演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

田中 すみれ

ダンサー

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夢十月と、「秋のそら音」

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今日はダンサーの田中すみれさんにお話を伺います。どうぞ、よろしくお願いいたします。
田中 
よろしくお願いします。
__ 
最近、田中さんはどのようにお過ごしでしょうか。
田中 
最近は8月に舞台があるのでその稽古をしているのと、11月の舞台の稽古が始まった感じですね。
__ 
夢十月と、「秋のそら音」ですね。頑張ってくださいね!
GO!GO!ダンスシアター「夢十月」

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大アマチン祭企画・西文化小劇場開館30周年事業 『秋のそら音(ね)』

24/11/1~2 西文化小劇場 深まりゆく秋の黄昏に、うつろう過去の幻影、夢の足跡。老父は誰に向かい、何を語り続けるのか!?さまよえる魂を描く渾身の物語。乞うご期待! 作・演出:齋藤敏明 振付:田中りえ 作曲:押山晶子

点滅

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24年4月のFOuRDANCERSに出演されていた時の作品について。非常に面白かったです。どのような制作過程があったのか伺いたいと思います。
田中 
ありがとうございます。全然作れなくて、踊りたくなくて、あの形になるまでは何度も作り直しました。私の友人でもあるコニシムツキ(彫刻家/Alternative space yugeディレクター)にテキストを書いてもらい、それをもとに(それと共に)踊りにしてみようというものでした。
__ 
そのテキストというのが、「誰か特定の人あるいは不特定の人が目の前にいる時といない時の点滅と、存在していない時にどのような時間がその人に流れているのかわからない」というような文章でしたね。
田中 
そうですね。というのも、私とコニシの共通の友人が2年半前に亡くなったんですね。私はどうしてもそのことを無視して作品作りをすることはできなかったんです。それにとらわれすぎるとそういう作品になってしまうけど、無視はできないよねと思って。私が書くとポエムみたいになっちゃうので、コニシに書いてもらいました。
田中 
生きてる人と死んでる人とか、戦争であるとか、それらの間の境界線を曖昧にしたいという気持ちが強くて。踊りの中であればそれができるんじゃないか、と思ってトライしてみました。
__ 
私の目には、上演前半は振付を作りながら発表している、というような感触がありましたね。本番の中での試行を繰り返して洗練させていくかのような。
FOuR DANCERS vol.282

Alain SINANDJA 川瀬亜衣 後藤禎稀と福田有司+役者でない+保井岳太+山瀬茉莉 田中すみれ

鴨川で

__ 
田中さんはその上演の前に60分間、鴨川で踊ってきたそうですね。そして前半を超え、後半ではとても洗練された美しい振り付けがあった。全て、その「美しい」に至る準備だったとも言えるのかなと思います。
田中 
そうですね。自分の中では鴨川での60分で、無駄な体力をそぎ落としたかったんです。どうしても舞台上で取り繕っちゃったりするんです。すると、行きたいところに行けなくなるという感じがあったので。息が上がった状態でスタートしたかったんですね。
__ 
緊張と弛緩ですね。
田中 
その状態で身体感覚に集中して踊っていました。それ以外の、余計なことを考えないトランス状態に自分で持って行きたかったんです。その先にあるのが綺麗だったらいいなと思っていました。
__ 
鴨川で踊るっていうのは気持ちよさそうですね。
田中 
そうですね、なんか不思議でしたね。一緒に踊ってくれるこどもとかもいて。アウェイなのかなんなのかよくわからない。

境界線について

__ 
他者は消えている時にこそ強く感じる。田中さんが消えている時の存在を思う作品でしたが、田中さんの方はお客さんとどんな関係を作りたいですか?
田中 
正直、10代後半、20代前半までは敵視してるというか喧嘩を売っているような気持ちでした。最近はそれがなくなって敵だと思わなくなってきました。
__ 
そうなんですね!
田中 
前は、なんでお客さんはこちらを見てるんだという気がしていました。(笑)私が客席にいる時は舞台が好きだから見てるんですけど、舞台に立つ側になると、なぜこの人達は私を見ているんだ?というような。
__ 
なんで。何故でしょうね。私の場合は何でだろうな。ダンスの話で言ったら、思想であるとかビジュアルであるとか観念であるとかが頭の中を渦巻いてるんですけど、それをまとめ上げて想念がまとまったり崩れたり、そういう時間のために行ってるような気がしますね。もちろん振り付けのニュアンスとかが明確に伝わった時にすごく面白いなと思ったりするので、それももちろん目的ですが。
田中 
なるほど。観ながら頭の中で考えが巡ってるんですね。私はダンスだったらやっぱり身体を見ちゃうんですね。なので結構単純な頭です。その動き凄いなとか。でも私も「この人何考えてるんだろうな」みたいなことは考えてます。見る・見られるというのはやっぱり気になりますね。
__ 
以前まではお客さんを敵視していたという事ですが、それはいつ変わったのでしょうか。
田中 
そうですね。何が変わったんだろう。ここ2年ぐらい何も作りたくない、踊りたくないというような思いがあったんですけど。新型コロナとかもあって。自分からガツガツ踊りたいみたいな気持ちがちょっと減ったあたりで舞台に立ったら、なんだかあんまり敵じゃなかった、と感じました。自分の主張をそんなに強く言わなくなったのかもしれません。あなたが受け取りたいように受け取ってもらえば、別に私は何はともあれここで踊りますねみたいな。「なんで見てんだよ」みたいなことはあんまり思わなくなりましたね。
__ 
いい意味で他者に期待しなくなった的なことでしょうか。境界線を消したいという思いがあるとおっしゃっていましたし。
田中 
期待しなくなったというよりも、お客さんの反応にそこまでシビアじゃなくなったのかもしれません。寝ている人が目に入ると嫌だと思っていたのが、今はあまり気になりません。具体的なきっかけはないですけど、1年前にThetreE9で開催された倉田翠さんのダンス講座を受けた経験もあったと思います。自分がどういう状態なら舞台に立っていられるのかというのを認識するみたいな学びがあって。講座内で舞台上にいる仲間たち何度も客席側から見つめてたんですよね。そして自分も舞台上に入って行く、みたいな。客席と舞台が近いとどうしても繋がらないといけないということを意識しなおして、私の中で客席と舞台の境界線が曖昧になりました。だとしたらこちらから喧嘩売っていたら関われないよなあ、と思うようになって。舞台と客席がお互いに興味を持ち合っていたらいいんですけど、双方に興味がなかった状態で喧嘩を売りに行くのは違うなという感じですね。
__ 
今の時代、観客に対してのアピールが難しい時代なのかもしれませんね。最初に意見表明するよりも、共感から段々と関係性を構築するのが好まれる。普通の人間関係でもそうだと思うんですけど、相手を意のままにしようとしてはならない、みたいな。
田中 
そうですね。客席を見るのが昔は少し怖かったんですが今はあまり怖くなくなりました。それは、お互いに認めるというか・・・向こうが許してくれてるかどうかわからないですけど、私の方が観客を許しているというような感覚が持てたからかもしれません。

質問 中尾多福さんから田中すみれさんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、幻灯劇場の中尾多福さんから質問をいただいてきております。「自分の言葉で話すのは得意ですか?」
田中 
私はあまり得意じゃないですね。自分の言葉で、というのが難しいですね。人の話を聞く方が得意かなと思います。語彙力が乏しくて・・・。

言葉が通じなくても

__ 
ダンスのいいところって、どこだと思われますか?
田中 
言葉を超えるところだと思います。演劇とダンスの違いはそこかなと思っていて。言葉が通じなくても、踊りなら人とコミュニケーションが取れるみたいな。ダンサーの田中泯さんのドキュメンタリー映画で、「言葉よりも先に踊りがあった」という描写があって、私は本当にそうだと思って。言葉で伝えきれないことを多分身体で伝えているし、目で伝えているし。こないだドイツに行っていたんですけど、私はドイツ語も英語もわからないんですが、ダンスクラスの中でコミュニケーションは取れる。気持ちをうまく言葉で伝えることはできないですけど、お互いの感覚は理解し合えるねみたいな。それはやっぱり踊りが先だな、と思いました。
__ 
分かります。
田中 
それと、今私はバレエ教室で子どもたちにレッスンしてるんですけど、子どもって嬉しいと飛び跳ねたり、テンションが上がると走り回ったりするんですよ。大人になるとそういう行動や反応って制御されていくんですよね。でもその感覚は本当は大人になっても持っていて、それがダンスそのものなんだろうな、と思うし、それを表に出してる人たちがダンサーなんだろうなと思います。
__ 
境界線だらけの社会生活中でもダンスというか、身体による表現とその解読はずっとありますもんね。相手の行動や姿勢を見たりして。想念が感情を生み、感情が姿勢に反映され、思考が行動に繋がる。
田中 
緊張も伝わりますね。
__ 
それで上司に話しかけられなかったりして。
田中 
私はあまり緊張してないつもりだったんですけど、代わりに強気を持たないと舞台上に出て行けてなかったんです。それが倉田さんの講座を経て、武器を持っていなくても出て行けるようになった、という感じはあります。

これから

__ 
田中さんは今後、どのように活動されて行かれますか?
田中 
全然決めていないんです。私今は名古屋にいるんですけど、最近分かったのは自分は拠点を持つという考え方がすごく苦手で。名古屋にもいるし、東京にも京都にもいる、みたいにいろんな場所で、自分に出来ることをやりたいと思っています。今のところ。

醬油さし

__ 
今日はですね、お話をお聞かせいただいたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
田中 
ありがとうございます。開けてもいいですか。
__ 
どうぞ。
田中 
二つも入ってる。あ、醤油と醬油さし!グッドデザイン賞を受賞してますよ。
__ 
緑色にしました。単純に可愛かったので。
田中 
え、可愛い!可愛いですねこれ。これは可愛い。凄い。
(インタビュー終了)