演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

廣瀬 信輔

脚本家。演出家。俳優

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ふつうユニット プロトコルに関する考察 「旅行者感覚の欠落」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、廣瀬さんはどんな感じでしょうか。
廣瀬 
この間本番が終わったボンク☆ランドの稽古と平行して、次のふつうユニット「旅行者感覚の欠落」の稽古を進めています。今回は今までにない大所帯で、初めて出演する人も多いんです。例えば宗岡さんは面識があったんですが、一緒に作品を作るのは初めてですね。
__ 
なるほど。
廣瀬 
今まで演劇を10年間やってきて、ほとんど役者で、自分で脚本を描く事もあったけど演出やるのが一番面白いなと。まあ、まだ余裕がある今だからこそですけどね。稽古場で演技を見てゲラゲラ笑って、気になる部分があったら口を突っ込むだけですね。余裕無くなってきたら全然違いますけど。
ふつうユニット

京都の演劇ユニット。ハードSFを得意とし、理系知識そのものが中心に据えられるタイプの演劇作品を上演する。

ふつうユニット プロトコルに関する考察 「旅行者感覚の欠落」

公演時期:2013/12/20〜12/22。会場:アトリエ劇研。

僕はハードSF

__ 
ふつうユニットの次回公演「旅行者感覚の欠落」。脚本は努力クラブの合田団地さんで、以前上演されたもの ですね。副題として「プロトコルに関する考察」とありますが、これはどのような潤色をするのでしょうか?
廣瀬 
基本的に、本はいっさい変えないんですよ。僕なりに、合田くんの作品から、勝手にこの物語のメッセージを考えて、それに合った見せ方をしようと。
__ 
「考察」というのはそういうやり方なんですね。
廣瀬 
僕は「第*回公演」て自分で言うのが恥ずかしいんですよ。基本的に、自分で脚本を書く時はハードSFをテーマにするので、「〜〜に関する考察」を付けようと。今回は、人間同士の通信規約なのかなあ。見せ物に関わる、作者、演者、観客、それらの間のコミュニケーションの時の決まり事に関して考察します。
__ 
この企画の経緯を教えて下さい。
廣瀬 
次の作品を作るまでに、既製台本の演出をやりたいなあと思っていて。でも有名人が書いたようなのは使いたくないなあと。そういう時に、努力クラブのコント公演「正しい異臭」に出演して、最初は単に受付で売ってる台本が欲しかっただけなんですが、既製をやりたいと思っていた事を思い出して。で、合田くんに「脚本を上演するから台本売って」って話したら、「廣瀬さんが上演するなら持ってっていいですよ」と。代金浮いて、ラッキーでした。読んでいて、合田くんが書いた文字情報を考えたんです。「旅行者感覚の欠落」をロジック変換していくと、「主人公意識の肥大化」やなと。で、まあ、こちょこちょっと変換して。
__ 
ロジック変換したんですね。
廣瀬 
ああ!こういうふうに文字にして言い切ってしまうと見に来る価値なくなりそうなんですけど、見に来ないと分からない部分もあるんですよ。演劇だから。
努力クラブ5 旅行者感覚の欠落

公演時期:2012/12/7〜10。会場:元・立誠小学校 音楽室。

日本が失ったコミュニケーション読解能力について

__ 
チラシの文章。「ニュアンスでコミュニケーションすることを忘れたエセ主人公たちは明確、且つ単純なプロトコル(通信規約)を膨大な数必要としているのです。」これはどういう意味なのでしょうか?
廣瀬 
分かりやすいことを求めるでしょう、現代日本人って。アメリカ映画も同様に、分かりやすいのが求められる。だからアメリカ人のコミュニケーションは浅いものに終始するのかと思いきや、彼らは非言語のコミュニケーション能力がすごく高いんだと思うんです。現代日本人と較べたら遥かに。
__ 
ノンバーバルコミュニケーションですね。
廣瀬 
ですがそれは、戦前日本人は持ってたんじゃないかという期待を僕は抱いているんです。戦後、アメリカから表層の分かりやすいコミュニケーションだけを取り入れようとして失敗したのではないかと。
__ 
プロトコルの上の部分だけでやってるようなものだと。
廣瀬 
演劇に関わらず、リアルタイムでコミュニケーションする時、ニュアンスを伝えてナンボじゃないですか。しかし、そこは視覚化出来ない。
__ 
情報処理の大部分を担う視覚では、ニュアンスを捉えきれない?
廣瀬 
絶対に映像じゃ伝えられない、非可視光の部分の影響は多大だと思うんです。それをどう発すれば良いかというのは分からないんですが、演劇でやるべきのはそこなんじゃないかと。

騙されやすい僕ら

__ 
OSI基本参照モデルでいう、第八層が確実に存在していると。そしてそれは、実は5層目くらいに位置しているかもしれない?
廣瀬 
何でしょうね。多分、記号化出来ない部分を大事にしたいなと思っているんです。それと、僕自身が記号に騙されやすい人間なんです。それをちょっと克服したいから演劇をしているのかもしれません。自分のファースト・インプレッションに流されやすい、一面的になりやすい。
__ 
そこは誰でもそうかもしれませんが。
廣瀬 
僕の場合はちょっとその傾向が強いので。自虐的ですけど。演劇でだいぶ克服してきたんですよ。今でも言い淀んだりどもったりはあるんですけど、演劇を始めるまでは更にひどくて。コミュニケーションがすごく苦手だったんですよね。

質問 危口 統之さんから 廣瀬 信輔さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました、悪魔のしるしの危口統之さんから質問を頂いてきております。「自分の作品は、何年前まで通用すると思いますか?」
廣瀬 
どうでしょうね。僕は、現代で普及しているデバイスを前提にして書いているので。下手したら5年前ですら無理かもしれませんね。演出とか役者で限ったら、何時の時代でも受け入れられるものもあるんじゃないかなとは思いますけどね。そういう表現方法が、その過去の時代にあったら、ですけど。
__ 
今の時代の音楽や漫画や演劇や映画を100年後に持って行っても十分通用するような気がしてならないですよ。もちろん、これから100年後の作品をいま見ても理解出来るような気がする。
廣瀬 
江戸時代に現代口語演劇を持って行ったらどうするでしょうね。どっちかというと、見世物とか技術を見せられる気分になるような気はしますね。話全然関係ないですけど、僕、平賀源内が生まれた村を町にした議員の玄孫なんです。だから平賀源内には結構リスペクトしていて。
__ 
ああ、平賀源内。生き方がロックですよね。
廣瀬 
平賀源内、獄中死してますからね。勘違いで刀振り回して二人殺しちゃって投獄されて。破傷風に罹って。――ッククク・・・
__ 
・・・ッッ・・・アッハッハハハ・・・(爆笑する)

社会人役者のなぞ

__ 
廣瀬さんがお芝居を始めた経緯を教えて下さい。
廣瀬 
僕は大学二年の時に仮面NEETをしていまして。実は1年の時にロボットサークルに入っていたんですが、人間関係がいやになって。別に問題があった訳じゃないんですけど。その1年で水曜どうでしょうにハマり、TEAM NACSにハマり、演劇サークルに入ったんです。基本的には、文化芸術は趣味でやってこそと高校の頃からそう思っているんですね。
__ 
ええ。
廣瀬 
まあ京都にはセミプロの人がたくさんいるんで「何言うてんねん」言われそうですけど、まあまあそう思っていて。で、サークルを卒業するとやはり寂しくなって、アクターズラボ に入ったんですね。僕は就活が嫌でフリーターに成り下がったんです。演劇をやっている人って、普通の仕事したくないから芸術系の仕事をやりたいと思っている人が多いと思うんですけど、僕は就活というまどろっこしいものが嫌で、そんなややこしい事で仕事を決めなあかんというのが嫌で。それだったらアルバイトしつつ社員登用を狙ったほうが、いろいろ経験も積めるし、演劇もし易いだろうし。ようやく、ちょっとずつその足場固めが出来つつありますね。
__ 
素晴らしい。
廣瀬 
アクターズラボをやっていて、他のクラスの公演にも行くんですけどね。プロの役者はそりゃ皆さん上手だと思うんですけど、僕は社会人役者の方が面白いと思っているんです。プロの方々はもちろん尊敬しますけど、僕の趣味志向で言うたら、面白いのは社会人役者なんですよ。会社取締役をしながら計5公演くらい出演されてる人がいるんですが、ものすごく面白い役者でした。社会人劇団でいうと、ベトナムとか中野劇団とか柳川とか、面白いでしょう?
__ 
社会人俳優の身体が面白いというのは、よく分かります。
廣瀬 
アクターズラボの杉山さんは「責任感の違い」と仰っているんですけど、きっと、言語化出来ないですけど決定的な何かが責任感の他にあるんだろうなとどこかで思っていて。職業・職場が醸し出す個性が絶対あるんだろうなと。
__ 
社会人俳優の身体がこの世界に見られ慣れていないから、経験的に飽きられていないから、かもしれませんね。
廣瀬 
確かに、見られ慣れていないというのが、一つの圧になっているのかな。社会人の方が、見られるという圧力を自分の力に変換する能力を持っているんじゃないかなと思うんです。まあ、ハリウッド俳優とかは別にして、外からの圧を出力に変えるメカニズムは普通に働いていた方が養われると思うんですよ。さらに、観客の圧に慣れていないから、それを変換する作業がエネルギッシュになるんじゃないかと。その2つの構造があるんじゃないかと思うんです。
__ 
分かります。しかも、意気込みの種類が違いますからね。
廣瀬 
アクターズラボに参加する人は、次に出られるかどうか分かりませんからね。そういう意味で、責任感は違うかもしれません。
アクターズラボ

劇研アクターズラボはNPO劇研が主催する、総合的な演劇研修の場です。舞台芸術がより豊かで楽しい物となる事を目指して、さまざまなカリキュラムを用意しています。全くの初心者から、ベテランまで、その目的に応じてご参加頂く事ができます。現在、京都と高槻を拠点に、アクターズラボは展開中です。(公式サイトより)

学んで帰ってもらいたいんです

__ 
廣瀬さんの作品をご覧になったお客さんに、どう思ってもらいたいですか?
廣瀬 
おこがましいかもしれませんが、学び取ってもらいたいですね。僕より圧倒的に知識量がある人が見に来たとしても、僕しか知り得ない事ってあるんじゃないかと。そのために、SFをやろうと思っています。単純に最新科学を勉強しようとしたらNewtonを読んだ方が早いんです。そうじゃなくて、人間の生活に活かせる科学哲学的なところを演劇を通して伝えたいな、と。もちろん、それとは別に、僕の考えている事も知ってもらいたいし。
__ 
そうですね。
廣瀬 
僕が見に行く時も、何か学び取って帰らないと。どんなに趣味が合わなくても学ばないともったいないし、学ぶところがなければどんなに笑っても損したな、と感じますね。
__ 
これまでご覧になった中で、最も学ぶところが大きかったのは?
廣瀬 
TEAM NACSの「Looser」ですね。初めて見た舞台演劇なんです。DVDでしたけど。感情を発散する事を初めて学びました。現代の日本にはそれが恥ずかしいと思っている人が多いと思うんですけど、そこを僕にブレイクスルーさせてくれた作品でしたね。それと、チェルフィッチュの「3月の五日間」。こんなに狭い範囲で人間を事細かに観察して表現出来るんだなあと。

見つける喜び

__ 
ふつうユニットのロゴマークが気になりますね。これは・・・?
廣瀬 
ブロック図ですね。僕、大学でロボット工学勉強してたんですけど、入力から出力までの計算式を分割したり統合したりするためのツールです。これはフィードバック系ですね。作品を出力して、その後フィードバックするみたいな。お客さんが自分の中でフィードバックが帰って来るようになってほしいですね。あと、functionのfが普通のFだったんですよ。
__ 
なるほど。理系の演劇人は珍しいかもしれない。
廣瀬 
結構いるんですけど、理系である事を諦めた演劇人が多い気がするんですよね。僕は理系である事を捨てたくないなあと。理系の考え方って確実に演劇にプラスになると思うんですよ。俳優ならバイオメカニクスの考え方が本当に役に立つんですよ。
__ 
ふつうユニットの公演、一坪シアタースワンで拝見したことがあります。本当にハードSFでしたね。色恋とか一切関係なしの。
廣瀬 
結局、演劇って何かといえば生き死にと色恋が出てくる。それが感情の高ぶる本質的な原因とはいえ、そうじゃないところで盛り上がれるところはあるんじゃないかと。理系が心を震わせる瞬間って、何かを発見した時なんですよ。

使えるテクノロジー・売れないテクノロジー

__ 
廣瀬さんは、いつかどんな演劇を作りたいですか?
廣瀬 
最近思っているのは、死んでから評価されるものを作りたいという浅はかな思いがありますね。昔のSFを見て、「この時代にこんな事を考えている人がいたんや」と驚く事があって。たとえば映画のTRONとか、あの時代にこんなにネットワークに関して、専門家でもない人がここまで詳しく考えられるんだと。そういうものを今作りたいですね。あ、モダンタイムスを作りたいですね。あの時代の機械化への憧憬や恐怖をこの時代に置き換えたいですね。それと、R.U.R.(エル・ウー・エル)という、カレル・チャペックの戯曲を現代に置き換えて書きたいです。あとは、何か架空の発明を作りたいです。今の時代には無理だけど、50年後には実用化出来るみたいなそんなデバイスを作りたい。
__ 
例えばスマートフォンとかね。腕時計型テレビ電話もそうですね。
廣瀬 
Google Glassも正直普及しないと思いますけどね。あれもSFの賜物ですから。なって現代アートですね。
__ 
埋め込み系ですかね。あとは。
廣瀬 
埋め込みは結構簡単だと思うんですよ。今でも出来るんですけど、あまり研究されていないのは人道的な問題とリターンに対してのリスクが大きすぎるからじゃないかと。
__ 
だったらやっぱり、今のスマートフォンが最も便利で最適だと思えるなあ。今後何十年かはこれが使われるんじゃないか。
廣瀬 
いや、2〜3年の内に次のデバイスは出ると思いますね。携帯電話にネットが付く以前から、「携帯電話より便利なものはもう出ないだろう」と言われていたので。
__ 
そんなものですかね。何が出るんでしょうね。
廣瀬 
それを産み出す人がいたとして、その人もまだ何も考えついていないでしょうね。Google Glassは普及しないですけど、確実にスマホの次世代のモノなんです。その次に来るものが、普及するものになるんじゃないかと思います。まあ入力装置として脳波は確実でしょうね。技術革新としてはPCぐらいの大きな波になると思いますね。

続けていく

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
廣瀬 
これまで年に3回から4回、舞台に立たせてもらったり自分で上演したりしてきて。それぐらいのペースじゃないと辞めてしまうやろうなという恐怖感に囚われながらやってたんです。でも、そろそろ働きながら演劇を続けるという事をガチに考えないといけないとなると、1・2年に1回でもいいんじゃないのと。続けていくという事が大切なんじゃないかと。ペースが落ちてもいいから、続けていますと言える事が大事なんじゃないのと思っているので。
__ 
素晴らしい。
廣瀬 
今までも、30分から1時間の小作品を2年に一回のペースでしか書けていないので。そのペースでいいんじゃないかと。演劇を見るということだけでも、つながりが消える訳じゃないんだから。
__ 
ご自身のペースに合わせる事で傑作が作れるのであればそれが正解だと思います。今日はありがとうございました。
廣瀬 
ありがとうございました。

円錐型のロウソク

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
廣瀬 
ありがとうございます。angersだ(開ける)今まで、こんなでっかいプレゼントあんまり無かったですよね。
__ 
そうかもしれません。
廣瀬 
あ、ローソクですね。電気を滞納してる時に便利ですね。
__ 
クリスマス用ですね。
(インタビュー終了)