MONO第39回公演「少しはみでて殴られた」を終えて
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。MONO第39回公演「少しはみでて殴られた」お疲れ様でした。大変面白かったです。
- 奥村
- ありがとうございます。良かったです。やってる側としては面白いかどうかは判断つきかねるので、そう仰って頂けて。
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- いえいえ。その、牢屋の中に国境が引かれるというシチュエーションがまず面白かったです。
- 奥村
- アイルランドに国境の真上に建っている家があって、そこが民族紛争の協定に使われたりするらしいんですが、それが土田さんへのヒントになったそうです。
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- お互いの区切りを自分達の便利のために線を引いていたんだと思うんですね。気がついたらものすごい溝が出来ていた。そういう流れがとても丁寧に追えていった感じですね。どんな諍いも、案外最初は、各自の都合が行き違うところから始まるのかもしれないなあと。
MONO
京都を拠点に活動する劇団。
MONO第39回公演「少しはみでて殴られた」
公演時期:2012/2/17〜26(東京)、2012/2/19(名古屋)、2012/3/3〜4(北九州)、2012/3/8〜12(大阪)。会場:吉祥寺シアター(東京)、テレピアホール(名古屋)、北九州芸術劇場 小劇場(北九州)、ABCホール(大阪)。
当初は
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- 舞台美術のプロである奥村さんに、本日は色々伺えればと存じます。まず最初に、舞台監督を志されたのはいつからなのでしょうか。
- 奥村
- 大学に入った当初は、映画部に入りたかったんです。そこで新入生歓迎上映会に行ったんですが、期待していたものとは違っていて。で、折しも当時未曾有の小劇場ブームだったんです。
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- そこで出会ったという事なんですね。
- 奥村
- 大学に演劇部が5つぐらいあって、結構華やかに宣伝したり勧誘したり。何か、勢いあるなあ、楽しそうだなあと思い入部しました。オーディションを受けたりしたんですが、何回か落っこちる度にスタッフに回されるんですよ。最初は演劇って役者する以外に何か仕事があるの?という状態だったんですが。何回か重ねるうち、舞台セットを任されるようになっていきました。
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- どのような感じでしたか?
- 奥村
- やってみたら、割と評判が良かったんです。本当に試行錯誤の手探りでやっていったんですけど、まあそれなりに形にはなったのかな。いま思えば全然大した事なかったんですけどね。長い時間掛けて製作もしていましたし、学内の他の劇団からも美術のお手伝いをお願いされたりして。
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- 当時の勢いが伝わってくるような気がします。
- 奥村
- その頃は土田さんはもちろん、松田正隆さんとも一緒にやったり、いまTV局ででディレクターをしている人もいたりして。熱かったですね。
作品が映える舞台、空間を整える舞台、色々です
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- ちょっとざっくりした聞き方ですが、例えば幕が上がってセットの全容が見えた時。お客さんに、まずどのような事を思ってもらいたい、というのはありますか? もちろん、作品によって違うとは思いますが。
- 奥村
- そうですね。開場中からセットが見えている場合もあるので、一概には言えないんですが。やはり、舞台を見た時からその世界に引き込まれようなセットを作りたいと思っています。そこの世界に行ってみたいと思えるような。
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- 私は奥村さんのお仕事を、これまで4作ほど拝見しているのですが、特に印象深いのはどこか主張が感じられるものなんですよね。例えば壁の花団の「象を使う」。舞台下手の、巨大な櫓があって。朽ちているけれどもエネルギーが残っているような姿。印象的でした。
- 奥村
- あれですか、あれは割と好き勝手やった部類ですね(笑う)。演出の水沼が面白がってくれて。抽象的だけど美術的な、主張の強いものに仕上がりました。
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- 未だに、劇場に入ってびびった事を覚えています。
- 奥村
- もちろん、抽象だけではなく具象も、色々やりますよ。具象的な舞台の方が作品が映えるのであればそうしますし。演劇空間を整えるのに徹する事もあります。本当に、色々ですね。
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- セットには抽象的なものと具象的なもの、そういう分類があると思うのですが、それはどのように決められるのですか?作品が抽象的なものであれば簡素なセットが生まれる、という思い込みがあるのですが。
- 奥村
- 別の考え方として、古典の作品、例えば岸田國士作品やシェイクスピア作品などの有名なお話であればあるほど抽象的なセットにはしやすいんですね。お話がしっかりしているので、それだけで見れるんです。だから、お話のテーマを核に作り上げたりはします。とはいえ、演出家の意向が主ですね。
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- 台本を読み、イメージを作り、演出家とお話をしていくんですね。つまり、要望を聞いていく。
- 奥村
- そうですね。一人では出来ないです。一人だと好き勝手し始めます(笑う)。
絞り出す
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- 舞台美術の成功について。私が思うのは、観客が見ている芝居と、その視界に入るセットが相乗効果で鑑賞体験における想像力を増幅した時だと思うのですが。
- 奥村
- なるほど。そうですね、仰られたように俳優や演出やセットが掛け算で相乗効果を得られて、世界が立ち上がった時ですね。その為の空間構成ですので、演出家と打ち合わせを重ねていく中で、色んなアイデアをガンガン作っていきますね。ここを圧迫させたいとか、ここにこういう物が必要だとか。
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- つまり、舞台美術とは、イメージを作る事なんですね。
- 奥村
- はい。毎回それを絞り出しています。アイデアがないとつまらないですね。
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- 私は、単なる思い込みからか、演出家の要望を抑えて、効率良く、世界を表現出来る舞台セットを作る事だと思っていました。私は人に頼まれてwebサイトを作る事があるんですが、クライアントの要望に沿って効率の良いものを作るのが基本だと思っている所がありまして。もちろん、舞台美術と比べるつもりはありませんが。
- 奥村
- でも、やはり見た目が美しくないと美術ではないと思いますので。これを見せるためにはこれを切って、こういうラインにして、みたいな。そういうアイデアを各所に盛り込んで行かないと。
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- 美しくするために。
- 奥村
- もちろん、端的に美しくと言っている訳ではなくて・・・。僕の「美しく」って、どういう事なんだろう?
美しく?
- 奥村
- うーん。
・・・
- 奥村
- 美しい?
美しい?
- 奥村
- でも、美しいとしか表現出来ないな。例えば美しい言葉。それを喋るためには、それなりの言い回しをする必要がある。それと同じ事だと思うんです。
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- ありがとうございます。
質問 駒田 大輔さんから 奥村 泰彦さんへ
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- 前回インタビューさせて頂きました、駒田大輔さんから質問を頂いてきております。「人間が好きですか?」
- 奥村
- うーん。好きか嫌いかと聞かれると、どちらとも言えないかな。あはは。嫌いというか、人類を生態系全体からみたらそれは悪ですし、人間関係も煩わしいことたくさんありますけど。好きって事になるのかな。動物は好きなんですけどね。
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- 物は好きですか?
- 奥村
- はい。結局、美術をやるという事は物に対してのコミュニケーションを行うという事なんですよ。例えば木の材質だとか、木目の流れだとか。
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- 物の美しさを発見して、切り出していくというお仕事なのでしょうか。
- 奥村
- そうですね。うん、人間のみならず、動物も好きですよ。もちろん、人工物もです。愛情を持って作られたものは特に好きですね。まあ、全体を広く見て、その中に人間が入っているという感じですかね。
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- 何をしているときの人間が好きですか?
- 奥村
- そういう意味でなら、やっぱり何かに打ち込んでいる人が好きですね。そうして作られたものに関心がありますし・・・どうなんだろう。結局は、僕は作品を最終的なものとしてしか捉えているのかもしれない。人間は作品の前段階にあるもので、その結果の作品を愛するという事なのかな。
うんうん唸る
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 奥村
- 今まで通り。常にいいものを生み出したいという姿勢を忘れずに。毎回、最新作が最高作というつもりです。そんな感じですかね。
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- 常に良いものを生み出すには、色々なやり方がもちろんあると思うのですが、いかがでしょうか。
- 奥村
- いやもう、僕の場合は決まっているんですけど、うんうん唸るだけです。資料を読みあさったり、台本読み込んだり、散歩しながら考えたり。毎回それです。
ミュージアムジェル(コレクション等用接着剤)
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
- 奥村
- ありがとうございます。(開ける)なるほど。
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- 守っておきたいコレクションに使えるかと。
- 奥村
- そんな大した物はありませんが・・・(笑)ありがとうございます。