__ 
というと。
古藤 
台本を頂いてから本番までに、やっぱり段階があるんだと思うんですよ。イエティの方でそれを再認識しました。セリフを覚える段階、噛まずに言える段階、セリフが染みこんでくる段階と、その段階のスピードが早かったりして。もちろんそれは誰でもバラバラなんですけど。でもイエティでは、ある時ギューンと、周りがさらに上の段階に成った時があったんです。
__ 
へえ!
古藤 
僕がいなかった稽古があったのかなと思うぐらい。実は最初の方でエチュードをしていて、いい意味で抜けた雰囲気でやっていて、割とこういう感じで進んでいくのかと思っていたら、稽古期間の最後の方で急に物凄く伸びたというか。どういう思考でやってはるのかなと。
__ 
そのイエティの作品「さらばゴールドマウンテン」では最後の方にドタバタがありましたね。それが凄く面白かったんですけど、そこを舞台上で生でやる事に照準を合わせて稽古を進めていった、という感じなのかもしれませんね。
古藤 
狙いに合わせて、それまでのシーンのディテールとか、態勢を稽古で色々決めていった、のかも。
__ 
何より、彼らの役者としての、その「ギラギラしている」という言葉を使っていいのか分からないですけど、そういう熱い部分が伝わってくるようですね。
古藤 
弱男の村上さんと舞台が終わった後に話させてもらって。世界観を崩さない為に、ウソになってしまうようなコミカルすぎる演技じゃあ、なかった、ってなって。僕は最初、コントに近い作品だと思って稽古に臨んでいったんですが、舞台を作り込んだり戯曲を読み込んでいったりする内に、あの世界観に入れていった感じでした。その感覚を汲んでもらったんですね。嬉しかったです。「〜〜風のコントじゃなくて、ちゃんと演じている役の人物を考え、その上での感情を込めた演技をしたいよね」と、競演させていただいた土佐さんには言われました。同じ事かもしれません。それは僕の課題なのかもしれないですね。次の努力クラブに、その意識で行けました。
__ 
努力クラブ必見コント集ですね。
古藤 
まずは、居場所を見つけるところからでした(笑う)とけ込めばいいのか、ケレン味をもっと出せばいいのか探りながらですね。あんだけのメンバーなので。楽しみながら迷ってました。
イエティ

大歳倫弘氏作・演出のヨーロッパ企画のプロデュース公演。

イエティ「さらばゴールドマウンテン」

公演時期:2013/2/14〜18(京都)、2013/2/22〜25(東京)、2013/3/1〜3(大阪)。会場:元・立誠小学校 音楽室(京都)、駅前劇場(東京)、インディペンデントシアター2nd(大阪)。

努力クラブ

元劇団紫の合田団地と元劇団西一風の佐々木峻一を中心に結成。上の人たちに加えて、斉藤千尋という女の人が制作担当として加入したので、今現在、構成メンバーは3人。今後、増えていったり減っていったりするかどうかはわからない。未来のことは全くわからない。未来のことをわかったようなふりするのは格好悪いとも思うしつまらないとも思う。だから、僕らは未来のことをわかったようなふりをするのはしない。できるだけしない。できるだけしないように努力している。未来のことをわかったふりをしている人がいたら、「それは格好悪いしつまらないことなのですよ」と言ってあげるように努力している。(公式サイトより)

壁ノ花団

MONO所属俳優、水沼健氏が作・演出を務める劇団。独特な手法を用いて豊穣なユーモアの世界を紡ぎだす。

劇団衛星

京都の劇団。代表・演出は蓮行氏。既存のホールのみならず、寺社仏閣・教会・廃工場等「劇場ではない場所」で公演を数多く実施している。

2年半

__ 
演劇を始めた経緯を教えてください。
古藤 
大学の時にお笑いサークルをやってまして。舞台に立つのは凄く楽しかったんですけど、卒業後は就職しました。
__ 
なるほど。
古藤 
しばらくして、当時のお笑いの先輩が、働いている時に声を掛けてくれて。僕も仕事をしながらぼんやりと気になっていたんですよ、またお笑いやりたいな、って。2年半ぐらいで京都に戻りました。その先輩は「ヨーロッパ企画の暗い旅」のディレクターをやっていて、弱男の公演の出演者募集の事を知って。それを受けたのが最初です。
__ 
会社を辞める時に不安はありましたか。
古藤 
いやめちゃめちゃありましたよ(笑う)でも割と、周囲の心配以上には不安はありませんでした。ずっとやりたい事だったし、やっと出来る、という感慨がありました。吹っ切れたんですね。

どうしたらああいう事が出来るんだろう

__ 
演劇を始めた頃の衝撃作を教えてください。
古藤 
めちゃめちゃ最近なんですけど、KUNIO の「椅子 FINAL」 ですね。僕は本当にお笑いしか見た事がなくて、演劇を見始めたのはつい最近なんですけど、「椅子」はちょっと凄かったです。
__ 
私も見ました。面白かったですね。
古藤 
冒頭で古典劇のストレートプレイがあって、「こういう感じなのか」と思ってたんです。でもしばらくしたら杉原さんが舞台に出てきてモニタが付いて、観客も登場人物になっちゃったりして。舞台セットがどんどん変化していくのにも驚いたし、凄いなと。これなら、普段劇場に来ない人でも、観た後に「面白かった」って言えるんじゃないかなって。不条理劇の名作なのに、エンターテイメント性がめちゃあって、結構衝撃を受けました。今までは台本の構成とか、ギャグとか、役者の個性やキャラや演技とか、つまりソフトに目が行きがちだったんですけど、こういうやり方のエンターテイメントがあるんだって。
__ 
目から鱗だったんですね。
古藤 
あ、何やってもいいんだ、って。度肝を抜かれました。最近、その事ばかり考えています。どうしたらああいう事が出来るんだろう。きっと、客層の照準を絞ってるかもしれない。m-floのライブみたいだったんですよ、クラブの要素が入っているような気がしましたね。
KUNIO

杉原邦生が既存の戯曲を中心に様々な演劇作品を演出する場として、2004年に立ち上げる。俳優・スタッフ共に固定メンバーを持たない、プロデュース公演形式のスタイルで活動する。最近では、杉原が2年間務めた“こまばアゴラ劇場”のサミットディレクターの集大成として、初めて既存戯曲を使用せず構成から杉原自身が手がけた、KUNIO07『文化祭』や、上演時間が約8時間半にも及ぶ大作『エンジェルス・イン・アメリカ』を一部、二部を通して上演するなど、その演出力により戯曲はもちろん、劇場空間自体に新しい風を吹き込むことで、作品を生み出している。(公式サイトより)

KUNIO08『椅子』ファイナル

公演時期:2013/3/28〜31。会場:京都芸術劇場 studio21。

質問 森 孝之さんから 古藤 望さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた、劇団ZTONの森孝之さんから質問です。ドンピシャの質問ですね。「憧れの芸人さんはいますか?」
古藤 
一ファンとして好きなのが「かもめんたる」ですね。お芝居チックで、コントなんですけどボケツッコミだけのじゃないんですよ。話が進むにつれ、普通の人だと思われた人の素性がだんだんと明らかになって、最後には気持ち悪いんですよ。お話も面白いし。観てほしいです。

「司会者」

__ 
いつか、どんな演技がしたいですか?
古藤 
漠然となんですが、いつか「司会者」になりたいです。
__ 
おお。
古藤 
表向きはボケたりしていて、でもまとめる時はまとめる。その境目が限りなく近いひとですね。見た目と雰囲気がボケなのに、ツッコミも行えて、その境界が曖昧というか。さっきはボケてたのに、今もうマジメに進んでいるみたいな。それが演劇で出来るとしたら、そうなりたいですね。
__ 
ちょっと分かるかもしれません。「不思議な存在感」という奴?次に何をするか分からないけれども、それが気になるぐらい注目を集める、飄々とした人物。
古藤 
「どっちにもつける」というのがキーワードかもしれません。丸山交通公園くんが正論を言う時が近いかもしれません。僕は彼ほど、雰囲気だけで面白い訳じゃないのでそれが弱点だと思ってるんですけど。
__ 
いえいえ。
古藤 
だから逆に、両方行けるし、真ん中のおいしい所をとれるかもしれない。テクニック的に難しいとは思うんですけど、そこが自在に操れたらいいなと。
__ 
丸山交通公園の面白さはどこにあるんでしょうね。人柄の良さと、それとは全く関係ない凶暴性の同居かもしれません。
古藤 
そうですね、普段から雰囲気がにじみ出てるんですよ。この人、普段からこんなやばいのか、ってお客さん思ってるかもしれない。

川に入る

__ 
その、自分自身に対する主導権を握るためにはどうすればいいんでしょうね。そのためにはある種の境界線を越えないと行けないかもしれない。生死の境だったり、訓練を重ねたり。私はそういう越境を「川に入る」と呼んだ事があります。
古藤 
なるほど。

オン、オフ

__ 
舞台に立った人を観る観客は、きっと彼をすぐカテゴリー分けするんですよ。属性を観察して、どのぐらいの存在で、どこどこの血族だ、って。それは一瞬で行われるプロセスで、高い精度を持っている上に誰でも備えている常識です。「不思議な存在感」の人は、そのカテゴライズで特殊な方にいったんじゃないかなと思うんです。
古藤 
なるほど。
__ 
努力すればそれになるのかどうかは分かりませんが、意識する事は必要でしょうね、きっと。
古藤 
だから僕は、彼ら以上に考えていかないといけないのかもなと。例えば舞台で、特殊な存在感を持つ彼に振り回される時に僕がのっかるべきか判断したり。オフにして持ってってもらう事も出来るし。要所要所で、生き残る道を探る。食われて終わるんじゃなくて。共存するか真っ正面から戦うかの判断を、もうちょっと考えないといけないんやろうなと。
__ 
芸人魂ですね。
古藤 
舞台に立っている時の存在感みたいなのを意識的にオンオフ出来たらいいなと思うんですよ。
__ 
そういう思考を現場で持つ人に頼りがいを感じますね。
古藤 
やばいなと思うんですよ。普通に台詞を覚えて演技するだけなら誰でもいいんだと思うし、サバイバルを掛けて、生き残るためにしないとあかんのやろうな、と。何を生き残るかというと舞台上かもしれんですけど、それを覚えてくれて、声を掛けてくれたら嬉しいですね。瞬間瞬間で巻き込まれてアイデアが思いつかなくて、後で「こうすれば良かった」って反省してしまうんですけど。もっと反応を早めていきたいです。
__ 
では今後、どんな感じで攻めていかれますか?
古藤 
7月に、先輩と組んだユニットのコントをしたいなと思っていて。KUNIOを一緒に観ていて、「これ観ておいて良かった、危ねー」という感想を一緒に抱けた人なんです。そういうふうに、同じ志向を持つ人なんですよ。一緒に、驚ける何かを作れればと思います。
__ 
楽しみです。

ノートブック

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
古藤 
ありがとうございます。見てもいいですか?
__ 
もちろんです。
古藤 
プレゼントをもらうことなんてないですからね。(開ける)これは何ですか?
__ 
小さいノートブックですね。
古藤 
こういうの欲しかったんですよ。しゃれたやつですね。めっちゃいいですね。ありがとうございます。めちゃめちゃ使いますよ。
(インタビュー終了)