まだ暑い日
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- 今日はどうぞよろしくお願いします。最近山岡さんはどんな感じでしょうか。
- 山岡
- よろしくお願いします。最近は夏にニットキャップシアターさんの「チェーホフも鳥の名前」が終わって、ハネオロシさんの「雨降る正午、風吹けば」も終わって。今は11月の劇団ZTONさんの公演に向けて、お稽古に通っているところです。
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- ハネオロシさんだけは拝見できなかったんですが、ニットキャップシアターさんは観れました。大変面白かったです
- 山岡
- ありがとうございます。
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- まだ夏も暑いですが、稽古頑張って下さいませ。
「チェーホフも鳥の名前」
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- 「チェーホフも鳥の名前」、どんな経験でしたか?
- 山岡
- 今回は2回目のニットキャップシアターさんだったんですが、前回は30人ぐらいのキャストさんがいて。すごく大所帯で作品を作っていました。今回は9人しかキャストがいなかったので、また違った雰囲気で稽古が進んでいきました。3時間の上演中、ほぼ皆出ずっぱりの状態でやっていたので、体力が上がった感じはします。
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- 長丁場でしたね。
- 山岡
- 物語自体もすごくスケールが大きくて。それぞれの血筋をずっと追っていくという。私はロシア人の血筋だったんですけど。楽しかったです、とても。お芝居を続けてきたことへのちょっとしたご褒美のような時間でした。すごく幸せな。
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- 百年単位で家族の人生を追っていく感じがありましたね。
- 山岡
- 一人の人生を追っていくことはありますが、家系の三人分というのはないですよね。
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- 政治と戦争に翻弄されながらも、自分たちの足できっちりと立つ家族の姿が描かれていました。
- 山岡
- はい。時代や国は違ったりするんですけど、どこか共感できるところもあったりとか、どうしてそういう選択肢になったのか、みたいな想像力をかき立てる部分もあって。普遍的な作品でしたね。私、客席から見たかったです。
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- 見応えありましたよ。山岡さんのおばあちゃん役はとても似合ってました。
- 山岡
- (笑う)ありがとうございます。
ニットキャップシアター 第39回公演「チェーホフも鳥の名前」
公演時期:2019/8/31~9/2。会場:アイホール。
最初はミュージカル
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- 山岡さんが演劇を始めたのはいつからなんでしょうか。
- 山岡
- 初舞台は3歳の時のバレエの発表会でした。そこから子供バレエ教室みたいなところに通っていて、必ず1年に一回は舞台に立つのが今までずっと続いていて。お芝居は何が最初になるんだろう。小さい頃からごっこ遊びが好きだったんですよ、お姫様の気分でご飯とか、これは3日ぶりのご飯、だとかいろんなことをしながらずっと遊んでいて。小学校はミュージカルクラブで、それはバレエ以外での初舞台でした。ストレートな会話劇の舞台は、中学校の演劇部です。途中で少しバンド活動もしていました。
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- 山岡さんのスタートはミュージカルなんですね。
- 山岡
- でも大学に入ってきちんと学んだりはしなかったので。関西小劇場と呼ばれるこの界隈で芝居を始めた頃はあまり言わないようにしていました。本格的に学んだ人たちがいるのに私ミュージカルやってましたというのはなんかおこがましい気がして。
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- 別にいいと思いますけどね。
- 山岡
- 最初の3年ぐらいは歌わなかったんですけど、何かの拍子に舞台で歌ったんですよ。それがきっかけだったわけじゃないと思うんですけど、去年ぐらいから歌う現場が増えました。ロームシアターでのユリイカ百貨店さんでの舞台とかも。ミュージカルづいてきたんですね。劇団とっても便利さんにも出演させていただいたり、メガネニカナウプロデュースでも。
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- 露見しつつありますね。
- 山岡
- やっぱりミュージカル好きなんですね。来日公演とかを色々観に行ってはいましたし。呼んでいただける機会があるのなら、もう一度色々勉強し直さないといけないなと思ってます。
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- ミュージカルいいですよね。色々な感情を歌と踊りにのせるからすごく迫力があって。と同時に、歌詞と台詞と旋律とリズムが同時に様々な情報をそれぞれの構成で同時に重層的に表現してくるから、見る側も多層的な鑑賞になるんですよ。その解釈が並行するから本当はすごく複雑なんですよね。
- 山岡
- そうですね。音楽の力がぐっと押し上げてくれるのが面白いですよね。
人前に立つこと
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- 子供の頃からそういうごっこ遊びとかそういうのが好きだったんですかね。
- 山岡
- 幼稚園の頃に七夕に短冊を書いたりとか、子供の頃に将来の夢を書くじゃないですか。私、「歌手になりたい」ってずっと書き続けてて。お花屋さんとかケーキ屋さんとかセーラームーンとか一回も思ったことがないんですよ。
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- あ、そうなんですね。
- 山岡
- 他の選択肢がそもそも無かったんです。
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- 人前に立つのが好きなのか、歌うのが好きなのか。その両方なのか。
- 山岡
- どうなんだろう。人前に立つのが好きかと言われると、ちょっと違うかもしれないです。私本体で立つのはあんまり得意じゃないんですよ。アフタートークとか、私めちゃくちゃ緊張するんです。こないだ実家を整理してたら、小学校1年生の頃に書いた将来の夢作文に「私はスポットライトを浴びながら歌いたい」みたいなことを熱い感じで書いてあって。ちゃんと夢叶ってるよと。幼稚園ぐらいまではスナップ写真とかで端っこの方に無表情で写ってるような子だったのに、ミュージカルに出会ったあたりから少しずつ今の私に近づいてる感じはします。
「動き」
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- 山岡さんご自身の舞台をする上での姿勢について教えてください。
- 山岡
- 根本的に演劇が好きなので、それにまつわることであれば何かご縁があれば飛び込んでみたいなと思いますし、お芝居のお稽古に行くのも好きだし楽しいですよね。稽古場にいる時が一番健康でいられるのかもしれません。朝しんどくても稽古に行ったら元気になれる気がします。「台詞覚えるの早いですよね」とよく言われるんですけど、早く覚えた方が楽しい。台本を見ながらよりも、相手のことを見ながら芝居した方が楽しいので。好きなことをしてるから覚えられちゃう部分もあるのかなと思います。
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- 山岡さんはご自身の役の台詞をどうやって作っていますか?
- 山岡
- ええと、物理的にセリフを覚えて、最初のうちは家ではあんまりあれこれ考えないです。稽古場に行って芝居をしていく内に気づくことがあります。「なるほど、このときこういうことを考えるわ」みたいな、台本を読んでるだけでは分からなかった行間の思考回路とか感覚とか動きだったりとか、自分でやってるはずなのになるほどと気づかされるものがあります。それが連続して、一本に繋がっていく感覚があります。
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- つまりご自身で演技を考えて作り込むわけじゃなくて、演技をやってる自分に気づかされるということ?
- 山岡
- そうですね。考えるよりも先に身体が動いちゃったりとか思考が働いたりだとか、そういう瞬間をキャッチできた時。感情も意図しないところで触れるものがあったりする。
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- 誰かから教えられるんじゃなくて自分にそれに気づくというのは大事ですね。
- 山岡
- そうですね、でも結局それは一緒に芝居をしてる方がくれたものであったりもするし、周りの環境を受けてのことだったりもするので。突き詰めていくと周りが気づかせてくれることなんですよね。自分一人で考えていたら気づかないことなんですよ。
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- 一人っきりでの修行みたいな環境で作ったものと、周りの人がいる環境で作るもの、の違い。お客さんが、そうやって作り上げられたものを果たして受け取ってるかと言うと絶対に受け取ってると思います。
- 山岡
- そうですね。
質問 勝山 修平さんから 山岡 美穂さんへ
山岡さんと役の関係・1
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- 人の人生を預かってるわけですからね。
- 山岡
- そうなんですよ。「役を演じさせていただきます」という言い方をするのは苦手で。「彼女の人生を預かります」ってSNSとかに書かせて頂くことが多いんですけど。
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- 「預かる」と「演じさせていただく」の違い。演じるというのはつまり一時的な行為であり、本人はまた別の位置にいるという事ですかね。
- 山岡
- そうですね、そこに山岡美穂がいる感じがして、あくまでも私、みたいな。私のフィルターを通して脚本が表出されていくので絶対に私の成分が何かしら入ってるとは思うんですけど、でも私というものがいらないなとも思っています。
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- その役柄に敬意を持とうと思うんだったら、確かにエゴ(自分の表現に、自分しか関与しない理由に基づいて拘るような事)は邪魔になるかもしれませんね。役を預かるのであれば、さらに。
- 山岡
- 勝山さんの質問の答えの続きになるんですけど、その人の人生を預かる覚悟は絶対に手放さないように、意地でも手放さないまま最後まで走り切ろうと言う気持ちはあります。
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- 台詞を与えられた・その場にいることを許されたから・その場での使命があるから、というような理由だけではなくて、その役の人格の存在を認める事から始める。そう、役に人格があるという事実、驚異的ですが確かに事実なんですよね。
- 山岡
- ありますね!私が全く関係ないところにその輪郭がどんどんはっきりしていく過程があります。さきほどの「自分が自分に気づかされる」という所につながっていきます。
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- 幽霊だとかそういう話じゃなくてちゃんとした人格が役にはある。役者とは無関係に彼らの生活や内的思考は存在している。
山岡さんと役の関係・2
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- いつか、どんな演技ができるようになりたいですか?
- 山岡
- 私は大竹しのぶさんがすごく好きなんです。舞台を何度か観に行ったことがあって。それぞれ全然違う役だったんですけど、でも大竹さんご自身が生きてきた何十年か分を全部背負ってそこにいる感じがして。それはすごく素敵だなぁと思ってます。良いことも悪いことも全部背負った上で、でもそれはさておきその役に没入している感じがあって。私もこれからどんどん年齢を重ねて嬉しいことも悲しいこともたくさんあると思うんですけど、それは何一つ取りこぼさずに・全部ひっくるめて抱きしめて、物語に振り回されたいと言うか。
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- 「物語に振り回されたい」。
- 山岡
- 毎回、台本を最初に読んだ感覚と千秋楽を終えた後の感覚が全然違うんですよ。自分が思ってもみなかった所に連れて行ってもらえるので。そこに行くために、どんどん身軽になりたいなと思っています。自分自身のつまらないこだわりはもったいないなと思っています。もちろんこだわらないといけないことも沢山あるんですけど。
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- 身軽になりたい・・・私個人はつまらないこだわりを大切にしてしまうタイプなので難しい気がしています。
- 山岡
- 私も頑固なんですよ!だから多々、自分でも良くないと思う一瞬があって。内容にもよるんですけど、何となくで手放すと絶対に後でもっとこじらせるから、そこから離れるべき理由を探って納得しようとします。20代前半の時ほどそういうことは多かったです。「なぜこの人はこういう考え方なんだろう」「なぜ私の考え方ではダメなのか」とかをどんどん知ろうとしていく方が良さそうに思えています。
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- 山岡さんは役の思考や想念が放射状に広がっていくと想定するのではなく、どこに収斂するかをまず捉えたいように思えます。役の人生のテーマを預かり、その根本を追い求めていく。
- 山岡
- そうですね、確かにそうかもしれません。あくまで、「あなたはどうしたい?」ということを考えるところがあります。私がハンドルを握るのではなくて。二人乗りの足漕ぎボートで言えば、私が漕ぐ係で役の人がハンドルを持っている。一生懸命漕げば漕ぐほど、色々な別の景色を見せてくれる。
辛い時期もある
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- 逆に、稽古で辛いことはありますか?
- 山岡
- 稽古が楽しいし好きですとは言いましたが、うまくいかない時や苦手なことに出会ったりとか、どこに向かったらいいんだろうかと悩む瞬間もあります。稽古帰りの電車とかはすごく凹みます。自分の力不足を思い知らされる時もあるし。でもお家に帰って夕飯食べたりあったかいお茶のんだりすると、凹んでるのももったいないなと思って、どうしたらいいかを考えるようにしています。
劇団ZTON vol.14「ソラノ国ウミノ国」
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- ZTONの「ソラノ国ウミノ国」。とても楽しみです。
- 山岡
- ありがとうございます。メキメキと稽古が進んでいます。
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- もうあと1ヶ月ですね。どんな作品になりそうでしょうか。
- 山岡
- 今回出演者が多いんですよ。
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- オールスターですね。
- 山岡
- 色々な所で活躍されている方がひとつの舞台に集まるんですよ。そろそろ稽古が10日目なので、初めましてという空気感から一歩踏み込んでいるところです。
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- とても楽しみです。為房さんは脚本が書けるんですね。
- 山岡
- 31人が出てくる脚本を。出来ないことを知りたいぐらいですね。
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- 稽古のノリを教えてください。
- 山岡
- 作っていく過程を楽しもうという雰囲気はすごくありますね。大人数なので全員が揃うということはなかなか難しくて。誰かがいない時は代役が入るんですが、先輩方がすごく楽しそうに演じられていたりとか、それに触発された今回初舞台の人の演技にふといい瞬間が生まれたりして。現場としてすごくいい雰囲気だなと思います。
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- 意気込みを教えてください。
- 山岡
- 今回初めて武器を持って戦う役なんです。今までも強い女性というのは割といただく機会が多かったんですけど、物理的に強い女性は初めてです。自分の思考回路や感情の起伏にどう影響してくるのか、楽しみです。
劇団ZTON vol.14「ソラノ国ウミノ国」
あらすじ 数百年の昔、ソラノ国はウミノ国の軍勢と戦い勝利を得た。 ウミノ国の軍勢は 異形の物。 目にすれば視界がつぶれ、声を聴けば音を失う。 ウミと交わるな。交われば其は災厄となり、ソラを堕とす。 《ソラノ書 第二節》 親から子へ、連綿と語り継がれる『ウミノ国』の伝説。 『ソラノ国』と『ウミノ国』は、高くそびえたったカイリの壁によって分けられ、その交わりは長きにわたり禁じられていた。 …禁じられていたはずだった。 ソラノ国の貧民街に住む少年、ハル。 ある日、彼は一通の手紙を手に入れる。 差出人の名は、アキ。 届くはずのない2人の願いが交差し、閉ざされた壁が開くとき、ソラとウミの真実が明かされる。 【日程】 2019年11月1日(金)~4日(月・祝) 11月1日(金)19時開演【ハルの書】 11月2日(土)14時開演【ハルの書】 11月2日(土)19時開演【アキの書】 11月3日(日)14時開演【アキの書】 11月3日(日)19時開演【ハルの書】 11月4日(月・祝)12時開演【ハルの書】 11月4日(月・祝)16時30分開演【アキの書】 ※開場は30分前を予定しております。 ※両作品の内容はほぼ同一のものとなっており、話の筋や結末が変わるものではございません。「ハルの書」「アキの書」は、一部のシーンでの視点が変化し、その違いをお楽しみいただけます。 【会場】 in→dependent theatre 2nd (〒556-0005 大阪府大阪市浪速区日本橋四丁目7-22 インディペンデントシアター2nd) 【チケット料金】(税込) S席(各回限定10席・指定席・一般のみ) 前売料金一般:¥4,500 当日料金一般:¥4,800 A席(自由席) 前売料金一般:¥3,500学生:¥3,200 当日料金一般:¥3,800学生:¥3,500 ※S席は最前列中央寄りの10席です。 ※学生は大学生以下が対象となります、当日受付にて学生証の提示をお願いいたします。 ※未就学児のご入場はお断りいたします。 ※チケットはお一人様1枚必要です。 ※開演時間までにご来場いただけない場合、当日のお客様を優先させていただく場合がございます、ご了承ください。開演5分前までにご来場いただくことを推奨いたします。 【キャスト】 ■劇団ZTON 久保内啓朗 高瀬川すてら 為房大輔 図書菅 ■GUEST 京本諷 堀内玲(リアルム) maechang(BLACK★TIGHTS/Sword Works) 木暮淳(劇団土竜) るりこ(TP-SATELLITE) 三浦求(ポータブル・シアター) 堀江祐未(サテライト大阪/魅殺陣屋) 中 聡一朗(激富/GEKITONG) 山岡美穂 岡本光央((株)キャラ/華舞衆 彩り華) BANRI(Sword Works) 小出太一(劇団暇だけどステキ) 野倉良太(東京ガール) 田中之尚(カンセイの法則) 平宅亮(本若/Sword Works) 新免誠也 岡田由紀 亮介(株式会社イリア・モデルエージェンシー) ■アンサンブル 上野剛吉(リアルム) 上原由子 大塚洋太 神田厚也(リアルム) 菊崎悠那(Sword Works) 澤?真矢 土岐省吾(K-HEAT) 難波優華(Sword Works) 三浦環加奈(テアトルアカデミー) 【スタッフ】 脚本・演出:為房大輔 舞台監督:今井康平(CQ) 照明: 牟田耕一郎(ママコア) 音響:Motoki Shinomy(SAWCRNT/common days) サンプラオペレーター:福島健太(本若) 衣装: 鈴木貴子 ヘアメイク:KOMAKI(kasane) 小道具:劇団ZTON 殺陣・振付:為房大輔 ビジュアル撮影:脇田友(スピカ) 宣伝美術:中森あやか(劇団ZTON) 当日制作:秋津ねを(ねをぱぁく) 制作・広報:劇団ZTON 企画・製作:劇団ZTON
岩合光昭写真集『こねこ』
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- 本日はお時間を頂き、誠にありがとうございました。山岡さんが、俳優として・同時に人間として真摯にご自身の役と向き合っておられる事がよく分かりました。そうでなければ体得出来ない感覚について、お話の中で少し示唆されていましたね。今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼント送ってまいりました。
- 山岡
- ありがとうございます(開ける)あ、猫。可愛い。ありがとうございます。あぁ可愛い。私、猫を尊敬してるんですよ。自分の体に収まる範囲の幸せを携えてるんですよね。欲張りすぎず、例えば日当たり良いなあとか美味しいもの食べられたなぁとかそういう幸福。
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- 分かる気がします。
- 山岡
- 見るからに不幸そうな猫ってあまりいないじゃないですか。野良猫でも気持ち良さそうにお昼寝してたりとか。そういうことを忘れない生き方がいいなと思っています。