ハッピーエンドにはならない
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- ともにょ企画の鈴木さんにお話を伺います。今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近はどんな感じなのでしょうか。
- 鈴木
- 最近は、来週に迫ったシアターカフェnyan!でのクリスマスの演劇イベント で上演する作品の稽古をしています。無料の客席限定イベントなんですが、この機会でしかやれない事をやっています。
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- どんな作品になりますでしょうか。
- 鈴木
- クリスマスっぽいメルヘンな作品ですが、ハッピーエンドにはならないと思います。
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- ともにょ企画。いつもはハッピーエンドにはしないとの事ですね。
- 鈴木
- 不幸って、いつもくっついてくる訳じゃないですか。それを描こうとすると、不幸を書きたいのかと周りからは言われるんですけどね。
質問 石田 大さんから 鈴木 友隆さんへ
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- 前回インタビューさせて頂きました、地点の石田さんから質問を頂いてきております。「お芝居に出会ったのはいつからですか?」
- 鈴木
- 高校の演劇部からなんです。けど、それ以前からTVでドラマでジャニーズ系のタレントが演技するのを見て、何か、悔しくなったんですよ。
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- 悔しい?
- 鈴木
- イケメンがTVに出てしょうもない演技してるのが腹立たしかったんでしょうね。癖で、画面見ながら一緒に演じてたりしてたんですが、もしかして俺の方が上手いぐらいなんじゃないかと思えてきて。だから、距離をおいたお客さんのように、冷めた目で演技を見るという姿勢が作られたんじゃないかって思います。
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- 高校からは。
- 鈴木
- 高校演劇に入って、・・・やっぱ、あるんですよ。
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- 何か、アニメの影響を受けたような。
- 鈴木
- そう、過剰なやり方とか。その中で台本を読むというのには抵抗があったんですが、変な読み方をするのが嫌でした。他校の公演を見ても同じような感じでしたね。僕の代からはナチュラルな演技で演じるコントとかやってました。
「オトコの一生」
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- そして大阪で旗揚げしたともにょ企画。いつもは、ハッピーエンドの作品を作っている訳ではないそうですね。
- 鈴木
- 思うんですが、この世の大体の演劇作品って、人生における浮き沈みの一部分を切り出しているだけなんですね。偏見かもしれませんが。
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- なるほど。
- 鈴木
- 僕は、良い事と悪い事の両方を描いた上で、メッセージを伝えるのが演劇のあるべき姿勢だと思っています。もちろん、最初からこういう全体的な見方をしていた訳じゃなくて、下がっている部分をいかに自分で肯定してあげるのかを考えて、描こうと思っていたんですよ。悲しさが盛り上がって終わったり、良いことなのか悪い事なのかわからない内に終わる、というような作品を作っていたんです。gate extra で上演した「オトコの一生」の終幕では、主人公の男性の死を描きました。それまで一生懸命働いて、良い事も悪い事もあって、好きではない女性と結婚して、自分と同じような生き方をする子供を持って、若年性痴呆症になって、早くに一生を終えるんですけど。「死」は、取りようによっては上がった絶頂であるとも言えるんじゃないかと思うんです。
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- 「オトコの一生」。確かにあの主人公は幸せそうに死にましたね。ちょっと伺いたい事があるんですが・・・
act for friends vol.2
公演時期:2012/9/8〜9。会場:KAIKA。
刑務所について
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- ドラマとは、確かに人生を切り出したものですね。それに反感を覚えたという事ですが。
- 鈴木
- 劇場という場所が、人間が人間を慰めている空間に見えたんですよね。関西に来たとき、エンタメが主流だと知って。もちろん見たんです、これは10代後半の僕の生意気さが助長したんですけど・・・こんな感動、演劇じゃなくても得られるじゃないかと思ったんです。自分はどちらかというと、悪い事も肯定したいなって。
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- 悪い事を肯定する。誰かの悪意によって傷付けられた時にも、肯定出来ますか?
- 鈴木
- 例えば政治家に嘘を付かれた時に、騙されたとかメディアが一斉に言うんですよ。そんなこと、取り上げる人の方がバカだなと思うんです。良い面を普段取り上げないのに、悪い事をしたときだけ大騒ぎする。そういう状況が嫌ですね。
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- 悪人を犯罪者として、世間が一斉に攻撃に回る。
- 鈴木
- 僕は、悪人はこの世にはいないという見地です。もちろん、善悪は指標として必要だと思うんですけどね。どういう状況が、彼をこのような仕業に追い込んだのかを考えないといけない。演劇の関係者はそういう志向で考える人が多いと思うんですけど。
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- 犯罪をした人間=悪人として片付ける事はとても簡単ですね。
- 鈴木
- 犯罪者を刑務所に入れるというのは、臭いものには蓋という事ではなく、「この社会が生み出した犯罪者」という、社会の一員として迎えるべき。みんながそういう認識じゃないと、刑務所の意味がない。更正して出てくるのを待っているだけではだめなんですね。異端者をマスコミが罵倒して、社会の隅においやって、それが商売として成り立っているという状況は、僕は嫌です。
僕が生きやすい社会
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- 鈴木さんがお芝居を続けている理由は何でしょうか。
- 鈴木
- ええと、いま思いついたのは、意地です(笑う)。今大人になって、昔とお芝居との付き合い方は変わってきてはいます。子供の頃は、サラリーマンを「毎日通勤電車に乗って会社に仕事しに行くだけの大人」だと思っていて、自分は好きなモノを作って生きていきたいという意識がありました。今、大人になったらサラリーマンがすごく尊敬出来る対象に思えてきています。
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- なるほど。
- 鈴木
- 常日頃、自分にとっての演劇を省みるようにしています。社会生活でも、演劇を絡めて考える事も凄く多くて、僕自身の活動も、演劇と社会との関わりを考える事にシフトしてきています。これは糸井重里さんが仰っていたんですが、「俺が生きやすい社会になってほしいんだ。そうなったらこれまでお金儲けしていた連中には文句を言ってくるかもしれない。けれど、俺が生きやすい社会は意外とみんな生きやすいんじゃないか」。僕の演出する作品も、だんだんと「僕が生きやすい社会にしてくれ」という思想になってきていますね。
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- 鈴木さんが生きやすい社会とは、どのような社会ですか。
- 鈴木
- 僕にとってのそれは、「生きる」という事が地に足が付いている社会です。いまグローバル社会で、生活の全てにお金が間に入っていて・・・もう訳が分からなくなっていると思うんですよ。グローバル化って、「海のものが食べてみたい、山のものと交換しよう」という交換経済が発展した結果だと思うんですよ。その中では、食べたいものを食べる、好きな事をしたい、そして子孫を残すという単純な生が訳の分からない事になっている。
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- 通貨という共通概念が、いつの間にか世界観になっているという事ですね。
- 鈴木
- 今、日本にはコミュニティがあまりにも少なすぎると思うんです。働く、生産をする場所のコミュニティばっかりになっていて、自分の生活をするコミュニティが無くなっていっていると思うんですよね。
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- 寄り合いがない?
- 鈴木
- そうなんですよ。昔は町内会が強かったので、人と人との結びつきがあった。それが、今は結びつきのない疑心暗鬼の人間関係が普通になってしまっている。お金が間に入らない物々交換が「生きる」基本だと思っているんですが、それが成り立たない。それが僕は生きにくいんです。身の回りの人と交流して、自分が生きる為のコミュニティを作るのは演劇と通じるところがあるんじゃないかと思っています。
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- ネットの書き込みを見るにつけて、そうしたコミュニティから人々が離れているという流れを感じますね。
- 鈴木
- 僕の理想は確かに退行と言われてしまうかもしれません。でも、グレートリセットという怖い発想ではないんです。理解するだけでいいと思うんです。それを自律・自立する事だと思っています。理解して、考えるだけでいい。
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- ともにょ企画のサイトにもありましたね。
- 鈴木
- 社会の中で自分がどういう役割を担っているのか、自分がどういう風に生きるのが幸せなのかを考える。本当に自分に必要なのは何?って。人間は、幸せになる為だけに生きていると思うんですが、「こうしないと不幸せになる」という考えばかりが多すぎると思うんです。自律して考える人々が増えたら、社会のシステムも含めて変わっていく。僕が言っているのは理想ですが、とにかく僕の仕事は、「見た人がもう一度考え直す」作品を作る事です。
リセット
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- 人に影響を与える最大のものは思想だと思うんですが、それを消化出来る人って案外少ないと思うんですよね。自分の憂さを晴らす生き方が増えている中で、思想に触れて、わざわざ立ち止まって考えなおす人は少数になっていくのかもしれない。
- 鈴木
- それもまたコミュニティなんですよね。今、嫌な人を遠ざけて生活する事がカンタンな社会だと思うんです。嫌な人を受け容れて消化するには、陰口と同時に評価して、理解をするようなやり取りがあった筈なのに。
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- 今は、紋切り型で切り捨ててしまう。それが普通になってしまったのかもしれな。
- 鈴木
- 楽なんですよね、きっと。というか、そうせざるを得ない状況になってしまっている。あまりにも考えるべき事が多すぎて。単純に都会に人が多すぎるんです。僕はこう考えているんですが、都会から地方に人を流してそこでコミュニティを作ればいいんですよ。当然、文化が無ければ人はいつかないので、文化を発展させて。思うに、都会に文化が集中し過ぎて飽和してしまっているです。インターネットがあるんだったら、文化を地方から発信する役割を負うべきだと思うんです。それが一番、有効なリセットの仕方だと思っています。
貧しい演劇
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- つまり鈴木さんは、個人の生き方を捉え直そうとしているんですね。
- 鈴木
- 僕の考えの一番最初には社会があるんです。その社会を生きやすいものに変える。これはピーター・ブルックの本を読んで知ったんですが、グロトフスキという劇作家が曰く「観客は必要ない。演出家と役者のみでいい」。彼の作品にはお客さんは必ずしも必要ではなくて、入れても30人ぐらい。彼ら自身を掘り下げる為の演劇なんですね。それを「貧しい演劇」とし呼んで実践してたそうなんですが、僕もそれを支持し始めたら劇団員が離れていくかもしれないです(笑う)。でも、演劇ってコミュニケーションの一形態に過ぎないんですよ。だったら、僕はお客さんと貧しい演劇を作りたい。それが出来るように、演劇を社会に普及させていきたいですね。
今自分がやりたい事
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 鈴木
- 僕が好きな演劇って、その人の世界がそのまま現れている世界なんです。僕はまだ自分の世界がまだ掴めていなくて。その為に劇団員を増やしたんです。
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- ともにょ企画のサイトによると、多いですよね。
- 鈴木
- 今、10人ぐらいいます。というのも、客演さんを迎える時のように気を使わずに僕の描きたい世界を描けるので。それが納得出来る段階になって、つまりいい商品になったら売りに行きます。来年2月に劇王があって、審査員の人にボロクソに言われると思うんですが、それを越えて3月に中崎町のイロリムラで一週間くらいのロングランをやります。劇団のメンバーだけの公演です。一旦は、劇団の商品を完成させるという考えで行きます。その後はあまり想定出来てないんですけど、良い物を作ったら皆ワクワクしてアレしようコレしようって言い出すと思うんで、心配はしていないです。今は、無理矢理自分のアイデンティティを演劇に見出して活動を強いる事はないかなと。それよりは、今自分がやりたい事を話し合っています。動画とかラジオとか音楽をやる奴が出てきたり。劇団内で芸術家同士のセッションが始まるようであればそれが理想です。あと、僕は糸井重里さんの事務所に就職しようと思っています。
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- いいんじゃないでしょうか。つまり、関西を離れる・・・?
- 鈴木
- あまり、関西にはこだわりはないですね。もちろんこれからもやっていきたいですけど、地方に興味があって。今でも、東京の人たちが地方の演劇祭に行ったり多くなってきて。これからも、地域のカンパニーが、東京とか大阪とかの「都市」以外の別の地域に行くという事がどんどん加速していくだろうし、そうなるべきなんじゃないかと思います。だから、「ともにょ企画は大阪の劇団で、大阪でずっとやっていきます」という事は言わずに、各メンバーが色々な場所で活動して、それぞれが受けた刺激を持ち寄ってセッションする。それが理想ですね。
31アイスクリームのチケット
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 鈴木
- あ、ありがとうございます。
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- つまらないものですが・・・
- 鈴木
- (開ける)あはははは、サーティーワン。高いですよね。
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- 皆さんでどうぞ。
- 鈴木
- そうですね、皆が揃う時に使います。