演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

穴迫 信一

演出家。役者。劇作家

一つ前の記事
同じカンパニー
穴迫 信一(ブルーエゴナク)
平嶋 恵璃香(ブルーエゴナク)

モチベーション

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。ブルーエゴナク代表の穴迫信一さんにお話を伺います。最近、穴迫さんはどのようにお過ごしでしょうか。
穴迫 
先日KYOTO EXPERIMENT『スタンドバイミー』の制作と本番を終えて、今はTHEATRE E9 KYOTOアソシエイトアーティスト公演のリハーサルの真っ只中です。なので2ヶ月近く四条烏丸付近に滞在しています。実は去年、自分のモチベーションと向き合うということがひとつの課題になっていました。それが今年に入ってからはいろんなことに前向きになってきていて、モチベーションが上がりやすくなったというか。書くことも上演を作ることも楽しいと思える時間が増えてきた。
__ 
良いことですね。
穴迫 
劇団にもその前向きなエネルギーを持ち込んで、ポジティブさを共有しながら進められています。
ブルーエゴナク

穴迫信一を中心に北九州を活動拠点とした劇団として2012年に結成。北九州と京都の二都市を拠点に、普遍的かつ革新的な演劇作品の創作をコンセプトに活動。リリックを組み込んだ戯曲と、発語や構成に渡り音楽的要素を用いた演出手法を元に、〈個人のささやかさ〉に焦点を当てながら世界の在り方を見いだそうとする作風が特徴。これまで劇場をはじめ、商店街の路上、ショッピングモール、全長60メートルのモノレール車内など多彩な場所で演劇を製作する。

ブルーエゴナクTHEATRE E9 KYOTO アソシエイト・アーティスト公演シリーズ「ここは彼方(Here Is Beyond)」 『たしかめようのない』

24/11/15~17 THEATRE E9 KYOTO、24/11/26~28 神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI 作・演出:穴迫信一 出演:野村明里 加茂慶太郎 増田知就 重実紗果

ショック①

撮影:脇田友
__ 
ブルーエゴナクの次回公演『たしかめようのない』のチラシですが、非常に印象的ですね。顔がない人物がこちらを見つめているように見える。まるで夢のワンシーンのようです。そういえば前作「波間」は夢がモチーフでしたが今回は「現実」がモチーフと書いてありますね。
穴迫 
アソシエイトアーティストの3年間のテーマを「ここは彼方(Here Is Beyond)」としています。ここと向こう側ではなく、今こここそが遠いフィクションの世界のように感じることが増えてきていて。
__ 
「ここは彼方」。
穴迫 
テーマを決めた2021年はコロナ禍での明確な分断やウクライナへの侵攻であるとか、作りごとのような現実が訪れてしまった世界の中で、自分と他人とで見えている現実があまりにも違うということが改めて可視化された時期だと思います。見ている現実がそれぞれ違うということに虚構性の片鱗があるというのがスタートだったんです。小さな分断の連続と歪みみたいなものは今や誰にとってもすごくリアルなんじゃないかと。
__ 
現実の中で人間と人間が連帯しにくくなっている。個人の世界観の差から何か見い出すものがあるということでしょうか。
穴迫 
例えば戦争とか人を殺すこととかって全員が当然ダメだと思っているというのが前提だと思っていたんですが、実際はもっと温度差というか個人個人によってばらつきがある。そういう話すらできない人もいる。それはしょうがないことだとわかっているけど、やっぱり何かしらショックはあります。
CREATION AT MORISHITA STUDIO ブルーエゴナク『波間』

24/3/15~17 森下スタジオ Cスタジオ 作・演出:穴迫信一 出演:平嶋恵璃香 大石英史 田中美希恵 深澤しほ

ショック②

__ 
そのショックについて。人には想像力があって、連帯もするし連帯をしないということも選ぶし、愛着や党派性も生まれていく。連帯が幻想だったと言う時のショックですね。
穴迫 
うん、確固たるものじゃないんだなと。
__ 
これは仮説でしかないんですが。ブルーエゴナクの演劇のスタイルについて考えていて。そんなショックから生まれた寂しさを人はつい演劇にしたがるんじゃないかなと思っていて。その気持ちに演劇という居場所を与えるのがブルーエゴナクのスタイルなのかなあと思っています。その説得力の強さに、私は心構えしないといけないといつも思っています。
穴迫 
今作っている『たしかかめようのない』も上演という形式の希望そのものを書いているところがあって。現実世界の確かめようのなさが上演によって改めて浮き彫りになってしまうんですね。
__ 
はい、フィクションは編集次第で現実よりもリアルに近づきますからね。
穴迫 
今作もメタ的な部分が少なからずあるので、ドラマとして割り切って観ることもできるけど、上演という形式を遊びながら進んでいくので、どう解釈されるかも楽しみです。
__ 
それは、一つには現実に巻き込まれながらも、現実を捉え直しながら生きていかざるを得ないということに関係してくるのかもしれませんね。

「変身」

穴迫 
カフカの『変身』を岩手の高校で上演したんです。
__ 
ええ。
穴迫 
『変身』は不条理文学と呼ばれていますけど、不条理なことが起きるのは人間が虫になったというその一点だけなんです。それ以外は全てが至極現実的に描かれていく。変身したこと以外は何も起きないんです。登場人物だれひとりとって不可解な言動はしない。それは虫になったグレーゴルもそうです。そこに異様さがあるなと。家族たちはその巨大な虫に兄の人格は残っていないと信じ込んでいるのですが、実際にはちゃんと意識がある。家族に迷惑をかけないようにしようとか。そうした認識のずれはあるものの物語としては現実的なことしか発生しない。というのが、不条理とはそういうことなんだなと思って。
__ 
ただ一点の不条理が確固として説明もされず置き去りにされる。
穴迫 
『たしかめようのない』の構造がそうなっているわけではないんですけど、大きな虚構がひとつあって、それに対する周囲のリアクションや解決出来なさという現実がある、という描き方です。

「スカッとする」

穴迫 
KYOTO EXPERIMENTで捩子ぴじんさんと制作した『スタンドバイミー』で扱ったテーマの中には、いくつか繊細なものがありました。そういった取り組みとしてのハードルはありましたが個人的には清々しい仕上がりになったと思っています。捩子さんと作品のラストシーンについて話している時に「僕がお客さんとしてこれを見たとしたらすごくスカッとするんじゃないか」と言ってもらったことがとても記憶に残っています。これから自分が作る演劇の指針になるなあと。演劇って精神をやられるような露悪的なもの、ショッキングなものも沢山あるじゃないですか。見る分には好きなんですけどね。一方で、自分が作るものはもう少しあっさりしていたいという感覚があって、ああスカッとするものを目指せばいいのかもって。

質問 香川由依さんから穴迫信一さんへ

__ 
前回インタビューさせていただきました、香川由依さんという俳優の方から質問をいただいてきております。「何をしている時が一番楽しいですか?」
穴迫 
予定を立てるのが好きですね。遊ぶ計画も仕事も予定を組んでいるときがとても楽しいです。

コーヒーカップ

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
穴迫 
ありがとうございます。(開ける)これ、いまの遠征生活にぴったりです。
(インタビュー終了)