第9回アトリエ劇研舞台芸術祭参加作品「舟歌は遠く離れて」
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- 今日は枠縁の田中さんにお話を伺います。どうぞ、よろしくお願いいたします。最近、田中さんはどんな感じでしょうか。
- 田中
- 最近は、アトリエ劇研プロデュースの「舟歌は遠く離れて」の稽古ですね。サワガレを止めてから、5本目ぐらいの役者参加です。僕は初演は見ていないんですけど、かなり違うものになるらしくて。元々無かった役の人もいたり。
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- 田中さんはどんな役所なんですか?
- 田中
- 自分は、舟に乗り込んでくる避難民の兄妹の兄役です。これだけベテランの先輩達と一緒にやるのが初めてで、実は戸惑っています。何をしたらいいのか分からない・・・台詞を覚えるとか、脚本通りにやるとかにあんまり意味がない。この役はこういうことができる、こういう展開に持っていくこともできる、それも面白いがこっちのほうが面白い、というのを役者一人一人が考えて提出しないといけない。そういうのがプロなんだな、と。
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- 自信は。
- 田中
- 全くないです。城崎で公開稽古した時、普通に震えてました。一昨日帰ってきたんですけど、稽古場を借りて一人でウダウダやってました。これはやばい、と思ってます。
枠縁
田中次郎が描く物語を上演する劇団。2014年4月旗揚げ。劇団名の由来は劇団が作品を形作る枠であり、現実と物語をつなぐ縁でありたいと願う思いの表れである。(公式サイトより)
第9回アトリエ劇研舞台芸術祭参加作品「舟歌は遠く離れて」
公演時期:2014/6/26〜7/1。会場:アトリエ劇研。
枠縁1作目「タウン」
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- 田中さんが枠縁で4月に上演された「タウン」。面白かったです。ご自身ではどんな手応えがありましたか?
- 田中
- 西一風で書いた作品を元に書き直すという作り方をしてたんですけど、元々突き抜けていた部分をこじんまりさせてしまって、という事を元を知っていた人に言われてしまったんです。
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- というと。
- 田中
- 元の「タウン」はもっとワケ分からなくて、最後に彗星が落ちてきて滅亡しちゃうんです。そもそも、大人計画の「ふくすけ」をやりたくて色々パクって書いた作品だったから、それが恥ずかしかったのでまとめる形で書き直したんです。そうしたら突き抜けているのを知っている人には物足りなかったみたいで。サワガレでやっていく中でこじんまりまとめる癖がついたんじゃないかと凄く言われて。これはもう、次は突き抜け過ぎて失敗する勢いでやろうと思います。もちろん、「タウン」を通してやりたい素材もたくさん見つかったんですけど。
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- 個人的には、あの作品に出てくる人物は全員突き抜けてました。彼らは自ら失敗する方向に行っていて、破滅願望に突き動かされているように思えました。そのあたりいかがでしょうか?
- 田中
- どうでしょうね。でも、破滅したいわけじゃないのに破滅していく姿は可愛いと思うんですよ。サワガレで最後にやった「袋の自己紹介」という作品の中に「例えばここに袋があるとすると、」「いや、ないじゃん」「いや、あるとすれば、あるじゃん」「ないんだから、ないじゃん」って喧嘩になって、最後は「バカじゃないの」って言って終わるシーンがあったんです。それが稽古しても会話として上手くいかなくて、結局ギャグっぽくしちゃったけど、書いている時は楽しくて。「私はこう思う」「俺はああ思う」とぶつけ合うだけっていう身勝手さが、そりゃ破綻、破滅するよなって感じで楽しいんですよ。
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- 結局、押しの強い方に流されていったりしてね。
- 田中
- 何も話は進展していないのに、展開としては転がっていく。それだけで芝居が一本作れたら嬉しいですね。
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- 破滅に向かう人々と、そのディスコミュニケーションを描きたいのは、どんな理由があるのでしょうか。
- 田中
- 単純に自分がコミュニケーション下手だから、というのがあると思います。コミュニケーションを上手く取り続けている芝居を見ても、退屈になってしまう自分がいたりするし。あと、純粋に間違っている人って可愛いんですよ。実はこの間、夜に街を歩いていたら自分独自のルールを暴力的に押し付けてくる人に出くわして。その人は「因果」だと言って怒りだして、延々怒鳴ったりしてるんですけど、よくよく話を聞くと面白かったんですよ、この人の中では筋が通ってるんだろうけど、やっぱり勝手だなーって。警察呼びましたけど。
枠縁1作目「タウン」
公演時期:2014/4/12〜14。会場:人間座スタジオ。
質問 福谷 圭祐さんから 田中 次郎さんへ
はっきりと「何か」で楽しませる
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- 田中さんは、枠縁でどんな事がしたいですか?
- 田中
- 自分が好きな芝居がやりたいですね。サワガレは、割と最初の頃からだったと思うんですけど、メンバー間でのやりたい事の合わせ方がわからなくて、それがピークに達して、無くなった形でもあります。だから、やりたい事だけやれる形にはしないといけないなと。
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- やりたいこととは?
- 田中
- 今はまだ、ディスコミュニケーションの芝居とか小さい言葉でしか言えないですけど・・・。自分が見ていて楽しいと思えるものにしたいですね。
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- 自分が集中出来る環境を創れればいいですね。
- 田中
- 自分の好みを追求したいんですが、その好みもメジャーじゃないかもしれないし。もしかしたら京都のお芝居がそんなに好きじゃないのかもしれない。
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- お客さんに、自分の作品を見てどう思ってもらいたいというのはありますか?
- 田中
- やっぱり凄く楽しんでほしいというのはあります。見て、色んな事を考えるというのは当たりまえなんですけど・・・例えば、全体的にぼんやりとした作品を見て、お客さんが「この芝居を見て、私にはこういう思い出があるからこういう風に感じた」と言われるより、明確な作品を見てもらって「この作品はこういうもので、私はこう思った」と、そういう作品の受け渡しが出来たらいいなと思ってます。
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- 何か、考えこんでもらいたいというよりも、はっきりと「何か」で楽しがらせたい。
- 田中
- 京都の演劇って、考える余地がもの凄く広いものが主流だと思うんですが、自分はちょっとそれが苦手で。もうちょい、これはこれだよ、と言いたいし、言って欲しいんです。
「庭売り」
- 田中
- 次は「庭売り」という作品にします。
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- どんな作品になりそうですか?
- 田中
- あらすじ的には、ある夫婦が住むことになった家に素晴らしい庭があって、その庭に様々な人が惹かれていく。みんなは庭のことについて話し行動してるはずなのに、それが過剰だったり突飛だったりして観てる側には庭というものが何なのか分からなくなっていく。だけど庭について皆が話し行動する度に庭の存在が濃くなって、やがて脅威にもなっていくというか。まだまだボンヤリしてます。
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- とても楽しみです。突き抜けた作品になりそうですね。
- 田中
- 突き抜けます。
出発点と、今いる場所
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- 田中さんは、お芝居を始めたのはどんな経緯が。
- 田中
- 高校からです。2年から脚本を書いて演出もして。大学に進んで、高校時代の演劇部の先輩が入った西一風に自分も入って。そこで出会った何人かとサワガレを立ち上げました。
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- サワガレで田中さんが書かれた「EATER」、面白かったです。
- 田中
- ありがとうございます。あれもやっぱり破滅の話でしたね。丁度そのころ、吉村萬壱という小説家の作品が好きで、ほとんど破滅のお話です。その人の観点が面白い。人間はそもそも殺し合いを続ける特殊で危険な生物で、自分が宇宙人として地球に移住するなら、絶対そんな生き物全員殺しとこうと思うだろうと言っていて。それで、人間を生き物と考えたら、みたいな考えで書き始めたような記憶があります。
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- 田中さんは、ご自分の作品でどんな事を追求したいですか?
- 田中
- 演劇を好きになったのは大人計画がきっかけで、高校の頃、「キレイ」というミュージカル作品をiPodにいれて聞きながら通学してたくらい。大人計画の作品は悲惨なんですけど笑えるんですよね。僕も、悲惨だけど「あー、楽しかった」と思ってくれるような作品を作りたいです。
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- 大人計画を好きになったのは?
- 田中
- 実家に沢山演劇のDVDがあったんですけど、やっぱり大人計画が一番笑えるし悲しいしで、満足感が大きかったからだと思います。大人計画以外にもメジャーどころの「あー満足した」という気持ちになれるのが多かったですね。小劇場のDVDもあったけど、観た後、何かちょっと残る。それを反芻して楽しむみたいな。それも嫌いじゃないんですけど、「お腹いっぱい」と思えるような方が好きです。
サワガレVOl.4『EATER』
公演時期:2012/4/27〜30。会場:アトリエ劇研。
逃げ水を追う人々
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- 舞台上の登場人物が不幸になる様、もしくは愚かしい行動を見て、なぜ観客は面白いと思うんだろう?
- 田中
- 大人計画のドキュメンタリーで、宮藤官九郎が「松尾さんの芝居って、悪い人は出てこない、弱い人間とかダメな人間は出てくるけど、悪いことを考えてる人は出てこない、なのに、話はどんどん悪い方向に行ってしまう」と言ってて。それはかなり昔に見たんですけど、残ってる言葉です。自分も、悪人はそんなに可愛くないなあと。もし悪人を描くなら全員悪人にしないといけないかもしれない。
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- 「可愛い」? ひどい目にあう・道を踏み外す人を見てそう思うのはどのような感性であるのか。
- 田中
- うーん・・・(照れ笑い)ちょっとずれるかもしれないですけど、今、先輩方の話を稽古後とかに聞いていると、すごく面白いんです。すると、やらしいんですけど、自分の中で脚本のネタというか残すものを探してしまうんです。けど、その思いがいろんな話を何度も聞くにつれて、段々と薄れていったんです。それはもちろん先輩の話がつまらないという事ではなく、その先輩たちがひどい目にあったり失敗したりしたらそこで学んで、次の為に対策を立てて生きていく、強い人たちだったからだと思うんです。自分は、そういう事が出来ない、ちょっと話したらすぐ解決するような問題をどんどんこじらせる、そんなマヌケな人が描きたいんだと思うんです。強い人達を描くなら、もっとリアルな芝居にしないといけないだろうし。
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- 常識的に考えて、お話って行き着く先の答えが分かるものじゃないですか。でも愚かな彼らは迷走し続けていって、自覚なしに奇妙な方向にたどり着いてしまう。でも、僕ら自身も彼らと似たようなもので、どこか重ね合わせているんだろうなと思うところがあります。
- 田中
- そうですね、全く共感出来なかったら「なんだこいつらは」になるだけでしょうね。
前田さんのこと
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- 田中さんにとって、魅力のある俳優とは?
- 田中
- 結構、好き嫌いが激しいですね。男性はぱっと顔で判断するんですけど、女性は誰が好きなのか自分でもわからない。単純に異性ということでかもしれないけど。例えば前田愛美さんが、僕は学生劇団が一緒で人としても好きで、EATERにも出てもらったんです。その時は前田さんに「役」をやってもらったんですが、その後、前田さんがC.T.Tで自分の作品を上演されたとき、役とかじゃなく、前田さん本人でしかない感じが強くて、それがすごく面白かったんです。だから、当時の自分の前田さんに対しての魅力の感じ方はベストではなかったのかなと。ずっと一緒にやってる飯坂さんの芝居も、「これは分かる」って思う手応えが、あるときはあるし、本人が全然わからないということも多いし・・・うーん、難しいです。あ、前田さんの作品は本当に面白いですよ。前田さん本人で。
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- ええ、凄く反応が大きかったらしいですね。賛否両論含めて。
「おなかいっぱい」への道
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 田中
- 多分、時間を掛けて作らないといけないんだろうなと思います。「タウン」の書き直しなんかも、半年ぐらい時間を掛けたのに結局本番に間に合わなくて。計画をちゃんと立てて、って当たり前ですけど。それと、今もアトリエ劇研プロデュースという外部の団体さんに参加させてもらっていて。
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- ええ。
- 田中
- やっぱり得るものは多いです。傷つくことの方が多いですけど(笑う)。ゆっくりで間に合う年でもなくなってきてはいるんですが、焦ったら元も子もないので。ちゃんと作ろうと思います。
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- お客さんをお腹いっぱいにするためにね。
- 田中
- はい。次の「庭売り」でおなかいっぱいにさせます。
PLAYBOY 創刊号 限定復刻版
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
- 田中
- ありがとうございます。
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- どうぞ。
- 田中
- (開ける)PLAYBOYの限定復刻版?
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- 第一号です。
- 田中
- 最近、マリリンモンローにハマってたんですよ。映画を大量に見てて。すげー。