劇団青年座創立60周年記念公演 第2弾Act3D 〜役者企画 夏の咲宴〜『UNIQUE NESS』
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。
- 髙橋
- はい!よろしくお願いします。
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- 最近、髙橋さんはどんな感じでしょうか。
- 髙橋
- ええと、3月30日に念願の東京ディズニーリゾートで挙式しまして。その後、ハネムーンにも行かないまま青年座の芝居の稽古に参加しまして。その『見よ、飛行機の高く飛べるを』が終わってほっとしてたら、息をつく間もなく、『UNIQUE NESS』の稽古に突入して。なんかもう、旦那さんを完全に放置してしまい、後ろ向きな気持ちが・・・。7月1日から稽古が始まったんですけど、起きてる旦那さんを見ていない感じですね。
劇団青年座
劇団青年座は「創作劇の上演」を趣意書に謳い、1954年5月1日森塚敏、東恵美子、成瀬昌彦、天野創治郎、土方弘、中台祥浩、初井言榮、山岡久乃、氏家慎子、関弘子、ら十人の俳優によって結成いたしました。同年12月17日俳優座劇場で椎名麟三作『第三の証言』をもって第一回公演をおこない、以後、矢代静一、八木柊一郎、宮本研、水上勉ら多くの劇作家と共に数々の創作劇を上演してきました。1994年の創立四拾周年以降はマキノノゾミ、永井愛、ふたくちつよし、中島淳彦、鈴木聡、土田英生、齊藤雅文、太田善也、野木萌葱ら、現代演劇を代表する劇作家の新作を次々と上演し、高い評価を受けております。(以下省略)(公式サイトより)
劇団青年座創立60周年記念公演 第2弾Act3D 〜役者企画 夏の咲宴〜『UNIQUE NESS』
公演時期:2014/8/1〜10。会場:青年座劇場。
60周年の原点回帰
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- 『UNIQUE NESS』。青年座創立60周年記念公演第2弾の三部作「Act3D」の内の1本、髙橋さんが企画された公演ですね。凄いですね。ではまず、企画の経緯を教えて頂けないでしょうか。
- 髙橋
- 青年座は、演技部と文芸部と演出部、製作部で劇団の中でセクションが分かれているんですね。私は演技部なんですが、役者だけが集まった演技部会の中で公演をしようという事になったんですよ。
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- 60周年!記念する価値がありますね。
- 髙橋
- 60周年の原点回帰というコンセプトもあるんです。企画自体は10本以上あったんですが、早川さんの作品はキャッチーなものも多いので、中でも立ち上げ委員会の目を引いたというか。
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- それはもう、プレゼンも上手くいったんでしょうね。劇団ガバメンツ とはどんなキッカケで?
- 髙橋
- 元々、3年前に劇団ガバメンツの作品を東京で見たんです。劇団員の西岡(裕子)さんがお友達だったんですけど、観に行ったらドハマリして。公演直後に主宰の早川(康介)さんに「出してください」と言ったら「じゃあ、出て下さい」と即決して。青年座ではなかなか触れる事のない演技だったんですよ。
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- というと。
- 髙橋
- たとえば、ガバメンツ公演に出演した時、自主稽古をしていたんです。その時、芸人さんに求められるようなギャグを求められて困ったワタシに劇団員の方が、「ここは理由とか裏の描写とかではなくてノリでやってみたら?」って言われて。カミナリが落ちたくらいの衝撃を受けて。何より早川さんの作品は、裏付けもリアルも大切にちゃんと芝居をした上でのコメディ。青年座の役者さんて、「何故この人物はここでこう言うのか」と深めて深めて芝居するんですよね。だったら、ノリも加わった芝居が出来る上に裏付けのある演技が出来たら最強やなと。そうなれたら素敵やなと。そう思ったのがきっかけです。青年座はこれまでブッとんだ事をやってきた劇団なので、今回の企画をこういう風に許してくれる懐の深さが、60年続いた所以なのかなとも思います。
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- 「ノリ」で芝居を作る。それが衝撃だった?
- 髙橋
- 関西人の多い現場だったし、私も関西人なんですが、俳優は上京してから始めたので。芸人顔負けの面白いメンバーの中にポッと新劇の俳優が出てくると、全然違う空気をまとっていたみたいで。裏付け裏付けでがんじがらめになっていたんですけど、そこから次のステップに行く、いい契機だったんです。
劇団ガバメンツ
「コメディしかできません、でもいろんなコメディができます」シュチュエーションコメディばかりがコメディじゃないラブコメディ、サスペンスコメディ、スクリューボールコメディ、トラジコメディにコメディコメディ。喜劇はこんなにあったのか。喜劇を愛する全ての人と、そうでもない全ての人へ。1年に1回しか演劇を見ない人の為に、さまざまなスタイルの喜劇に挑戦している。(こりっちより)
私のホントと嘘の質
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- 今回、髙橋さんが配役を演じるうえで大事にしたいポイントは。
- 髙橋
- そうですね。私の演じるのは嘘つきな女の役なんで・・・毎回、早川さんの脚本で私に振られるのは、本当にこれ、私が演じるべき役なのかなと思うんです。でもまあ、毎回、途中から「これが面白いんだ」って思えるようになるので。これでいいんだと。
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- 今回も違和感があるんですか?
- 髙橋
- 早川さん曰く、私には「虚飾」を感じるらしく。たぶん、そういう本質を付いたキャスティングなんだと思うんです。正直、個人的には好きになれない女性像なんですけど、でも、だからこそ私の本質に近いのかもしれない。本当は私の本質はこういうものなのかもしれない。だからピンとこなくて苦しんでいるのかも・・・。他の作品とはまた違うアプローチを掛けていく感じですかね。
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- なるほど。それが今回演じられる、リサ・ブライアントですね。
- 髙橋
- そうですね。彼女自身が、何が本当なのかわからなくなる程自分の嘘に辟易していくような気配が出せたらいいなと思います。
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- 現時点で、役作りの上での気付きは何かありますか?
- 髙橋
- いや〜、もう行き詰まって困ってしまって・・・でも、舞台上の世界観の中で、板の上でちゃんと生きている事を最低限にしようと思っています。分からなくなったら、とにかく嘘を付かずに、その場にいる。という事を大切にしようと思っています。今回のリサ役はウソツキなので、嘘の質を考えて演技をしないと。
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- 嘘の質?
- 髙橋
- 嘘と分かる嘘なのか、見破れないくらいリアルな嘘なのか。私個人は基本、嘘を付けない人間らしいので。
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- 本当に嘘を付くのが上手い人は、「嘘がヘタだと思われている人」らしいですよ。
- 髙橋
- えっ、そうなんですか。
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- いや、私もこれの意味は良く分かってないんですけど。
- 髙橋
- (笑う)
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- 相手の、嘘を見破らせる洞察の深さまで調節させられるという事かもしれませんね。
- 髙橋
- そうなんですね。
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- では、公演の見所を教えて下さい。
- 髙橋
- 青年座の、キャリアある素晴らしい俳優達を早川さんがどう料理するのかというところですね。稽古場でも、上は70歳の俳優まで幅広いメンバーが若手の早川さんを尊重して、早川さんも俳優達を一人一人尊重して、誰に対してでも真髄を付く駄目出しをしています。劇団の中にも新鮮な風が吹いているというのが、客席にも伝わればいいなと思います。
今も、それぞれの場所で
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- 髙橋さんがお芝居を始めた経緯を教えてください。
- 髙橋
- 私、兵庫県出身なんですけど、宝塚歌劇に憧れて。どうしても入りたかったんです。「あそこは入るところやない、見るところや」って母には言われたんですけど親不孝して受験スクールに通わせてもらって。入学試験に最終まで残ったんですけど落ちてしまったんです。それで1年、ダンスのレッスンを受けながらバイトして、お金を貯めて。お芝居をしようと思って東京に来たんですね。
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- 近くに宝塚歌劇団にあった、というのがまずはキッカケだったんですね。東京に来てからは?
- 髙橋
- まず、関西でお芝居をやる環境を探そうと思うと、今ほど情報が溢れている訳じゃなかったので。新劇の劇団の養成所の内、青年座だけ受かったんです。受験がボロボロだったので、もう発表を見ないで帰ろうかなと思ってたら、受かってました。
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- おめでとうございました。
- 髙橋
- それがキッカケでした。“あ、家探さなアカン”となりました。上京した翌週から養成所で鬼のカリキュラムが始まって、その集大成としての公演をして。その時のメンバー達とはすごく絆が深いです。毎日毎日、12時間以上一緒に過ごしたんです。自分にとっては大事な経験です。今も、それぞれの場所で頑張っている同期を誇りに思います。
少なくとも11,175よりも多い絆
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- その頃に見た衝撃作を教えて下さい。
- 髙橋
- 青年座の作品ですが、高畑淳子さんが主演された『パートタイマー・秋子』に衝撃を受けましたね。あと、映画だと『CHICAGO』。キャサリン・ゼタ・ジョーンズの演技が凄くて、10回以上見ましたね。東京で見た初めての映画で、女がのし上がっていくストーリーなんですね。自分も東京でやっていく!という思いがあって。それと、ミュージカルへの思いが残っていたんですね。の割に青年座に入ったんですけど(笑)
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- 青年座ではミュージカルは難しい?
- 髙橋
- 研究所時代、授業で「バルタン星人になってください」というお題が講師の方から出された時に、ちょっと戸惑い・・・(笑)その後、入団して“ああ、私はミュージカルとは本当に関係ない劇団に入ってしまったんだ”って。今はあまり思わないですし、それまでやっていた日舞やダンスは今でも現場で役に立つので、何も無駄じゃないんですけど。
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- 青年座の稽古で、どんな時間が好きですか?
- 髙橋
- 家族というか、同じ釜の飯を食う、みたいな。同じ青年座という絆は感じます。でも約150人もの役者さんがいるのでまだ会った事のない方もいらっしゃるんですけどね。
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- ええ。
- 髙橋
- 先輩が、後輩を何とかしてあげようという気持ちも色んな状況で感じるんですよ。アプローチはそれぞれ違うんですけど、後輩も先輩に相談しに行きやすくて。そういう環境が、すごく素敵ですね。お酒の席でも、大先輩に「あのシーン、どうでした?」って言い合えるんですよ。
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- いや、それはそういう事が積極的に出来る髙橋さんが素晴らしいですね。
- 髙橋
- いえ、それでも行き詰まってしまう自分が情けないという気持ちは強いです。
視界に余裕が生まれる?
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- これまでに一番、ご自身を変えた舞台は何ですか?
- 髙橋
- 出演させて頂いた舞台の全てにおいて、沢山の事を吸収しています。有り難いことに、外部で出演させて頂く機会も多く頂いて。例えば松平健さんや藤山直美さん、石原さとみちゃんとも共演した事もあって。やっぱり一線で活躍されている方を間近で見ると、その姿勢にシンパシーを頂くんです。
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- 青年座というホームとは全然違う経験でしょうね。
- 髙橋
- 実を言うと、当初は「ああ、青年座っぽいよね」って目で見られる事に凄く抵抗がありました。でも今はいい意味で逆手に取って、その現場に合わせて「青年座の」自分だけのものを持っていくようにも出来るようになったり。結婚してからは、これまでの経験にも別の視点から見れるようになりましたね。
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- そういう風に、自分を変えていけたんですね。
- 髙橋
- これまでキリキリとした意識で現場に向かっていたんですけど、結婚の節目を越えてからは視界に余裕が生まれた気はします。
またも振り出しへ・・・。
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- 髙橋さんにとって、よい俳優の条件とは?
- 髙橋
- そうですね、とても迷ってしまうんですけど・・・とにかく芝居に対して真摯である事。芝居を好きである事。かな、と思います。
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- 真摯さ。
- 髙橋
- 奢らず、ひたむきに、でも卑屈にならず。自分と向き合う作業の連続なんです。でも、好きだからこそ。
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- そう居続けられるって難しいですよね。髙橋さんは、それは出来ている?
- 髙橋
- うーん・・・でも、芝居の事は誰よりも好きという自信はあります。その上で精神的に健全で居続けられるようにしたいです。それは意外と難しいことで。
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- では、演技するうえで、目の前のお客さんにどう感じてもらいたい、というのはありますか?
- 髙橋
- 「あ、いるいるこんな人!」って思ってもらいたいです。例えば「あ、知り合いの井上さんだ」みたいに具体的な名前が出てくるぐらいの。逆に私個人を知る人には、「こんな髙橋幸子は初めて見る」って思ってもらえれば嬉しいです。
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- 「いつもの髙橋幸子じゃん」にはなりたくない、と。
- 髙橋
- そうですね。難しいですけど。でも、以前、出演した舞台をご覧下さった、ウチの劇団の演出家の宮田慶子さんが「こういう女いる!」って仰って下さって。それは物凄い褒め言葉を頂いたなと思いました。
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- つまり、リアルさを感じさせたという事ですもんね。
- 髙橋
- 身近さを感じてもらえたら。例えば、ちょっと愛嬌があるけど嫌な女とか。
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- 見るだけでムカつくけどやっぱり憎めないみたいな?
- 髙橋
- そうですね、誰にも思い当たるような。
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- 嫌だけど親近感を覚えさせる、って、物凄い境地かもしれない。素晴らしい役作りをされましたね。
- 髙橋
- いえ、途中で行方不明になったりします。
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- 行方不明になるとどうなるんですか?
- 髙橋
- めちゃくちゃ不安になりますね。ただ、「私はこうしたい」というのが一旦ゼロに戻るんです。シンプルなやり方に切り替えるので、結果的にはそこを通ったらいいのかなと思います。
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- 振り出しに戻れる。つまり、切り替えが早い。それが髙橋さんの強みなのかもしれませんね。
- 髙橋
- そうありたいと思っています。
そんな所まで行けたらいいわね
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- いつか、どんな演技が出来るようになりたいですか?
- 髙橋
- 私が尊敬してやまない青年座の先輩、高畑淳子さん。人間的にも尊敬しているんですけど、先日、入団10年目にしてやっと一緒に仕事させていただいたんです。藤山直美さんと高畑さんがW主演をした『ええから加減』という舞台に、方言指導という形で付いて回ってました。そこでお話した時に、あの高畑淳子さんでさえ、本番前は手が震えるぐらい緊張するって。でも散々悩んで決めて進んで、必死で覚えて、自分が作ってきたものを出すしか無いんだ、って仰ってたんですね。本当に素敵だなあと。方言に関しても大阪弁を血の滲むような努力をされて。私なんて全然努力してないわと思うぐらいの。
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- いえいえ。
- 髙橋
- 尋常じゃないぐらいの努力を。やっぱりこれぐらいストイックに努力しないといけないんだ。あの淳子さんが袖で「怖い、本当に怖い」って言うんですよ。一緒に焼き肉に行った時、「いつか、セリフを吐き捨てるように言えるようになりたいわ」と仰ったのが印象的で。
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- セリフを吐き捨てる?
- 髙橋
- セリフがその演技の上で「これはセリフです!」って存在しているんじゃなくて、吐き捨てているけど表現として届く、みたいな。そんな所まで行けたらいいわねって。まだまだ高みを目指していらっしゃって。目指す所が無くなったら壁を伝っていくんじゃないかと思うぐらい。
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- なるほど。
- 髙橋
- 下に対しても気を遣われる姿勢が素晴らしくて・・・最高に尊敬する先輩です。
61周年以降
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- 最後に、『UNIQUE NESS』。意気込みを教えて下さい。
- 髙橋
- 自分で立てた企画が通って。いい意味でのプレッシャーが強いです。60周年に相応しい企画になれば良いと思います。早川さんという作家を東京の人に少しでも知ってもらうという野望もありますので。
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- ええ。
- 髙橋
- 青年座のメンバーも一人ひとり戦っているので、それが最終的にどういうゴールに辿り着くのかを見届けたいです。それから、企画ド素人の自分が発案者になって、それで今スタッフワークに足を突っ込んでいる状態なので・・・今まで以上にプロのスタッフの方々や役者の先輩方に助けて頂いています。本当に感謝しています。これからも、61周年以降も、私達の世代がガッと回していけるんだ、そんな勢いの付く企画になればいいと思います。
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- 最後に、今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 髙橋
- 上京してから今までがむしゃらにやってきたんですけど・・・人生も変化して、環境も変わって。そこに自分自身が順応して、付いていけるようにしたいです。自分が自然に成長していったら、それを迎えてくれる芝居もそこにあるんじゃないか。そう信じる事も大事なのかな。「なるようにしかならんわ」って事ですけど(笑)、そう思います。
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- ありがとうございます。なるようになりますよね、きっと。