BRDG
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。お話するのはほとんど初めてですね。最初に山口さんの作品を出演を拝見したのはBRDGの第一回公演「ハシ×ワタシ」 ですね。
- 山口
- 2011年ですよね。今年上演した「TEA×HOUSE」も見て頂いて、ありがとうございます。実はその間にも、ダンスのイベント公演等にBRDGとしても、個人的にも参加しているんです。凄くスローなペースなんですけど。
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- なるほど。BRDGは、山口さんと制作者の川那辺さんの二人なんですよね。
- 山口
- はい。ただ、私は色んな所に出演したりだとか依頼される時にはBRDGという名前は出していないんですよ。BRDGは組織の名前じゃなくて、私が所有しているものでもなくあってほしいなと思っています。表現活動って一人じゃ中々出来ないけど、その時のために場があれば。私と川那辺さんと、さらには周りの人が、「BRDGは使える場所のようなもの」だと、そんなふうに思ってもらえるように成って行ければと思っています。
BRDG
BRDG(ブリッジ)は演出・俳優の山口惠子と、舞台制作の川那辺香乃が2011年に立ち上げたユニット。BRDGはお互いが主体となり、作品や企画を生み出す場のこと。(公式サイトより)
BRDG企画公演「ハシ×ワタシ」
公演時期:2011/12/2〜4。会場:ロクソドンタブラック。
沖縄キジムナーフェスタ 、1Hz 、タツノリナイター 、Water Painting 、ヒキダシ_ホテル
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- 山口さんは、最近はどんな感じでしょうか?
- 山口
- だいぶ忙しいですね。首が回らなくなってきたぐらい。先月7月いっぱいは沖縄キジムナーフェスタという児童演劇のフェスにいっていました。沖縄市の古座に滞在して、5カ国の人たちと5ヶ国語で演じる演劇作品を滞在制作していました。海外からも日本からも色んな団体さんが来ていて、楽しかったです。8/23には1Hzという、和田ながらさんの「したため」と市川タロさんの「デ」とBRDGの3団体を見られるイベントをUrbanguildでやる事になりました。その3日後が、8/26にタツノリナイターという、今村達紀さんのソロをまとめて見ていただくという企画です。
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- いいですね、それは。
- 山口
- めちゃくちゃいいんですよっ。「ハシ×ワタシ」に出演して頂いてから度々一緒に仕事したりしているんですが、身内の欲目じゃなく伸び続けていると思っています。彼がUrbunguildで上演したダンスが素晴らしくて、泣いてしまった事があるんです。ダンス好きな方にはぜひ。
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- 行きたいなあ。
- 山口
- 黒子沙奈恵さんとか出村弘美さんとか竹ち代毬也さんとか、殿井歩さんとか出るんですよ。それに、劇団壱劇屋も。
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- 山口さんのセレクションなんですね。見たいです。
- 山口
- それから、9/12に和歌山の和歌浦のART CUBE で「Water Painting」というタイトルのダンス作品を演出・振付します。和歌山、いいところですよ。それと、10月にKYOTO EXPERIMENTのオープンエントリーで参加する作品の準備も進めています。「ヒキダシ_ホテル」というタイトルで、美術館で上演します。前回公演の「TEA×HOUSE」で取り上げた、京都に長年住んでいる日本以外から来た方のこれまでの生活をリサーチ・インタビューしながら演劇作品にしていきたいと思っています。このテーマの第三弾ぐらいですね。
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- 演劇・ダンス以外では?
- 山口
- いま、通訳の勉強をしています。時々英語の翻訳・通訳の仕事もしているんですが、もう少しできるようになりたいと思いまして。
沖縄キジムナーフェスタ
公演時期:2013/7/20〜28。会場:沖縄市各地。
1Hz
公演時期:2013/8/23。会場:UrBANGUILD。
タツノリナイター
公演時期:2013/8/26。会場:UrBANGUILD。
Water Painting
公演時期:2013/9/12。会場:ART CUBE。
ヒキダシ_ホテル
公演時期:2013/10/26〜27。会場:遠藤剛熈美術館。
BRDG vol.2『TEA×HOUSE』
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- 「TEA×HOUSE」。物語というよりも、取材で得た資料を再構成して作品化しているという事ですが、そうした作品を作っているのはどのような理由があるのでしょうか。
- 山口
- まず、私は物語が作れないんですよ。自分からはどうしても出てこない。紡げないし、自分よりも大きなものが沢山あるとずっと前から思っていて。紡ぐよりはどう吸収するか、が私の表現だと考えています。舞台に出る時も、自分から表現するというよりも何かに動かされる事が多いですね。外の要素だったりとか、もちろん共演者、環境、お客さんにも動かされるのが好きなんです。受動的な・怠惰な態度ではなくて。作品を製作する時も、世界を解釈をして変換して、つまり通訳してそれを違う言語に出力する。そういう事に興味があります。私は別に作家じゃないと思っています。紡げないので。外と接する作品を作りたいと思っています。
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- 個人が世界と接する作品。
- 山口
- 個人と他者が、どう接するのか。いい悪いじゃなくて、そこを観察したいですね。
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- ありがとうございます。私は最近のテーマとして、情報は読み手の創造性を以って初めてその価値を成立させると思っています。だから、山口さんの仰っている事はそうした観客にはきっと歓迎されるかもしれません。しかし、観客という他者が、舞台上の世界を常に受け止めてくれる訳ではありませんよね。積極的になるかもしれないし、消極的になるかもしれない。むしろ、敵視してくるかもしれない。
- 山口
- そうなんです。他の人にも、それが美しいと思ってもらえる為の工夫をしないといけないんですよね。やっぱり、お客さんの感想が分かれるんですよ。「全く意味が分からなかった」と、「もの凄く面白かった」と。それは、どちらも当然返ってくる反応で。分からない=面白くないと見なすのは当然じゃないか、って私も思ってしまう時があるんです。だから、もっと作り手として、「これがキレイだよね」と紹介するだけのものじゃなくて、「何故そう思えるのか」が分かる。そんな、もっと面白く見てもらえる仕組みを考えださないといけないと感じています。
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- 余談ですが・・・「TEA×HOUSE」で、非常にスリリングで面白いと思ったシーンがあります。スコーンが焼けるまでに、若干時間が余りましたよね。その時に舞台上で二人の出演者が暴れまわっているという場面がありました。時間稼ぎだと気付いた瞬間、ものすごく面白かったんですよ。物凄い可愛らしい時間でしたね。チャームポイントだったと思うんですよ。何か、お客さんに渡してあげたゆとりのある時間というか。
- 山口
- 素敵に思って頂けるのは嬉しいですが、そこに甘んじる事無く(笑う)スコーンを焼く間の時間で作品を収めようと決めていたんですが、出演していたブリジットが「焼き時間を短くなんて出来ない」と言ってくれて。だからどうしても。辛かったお客さんもいたかもしれません。
BRDG vol.2『TEA×HOUSE』
公演時期:2013/4/26~28。会場:京都四条大宮滋野宅。
主体が動かされる時
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- 「TEA×HOUSE」の時、町家の一部屋で上演されていましたね。出演者はもちろん、観客席がお互いの顔が見える状態でした。「ハシ×ワタシ」も挟み舞台でしたし。そうした距離感を意識されているのでしょうか?
- 山口
- 観客席と舞台を出来るだけ分けないやり方が好きなんです。高校卒業後、演劇を学ぶためにイギリスに留学してたくさんの舞台を観に行っていたんですが、気に入った作品のほとんどは舞台と客席が分かれていない形式が多かったんですよ。観客が舞台と同じ高さで知覚し、体験する。私も、自分の作品を通してそのリミットを広げたいと思うようになりました。
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- 舞台で起こっている事を体験する。
- 山口
- 同じ空間で観劇するという事。それだけがやりたいわけじゃなんですけどね。変な形にすれば巻き込めるとは一概にいえないし。安易には言えないですけど、意識として、どういう形が合っているのかは考えますね。
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- では、山口さんは具体的にどんな面白さを大切にしたいと思いますか?
- 山口
- 何かに動かされている人が、踊りでも演劇でも好きですね。表現する力よりも、キャッチする感度が高い演者がいる作品を作りたいです。
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- 感度が高いとはどういうことでしょうか?
- 山口
- 演者が表現する内容の完璧さを追求するのではなくて、どれだけ主体が外部のものによって大きく動かされるか、です。
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- 外の世界というのは、何を指していますか?
- 山口
- 例えば、「TEA×HOUSE」ではブリジットという他者の言葉を通訳して演じてもらいましたが、俳優が置かれているその状況、です。英語から日本語に通訳していくことによって、その俳優が元々の話者に浸食されていく。もちろん俳優は俳優のままで、ブリジット・スコットになってしまうという訳じゃない。影響されているという事(つまり演技ですね)を見せたかったんです。「私はブリジットなんだ」って言い聞かせるみたいなのじゃなくて、あくまで通訳として「私はブリジット・スコットです」と口から言った時に、感度が高ければなってしまう。知らぬ間に徐々になってしまった、そんな瞬間が見たいです。
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- 主体が動かされる時。
- 山口
- 主体が動かされてしまう時、を見たい。普段もそうじゃないですか。こうして喋っている時も動かされている訳であって。演技はその再構築だと思うんです。私はそれを極端にしてみようと思っているんですね。それを、出来れば面白く見せたいですね。
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- 主体は主体としてあるけれども、それが何かによって反応する。
- 山口
- 取り憑かれる、乗っ取られるというのに近いクオリティを目指しているのかもしれませんね。
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- それは何というか、私があまり触れて来なかった領域かもしれません。具体的にそれがどんな面白さを見せてくれるのか未知数なんです。でも、それがそれだと分かったらものすごく興奮させられると思う。突き動かされている主体の向こうに、大きな力を目にするから。
- 山口
- その通りだと思います。「動かされる主体」は、受動的に動かされるんじゃなくて、そこには必ず完璧な能動性が必要なんですよ。主体が反応して動かされる、その感度ですよね。どれだけそれに対してクリアに反応できるか。それは「この演技が面白い」という邪念ではなく、素直に反応するのが面白いんだと信じてやっていきたいですね。とても難しいんですが、反応する人間が面白いんだという信念です。そうした事象が起こっていて、観客に体験を与える。
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- 形骸化からは最も遠くあってほしいですね。
- 山口
- そうですね。そうありたいです。どうしても、「これだ」と思った瞬間にそれでなくなってしまう。型を作って、それを突き進むという芸術もあるんですが、その瞬間に何かを失うんだと思う。
前へ
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- 新しいやり方をご自分で作っているんだと思うんですよ。昔誰かがやっていた、とかは関係ない。自分たちで考え出した方法を諦めてほしくはないですね。
- 山口
- 伝える事が大切なので、もう見なくてもいいな、と思わせてしまいたくない、です。当たり前ですけど、甘えられないですね。
質問 佐々木ヤス子さんから 山口 惠子さんへ
答えの出ない題材
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- もし、今後、実現したい作品のアイデアがあれば教えてください。
- 山口
- 10月の作品「ヒキダシ_ホテル」では、京都に長年住んでいる日本以外の国からやってきた人たちの話を引き出します。まだインタビューの段階なので、それをどう構成していくか。扱う題材もステートメントを作れないものばかりです。他者と自分、自国と外国、移民と、答えの出ない題材。短期間じゃできないんですが、時間を掛けてリサーチをしていきたいです。
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- 私たちはどんな人々を見る事になるんでしょうね。
- 山口
- そうですね。インタビューで会う人たちは本当に面白い人たちばかりで。これこそ、自分で書くにはキャパオーバーです。
寄り添う
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 山口
- 川那辺と、BRDGが場になるようなあり方を考えながら進みたいです。二人とも計画性がないんです(笑う)そこが悪い部分でもあり良い部分でもあると思っています。やってる事がばらばらではあるんですが、離れていくのではなく、どう寄り添って成長していけるか。共通部分を見つめながら、流れていけるやり方を見つけたいですね。
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- 挟み撃ちですね。
- 山口
- そうですね(笑う)。
ファッションサングラス
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 山口
- ありがとうございます。前から読んでいるので、これがあるとは分かっていたのですが。
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- どうぞ。
- 山口
- (開ける)えっ。
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- 大きめのサングラスです。
- 山口
- サングラス、私自分では恥ずかしくて買えないんですよ。なんかこう、ガラじゃないんじゃないかって。ホントは欲しかったです。人に貰えたら嬉しいです。これは。
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- 当初、それにサングラスを入れて頂けたらと思ったんですが、ちょっと入らなかったんですよ。それと、メガネ拭きを一応お付け致しました。