演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

中西 ちさと

ダンサー

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劇団衛星新作公演「サードハンド」

__ 
今日はどうぞ、宜しくお願いします。
中西 
お願いします。
__ 
最近は、中西さんはどんな感じでしょうか。
中西 
劇団衛星さんの新作公演「サードハンド」に、振り付けと出演が決まっています。どきどきしますね。
__ 
おっ。楽しみです。
中西 
あとはやっぱり、最近暑いですね。夏だけどこか、カラッとしているところに行きたいですね。ヨーロッパのどこか、避暑地とかに。
__ 
しかもジメジメしていますよね。乾燥しているところがいいかもしれない。砂漠ってどうなんですかね。気持ちいいのかな。
中西 
夜は寒いみたいで、どうなのかな。わがままですけど。
ウミ下着

2007年中西ちさとを中心に結成したダンスパフォーマンスグループ。妄想を喚起させ、五感に訴える身体表現を目指して大阪を拠点に活動を始める。女心のように時にポップ、時にアングラ風と作品ごとに表情をころころ変える。作品に「咲かせてみて」「少女は不幸がお好き」等がある。(公式サイトより)

劇団衛星

京都の劇団。代表・演出は蓮行氏。既存のホールのみならず、寺社仏閣・教会・廃工場等「劇場ではない場所」で公演を数多く実施している。

劇団衛星新作公演「サードハンド」

公演時期:2012/6/23〜7/1。会場:KAIKA。

ウミ下着について

__ 
さて、中西さんが福井菜月さんとやっておられるダンスグループ、ウミ下着。コンテンポラリーダンスを手がけているとの事ですが、結成の経緯を伺ってもよろしいでしょうか?
中西 
2007年の秋からですね。CONNECTに応募した時に作った団体だったんです。あ、参加するなら団体作らなきゃって感じで。
__ 
命名の由来は。
中西 
「ウミ」は、体の膿、海、それから産む事を掛けています。それから、下着というのが裸よりもセクシーだなというのがまずあって。真っ裸よりも。それに、肌に直接触れるものなので親しみ深いんですよね。
__ 
なるほど。隠されているから、想像力が(意識しなくても)働くんですよね。
中西 
そうなんですよ。裸って全然隠されてなくて。ちょっと隠していて秘密があるぐらいのほうが面白いじゃない?って。でも、やっぱりインパクトが強いみたいで、セクシーな舞台をやるんですかって聞かれることもあります。
__ 
裸。確かに、舞台で裸になられるとびっくりするかもしれませんね。ストリップだとかえって驚かない。
中西 
脱ぐと分かっているからですね。舞踏だったら脱ぐ事が分かるから。ヘアヌードを見ても思うんですが、下着でちょっと隠している方が、想像させてくれるんですよね。そこが面白いですね。ちょっと秘密があるぐらいの方が、女はきれいだなと。

ふるえるくちびる

__ 
ウミ下着はこれまで、どのような作品を作ってこられたのでしょうか。
中西 
結構長い間、自分自身の事を描いていたと思います。自分の性の事や、自分の生活について。ずっとそれを描いていたんですが、去年の震災を境に変わったと思います。
__ 
というと。
中西 
震災が起こった日、私、誕生日だったんですよ。それで誰も祝ってくれなくなったのがちょっと引っかかって。私すごく、自分の事ばっかりだったんだなと気付かされました。誰かに何かをしたいとか、寄付したいとか。そういう気持ちが素直に出てこなかったんです。それはどういう事なのかな、みんなどう思っているんだろう。そう考え始めてから、作品の作り方は変わったと思います。
__ 
どのように変わりましたか?
中西 
言葉または身体を使った対話ですね。さらに、それらを通して自分の考え方が揺らいでいくのが面白いなと思っています。
__ 
揺らぐとは。ご自身の考え方によっても、相手との関係性が変わる事もある?
中西 
自分が翻弄されたり、迷ったりすると、観客も一緒に考えてくれるようになるんです。多分、意見したくなると思うんですよね。私と一緒に悩んでくれるようになるんです。
__ 
例えば。
中西 
この間作った「ふるえるくちびる」という、震災と大阪に住んでいる私たちについてのドキュメンタリーみたいな作品。私たちの震災後の過ごし方を紹介したんですね。ゲストも呼んで、強い意見を言われたりしたらどうしようとか思っていたんですけど。それで実際、アンケートにも不快だったと書かれた方もいらっしゃったし、逆に、私たちと同じようにどうしたらいいのか分からなくなって戸惑っているという人たちもいたんです。いろんな意見があってそれが面白かった。それから、お客さんの方から発信したくなるような舞台が作りたいなと考えるようになりました。完成された舞台芸術じゃなくて、お客さんも巻き込んだ作品が作りたいですね。
__ 
ダンス作品でそれをやるというのは珍しいかもしれないですね。
中西 
ダンス関係の人からはダンスじゃないとよく言われ、演劇系の人からはコンテンポラリーダンスだねと言われます(笑う)。どっちでもないんだなと。どっちでもいいんだなと思います。

オカシナアナタ

__ 
お客さんが何かをしたいと思うパフォーマンス。それはご自身のどこから発していると思われますか?
中西 
・・・答えになってないかもしれませんが、人の事を知りたいんだと思います。以前、We danceという企画で福井さん以外の人に振り付けたんです。その二人にはずっと質問していて。何を考えているのか知りたいんですね。理解出来る事もあれば、出来ない事もあるんです。理解と無理解を描きたいのかな。誰かと誰かが話して、理解し合える部分とそうでない部分を描く事で、架け橋を作りたいんです。
__ 
架け橋。作れるでしょうか。
中西 
この間、隣のギャラリーで公演した時。お客さんと舞台の距離がほとんど無かったんですね。客席のライトが消えずに丸見えだったんです。舞台からダイレクトに見れるんです。「共犯関係にあるようだ」とか、「部屋に来たみたいだ」って言われたんですけどね。すごく居心地が悪いというお客さんもいて。あまり不快にはしたくないんですけど、出来るだけフラットに、近づけられないかなと。だから、劇場以外の場所でやることにも意味があるのかなと。
__ 
観客参加。
中西 
そうですね。もっと、楽しいとか、ポジティブな感情でお客さんを巻き込んで行けたらなと思っています。
__ 
あー、ウォーリー木下さんが京阪とやったサーカストレインとか、そんな感じで成功していましたね。観客席はその前提として安全なんですけど、同時にフロンティアでもありますよね。そして危険。
中西 
そうなんですよね。この前のKAIKA のgate でやった「オカシナアナタも客席に行ったんですよ。若干不快にさせるのも目的だったんですけど、怒るお客さんもいて。お客さんを巻き込むには、そうじゃない、楽しいやり方もあるかもしれない。今後は、そこを探りたいですね。
アートコミュニティスペースKAIKA

四条烏丸に産まれるふたつの新しいアートスペースアートコミュニティスペース「KAIKA」・アトリエ「AKIKAN」。KAIKAの運営はフリンジシアタープロジェクトが、芸術監督は劇団衛星の蓮行が務める。(公式サイトより)

gate#7

公演時期:2012/5/19〜20。会場:KAIKA。

福井菜月さんについて

__ 
福井さんと組んでいるのは。
中西 
一番最初にカンパニーを作った時から一緒なんですよ。この子いいなと思って。二人とも適当なところがあって。反面、お互いに腹立つ事もあるんです。似ているようで似ていない部分もあるから長くやれてるのかな。
__ 
面白いですよね。あの人。
中西 
ですよね。飄々としていて、「度胸だけは付けてきましたわー!」とか言うんですよ。何があっても怖くないんじゃない?って聞いたら、「まあまあ何とかなりますわ大抵な事は」って。無理な事を振っても、はっきり無理と言ったり、頑張ってみてくれたり。そういうところ、頼もしいです。

質問 ピンク地底人2号さんから 中西 ちさとさんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、ピンク地底人2号さんから質問です。「何を考えて踊っていますか?」
中西 
何なんですかね。作った動きを丁寧に踊ろうと意識しています。それ以外は、あまり何も思ってないんじゃないかと思います。
__ 
なるほど。
中西 
踊っている自分の横にもう一人、冷静に見ている自分がいて、客席の反応や空気に反応して踊るようにしています。空気のなかで踊るみたいな。

お弔い

__ 
これまで、目標にしてきた事は。
中西 
これまでは、自分が作りたい世界を忠実に再現したいと考えていました。今はそうではないですね。出来るだけ、人であるとかテーマであるとかにフラットで多角的な目線で観察していいところを引き出そうとしています。
__ 
以前の、妄想を形にするやり方とは。
中西 
一番最初に作ったのは自分の性についてでした。毎月生理が来て、元々卵子だったものが血に変わって落ちるんです。子供になれたかもしれない無数のものをたれ流してしまった、そのお弔いをしないといけないと思ったんですね。そういう妄想を、いかに再現するか。今は考えなくなりましたねー。
__ 
考えなくなりましたか。
中西 
そういうのはもっと適した形式があると。きっとマンガとか小説とか。どうしてもしたかったらその形式ですればいいけど、舞台でする事じゃないなと思うようになりました。広がりがないからかな・・・。
__ 
お客さんにはどのように受け止められていたんでしょうか。
中西 
まあまあ伝わっていたと思いますけど、女性にはより強く通じて、男性にはそんなにだったと思います。ダンス作品として受け止められていたんじゃないかと。
__ 
そして、そういう表現をやめてしまった。
中西 
興味が無くなったんですかね。いや、限りがあるからかな?いつか、自分の世界とか妄想とかって、枯渇してしまうなあと思うんです。そうしないためにはどうすればいいかなと思ったら、やっぱり人と関わるしかないんじゃないかと。

あ、これだ、これをやろう

__ 
中西さんがダンスを始められたのは。
中西 
実は中高まで演劇部にはいたんですけど。高校で一応、ダンスの授業はあるんですよ。でも、ほんまに苦手だったんです。リズムに併せてみんなと同じダンスするなんてこんなつまらん事あるかいって。大体違う事しちゃうんですよね。「ナカニシのは違うね」って言われたりするんです。
__ 
あはは。なるほど。
中西 
でも、即興で動くのとかは好きなんですよ。近大の演劇・芸能専攻ダンスの授業で即興をよくやるんですけど、これは好きだなと思ったんですね。これはきっと、演劇に生かせるって思って。そうしているうちに、「世界演劇史」っていう授業で、前衛演劇やポストドラマ舞踏を見たり、2回生の時BATTIのside.Bを見て、衝撃を受け「あ、これだ、これをやろう」と。
__ 
どんな作品でしたか。
中西 
顔をずっと隠して踊るダンスだったんですけど、そんなん観ことなくって。暴力的で美しかった!!黒田さんの作品には凄い影響受けてしまって、しばらくモドキっぽいのを作ってしまったと思います。他に影響を受けたのはヤン・ファーブル。挑発的で、独自の美観点に基づいた作品と、ジャンルを越境して活動するところに惹かれました。

ドイツに!

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
中西 
とりあえず、私何故かドイツに行きたいです。ずっと行きたいと思っていて、呼ばれているような気もしていて。夢は大きく、ヨーロッパでツアーしたいなと。
__ 
あー、別の地に呼ばれるような感じってありますよね。
中西 
一度一人で旅行したんですけど、向こうのパフォーミングも好きだし、向こうの空気も好きなんですよね。呼んでるわこれは。HAU(hebel am ufer)で公演やるわ〜って。ついにドイツ語まで勉強しはじめました。
__ 
何で、土地に呼ばれるって事があるんですかね?
中西 
何ででしょうね?福井さんはベトナムに呼ばれているみたいですけど、何でか好きなんですよねー。無骨な感じとか、東ドイツ時代の懐かしい感じもいいし。行った時、言葉も分からなくて。英語もドイツ語も喋れない状態。でも不思議と苦にはならなかったですね。でもスリにあったんですよ。
__ 
えっ。何を取られたんですか。
中西 
お金取られました。チケットを買おうとした時に、後から「両替してくれ」みたいに言われて断ったら、その隙に別の奴が持ってったみたいで。
__ 
二人組ですね。
中西 
フランクフルトで、泣きながらATM探してました。
__ 
今度は気を付けて下さいね。また、いけるといいですね。
中西 
そうですね。前は舞台を見るだけの旅行でしたが、今度は向こうから呼ばれての公演旅行が出来たらいいなと思っています。

革と錨のネックレス

__ 
今日は、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
中西 
ありがとうございます。
__ 
いえいえ。どうぞ。
中西 
あけます。みんな、色々貰ってますよね。
__ 
いやー、大したものはないですよ。
中西 
何だろう・・・あっ。アクセサリーじゃないですか。かわいい。今日の服にも合いそうですね。
__ 
あっ本当だ。マリーンな感じが服とよく合っているのでは。
中西 
そうですね。夏も大活躍ですね。
(インタビュー終了)