演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

きたまり

ダンサー

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サカリバ007

__ 
本日は宜しくお願いします。
きた 
宜しくお願いします。この前、踊りに行くぜを見に来てもらえたんですよね。
__ 
はい、シアターぷらっつ江坂を拝見しました。
きた 
どうでした?
__ 
めちゃくちゃ面白かったです。
きた 
本当に。何が、どうでした? どういう風に見るのかなあと思って。
__ 
そうですね、女性の性的な姿というか。まあ若干びっくりしたシーンもあったんですが。
きた 
(笑う)
__ 
ひまわりの劇場で凄い事するなあ、と。
きた 
ああ、そうね。
__ 
あと、中盤の盛り上がりのシーンでマイクが出てきますよね。その時に一人女の子がマイクを取って、歌うのかセリフを言うのかと思ったら「ア!」だけしか言わないとか。あれは物凄く面白かったです。
きた 
あー、あれは私も好きなんですけど。
__ 
あの作品はこれまで何度も上演されているとの事でしたが、今回は前回と比べてどのような点が違うのでしょうか。
きた 
ちょっと色々ごたごたしちゃって。踊りに行くぜ!スペシャルは結構急に決まるんですけど、ダンサー二人の予定が決まらなくてキャストが変わったんですよ。もちろん再演の度にクオリティを上げるようにはしているんですけど、ダンサーが変わった為に、その作業が出来ているのかは・・・。ただ、作品自体が明確に見えては来たんですけどね。変わるとこうなるんだ、と。サカリバという作品は、元々、踊れない子達を集めて作った作品なんですよね。彼女達がやって面白いという事を集めて作ったんで。で、ダンサーが変わった為ちょっと笑いのツボが変わったんです。逆に違う所が面白かったりしていたんですが、でもこれは私の意図ではないのでちょっと悩んだりしていました。
KIKIKIKIKIKI

03年京都造形芸術大学 映像・舞台芸術学科在学中のきたまりを中心に活動開始。以後ダンサー個々の特異な身体のフォルムから湧き上がる独自の振付の世界観を追求し実験的に作品の上演を重ねる。06年大学卒業を期にカンパニーとして本格始動。(公式サイトより)

シアターぷらっつ江坂

大阪府吹田市。劇団ひまわり大阪支社ビル内のホール。

踊りに行くぜ!

全国のコンテンポラリーダンサーを支援するNPO・JCDNが主催するダンス巡回公演プロジェクト。2009年現在、10週年を迎える。コンテンポラリーダンサーに別の土地での発表の機会与えている。

サカリバ007

上記「踊りに行くぜ!」にて。女性の性を強烈な色彩と豊かな表情で表現したダンス作品。

みんな一緒な訳ない

__ 
きたさんがダンスを始められたのは、ある記事によるとボランティア活動を勘違いされたのがキッカケだそうですが、あれはどういう。
きた 
いや、勘違いはしてないんですよ(笑う)。当時はちょっと、荒んでいたんですね。で、これじゃダメだなと思ってネパールに行ったんですよ。まあ、色々ある国じゃないですか。貧富の差とか。そういうのを見て、日本に帰ったら人に良い事をしようと。人に良い事ってボランティアじゃないですか、十六歳の感覚だと(笑う)。ボランティアという言葉に釣られて行ったのがダンスボックスのボランティアスタッフだったんですよ。
__ 
なるほど、そういう経緯があったんですね。初めてダンスをご覧になって、いかがでしたか。
きた 
いやー、全然意味わかんないなあと。
__ 
ああ・・・。
きた 
でも、衝撃を受けたんですね。その頃はデザインの学校に行きながら写真も撮ったり絵を描いていたりしていて。文化的なものに救いを求めていて、例えば坊主頭の絵ばっかり描いていたんですよ。そういう時期に、由良部正美さんの舞踏を見て、自分の描いていた絵が立体的に現れたことに衝撃を受けて。あ、この人は運命の人だと思って。この人に近づくにはダンスをしようと思って、由良部さんの所に行ったのがダンスの始まりだったんですね。
__ 
なるほど。そして今ではご自分の作品を発表するようになられた訳ですけれども、ところできたさんの稽古場ではどのような形で作品作りを進めるのでしょうか。
きた 
単純に、私が見たい事をする、みたいな。ダンサーを使って、この子こんなんしたら変だろうなーと思う事をとりあえずさせてみて、私が笑って、終わるみたいな(笑う)。
__ 
ああ、それはいいですね。
きた 
全然作品には使わなかったりするんですけど、うわー何でこんな事してるんだろうこの子って思う、という。そういう事をかなりしていますね。
__ 
きたさんはダンサー一人一人の個性を大事にされると、京都造形芸術大学の卒業制作を紹介するページにありましたが、そういう個性や違いを重視されるのは何故でしょうか。
きた 
あー。元々、私は団体行動が苦手で。個人で作品を作る前に参加していたのが、個人対個人で作品を作るという環境だったからですかね。今でも、ダンサー達を一つにまとめちゃうのが凄く失礼な気がして。そしたら誰でもいいじゃないって。私自身が、千日前青空ダンス倶楽部というカンパニーに入っていたんですけど、一人だけ背が小さかったんですね。だからソロばっかりで、中々群舞には縁が無くて、たまに機会があっても中々楽しいと思えなくて。
__ 
はい。
きた 
対個人としてダンサーと向き合いたいんですね。絶対、みんな一緒な訳ないじゃないですか。
__ 
バレエとかではなく。
きた 
それはそれで凄くキレイで素敵だなと思うんだけど、あれは容姿端麗な人がやればいいじゃないですか。ダンスっぽくない体が好きなんですね。で、やっぱりそういう人達が踊るとどうなるのかなと思っています。
__ 
キャラクターが人間によって違うという現象が、重要な要素であると。
きた 
単純に、見かけという問題もありますし、それを見て私が妄想するんですね。うん、それで形取っていくものがありますね。人の事を勝手に考えるのって楽しくないですか? この人こんなんだろうな、とか。
__ 
絶対にしないだろうけどこんな事したら面白いだろうな、とか。
きた 
うん。
__ 
あのマイクを使った「ア!」も、彼女自体に合ったから面白かったんですかね。
きた 
うん、あのシーンは私も好き(笑う)。サカリバは、ちゃんとした作品解説もあるんだけど、そこには書かない私の妄想が実はあって。その「ア!」って言った女の子は、怪獣なんですよ。彼女は普通の言葉を喋ってるつもりだけど、傍から見たら「ア!」とか「ギャ!」にしか聞こえないという設定で。他のダンサーはちゃんと唸れたりセリフを言ったり出来るんだけど、彼女に関しては人間じゃないししょうがないじゃん、と(笑う)。ダンサーには言わないけど、動物に例えて振り付けをしたりしてますね。
__ 
なるほど。動物と言えば、彼らって種族間で恐ろしい程の違いがありますよね。例えばキリンとアザラシでは比べようもない程。
きた 
違うよね。
__ 
これは個人的な考えですが、多分動物ってのは、自分達が置かれた環境の中で身に着けた武器を一番出しやすい形で自分の外形をデザインしているんだと思うんだけど、これを人間に置き換えると、社会の中で生きていく為の思想がそのまま動物にとっての武器になるんじゃないかなと。それが、顔面という最も見えやすい部位に個性や系統として表現されるんだと考えていて。ダンスの作品ってそういう個性がひときわ特定される機会なんじゃないかなと思うんですよ、。・・・何かすいません、語ってしまったみたいで。
きた 
いやいや、そういう事なんだよ。自分で作品を作ってて疲れていた時期に誰かと喋っていた時に言われた事なんだけど、「まあしょうがないよ猛獣使いなんだから」と。
__ 
なるほど。ダンサー=獣か。
きた 
何かね、そういう感覚でやると凄く面白い。
ダンスボックス

1991年に大阪・TORII HALLを拠点に活動開始。2002年NPO法人化、新世界アーツパーク事業を経て、 2009年から神戸市新長田の 「 Art Theater dB Kobe」 を拠点として活動中。(公式サイトより)

千日前青空ダンス倶楽部

大阪を本拠地とする ポップで透明感を持つ新しいタイプの舞踏ユニット。2000年11月、DANCE BOX「DANCE CIRCUS.14」にてデビュー。〈身体〉を予め用意されたイメージを表現するための媒体と考えるのではなく、〈身体〉それ自身に記憶されている風景や歴史を引き出すことにより作品を創っている。(公式サイトより)

「モンパルナスのキキ」

__ 
「KIKIKIKIKIKI」というカンパニー名についてですが。これはどういう由来で付いた名前なんでしょうか。
きた 
言いにくい方がいいなと思っていて。言うのに絶対に詰まるっていいじゃないですか。
__ 
かつ印象も強いし、素晴らしいですよね。「モンパルナスのキキ」が由来の一つだそうですけども。
きた 
いや、それも正直後付けで。
__ 
あ、そうなんですか。
きた 
音として、「キ」が好きなんですよ。実際に発音すると歯が見えるとことか。「キ」。「キ」。
__ 
あ、解ります。機械的な感じがしますよね。かつ小さくて表面がロウソクの手触りで、かつ短い。
きた 
いや、音として好きなんですよね。苗字も北だし。でもカンパニーの名前としては長い方がいいなと思って、並べてみたんですよ。
__ 
何故6つ並べたんでしょうか。
きた 
5つだと言えるんですよ。で、7つだと長すぎると。中間として丁度いいのが6つだと。そんな事を考えていた時期にたまたまマン・レイの写真展に行って、キキの写真があって。あの写真自体が気に入って、モデルになったキキついて調べていたら彼女の生き様が凄く面白くって。こういう女性像って凄くいいなと、こういう事がやりたいなっていう。
__ 
ああ・・・何か、アイツは凄いですよね。
きた 
アイツ凄いと思う(笑う)。
__ 
デビュー後はパリ文化の中心人物だったのが、後々はクリーニング屋の店員や麻薬密売人になったりするあたり極端な凋落っぷりというか。
きた 
だけどお金のある振りをしたりね。マン・レイはキキの写真で有名になったじゃないですか。でもああいう男に簡単に捨てられちゃうじゃない。ああいう感じってすっごいいいなと思って。あれぐらいキップがいいと、近づいてこられたら迷惑なんだけど見てる分には気持ちが良くて。ああいう人ってやっぱり面白いなあと。
__ 
伝説ですよね。まあ同時代の人にとっては面白くてしょうがなかったと思うんですよ。凋落って凄く魅力的ですよね。かつて栄光を持った人がショボくなったり。破滅的なね。
きた 
でも暗い破滅は好きじゃないんだよな。
__ 
暗い破滅は好きじゃない。
きた 
暗いんだけど、どこかこう、そこに希望を見てるというか、それも抱えて楽しんでいるというか。ただただ、シリアスになっていくのは好きじゃない。難しいね。

ライフワーク

__ 
きたさんは、これからどんな感じで攻めていかれますか。
きた 
うーん。それは凄く色々考えますよね。・・・ダンスってどういうイメージを持ちます?
__ 
うーん。芝居関係とかとはちょっと違って、もっと向こう側の世界にあるような感じですかね。そのまま突き進んで欲しいというのはあります。
きた 
そうか。やっぱり関西のダンスの状況はあんまり良くなくて。まず親しみやすいものじゃないじゃないですか。
__ 
親しみやすい、よさこいみたいなものじゃないですね。
きた 
あー、今やってますね。私も昨日見て、何て心身共に健康な人達なんだろうと思った。コンテンポラリーのダンサーはああいう感じで見られてはいないだろうなと。それは全然いいんだけどね。でも、もっとたくさんの人に対してベクトルを出したいなあというのが根底にあって、その為にどうしたらいいのかを考えてますね。
__ 
交わる場所、というか。
きた 
例えば普通の、日常の公共的な場所でコンテンポラリー作品を発表したら、「何のこっちゃ解らん」という人もたくさんいるけれど、受け止めてくれる人がそれ以上にいっぱいいると思うんですよ。そういう人をもっと巻き込んでいければなあと。もっと日常にダンスがあればいいのになあと、本当に単純に思いますね。このままでは広がっていかないからね。
__ 
企画としてのダンス公演を考えるという事ですか。
きた 
そうですね。私、サカリバを老人ホームとかでやりたいんですよね。
__ 
おお。それはいいですね。
きた 
酸いも甘いも味わった人達が見たらどういう反応をするんだろうと。おじいちゃんとか喜んでくれるかなあと。それで元気が出たら凄い嬉しいなあと。
__ 
なるほど。または、幼稚園児とか見たらどうなるんですかね。
きた 
広島でやった時に、小学生がいたんですけど途中からずっと笑ってたんですよ。ツボが来たんだろうね、止まらない。楽しんでるんだなと。柔軟だからさ、ここで笑っちゃいけないとかないからね。
__ 
サカリバについては、そういう色々な層に見てもらいたいと。
きた 
いくらでも。ライフワークなんで。60歳ぐらいになってもやりたいね。全然踊れないかもしれないけど、その時にどうしようかなと考えたり。

かまわぬ製の菊の扇子

__ 
お話を伺えたお礼に、プレゼントがあります。
きた 
何でそんなに律儀なの? ありがとうございます。
__ 
まあ、プレゼント楽しいですしね・・・。どうぞ。
きた 
あ、ありがとうございます。(開ける)あ、扇子ですね。すごい。
__ 
菊の扇子ですね。
きた 
へー。布製だ。珍しいですね。私、夏は扇子を持ち歩くので。実用的。
__ 
まあ、普段使いにしていただければ。
きた 
へー。黄色はいいですよね。扇子はね、良いよね。何で日本人て扇子なんだろうね。日本舞踊って扇子を良く使うじゃないですか。やっぱ団扇じゃダメなんだろうね。
__ 
畳めるのをめっちゃ粋だと思い込んで満足してるんじゃないですかね。
きた 
分からんそれ(笑う)。やっぱり日本人って凄くエロいと思っていて。
__ 
エロいとは。
きた 
日本のね、美徳とされているものを見るとどこかエロチシズムを感じるんですね。例えば北野天満宮とかに梅を見にいって、梅って小ぶりで上品で奥ゆかしい印象があるじゃないですか。桜に比べて。何か、隠しながらエロいという。
__ 
高度なエロですよね。性的な意味でエロいんじゃないんですよね。
きた 
そうそう。扇子もそうなんじゃないかなと思っていて。エロス、みたいな。タナトス? みたいな。日本人てムッツリだよな、と。しかも神様を祀るところに植えているじゃないですか。何かねー、イエーって感じ。
(インタビュー終了)