演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

ニシノトシヒロ

舞台監督

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トシやね

___ 
今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近ニシノさんはどんな感じでしょうか。
ニシノ 
よろしくお願いします。秋になりましたね。毎年この時期は忙しいんですよ。しかも、ここに劇団の公演が入って。目が回るとはこの事ですね。
___ 
忙しいんですね。
ニシノ 
忙しいです、ありがたい事なんですが。
___ 
その中で、疲労を溜めない健康法はありますか?
ニシノ 
僕も20代半ばになったので、そろそろきちんと食べて、ちゃんと寝て。無理な時間まで作業しないことですね。
___ 
たとえば、最近ではどんな「まともな食事」をなさいましたか?
ニシノ 
さっきのお昼は、ニラ団子とお味噌汁でした。
___ 
内容のある食事ですね。
ニシノ 
野菜を取らないと体の調子がおかしくなるという事らしくて。偏りのある食生活から脱却しようとしています。
___ 
では、これまでで一番、偏っていた食生活は?自慢出来るレベルで。
ニシノ 
大学の2回生の時に、ウチの劇団の佐々木と石畑と遊んでいた時期、お金が全くなくて。夏なのにお昼がコーラのロング缶とタバコだった時があります。それで一月過ごした事があります。水と糖分は確保していたんですが、塩分はどうしてたんや!って感じで。でもお昼はそれで過ごせるんだ人間は、という事が分かりました。
___ 
塩分はタバコでしょうね。
ニシノ 
今はもう無理ですねぇ。別に過ごせなくはないけど、体調を崩すと再起動まで時間掛かります。影響が大きくなりました。徹夜も同じく。
匿名劇壇

2011年5月、近畿大学文芸学部芸術学科舞台芸術専攻の学生らで結成。学内にて「HYBRID ITEM」を上演。卒業後も継続的に大阪で活動。現在の劇団員は9名。作風はコメディでもコントでもなく、ジョーク。自分たちの身近にある出来事を、自分たちをモデルにしたキャラクターを登場させながら、自己言及的な台詞を吐かせつつ、客観的でスマートなエンターテイメント作品に仕立て上げる。ポストドラマ的な表現方法を取りながらも、非常に分かりやすい作品になっていることが特徴。疾走感のある演出で、共感のしやすい物語を、メタフィクション的な多重構造で描く。同世代から強い支持を受けている。2013年、space×drama2013にて優秀劇団に選出。2014年、芸創セレクション+参加。2015年、AI・HALL 次世代応援企画 break a leg 参加。(公式サイトより)

匿名劇壇第八回本公演「戸惑えよ」

___ 
初の東京公演「戸惑えよ」。大阪公演、大変面白かったです。60分という短い上演時間のなかで、匿名役者のソリッドな魅力が際だっていました。
ニシノ 
短い時間で、結構濃密なんだろうなあ、って。僕らはこれまで色んな演劇の作り方を経てきたんですが、今回は結構最初の頃の感じ、「お客さんをちょっと突き放す」終わり方で。久しぶりやな、という感じがします。2回目の公演「PUNK HOLIDAY」以来ですね、お客さんが最後どうしていいか分からない感じ。今回だいぶ、入っていきやすいんですが、お客さんによって取り方が違う。
___ 
フラッシュフィクションともまた違いますよね。
ニシノ 
そうですね。
___ 
「戸惑えよ」。一人が何役か担当するんだけど、時系列とか関係性も混迷していて、頭で処理しようとしてヘトヘトになる感じがまた面白かったんですよ。非常に挑戦的で、見れて良かったですね。東京の人に見てもらいたいポイントは?
ニシノ 
役者ですね。今回は味見程度だと思ってほしくて、『どんな奴がくんねん』みたいに構えられるよりはフラットな感じで、『大阪から来た若い奴ら』程度で見てほしいです。
匿名劇壇第八回本公演「戸惑えよ」

作・演出:福谷圭祐 何も感じない男が一人。どうやら感情を失ったらしい。 彼は何も感じない。 道端でガムを踏んづけたときも、 道端で千円を拾ったときも、 宇宙人が攻めてきた昨日も、 遠い惑星に恋人が連れ去られた今日も。 そして多分、 助けてと叫ぶ声が彼方から聞こえる明日も、 彼は何も感じない。 これはそんな彼を叱責する物語。 何かを感じろ感じろと、 世界が脅迫する物語。 たった一人の女の子が、 「何も感じなくたっていいじゃないか」と 主張するまでは。 匿名劇壇第八回本公演「戸惑えよ」 大阪公演=2016年9月22日〜9月25日(以降Plant M 10月2日まで)アートグラウンドcocoromi 東京公演=2016年10月8日〜10日 花まる学習会王子小劇場 仙台公演=2016年10月13日、14日 パトナシアター (宮城野区文化センター)

演劇、続いてる

___ 
ニシノさんが演劇を始めた経緯を教えてください。
ニシノ 
高校生の頃、当時の演劇部の顧問に騙されて入りました。それまではラグビー部にいたんですよ。中学からずっと。高校でもラグビー部に入ろうと思っていたんですが、体がガリガリで筋肉が付かず、じゃあマネージャーが出来たらいいんじゃないかと思って相談に行ったら男のマネージャーはいらないと一蹴されてしまい。じゃあ体を動かすのにどの部活に入ったらいいだろう、と悩んでたんです。その時、ちょうど生徒会もやってたんで、それと兼ねられるような部はないかとも悩んでいて。そんなときに、『演劇部なら体も動かせるし生徒会も兼ねられるよ』って騙されて入ったんですよ。
___ 
生徒会と兼ねられる、あたりがウソですね。
ニシノ 
そうですよね、全く兼ねられる訳がないんですよね。四月の新入生歓迎公演の時には生徒会ももちろん新入生向けの説明会をしますし、文化祭の時期になれば運営をしながら舞台をやって。
___ 
大学では。
ニシノ 
大学は最初、行くつもりは無かったんですよ。関西大学の併設校だったんですけど成績が悪くて行けなくて。
___ 
生徒会で演劇部だったから?
ニシノ 
いや、関係なく学問の方がおろそかだったので。それで、大学行かずに演劇をやろうとしたら、それは親に止められまして。色々と探した結果、近大の舞台芸術専攻一択だったんですよ。とはいえ併願で他大学も受けてて、そこも受かってたんです。悩んだ結果、近畿大学へ。文化祭実行委員とかも興味はあったんですが、いまいち違うなあって。そうこうしているうちに匿名劇壇の前身の公演に出会って、面白いなと思ってたら翌年の公演で舞台を作る事になって。
___ 
そこで匿名劇壇と出会ったんですね。
ニシノ 
その公演で勝手に色々大人を呼んだんですよ、石田1967さんとか。好評だったんですよ。そこで僕も入れてくれ、と頼みました。その頃から広報的な仕事もし始めたんです。
___ 
そこから丸5年と東京公演は早いですよ。
ニシノ 
早いんですかね。不安ですけどね。ラッキーですよね、運も実力のうちだと言ってしまえるほど図太ければいいんですけど。周りの方々に助けてもらったので、それがもったいない事にならないようにしたいです。今回の荒馬祭企画も、昔仕事でお世話になった田村さんとのご縁でした。田村さんには鹿児島や尾道、愛媛までお仕事に連れていってもらったりして、二週間で色んな現場を強行で回ったんです。そのご縁で、「PUNK HOLIDAY」を見に来てもらったんですが、「すごく面白い。いずれ東京公演に声掛けるよ」と言ってもらったんです。それが、今実現して・・・
___ 
それはなるべくしてそうなった縁ですね。
ニシノ 
たまたま、ですね。本当に。
___ 
いやあ、公演の絶対的な出来が悪かったら東京に呼ぶなんて企画は実現していないと思いますよ。
ニシノ 
ただただ田村さんのお気持ち一つだったんだと思います。少なくとも、田村さんに分かって頂けたのだけが幸運だったんですよ。

ハードル

___ 
大阪で挑戦的な劇団が東京に来る!新しいものの価値に対して鋭敏な嗅覚を持つ東京の人々ですよ。ハードルは高いのでしょう。
ニシノ 
諸先輩方が、東京には行ってるので、その分のハードルも高くなってるでしょうね。『彼らぐらいの体力と気力を持っている奴らが来るだろう』みたいな。
___ 
スタイルを確立している劇団が行っていて、好評を得ているようですね。そして、匿名劇壇もスタイルを確立している劇団ですから。
ニシノ 
具体的に、どんなご感想を頂けるのか楽しみですね。アンケートだったりtwitterだったり。直接声を掛けて頂けるのも楽しみです。今回の公演から、竹内桃子が制作に入りまして。彼女に前説を託してみたり、ロビーで僕がやっていた役回りを引き受けてもらったりしています。開演前に会場をフラフラして話しかけたり、お見送りしたり。
___ 
それはどんな役割なのでしょうか。
ニシノ 
開場して30分は、ヒマって事はないんですけど、ロビーでお客さんにご挨拶したり、最近見た芝居について聞いたりして。終演後にはお話出来ない方も多いのでいまのうちに、って。多くの人に絡んでもらおうというのが僕の大義だったんですね。
___ 
正解だと思いますよ。
ニシノ 
匿名劇壇は結構、クローズドな集団だったので。今も、入って行きにくい集団なような気がすると思われているんじゃないか、と。じゃあ周辺にいる僕がその役割をしてもいいのかもしれない。ありがたい事に僕も昔から大人に可愛がってもらえたので、甘えてみたりして。縁を大事にしていたら、もちろん作品が面白かったらですけど、その周りの方に勧めたり広めてもらえるんですよね。それはとてもありがたいなあ、って。自分たちで面白いとアピールするよりも、第三者の方の意見の方が威力があるときはあるんですよね。別の角度からの押しがあると、より一歩見に行きやすくなるのかな、と。

長く生きていくために

___ 
最近のニシノさんのテーマを教えてください。
ニシノ 
演劇人としては、出来るだけ細く長く。先輩たちには、生活していくのは大変だよと言われながらも、劇団に近い存在であり続けたいと思います。もう一つ言うと、僕は「やめ癖」が強くて。飽き性の僕が、ラグビーと同じ8年を続けられているんです。これを20年なり続けられるようにしたい。その途中で出会った匿名劇壇に、ずっと必要とされ続けたい。彼らに置いて行かれないように頑張らないと、一番面白いポジションで見れなくなってしまうというのがあるんで。お客さんには悪いですが、僕が一番の匿名劇壇のファンなんです。面白い角度で、内部を知りながら、笑う余裕ぐらいは保ちつつ、やっていきたいなと思っています。

質問 園田郁美さんから ニシノトシヒロさんへ

___ 
前回インタビューさせていただいた、園田さんから質問です。「好きな人が出来たらどうアプローチしますか?」
ニシノ 
とりあえず、お昼ごはんに誘います。

もっと稽古場に行く

___ 
今後、どんな事をやっていきたいですか?
ニシノ 
もうちょっと制作の過程に身をおきたいですね。それは自分たちの劇団の事だけじゃなくて、一緒にお芝居を作るという事の尊さにもう少し触れたいですね。毎週、いろんな方々とお仕事をさせていただいているのですが、稽古に数回しかいけないことがつづいたことがありまして・・・。ちょっと一回、立ち返りたいですね。稽古場との関わりに関しては悩んでいます。一緒に作る時間ですね。匿名で言えば去年の三重の滞在制作の時のような時間があればいいなあと。贅沢ですが。仕事をしていくうえでも、お互いの理解が深まれば、作品への違うアプローチが生まれるのかもしれない。長く稽古場に付くという経験をしていきたいです。

一緒にいたい人々

___ 
今後の攻め方、みたいなのをいつも伺っているんですが・・・
ニシノ 
個人としては、劇団が東京に行くのであれば僕も一緒に行きます。近畿圏じゃないところでも仕事をしてみたいという気持ちがあるので。どんな違う価値観やシステムがあるんだろう、と。そこに匿名劇壇と一緒に行けるのであればもっと楽しいだろうな、と。しばらくは切っても切れない間柄なので。色んなところからネタを仕入れてきて、それをどう変化させて使うか、みたいなところなのかな。
___ 
匿名劇壇はこの世代の中で一番惹き付けますからね。
ニシノ 
負けたくないですからね。いまのところ、僕らは劇団員だけで作品を続けています。僕は客演さんを呼んでもいいんじゃないのと思ってたんですが、福谷が「劇団員でやれる事があるうちは」と言い続けていて。劇団員だけでどこまで行けるか。どこまで攻め上がっていけるか。見届けていただければと思います。

梅こぶ茶、梅あられ、のし梅

___ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってい参りました。どうぞ。
ニシノ 
ありがとうございます。梅あられと、梅昆布茶。梅大好きなのでちょうどいいです。まだある・・・?のし梅ってなんですか?
___ 
ゼリーっぽいシート状のお菓子ですが、すごく美味しいですよ。
ニシノ 
ありがとうございます。
___ 
まだ暑いので、水分補給を是非。
ニシノ 
大事に飲みます。
(インタビュー終了)