演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

せんのさくら

ポールダンサー。ブッキングマネージャー

一つ前の記事
次の記事

もっとやってもいい?

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。せんのさんは最近、どんな感じで生きているんですか?
せん 
よろしくお願いします。これまで私は生きていて、やりたい事を手探りでやっていたんです。手当たり次第、次々と始めて。それが途中でやり方が分からなくなって止めてしまったりが多かったんです。
__ 
なるほど。
せん 
それが今のようなアート活動に参加させてもらう事によって、スムーズに進んでいくようになって。一つ一つが深くなったり、活動が広くなっていったりする事が多くなりました。その感覚がすごく嬉しいです。
__ 
広がっていく、のですね。
せん 
もっとやってもいいよ、みたいに許してもらえるのが嬉しいですね。飛び込んで良かったと思っています。
アートプロジェクト集団「鞦韆舘」

北加賀屋(大阪市住之江区)に点在する空家や廃工場、空地などをアーテイストやクリエイターの拠点して再活用する試み「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」のもと、KCVインフォメーションセンター「ク・ビレ邸」を拠点にアートやポップカルチャーに特化したイベントを企画・運営する集団。

“ク・ビレ邸”で「青蛾の夜會」

__ 
わたしがせんのさんに初めてお会いしたのは、「青蛾の夜會」でした。毎月、ここク・ビレ邸で開催されるダンス・演劇・演奏等々のLIVEで、アバンギャルドな顔ぶれが印象的です。ク・ビレ邸の雰囲気もあってか、とても成熟したイベントというイメージがあるんです。
せん 
ク・ビレ邸は築40〜50年の長屋をリフォームした空間なんですよね。ここ、北加賀屋は50年代から70年代あたりまで、造船業が盛んで栄えていたんです。でも時代が流れて、段々と廃れて行って。ご老人が多く、空家も多くなる。景気も悪くなってしまって、だから誰も使っていない建物が増えていったんです。
__ 
そうですね。
せん 
町を再生するのだったら、普通は古いものを壊して新しいものを作るのかもしれません。でも、それでいいのか。もっと面白い有効活用はないのか。そこで、北加賀屋の土地をもっている千島土地という不動産会社が、アートのチカラで町を再生しようというプロジェクト「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」を立ち上げたんです。空家や廃工場なんかをリノベーションして、アーティストの活動拠点に変えて行く、たとえばギャラリーとかアートスペース、カフェやアトリエなどです。その中でク・ビレ邸は、LIVEバーという形を取りながらも、KCV構想の中でのインフォメーションセンターを担う場所でも実はあって。
__ 
なるほど。
せん 
色んな事をしている人がそこらにいるので、ここに来れば誰が何をしているのかが分かる、という場所なんですね。まあ、このあたりに住んでいる人たちはみんな、千島土地から土地を借りてますので、貸し手と借り手の関係にありますから、そういい関係とは言えませんよね。極端に言えば、「アートなんかに金を使うんだったら、土地代を安くしろ」みたいな感じ。そういった声に対して、ク・ビレ邸では、「若いアーティストが北加賀屋で作品を創ったり、発表したりすることで、町が生まれ変わるかもしれませんよ。一緒にやりませんか」って話したりしてるんです。だから近所の方々とアーティストとの架け橋と言うべき場所になっています。もちろん、ここでって、表現活動も行うので直接の交流もありますし。
__ 
ここでのイベントに何回か来た事がありますが、観客の年齢層が高いのって、もしかして近所の方が。
せん 
はい、近所のおじいちゃんも見えていますね。もちろん出演者のファンもいますけども。この間のイベントで大衆演劇の役者さん、青山郁彦さんが参加されたんですけど、やっぱりウケてましたね。大衆演劇が大好きみたいで。
ク・ビレ邸

「ク・ビレ邸」は、北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想のインフォメーション・センターとして、2010年10月、アートプロジェクト集団「鞦韆舘」のプロデュースのもとオープン。北加賀屋エリア(大阪市住之江区)の空き家や廃工場をセルフ・リノベーションするアーティストやクリエイターが増える中、同構想の詳細を紹介し、最新情報を発信していく拠点として注目を集めています。(公式サイトより)

「青蛾の夜會」

第一回の公演時期:2014/1。会場:ク・ビレ邸。

ク・ビレに出会う

__ 
そして今。せんのさんはク・ビレ邸のブッキングマネージャーをされているんですよね。その経緯を教えてください。
せん 
三名刺繍(劇団レトルト内閣)さんと出会ったのがキッカケですね。私はその頃、バカなイベントばっかりしていて。ハゲヅラ被ったりとか。それをご覧頂いた三名さんが気に入って下さって、交流する内に「おもしろい場所があるよ」と連れて来て下さって。
__ 
なるほど。
せん 
その時やりたかったイベントに、ここが合ってて。良いなと思ってやらせてもらって。実は三名さん、ここを運営されている佐藤香聲さんの劇団に所属されていた時期があったそうで。それから香聲さんにイベントの受付手伝いをお願いされるようになって、出入りし始めたら、いつの間にかブッキングマネージャーになってたんです。
__ 
なるほど、いつの間にか。
せん 
イベントをやるのも好きだし、バーテンダーをやっていたので受付も好きなんです。色々とやらせてもらえるのが嬉しいですね。それから、誰かと誰かを繋げるのが結構好きなんです。ここをキッカケに誰かと誰かが一緒に何かを作るのを目の当たりにすると充実感がありますね。
__ 
つまり、ミナミの帝王ですね。
せん 
(笑う)今は、佐藤香聲さんが代表を務めるアートプロジェクト集団「鞦韆舘(しゅうせんかん)」に所属しています。

起きている町、眠っている港

せん 
ここは実は完全に自由な空間という訳じゃなくて、ハコも小さいし住宅地だからそんなに大きな音も出せないし、あんまりいかがわしいパフォーマンスも近所の目があるのでNG。その中でいかに遊ぶかというのが念頭にあると思いますね
__ 
いかに遊ぶか。
せん 
制限の上でいかに真剣に遊べるか、ですね。青蛾の夜會はそういう、アーティストが何かに挑戦しているのを見る機会でもあるんです。
__ 
緊張感がありますね。私にとってはここク・ビレ邸は結構離れた場所に位置していて、なんだか「千と千尋の神隠し」の隠れ里のようなイメージがあります。知らない町を訪れた時、偶然出くわした祭りのような。そういう中で初めて出会うアーティストの勝負を見られるのは貴重な体験だなと。
せん 
はい。今まで触れてこなかったジャンルに出会ったお客さんが楽しんでくれているのを見ると嬉しいですね。さっきも言いましたが、この辺はすごく元気なご老人が多いんですよね。
__ 
若々しい人が多いという事でしょうか。
せん 
というよりは・・・何か、今の時代の若い人って無気力なところがあると思っていて(それは時代のせいもあるんだと思うんですけど)。比べるのは違うかもしれないけど、今の時代の北加賀屋の老齢の方って凄い丈夫やし、止まれない人種なんじゃないかと思うんです。動いてないと死んでしまうような。元々日本人が持っている労働者としてのDNAを感じます。都会の日本人にはない良さを感じるんです。
__ 
港町の、海を眺め続ける事で培われたロマンの感覚があるのかもしれませんね。
せん 
そうですね。私、そんなに日本万歳って訳じゃないんですけど日本人の感覚とか日本人像が好きで。静かな中に情熱があって、下半身がずっしりしている感じ。それが凄く素敵だなと思います。
__ 
私の父方が農家をしているんですよ。
せん 
あ、いいですね。
__ 
農家は静かにしているものなので、そういう落ち着きは少し分かります。
せん 
まあ関西の方なので口が達者な方は多いですけどね(笑う)。

子供の頃から・・・

__ 
せんのさんはどちらのお生まれなんですか?
せん 
私、愛知県出身なんです。岐阜が近い地域の、何もない住宅地なんですけど。
__ 
子供の頃は、どんな子供でしたか。
せん 
自分でもよう分からんのですけど、インドア派でありながらも休み時間の間はごっつう落書きばっかりしてました。根暗な子みたいに。でも外で男の子に混じって遊んでたし。快活なインドア派かな?でも遊ぶ時は無茶苦茶遊ぶので怪我も多くて、親にも心配されました。
__ 
ああ、それで絵も上手なんですね。興味の向くところには躊躇なく行くみたいな?
せん 
ええ、今はこれやと思ったらそればっかり。かと思えば冷静になるんですけど。
__ 
ポールダンスをやり始めたのは?
せん 
名古屋で高校卒業後に働きに出てたんですけど、その時にポールダンス教室をたまたま見つけまして。その時にハマってしまいまして。何だこれは、面白いと。その時の先生が大阪に戻られる事になって、私もしばらく大阪に行ってレッスンを受けてたんです。そしたら先生から「それぐらいなら大阪に来たら」と。それで引っ越す事になったんです。大阪に来るからには何かしたい。ポールダンス以外にも個展をしたいなと。玉造に引っ越して、無料でやらせてもらえるギャラリーバーをたまたま見つけて、お話させて頂いたら夢が叶いまして。それと、月一でライブをされているそうで、私の絵が絵本形式になっている事もあって、紙芝居をさせてもらって。知り合いの女優さんである、渋谷めぐみさんに協力してもらって。
__ 
紙芝居をやりつつ、イベントの企画をし始めていたんですね。

目に見えぬもののために

__ 
せんのさんは作品作りの時、例えば何からインスパイアを受けるんでしょうか。
せん 
私の場合は目に見えないものを大事にしたいという気持ちがありまして。現代の人は何というか、目に見えるものだけに執着にしているような気がして。それは良くないなあと。普遍的にあるけれど目に見えないもの。それに気づくのが生まれてきた意味なんじゃないかと思っているんです。
__ 
なるほど。
せん 
それを説教のようにするのではなく、形にして、感じ取ってもらうべきなんじゃないかなと思っています。個人で活動していた時から、そういう事を思っていました。今でも勉強しているんですけど。
__ 
目に見えないもの。
せん 
そうしたエネルギーですね。そう言う意味では香聲さんのやっている音楽も、目に見えない力を形にするような事をやっているので、近いのかなと思っています。
__ 
見えないものを、感じ取った事はありますか。
せん 
あります。宙に浮きそうな感覚を覚えた事があったり。それから、縁の力を感じますね。私、一人だけで生きている訳じゃないんだなと。ご先祖さんがいて、その人たちが縁を作ってくれる。蔑ろには出来ないなと思いますね。
__ 
なるほど。
せん 
私、年に一回伊勢神宮に行くんです。お伊勢さんの奥のカーテンがふうーっと開く事があるんです。それによく遭遇するんです。
__ 
風とかではなく。
せん 
そうです。ふーっと。おかえりって言ってくれているんやなと思います。
__ 
せんのさんが持っている縁も含めて言ってくれているのかもしれませんね。
せん 
はい。目に見えない力や、縁・・・いくら本を読んだりしても分からないものは分からないと思うんです。アートって、ビビッとくる感覚が結局大事だと思うんです。そういうキッカケをいっぱい作るのが私の役目なのかなと思います。

いつかはもっと大きな事が出来るように

__ 
今後、どんな表現をやりたいですか。
せん 
いま稽古しているのが台詞のある演劇なんです。演劇初めてなのに、何をやらせてくれとんねんという感じで。でも、紙芝居のイベントと同じように演劇も総合芸術なんだなと気づいたんです。
__ 
というと。
せん 
私の絵、台詞、それから女優さん、音楽、みたいに。演劇にはそれらが含まれているんですよね。それから、凝り固まった演劇のイメージが壊れましたね。演劇も色々あるんですよね。香聲さんの作られているような音楽劇があれば、人間関係を丁寧に描く方もいる。ミュージカルだったら歌もあるし、照明や衣装や小道具や舞台美術もある。
__ 
演劇は総合的な芸術であると良く言われますよね。
せん 
そう思うと、私がやりたい総合芸術やなあと気づいたんですよ。私はそれまでコンパクトな総合芸術をやってたんですね。
__ 
そして、演劇は何でもあり、ですね。
せん 
いつかはもっと大きな事が出来るように、勉強させてもらっていると思うので。自分を奮い立たせています。

質問 高間 響さんから せんのさくらさんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、笑の内閣の高間さんから質問を頂いてきております。「ダメ男をどう思いますか?」
せん 
「ダメ男」の定義にもよるんですけど、私が「ダメやな」と思うとそれはもう受け付けないですね。でも逆に、残念なダメ男の良い面を見つけてしまうと「全然ありやな」と思ってしまう、そんな事があります。その逆ももちろんあるんですけど。
__ 
次の質問です。「ダメ男好きな女をどう思いますか?」
せん 
どうやろう、二人の関係が上手く行ってたら良いですけど。儲けてるのかなあとかは思いますね。ヒモを囲ってしまう女の人も、ヒモに依存しているというのはあるんですよね。どっちがダメなんだろうな、というのは思います。

海の外へ

__ 
いつか、こんな事が出来るようになりたい、とかはありますか?
せん 
単純に、海外から声が掛かるようなアーティストになりたいです。
__ 
なるほどね。
せん 
それから、今もやっていますがこれからもやっていきたい事があります。私、実はここで料理も出すんですよ。料理するの、好きなんです。料理も一つの、ちょっとした作品だと思うので、それがお客さんの口の中に入るのが嬉しいというのがあって。なるべく本番では何か、料理を出したいとは思いますね。あとは、その場の空気も大事だと思うので、同じ空間の空気を共有する時間を大事にしたいですね。

私も止まれない人間

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
せん 
今勉強中で、色んな事が出来るようになりつつあるので。今後も継続して学び続けたいと思います。総合して、創作者側として一つの作品を作りたいと思いますね。例えば、いま染め物をやっているんですよ。
__ 
それはまた全然別な領域に行きますね。
せん 
沖縄の民族的な染め物の原色が好きなんです。紅型(びんがた)染めというのを勉強していて、ちょっとずつ衣装とまではいかないですけど、人間がキャンバスになるような、それをきた人が町に出ていって、一人歩きするアートとして、勝手にアートが町を歩いていくみたいな。
__ 
それは面白そうですね。やりたい事がどんどん出てくるって素晴らしいですね。
せん 
八方美人で・・・私も止まれない人間なのか。思い立ったら吉日みたいな。でもプツッと切れてしまう面もあるんですけどね。
__ 
なるほど。止まると死んでしまうみたいな。
せん 
だから一人だと危なっかしい、みたいな。
__ 
今後も、安心する事なく磨いていってください。
せん 
いつ死んでもいいようにしたいという念が自分の中ではあります。年を経る毎にまとまった表現も持っているとは思うんですが、その時までは学び続けていきたいですね。

夜空のブローチ

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
せん 
えっ。何という・・・。
__ 
つまらないものですが、どうぞ。
せん 
可愛い包み(開ける)あ、可愛い何これ。ピンですか。
__ 
はい。
せん 
銅版画なんだ。懐かしいー!小学校の頃授業でやった事があって、やりたいなと思ってたんですよ。プレス機が必要なんですよね、これ。
__ 
防水加工はしてあるそうですが、水気には気をつけて下さい。
せん 
やったー、嬉しい。可愛いです。
(インタビュー終了)