がっかりアバター「あくまのとなり。」
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、松下さんはどんな感じでしょうか。
- 松下
- 最近は稽古でいっぱいいっぱいです。本番2週間前なんです。
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- がっかりアバター次回公演「あくまのとなり。」の稽古、ですね。いっぱいいっぱい。これまでに経験した中で、一番いっぱいいっぱいになったのはどんな時ですか?
- 松下
- ウーン。けっこう毎回、いっぱいいっぱいになっちゃうんです。次はこういう事に気を付けようとメモを取ったりしてるんですけど、それでも焦燥感に駆られてしまいますね。
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- なるほどね。演劇を抜いたら?
- 松下
- 引っ越します。実家に戻ります。同じ大阪なんですけど、お金や時間の面でがっかりアバターに掛けられるだけ掛けようと。次の公演終わったら速攻引っ越します。
がっかりアバター
結成2011年6月。主催の何とも言えない初期衝動からほぼ冗談のように結束。2011年6月vol.1『岡本太郎によろしく』2012年11月vol.2『啓蒙の果て、船降りる』(ウイングカップ2012受賞)2013年6月vol.3『俺ライドオン天使』(公式サイトより)
がっかりアバター「あくまのとなり。」
公演時期:2014/5/15〜19。会場:シアトリカル應典院。
集団になりつつある、がっかりアバター
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- 次のがっかりアバター「あくまのとなり。」とても楽しみです。昨日乾さんと夢子オンデマンドさんにお話を伺えて、色んな事が分かりました。
- 松下
- そうなんですね。何を言ってましたか・・・?
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- まず、がっかりアバターはロックバンドである事。
- 松下
- たまにアンディが言ってますね。
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- そして、アンディさんにみんな賭けてるというような言い方をしていて。今の、全速力でやっていっているという勢い、その正体を知りたいです。
- 松下
- 結構、毎公演、本番2週間前ぐらいに通せるぐらいにしてしまうんですよ。バーっと作ってしまって。それをその段階で全部壊すみたいな事をするんですね。今までの演出を全て変えたり、脚本の大部分をカットしたり差し替えたりとか。私が出た「啓蒙の果て、船降りる」 ではラストのページが差し替わったんですよ。
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- なるほど。
- 松下
- 変化球じゃないですけど、シフトチェンジしていくんですよ。アンディはそういう事をするので、キャストはこなせないんですよね。こなしてる感で演じられない。アンディはキャストのエネルギーってよく言ってるんです。宗教っぽいですけど、目に見えないエネルギーが必要とされる作品を作る劇団なのかなと思います。今までの自分を壊さないと出来ないのかなと。
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- 改めて。がっかりアバターって、どんな劇団だと思いますか?
- 松下
- これまでのがっかりアバターは、皆が言っているみたいにアンディありきで坂本君に付いて行ってたんですね。それはこれからも変わらないし、みんな完全に大好きなんですけど、最近やっと、劇団として、それぞれの役割が決まりつつあるのかなと。まとまりつつあるのかなと思います。劇団の旗揚げが1年半前なんですけど、ようやく。
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- なるほど。
- 松下
- これまでは作品を作る度に集まって、公演してという感じだったんですけど。今はきちっと将来の事を考えだしたりしていて。集団になりつつあるんだと思います。
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- すばらしい。私は、がっかりアバターが生き残っていくなら、どんな形でもいいですけどね。
がっかりアバター第二回公演「啓蒙の果て、船降りる」
公演時期:2012/11/10〜11。会場:ウイングフィールド。
向き合う
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- 今回の「あくまのとなり。」見所を教えてください。
- 松下
- 基本的には、全部の作品をどんな視点から見ていただいても面白いように作るのが理想ですね。あの、乾も夢子も「以前とは違う」と言ってましたか?
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- はい。まあその、下ネタがないとかそういう事ですね。
- 松下
- その、今回は登場人物の人生だったりとか背負っている痛みに焦点を当てていて。今回、役者一人につき一役のみなんです。モブというのはなくて、自分の役と向き合っています。
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- なるほど。
- 松下
- それぞれ生きているキャラクターの人生がそれぞれ衝突したりするんです。その時に見えるものの為に、もっと深く踏み込んだ芝居を作ろうとしているんだと思います。これまでと同様、勢いは保ちながら。
ウソのない[1]
- 松下
- 今までのがイラストの展示だとしたら、今回は実写の動画という感じですね。どっちがいいかという事ではなく、表現の方法として。
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- 絵を見る時、それを理解する道のりが私は好きなんですよ。映画は、もちろんそういう部分もありますけど受動的な理解の仕方なのかなと思うんです。主導権は映像を映す画面にあるから。がっかりアバターが映像に入ったというのは興味深いですね。
- 松下
- 本当にそうですよね。イラストの時はお客さんに答えを想像してもらえるので。ごまかしが出来たじゃないですか。私達の事を実際以上に良く受け止めてくれるお客さんもいて。今回はごまかしが効かない、嘘を付いていた部分がばれてしまう領域にきたんじゃないかと思います。
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- 逆に言うと、本番の為に役者が考えて来た事が現れない訳はないので。頑張ってください。
質問 夢子オンデマンドさんから 松下 あゆみさんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、夢子オンデマンドさんから質問です。「演技する上で心がけている事はなんですか?」
- 松下
- えー。なんでしょう。月並みな事しか言えないかも。
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- たしか公式HPには、松下さんはスタニスラフスキー信者だと書いてますね。
- 松下
- あれ勝手に書いてるんですよ、もうー。スタニスラフスキーは高校の頃から勉強していて。でも毎日やってる訳じゃないんで信者とか言われても。
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- 例えば、「おしゃれな炎上」の時は肉屋の娘役でしたね。実父にレイプされて家出する・・・
- 松下
- 「おしゃれな炎上」は反省点が多くて。まず、私と父役の子は家族になれてたのかなと。そういう部分をきちんと自分の中で考えておくのはもちろん大事なんですけど、それは舞台上では忘れないといけないのかなと。舞台上で役の設定を考えてしまうと、見られているという自意識みたいなものが、役である事に影響を与えてしまうのかなと。
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- 忘れた方がいい?
- 松下
- そうですね、私・松下あゆみという役があるとしたら、私を演じる役者さんはその役(22歳女)の全ての蓄積を意識するとは思えないんですよね。これまでに過ごしてきた蓄積や時間によって仕草や言葉が生まれるんですけど、でも、そういう仕草や言葉を、例じゃない私松下あゆみが意識しているかというとそうじゃないんです。でも私を演じる役者さんは意識しないといけないんですけど、舞台にあがった時にまで意識しているかというと、していたとしてもそれはその役者さんの蓄積や意識なんですよ。
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- 役者本体と役者の役作りは漸近するけれど条件的に重ならない、ということ?
- 松下
- 役作りした上で、それぞれの意識を深く見れるようにしたいんですよ。どうしたらいいですか?
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- スタニスラフスキーはどういうアプローチをしたんですか?
- 松下
- 善人を演じるには、その人物の悪人の部分を見つけろ、って書いてて。でも、簡単に結論を急ごうとは思ってません。スタニスラフスキーは膨大なシステムなんですけど、長い時間に渡って考えが変わっていった部分もあるんです。私、勉強が終わるまでは結論を出さないようにしておこうと思います。
アバターズ
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- 演劇を始めた経緯を教えてください。
- 松下
- 高校演劇をしていて。私の入っていた高校が、芸能文化科という特殊な科だったんですね。部活というよりは授業で演劇を学んだんです。そこでスタニスラフスキーに出会ったんですよ。部活と授業の、演技の深さの違いが面白かったです。これは一生かけて勉強しないと分からないなと。
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- がっかりアバターに入ったのはどのような経緯が。
- 松下
- 「啓蒙の果て、船降りる」で参加したときに、アンディさんに「入ってよ〜」って言われてて。本気かどうか分からなかったので、「う〜ん」って言ってたら、気付いたらHPに自分の名前があったんです。あ、入ったんやって。劇団員なんや、あたし。
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- なるほど。すでに動かせないぐらいのポジションとして坂本さんの中にあったんですね。では、がっかりアバターの魅力とは。
- 松下
- 劇団員に凡人が一人もいない事ですかね。
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- そうですね。
- 松下
- キャラクター性が強くて。なかなかこれだけのメンバーが揃う事はないと思います。
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- 乾さんの髪の毛はさらさらだし、夢子さんは色々すごいし、松下さんは・・・
- 松下
- 私はよく、アバターの中ではまともだと言われます。アンディとかにはクソアマとか言われますけど・・・
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- それは愛情表現ですね。そして葛原さんは。
- 松下
- 葛原さんは凄いですよ。夢子オンデマンドよりも凄い精神状態かもしれない。
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- え、そうなんですか。あの夢子オンデマンドを超える?
- 松下
- わかんないですけど。明日、がんばってください。
ウソのない[2]
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- いつか、どんな演技が出来るようになりたいですか?
- 松下
- ずっと、その芝居の世界が広がり続けるような芝居がしたいです。上演時間は2時間だけだけど、その前もあとも世界があって、そこをただ切り取っただけみたいな芝居がしたいです。
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- 世界がずっと残っていく・・・?お客さんの心に、そしてよくわからないけれどこの宇宙に?
- 松下
- はい、個人的にですけど。その為には、存在にウソがあったらダメだなあと。架空の物だから、ウソがないようにしたいですね。お客さんに対しては、ピエロみたいな存在でいたいです。世界中の最も底辺でありたい。尊敬されたいとかではなく、「こんな人達でも存在しているんだから、生きよう」って思ってほしいな、って。2年後、全然違う事を言ってるかもしれませんけど。
つながる、そこにいる
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- 芝居を始めた頃に見た、衝撃を受けた作品を教えて下さい。
- 松下
- 衝撃を受けたクセに劇団名やタイトルを覚えてないんですけど、イタリアの学校周りのカンパニーが関西外国語大学で上演してて。それを無料で見れたりするんですよ。8割イタリア語、1割英語、1割日本語の芝居。何が凄いかは分からないんですけど、ずっと見れて。
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- なるほど。
- 松下
- ただそこにあるんですよ。見てる時に、その中に私もいるような感覚があるような。芝居を見ているんですけど、私もそこにいるんです。芝居だとは分かってる筈なのに、そこで起こっている事を全く疑ってなくて。それがずっと、心にあるんですね。
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- 昔インタビューした人がイギリスに留学した時にみた、観客と役者の目線が同じ高さの演劇があったそうです。ちょっとそういう、雰囲気があったりするのかな。
- 松下
- 本当に、私達を意識してなくて。お客さんに見せるという意識がないのかもしれない、だけど見せられるんです。どう作っているんだろう。
学んでいる、学んでいく
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 松下
- 売り方とかの意味ではなく、他劇団と差別化していければと思っています。劇団メンバーが全員、アクが強い人ばかりなので、それを絶対潰さないように。もっともっと生かせるようにしていきたいです。
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- 個人としては。
- 松下
- 私は、ずっと学んでいくという姿勢を忘れないようにしたいです。俳優として常に新しい事だったり、俳優とはなにかという事を学ぼうと思います。
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- 頑張って下さい。応援しています。
シャボン玉発生器
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
- 松下
- すみません。
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- どうぞ。
- 松下
- 拝見しても宜しいですか?
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- もちろんです。本当に大したものではないので。
- 松下
- (開ける)あ、シャボン玉。かわいい!乾と遊びます。