努力クラブ 必見コント集「正しい異臭」
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、九鬼さんはどんな感じでしょうか。
- 九鬼
- 最近は努力クラブの稽古ですね。
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- あ、必見コント集「正しい異臭」ですね。どのような作品になるのでしょうか。
- 九鬼
- お客さんの反応が全く分からないんですよね。こんな笑いがあるのか、というか、これで笑っていいのか分からない、みたいな。私、稽古場で全然笑ってないですよ。わからなくて。
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- 私は最近、そういうものは「悪趣味な笑い」と呼べるのではと思っています。
- 九鬼
- 悪趣味。
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- 自分にしか分からない、他人にはとっては価値がないポイントの笑いであり、その事に対し自覚的であるという事から、そう呼べるのではないかと。努力クラブはそういう笑いの可能性を広げていこうとしているんじゃないかと思っています。
- 九鬼
- 合田君や丸山君、その呼び方を聞いたらどう思うんですかね、反応が気になります。
努力クラブ
元劇団紫の合田団地と元劇団西一風の佐々木峻一を中心に結成。上の人たちに加えて、斉藤千尋という女の人が制作担当として加入したので、今現在、構成メンバーは3人。今後、増えていったり減っていったりするかどうかはわからない。未来のことは全くわからない。未来のことをわかったようなふりするのは格好悪いとも思うしつまらないとも思う。だから、僕らは未来のことをわかったようなふりをするのはしない。できるだけしない。できるだけしないように努力している。未来のことをわかったふりをしている人がいたら、「それは格好悪いしつまらないことなのですよ」と言ってあげるように努力している。(公式サイトより)
努力クラブ 必見コント集「正しい異臭」
公演時期:2011/12/2〜4。会場:XXXX。
わたしの登竜門
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- 九鬼さんが俳優として参加した作品、努力クラブと弱男ユニット「夕凪アナキズム」 を拝見しました。どれも大変面白かったです。演劇を始めたのはどのような経緯があったのでしょうか。
- 九鬼
- 高校演劇から始めて、龍谷大学時代に劇団未踏座 に入りました。でも、未踏座時代に得た事を全然生かせてないんですよね。
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- というと。
- 九鬼
- 未踏座から努力クラブの旗揚げにひょいっと呼ばれて、だから大学時代と隔絶していると思います。後輩に見に来てって言えないですね。
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- 大学時代はどのような作品を。
- 九鬼
- 皆やりたいものを持ち寄ってだったので、色々でした。団員の創作脚本だったり、古城十忍とか、鴻上尚史とか、キャラメルボックスとか、ですかね。あと、三回生の時に初めて演出をさせてもらったんです。漫画原作の、「鈴木先生」っていう。
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- あ、ドラマ化された?
- 九鬼
- そうなんですよ。ドラマ化されて映画化されたので・・・
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- 凄いですね。始めて実写化したのは我々だと。
- 九鬼
- いえそこまではおこがましくて言えないんですけど(笑)。今でも原作者の方とは交流があります。
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- おお・・・
- 九鬼
- 先生、優しい人なんですよ。私は六巻の内容をメインに舞台用に再構成しました。でも長編ですから、四巻からの伏線が六巻で昇華されたりしていて。なんとか、そこの辻褄が合うように、何人かのキャラクターを一人の人物にまとめたり、メインキャラクターを思い切ってカットしたり。今思うとかなり乱暴なことをしてしまいました。原作者の方に本番をご覧頂けて、「自分も六巻だけを読み切りで描くならば、こういうやり方をしたかもしれないね」と言ってもらったんですよ。先生、優しいからお世辞かもしれないですけど。それが凄くありがたかったです。
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- パロディというか、茶化しましたか?
- 九鬼
- 茶化したつもりはないですね。その時なりに、真剣だったかも。未踏座時代は、卒業してからも演劇を続けようという気持ちは無かったんです。未踏座の活動でストレスがたまると漫画を買って発散するような日々で。だから、普通に、働いて、みたいな、そういう生き方をしようとしていたんですけど、「鈴木先生」をやって、こんなに楽しい思いが出来るなら、またしたいなって。でも、学生劇団時代、最後の最後で私は卒業公演には出られなかったんですよ。悔しかったです。
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- 悔しかった。
- 九鬼
- 卒業公演は演出補に回りました。演出補って難しいですね。私の話なんて聞いてくれない役者もいましたし。役者落ちした人の話なんて聞かないですもんね。役者に、「それは違うんじゃないの」って逆ダメ出しされたりしましたね。今思うと、落ちた理由もなんとなく想像つくっていうか、納得できるんですけど。あの時はただただ、後輩に対して恥ずかしかった。卒業公演で役に立つって、卒業しても続けててもいい最低条件みたいなものじゃないですかね。いつか演出をする為の修行として、役者がしたいなと思っていた所に合田君が声を掛けてくれて。それ以降、努力クラブには旗揚げから参加しています。舞台上で緊張したり、集中できてなかったりすることを、むしろ良いって言ってくれる、大事な劇団です。
器用にこなせなくても、やれる事はある
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- 九鬼さんは、役者活動の先に、何かがあると思っているんですね。
- 九鬼
- はい。多分。器用で上手な役者さんいるじゃないですか。私この人にアドバイスされたら聞くなあって思っちゃいますよ。説得力があるというか。だからつまり、私はそうじゃないから、自分の不器用さがもどかしく思っていた反動だったからかもしれないんですけど。この間合田君に、「九鬼さんは頭は悪くないと思うけど、器用じゃないからなあ」って言われたんです。それでいいのかもしれない。
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- どういう事でしょうか。
- 九鬼
- 役者の個々の目として器用に演技がこなせるという事と、全体を見て、例えば「この作品の全体はこういう形をしているから、このシーンの演出はこうであるべきじゃない?」という考え方は、ちょっと違うのかもなあって思ったんです。器用さ=賢さだと思ってたんですね。役者として器用にこなせなくても、やれる事はあるんだなあ、って。
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- 次はコント集ですからね、ずっと空気を切らないようにする事が必要なんでしょうね。それこそ、全体を見る目で。
- 九鬼
- そうですね。それを願ってやみません。
あなたが好きな物が好き
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- 九鬼さんがお芝居を見た頃に見た、衝撃を受けた作品を教えてください。
- 九鬼
- 私、これは癖なんですけど、その時周りにいる近しい人が何かの作品を見て、首ったけになっている姿を見て、うわああってときめくんですよ。ああ、面白そうにしている。ああ、って。
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- 例えば。
- 九鬼
- 本谷有希子の作品にハマっている友達がいて、作品に夢中になっている姿が可愛くて。だから、本谷有希子というよりは、本谷有希子を観ているその子に、衝撃を受けたといえば、受けた。
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- ときめいている姿にときめく。
- 九鬼
- はい。
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- 瑞々しい感覚ですね。分かる気がします。ご自身にはなぜそういう感じ方があると思われますか?
- 九鬼
- 自分の目に自信がないんでしょうね、きっと。あなたが好きな物が好き、という言葉になるんですけど。私がこの人センスがいいなあと思う人がいたとして、その人は最初私のことをそんなに好きじゃない。私が心底頑張って、その人がもし私の事を気に入ってくれたら、その人が好きになったものなら私も好きになれるから、それで自分を肯定出来そうな気がする。という気持ちですかね。
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- なるほど。
- 九鬼
- 自分の碇を持ってる人はセンスがいい気がします。努力クラブの稽古場でも、合田くんや丸山くんがどういうポイントで笑うかが面白いんですよ。本当はお客さんにそこを見て貰いたいですね。
質問 西原 希蓉美さんから 九鬼 そねみさんへ
頭が言葉を迎えにいく
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- 九鬼さんは演劇を続けようかどうかでとても悩んでいるそうですね。
- 九鬼
- 努力クラブに入るかどうかですごく悩んでいるんですよ。旗揚げ公演から関わっていて、入るなら努力クラブなんだろうなと思うんですが。ここに載る時も、所属に努力クラブって書いて欲しい気もしたり。まあ入ってなくても出てますからね。何だか結婚する前に同棲を始めたカップルみたい。入籍するきっかけがなかなか。
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- 演劇を続けているのは、どういう思いがありますか?
- 九鬼
- いつか演出をしてみたいから、かな。そのための役者修行が4年くらい続いてますけど。
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- いつか、どんな演技が出来たらいいと思いますか?
- 九鬼
- うーん。声が大きくて頑張ってる役者さんがいたとして、でも台詞が全然頭に入ってこない場合があると思うんです。逆に、小さい声量でも耳が自然と言葉を追う事があって。それは何でだろうと思うんですよ。役者さん本体の力なのかもしれないですけど。お客さんが、無理せず台詞を聞き取れる役者になりたいですね。
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- 一つの側面として、役作りというのはあるかもしれませんね。俳優として立っている人間の言葉と、彼が演じている役の経験の重みが一致している時にその台詞が言えてる、という。
- 九鬼
- なるほど。
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- その「言えてる」はガラスの仮面でよく出てきますが、主観的な指標なので判断しづらいんですけどね。しかも演技ってそれで価値を持つ訳じゃないし。
- 九鬼
- そうなんですよね。役者だけが頑張っても、全体の演出がそれを生かせてないと意味がないし。
努力クラブに入ろうか迷っている
後日、入団されたそうです。おめでとうございます。
「くっ」
- 九鬼
- 最初に演出をした時、お芝居の中で、女の子に性的な意味で負荷の掛かる主張をさせたんですね。学級会という設定でその子に辱めを受けさせたんです。その子以外はドン引きしている状況で。で、その子を結果的に責めることになってしまう役まわりの女優がですね、「くっ」ってその子から目を反らしたんです。みてられない、みたいな顔をして。私は、それは違うと思って。信じられないものを見る目でその子を見なさい、と指導しました。直後の返し稽古で、見られた方の子が泣き出して。それが凄く楽しくて、恥ずかしい台詞を言わせたことだけじゃなくて、彼女が周りの視線によって惨めになって泣かせることができて嬉しかった。後で本人に聞いたら、惨めで仕方がなかったって。
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- すばらしい。
- 九鬼
- そういう出来事が嬉しかったですね。後輩の女の子を泣かせて、ひどいんですけど。
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- お芝居の稽古というか、人間性に直近したというのが大きな成果なんでしょうね。
- 九鬼
- そういうのをもっとやっていきたいなあと。役者が、役者として深く潜ってくれるのは、わかっていて。その結果、惨めな子が可哀想で、「くっ」とやろうと思って、稽古で見せてくる。それに、違和感を感じて、この違和感って何だろう、むしろ逆に視線を逸らさず、見た方がいいんじゃないか。結果惨めさがアップする。なんかそう言う風に作っていけたら。そうした葛藤の全てが最後の最後に決着を見て、ストレスが解放されるというのがいいですね。でもいま努力クラブで全然別の価値観を見させられているので・・・正解っていっぱいあるんでしょうね。価値観は一つだけってわけでもないですから。
距離感
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- 今後、やってみたい人や参加したい劇団はありますか。
- 九鬼
- いや、そりゃあ、末永く努力クラブに出させてもらえたら嬉しいんですけどね。憧れてた弱男ユニット さんについに出させて頂きましたし。これ以上欲張ると罰が当たりそう。出たかったといえば、笑の内閣 ですかね。卒業してしばらく映像オペやらせてもらってたんですけど、ずっとオペ卓で観てて、どうしても、楽しそうで。絶対出られないと思うと辛くて。アゴラで舞台に立つとか、うらやましくてしょうがなかったです。でも籔内君とか、オペしながら舞台に立ってたし。もちろん、私にあんな器用なことは出来ませんが。
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- 今後、演出として作ってみたい作品は。
- 九鬼
- 何かを信じている人、と、その周囲を、書きたくてしょうがないんですよ。お芝居でも音楽でも、何かを信仰している人に付き合わされる話が。基本的には優しいいい人だから、つい付き合いで芝居とかライブとかに行ってしまう。目の前の関係性に負けて。それは結果的には良くないんですけど。
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- その人との距離感、でしょうか。
- 九鬼
- はい、どこまでやれば、干渉になっちゃうのか、という・・・何を信じるかではなく、どう信じるかである、という事をずっと思っているんですけど、その一貫性が私にはないからうわぁってなってるんです。その信じ方変だよって言う権利があるかどうかなんて。
夕暮れ社弱男ユニット
2005年結成。当初はライブハウス、砂浜など劇場外での活動を主としていたが、2008年より活動の場を劇場へと移す。従来の客席・舞台という構造の認識を、骨太な戯曲により再構築することを試みている。過去には、客席を破壊/再生した「現代アングラー」(2008年/次代を担う新進舞台芸術アーティスト発掘事業「CONNECT vol.2」優秀賞受賞)や、劇場の真ん中に客席を設置し、その周りをグルグルまわりながら物語を紡ぐ「教育」(2010年/大阪市立芸術創造館セレクション選出)などがある。(公式サイトより)
笑の内閣
笑の内閣の特徴としてプロレス芝居というものをしています。プロレス芝居とは、その名の通り、芝居中にプロレスを挟んだ芝居です。「芝居っぽいプロレス」をするプロレス団体はあっても、プロレスをする劇団は無い点に着目し、ぜひ京都演劇界内でのプロレス芝居というジャンルを確立したパイオニアになりたいと、06年8月に西部講堂で行われた第4次笑の内閣「白いマットのジャングルに、今日も嵐が吹き荒れる(仮)」を上演しました。会場に実際にリングを組んで、大阪学院大学プロレス研究会さんに指導をしていただいたプロレスを披露し、観客からレスラーに声援拍手が沸き起こり大反響を呼びました。(公式サイトより)
九鬼そねみ
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 九鬼
- バイトでチラシを四条河原町で配ってるんですけど、前回公演を見て下さった方が「努力クラブで踊ってた人が配ってた」ってtwitterで書いてくれて。「踊ってた人」じゃなくて、名前を覚えてもらえるようになったら嬉しいですね。
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- 「そねみ」という言葉は、どういう意味なんでしょうか。
- 九鬼
- 九鬼は本名なんですけど、名字のインパクトが強すぎるのでバランスをとろうと思って。それと「ねたみそねみちゃん」というキャラクターを金平守人さんの漫画だったかな、見た気がするんですが、そこからも。・・・羨ましいんですよね。
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- 嫉妬心が深い?
- 九鬼
- まぁ・・・。
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- 嫉妬心が深い事を公言する人はなかなかいないですね。
- 九鬼
- 羨ましいです。何もかもが。羨ましい。悔しいです。
「Danke」の猫のインソール
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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントがございます。どうぞ。
- 九鬼
- ありがとうございます。開けてもいいですか?
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- どうぞ。
- 九鬼
- (開ける)インソールだ。
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- ハサミで切ってもらって、サイズを調整出来るもののようです。赤色と猫が嫌いじゃなければ。
- 九鬼
- 二つとも好きなんで、でも踏みつけにすると思うと辛いですね。
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- 見えない部分のお洒落という事で。
- 九鬼
- ありがとうございます。