東京に行った西岡さんが京都に戻ってきた日
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。お久しぶりですね。最近、西岡さんはどんな感じでしょうか。
- 西岡
- こちらこそ、よろしくお願いします。私、今は新国立劇場の演劇研修所の研修生です。今年で3年目で、研修所の最後の年なんですよ。いくつか試演会を重ねてから修了という感じです。まずは、9月に2本の試演会があります。ちょっと遠いんですけど、関西の方々も観にきて頂けると嬉しいです。
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- ありがとうございます。頑張ってください。東京に来て、自分は変わったと感じますか?
- 西岡
- 色々と、変わったとは思います。でも根本的な部分が変わったとは思わないですね。無理矢理変わろうとしても無駄だし、変えるには自分はなかなか頑固だなあって。ぜんぜん変わらないというのもなかなか辛いものがありますね。なすがままという感じで行こうと思います。
新国立劇場 演劇研修所
演劇研修所は、3年の研修期間を設け、芸術表現としての演劇を主体的に実践し、組織していく俳優を育てることを中心にカリキュラムを編成しています。1.2年次は基礎的俳優訓練とともに、第一線の演出家や俳優指導の専門家を軸とする講師陣によるシーンスタディを展開し、3年次には修了公演に向けて数本の舞台実習公演を行っています。修了生は、新国立劇場公演のみならず、さまざまなプロデュース公演に出演するなど、活躍の場を広げています。(公式サイトより)新国立劇場 演劇研修所 Facebook
脚本のパワーに飲まれないように
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- さて、新国立劇場演劇研修所の公演が、9月ですね。
- 西岡
- 9月の5日から10日に一本目「親の顔が見たい」 と、9月の23・24日に二本目「朗読劇「少年口伝隊一九四五」」 を上演します。
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- 一ヶ月に二本の大作ですね。
- 西岡
- はい。たまげました(笑う)。私たち八期生と、研修所の修了生と文学座の俳優さんを客演に招いて、色んな分野の一線で活躍するスタッフさんが参加されています。そこも含めて、かなり、勉強になると思います。
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- 見所を教えてください。
- 西岡
- 一本目の「親の顔が見たい」は、現代劇です。ほとんどの登場人物が実年齢より上の世代で。ちょっとキャラクター作りの難易度が高いんですけど、どうなるか楽しみです。劇構造としては、「12人の怒れる男」のカトリック系女子校バージョンですね。密室劇で、いじめを苦に自殺した生徒が主軸の話だったのが、どんどん父兄の社会的に隠している部分が噴出する展開になっていくのがとても面白いです。
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- 見てみたいなあ。
- 西岡
- 「朗読劇「少年口伝隊一九四五」」は井上ひさしさんが研修所の2期生のために書き下ろして下さった作品で、毎年、研修生が朗読劇公演として上演しているんです。皆さん必ず言うんですけど井上さんの言葉の使い方が本当にすごいんですよ。体を通して実感しました。
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- 分かります。
- 西岡
- 言葉の全てが質素なんですよね。華やかな言葉はなくて、でも的確に伝わるんです。それがすごいなあって。台本上の延ばし棒一つにしても意図が伝わる。脚本のパワーに飲まれないように、でも余分な事をしないように。無理矢理をやってしまって、無理無理なんて思わないように。
新国立劇場演劇研修所 第8期生試演会「親の顔が見たい」
公演時期:2014/9/5〜10。会場:新国立劇場 小劇場。
新国立劇場 演劇研修所公演 朗読劇「少年口伝隊一九四五」
公演時期:2014/9/23〜24。会場:新国立劇場 小劇場。
本来の気持ちに
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- 研修所での西岡さんの様子を伺えればと存じます。今、どんな生活をされているんですか?
- 西岡
- 一年目は、月曜日から金曜日までフルタイムでしたね。朝9時半から夕方くらいまで研修でさまざまな講義や、実技を受けています。二年目になると、現在バリバリ活躍されている演出家の方々と芝居を作る授業も始まり、月〜金曜+αで不規則になりました。大学と同じくらい、毎日勉強してます。
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- それは、楽しい楽しくないという尺度で言うとどうですか?
- 西岡
- うーん、時期によって違います。研修生1人1人によっても違うでしょうし。私は、当初は本当に、やりたくてやりたくて仕方なく入りました。でもいつからか日々の生活がルーティン化してくると、ちょっとダレるというか。贅沢なことに、与えられている事が当たり前になってしまって、気持ちが崩れてしまいました。そういう変化を講師の方も分かっていらしたみたいで、喝を入れてもらったりとか、自分でも奮起したり、また初心を思い出して、本来の気持ちに戻ったり、そういう繰り返しでした。
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- ルーティン化。
- 西岡
- 私の場合は、周りに「このままじゃ駄目よ」とハッキリ言ってくれる方がいたんです。講師や、同期の8期生も。それから、研修所以外の芝居仲間や同世代の人たちが頑張って公演を重ねているのをみて気付かされる、そんな瞬間がありました。
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- なるほど。
- 西岡
- 2年目までは外の公演には参加出来ないのですが、3年目からはカリキュラムが試演会と修了公演のみになるので、外の仕事を受けても良いんです。
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- あ、そうなんですね。
- 西岡
- そういう自分の状況もありつつ、外で仲間がめっちゃ面白い事をやっていると、うわあ〜って凄く焦りました。
ふたりの会話
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- 2年、学んだ中で一番ショックを受けた事は何ですか?
- 西岡
- 一番最初の演技の授業。イギリスのRADAでも教えられているローナ・マーシャルさんの授業ですね。二人一組のダイアローグを、とりあえず貴方たちの思ったように作ってきて、と課題を出されまして。ペアの子と試行錯誤して作って、実際見て頂いたら、「お芝居をしているわね」と言われたんです。
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- なるほど。
- 西岡
- それまでやってきた事を根底から覆された気がして。私、今まで何をしてきたんだろう・・・いや、芝居をしているわねって言われたけどそれはどんな事なんだろう? 一年目は、演じるというよりも、まず自分が何者か、どこに立っているのか、その上で自分の癖を見直す、とかそういう、パーソナルな部分に触れる授業がほとんどでした。1年目の授業は、ほぼ毎回ショックを受けまくりでした。こんなにも、自分の体はコントロール出来ないものか、こんなにも私は人の話を聞いていないのか、というように。
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- 自分の事を見つめる一年だったんですね。
- 西岡
- 私はすごく、怖がりだという事が分かりました。
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- 怖がり?
- 西岡
- 芝居を始めた頃に自分がどういう演技の作り方をしていたかはあまり覚えてないんですけど・・・パッケージングするのが得意だったんじゃないかと思ってます。パッケージするというのは、例えばいまここで喋っている時、お互いに刺激を感じていますよね。
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- ええ。
- 西岡
- でも、会話している役を演じるとなると、相手からリアルタイムで刺激を受けている事実を忘れてセリフを吐いていたんです。しかも、やりたい絵を最初から決めてしまっていて、そこに向かう為にはどうすればいいのか?というのがある程度「かたち」として出来てしまう。
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- 会話の交流を予測したり決めたりする事は、安心ですね。たしかにその意味では怖がりと言えるかもしれない。
- 西岡
- けれども、それはもう相手が誰であっても良いという事なんじゃないかと。多分、講師が言いたい事はそういう事だったんじゃないかと思います。人とどうやって対話するべきかと、それを考えるようになりましたね。
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- 異なる存在と接する時の、エモーショナルな瞬間、ですね。
- 西岡
- そうですね、そういう、エモーショナルな状態のフリをしていたんだと思います。本当にそういう状態になる前に、まず「かたち」を作ってしまった。会話先行、頭先行だった。本来なら、もっと何が起こるか分からないのが演劇と交流の醍醐味なんですけど、私は多分それを見過ごしたまま、無自覚に絵を作って出来た気になっていたんです、きっと。でも、そういう事じゃなかったみたいだと。
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- それはきっと、舞台と観客席の間でも起こるべき事で。例えばいい映画って、全部の動きにワクワクするじゃないですか。一つ一つの動きや曲線が目に入る度、その効果が純粋に心に響く。意味や意図さえ伝わる。あれは舞台でも起こる。
- 西岡
- はい。
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- とにかく、一年目のスタート地点から、「交流」が本来持つべき価値が見えた。
- 西岡
- もしかしたらそうかもしれません。今まで関わった戯曲に対しては失礼な事をしていたのかも。答えを一つに決めて掛かってしまうなんて。それが、スタート地点に立つ上で一番大切な事だったのかもしれないなと。
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- なるほど。
人が集まってきてくれる
- 西岡
- その後も、ジャンルを問わず様々な分野の講師に教わりました。二年目の芝居を作る授業(シーンスタディ)では今まで触れたことのない役にも出会えたり。価値のある事ばっかりだったなあと思います。すごくいい環境だと思うんですよ。それが自主的にできなくなったら終わりだというのも経験しました。自分がこういう事をしたいとか、こうなりたいと思っているところに、定期的にアドバイスをくれる人が集まってきてくれる。それは新劇関係だけ、小劇場関係だけという事ではなくて、多面的な見方が出来るんですよね。知識や体験が増えていくと、その都度ハテナが溜まっていくんですけど、色んな言い方をされるぶん、答えにたどり着けるという感じです。
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- なるほど。
- 西岡
- それは一つのメソッドを追求する劇団や団体とはまた違う価値があると思いますね。
コアラからつかむシェイクスピア
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- 最近、学んだ中での気づきを教えてください。
- 西岡
- ちょっと大きな話になってしまうかもしれないんですけど、欲望を持ち続ける事かもしれません。結構、欲を表に出しても、すぐ諦めちゃったり、抑制するタイプだと自分では思っています。講師の方のエクササイズの一つで、アニマルエクササイズというものをやったんです。ある動物の事を研究して、完全に動物になっちゃう。私の場合はコアラでした。コアラを研究して擬態する。そこを起点にして、段々とシェイクスピアの登場人物の一人にスライドしていくんですよ。シェイクスピアに出てくる人物は欲求が強いんですよね。
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- ええ。
- 西岡
- その人物の欲求に、自分自身の欲求から近づいていっても分からなかった点が、本能的な動物の形態を借りてそこからスライドさせて行くことによって、「今何がしたい」とか「アイツを叩きのめしてやりたい」とか、ビビッドな欲求になって出てきたんですよ。それが必要なんだなと思いました。日常を切り取った演劇だって、中には非日常なものが紛れ込んでいると思うんですよ。それを全部、日常の自分でやってしまうのはもったいないな、と。自分にはないタフさが必要なんですけど、日常から欲求を閉じこめていると、演じる時に息切れしてしまうんですよ。だから、そういう時の為のトレーニングとして、自分の欲求を素直に出そうと思います。
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- アニマルエクササイズか。
- 西岡
- 他の人のアニマルも、どこかその人の個性が出ているんですよ。私自身も、コアラの事を他人とは思えなくなりました。
俳優について
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- 西岡さんが考える、良い俳優とは?という事を聞こうと思うのですが、今までの話で言うと、欲望を持つ事が出来る俳優という事になるのかな。
- 西岡
- そういう捉え方ももちろん出来ますが、でもまだ、いい俳優とは何かというのを自分の言葉では表せなくて。教えてもらった事を受け売りで言う事は出来るんですが。色々細かい要素を言う事は出来るんですけどね、人の話が聞けるとか、交流出来るとか、欲望を持てるとか。何なんですかね・・・?でもみんないい俳優だとは思うんですけどね。
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- そうですね。
- 西岡
- みんないい俳優だけど、良くない部分もある。でも、本来はみんないい俳優だと思うんです。
身体に目を向ける
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- 東京に移って、どんな事を考えるようになりましたか?
- 西岡
- 自分の身体と思考について、とか、何かに関わっている時のそれぞれの自分の事をその都度観察する事が多くなりました。
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- ええ。
- 西岡
- 京都にいたときには、フワフワしているのは悪と思っていて、目的をバチーンと決めようとしてました。いついつまでにこうなるんだみたいな猪突猛進な自分だったなと思っていて。東京に来たら、誰も私の事は知らない他人ばっかりだし、ギュウギュウの満員電車にいたら、いま何をしてるんだろうなあ自分は、と思う。日頃無視していた自分の身体に目を向けるようになったと思います。それは、研修のプログラムから影響を受けた部分もあります。
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- 内面に目を向けるようになった?
- 西岡
- 「こうしなきゃいけない」という意識から、「今自分はどういう状態であるか」という意識が強くなった。(今私はこの人が嫌いかもしれない)とか、(この人と仲良くなりたいけど、身体がバタバタしているようだ)とか。決めてかかってた時より呼吸がしやすくなりました。
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- なるほど。
- 西岡
- 頭でっかちな性質と、自分の身体との連動性を付けようとしているのかもしれないですね。結構、バラバラしている傾向があるので。
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- 完全に把握したいと。
- 西岡
- 完全に把握は出来ないと思いますけどね。だけど以前は今より自分本来の性質に無自覚だったのかもしれません。
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- 精神と身体を同時に常に把握する事は、とても有効な俳優のトレーニングかもしれませんね。
- 西岡
- まだ、分かってるつもりだったり分かっているだけの状態かもしれませんけどね。自分が分かっていないと感じたら周りに指摘してもらう、それぐらいの気持ちでいたいですね。東京に来てからは、人に頼るという事も増えたかもしれません。以前は全部自分でやろうとしていました。人に頼ったり任せる事も大事だな、って。
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- なるほどね。
質問 肥後橋 輝彦さんから 西岡 未央さんへ
生き残る
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか。
- 西岡
- 攻めない方向で行きます。(笑う)私には「攻める」という語感が強烈なので、攻めずに、どうしたらすくすく健康に演劇を続けられるかを考えていきたいと思います。最終的に生き残れればいいなー。
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- なるほどね。
ムーミンの小物入れ(ミィ)
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
- 西岡
- ありがとうございます。
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- どうぞ。
- 西岡
- (開ける)あ、ムーミンですね。好きなんですよ、ミィが。
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- 良かったです。
- 西岡
- 荷物がよくバラけてしまうので、こういうポーチとかはありがたいです。