演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

砂連尾 理

ダンサー

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混合

___
今日は宜しくお願いします。最近はいかがですか。
砂連尾
最近はねえ。先週、東京で初めてのソロを。今は、11月5日に京都造形大で上演する、ジャン・ジュネっていう思想家のテキストをもとにした作品を作ってます。それとじゃれみさでの「踊りに行くぜ!」の製作をしています。
___
ありがとうございます。ダンスの稽古って、どんな・・・。何か、芝居の稽古とはまったく違うものだと思うんですけど、ある方向性を見つけて、それを磨いて行ったりとか、追求していくことだと思うんですが。どんな感じですかね。稽古に対する姿勢というか。
砂連尾
多分それは、演劇の場合も同じだと思うんですけど、まず基本練習があって、それはバレエでいえば、バーレッスンとかの型みたいな体系立てられた稽古を日々繰り返します。
___
はい。
砂連尾
それ以外にも、例えば僕はいま合気道を始めたんだけど、まあ、自分なりに色々なメソードをミックスさせて体の鍛錬を日々行って。で、創作活動としてはあるテーマ、コンセプトに基づいて、新たな身体言語を開発していきます。もしかすると、その作業は作家さんが文章を書くような、新たなストーリーや言い回しを発見して文章化するような、そんな作業を体を通して行なっていくみたいな感じですかね。
___
なるほど・・・。
砂連尾
そういうことを、チマチマチマチマチマチマと、やらざるを得ないというか。
___
ああ・・・。
砂連尾
やっぱ、自分自身の体を同時には見れないじゃないですか。ビデオに撮って見れたとしても、同時に、詳細に見ることは出来ない。もちろん、訓練によってもう一つの自分の眼っていうのを作っていったりするんですけど、でもやっぱり、そういう事をするまでの鍛錬の時間は必要で、やっぱり、ノートやビデオに記録して鏡代わりにしては、生み出していった振りを作っては壊し作っては壊しを繰り返していくんですね。
___
本番に向けて練習の期間を取っている訳ですが、シーンごとの追求のし終わりっていうのはどこになるんでしょうか。
砂連尾
これは、本当にこんなやり方で良いのか分からないのですが、今のところ本番までの期間をリミットにしていますね。きっと、もっと探せば探すほど追求出来るのだとは思うのですが、設定されている期間で「とりあえずはここまで」としていますね。
___
なるほど。
砂連尾
うん。
___
うーん。
砂連尾
・・・ところで、ダンスは、どういうところから見始めたんですか?
___
あー、最初はしげやんのを見てから、ですかね。
砂連尾
じゃれみさは。
___
あー、6回ぐらい見てると思います。そうですね。テーマ性・・・テーマ性?ていうか。独特の暗さというか、うん。暗いのかな。
砂連尾
軽さと重さが混合しているみたいなね。
___
それが、一つのシーンに混じっている部分と、分かれている、マーブルな感じが面白いですね。
砂連尾
マーブルってのは、色んな感じが混じっているっていう事ですか。マーブルチョコってありますよね。
___
色の薄い所と濃い所が混じっていたり、そういう所ですかね。
砂連尾
いやいや、そういうところって色々聞いてみたいですよね。どんな風に見てるか、とかはね。
___
ええ、不思議な気分で毎回拝見してます。
踊りに行くぜ!

全国のコンテンポラリーダンサーを支援するNPO・JCDNが主催するダンス巡回公演プロジェクト。2009年現在、10週年を迎える。コンテンポラリーダンサーに別の土地での発表の機会与えている。

領域外

___
その、これはお聞きしていいかどうか微妙なんですけど。えー。ダンスって言葉がないですよね。そういう事に制限を感じてしま訳で。言葉がない、さらに抽象性の度合いが高くなってくると、理解のハードルが高くなり、エンターテイメントとして楽しめなくなっている観客も出てきてしまうと。
砂連尾
その辺を、どう認識して活動しているか、という事ですよね。
___
ええ。
砂連尾
色んな答え方があると思うんですけど。えーと。
___
はい。
砂連尾
私の実感として、言葉で全てが語れる訳ではないということはまず前提となっていると思うんですが、でも、まあ、分からないという事はある意味恐怖になるというのは分かります。
___
ええ。
砂連尾
これは僕がニューヨークに留学してた事と非常に関係があると思うんですが、ニューヨークに初めて行ったのが25歳の頃だったんですよね。その時、私個人の状況は日本ではそんなに舞台芸術とか音楽を観たり聴いたりする機会が限られていたので、少なかったんですが、まあ、アメリカはブロードウェイから前衛ものまで多種多様にあり、そして何より日本より格段に安く観れたんですね。渡米当初は向こうに友達もいないで行ったので、毎晩劇場に行くのがレッスン以外では楽しい事だったんですよね。数としてはかなり行ったと思いますよ。僕、ニューヨークフィルの会員にもなってて。音楽・オペラも含めたら2〜300の公演に行ったんじゃないかな。
___
ええ。
砂連尾
ほぼ毎日見てるという週が何週も続いたり。言葉が分からなかったり音楽の予備知識も少なかったので元から作品の内容を分かろうとしない所から入ったんですよね。とりあえず意味的に理解しようとするのではなく、先ずは感じようと。例えば、クラシックとかではベートーヴェンとか知ってる曲は聴けたけれども、そうじゃない初めての曲や現代音楽って最初はしんどい訳ですよ。
___
知らない曲って、どれも同じに聞こえてしまいますね。
砂連尾
でも会員になっちゃうと演奏が分からず楽しめないのは勿体無いから、聴きに行く前にCDを借りて聞いたり、オペラとかだと年に何回か同じ演目をやるから複数回行って、同じ曲や演目に触れる機会を多くするわけね。そうすると、以前には気付かなかった旋律に気付くんですよね。それから、そういう楽しみ方を音楽以外にも当てはめていくようになったんですね。例えば、バレエだったら、同じダンサー、同じ演目でも体の動かし方が違ったり。そういう事に気付いていく事が、何か凄く楽しくなっていったんですよね。
___
なるほど。
砂連尾
楽しみ方ってのは色々あるし、そういった意味では、その、分からないと言ったことがあんまり絶望的なことではないなあっていうか。分からない事から、自分なりの見方、感じ方を作る第一歩が始まるっていうか。
___
ええ。
砂連尾
世の中、舞台の数は限られていて、その日見てつまんなかったらもう観に来ない人はいっぱいいる。私達の舞台にしても、こちらがその日の為にしっかりとコンディションを整えて本番に臨んでも、分からないと思われる事は充分あり得る訳で。ただ、分からない事から始まる可能性を信じ、それでも、なおかつ理解出来ないと言う結果ならばそういう縁で仕方ないと思うことにして。言葉の領域外のもの、抽象的なものが、この世には一杯あるという事を伝える手段が、舞台芸術、とりわけダンスには非常にあると思っています。
___
なるほど。
砂連尾
だから分かりにくい事に対して、そんなに悲観的ではない。もちろん、非常にマイノリティ的な発想かもしれないけれど。言葉が通じない中での、他人の仕草だとか表情だとか。そういうもので凄く幸せに感じた事もあるし、言葉ってコミュニケーションでありながらディスコミュニケーションにもなりえちゃうって言うか。
___
誤解を生み出しやすいとか、そういう事ですか?
砂連尾
うん、そういうのもあるし、例えば日本語だったら、日本語を喋れない人からしたらそれはディスコミュニケーションじゃないですか。
___
はい。
砂連尾
で、えっと、そういう事になったら別に言葉が絶対に一番理解しやすいものじゃないんじゃないかなと。
___
言葉を意図的に排除するという考え方ではなく、言葉のない世界のコミュニケーションもあるという事ですね。
砂連尾
それも人間としては重要だろうと。言葉も重要だけど、そうじゃない世界も重要だなと。別に体のコミュニケーションが一番とは思ってないですが。

転換

___
これまで砂連尾さんは、オリジナルはもちろん他の方の作品もダンス化されたりしている訳ですけれども、次はどんな追求をされるんでしょうか。
砂連尾
そうですね。単純に、自分自身が今まで見たこともなかった、或いは欲求していきたい身体を追及していきたいと思ってはいますね。
___
その、理想的な体というのは、言葉で表現出来るんでしょうか。
砂連尾
えっとね。その理想的という言葉はちょっと難しいかもしれないけれど。何か。
___
はい。
砂連尾
さっき言った事ですが、最近合気道を始めまして。実はそれまで格闘技ってどうしても力と力のぶつかり合い的な捉え方をしてたんですね。
___
はい。
砂連尾
つまり、相手からこう力が来たらこう返さないと自分がこわい、みたいな事だと思っていたんですが、合気道ではその「力を外す」、という発想で。今までの自分の考えとは違う取り組み方で身体を実感出来たんですね。それって面白いなあと。まさに自己変革が起こっていったんですね、その発想をキッカケにして新しく開発する分野が発見出来たというのか。いや別に舞台用に合気道を翻訳するわけじゃないですが。
___
はい。
砂連尾
これが自分の思考において、どういう風な発想の転換が起こされていくのか、そして今後どのような展開になっていくのか、とても楽しみですね。
ダンス化

2006年に松田正隆原作「パライゾノート」をダンス作品化するなど。 http://www4.airnet.ne.jp/jaremisa/works/2006paraiso.html

モノを作る

___
その、ずっと京都を中心に活躍されている訳ですけれども、京都の環境ですとか、そういう面については。
砂連尾
そうですね、京都以外で仕事をしたことがないのでなんとも言えないんですが、物を作るという事に関していうと、京都というのは非常に恵まれてますね。芸術センターもあるし。
___
ほど良く狭いし。
砂連尾
ええ、それと、やはり東京よりはゆったりとした時間が流れていると思いますね。じっくり腰を落ち着けて、物事を見、そして物造りを行なう精神的余裕が京都にはあると思います。
___
そうですね。
砂連尾
でも危険なのは、甘えすぎてしまうと自分のやっている事がしっかり批評されない危険性が京都にはあるだろうと。やはりモノを作る人間としては批評に晒される事を常に受け入れなくてはやっぱり淀んでしまうと思うんですよね。
___
そうですね。
砂連尾
それは非常に怖い事なんですが、そういう面では東京の人はやっぱり、厳しい面を持ってるし、そういう厳しさってのは僕にとっては必要かなとは思いますね。
___
なるほど・・・。
砂連尾
僕は怠け者なので(笑う)。

お香

___
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。(渡す)
砂連尾
おっ、なんですかこれ(開ける)。え、お香?
___
ええ。
砂連尾
あ、お香好きなんですよ僕。
___
あ、良かった。
砂連尾
ありがとうございます。
___
今日は、ありがとうございました。
(インタビュー終了)