花
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。沢さんは最近、どんな感じでしょうか。
- 沢
- 最近はだいぶ、俳優よりもプロデューサー業の割合が多くなっていますね。あとは、勤め先の花を育てたりしています。
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- おお、花を。
- 沢
- でも、切られて持って行かれる事があるんですよ。
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- ああ、それは、ひどい・・・。私も過去、自転車のサドルを盗まれた事があって。犯人を恨んだりしたんですけど、これはもう何の解決にもなりませんな。
- 沢
- そうですね、悲しみは癒えないですね。まあでも、あまり考えないようにはしようと思っています。
京都学生演劇祭
京都。ここにはたくさんの学生劇団が存在します。京都学生演劇祭は、この?学生劇団″を対象に「今、最もおもしろい舞台を作る劇団はどこか」そのシンプルな問いに答えを出す、お芝居の祭典です。(公式サイトより)
京都学生演劇祭2014
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- さて、京都学生演劇祭について。沢さんが第一回から立ち上げ・企画・プロデューサーをされていますね。今年八月には、四回目となる京都学生演劇祭2014を開催されるという事で。まずは、現在の所感を頂けますでしょうか。
- 沢
- そうですね。四年目にして、やっと目指すべきところが見えてきたかなと。プロデューサーとして、京都以外にも活動の幅を広げようと全国の学生演劇に携わる方々と交流を行っておりまして。来年にはついに、学生演劇祭の全国バージョン を企画しようと考えています。第一回は2016年の三月あたり。
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- 素晴らしい。事業になりつつあるんですね。
- 沢
- その1年前の2015年3月に、準備として、第0回を開催しようと考えています。全国の学生演劇のメンバーと、どういう企画にするのか話し合おうと画策しています。具体的には、各地によって上演スタイルが違うので、例えばどんな上演形態にするのか・賞の設定をするのか・参加資格にするのか、とかを話し合おうと思っていますね。
京都学生演劇祭2014
4回目を迎える京都学生演劇祭。総勢15の学生劇団が、元・立誠小学校に集結。上映時間45分のリレー形式で公演を行います。参加団体の頂点となる「京都学生演劇祭賞」は観客投票で決定され、選出された劇団には10万円の賞金が贈られます。ジャンルを問わず繰り広げられる学生の熱演。夏の京都をさらに熱くします! 公演時期:2014/8/30〜9/5。会場:元・立誠小学校。
全国学生演劇祭(仮称)
地方文化の発展、青少年期の主体性の獲得、そして全国的な学生演劇のネットワーク構築を目的とする、全国規模の学生演劇祭。2015年3月に「第0回全国学生演劇祭」を実施し、各地域毎の推薦団体の上演と討論会によって、2016年から開始する全国学生演劇祭(仮称)をどのようなものにするかを決定していく。(公式サイトより)
この先に何があるんだろう
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- そろそろ大ごとになりつつある、学生演劇祭。まずは、第一回開催のきっかけを教えて頂いて宜しいでしょうか。
- 沢
- まず、僕が演劇を始めたのは大学からだったんですよ。小学校の頃から、将来は俳優になるぞと決めてしまっていて、とにかくやりたくて。卒業して、就活もせずに演劇していました。でも役者として京都でやっていくのは先が見えない。周りを見渡しても、俳優として生計を立てている人はほぼ皆無で。この先に何があるんだろう、となりまして。
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- ええ。
- 沢
- やっぱり東京に行くしかないのか。でも、当時所属していた京都ロマンポップ は、京都を文化の中心にしようというスタンスがあったので。僕もそういうスタンスが好きではあったんです。もちろん、演劇は東京の方が面白いものがたくさんあるんです。それでも、京都でしか出来ない何かがあるんだと思いまして。何か、ここで出来ないか。そう思った時に、京都は学生の街だ、と。さらに、京都ならではの「型にはまらない表現」の作品や俳優は、学生劇団の中からこそ生まれるんじゃないかと。歴史を見ても、演劇分野に限らず多くの才能が生まれている訳ですし。
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- そうですね。
- 沢
- あとは、京都ロマンポップの作品で、各学生劇団から出演者を一人ずつ紹介してもらうという企画がありまして。そういう個人の交流が下地にあったんだと思います。
京都ロマンポップ
「物語は幸せへの通り道」京都ロマンポップは、2005年京都を拠点として旗揚げしました。作品は、よりふじゆきによる脚本:本公演と、向坂達矢による脚本:さかあがりハリケーンの二本を支柱としています。現在は、向坂達矢による脚本:さかあがりハリケーンを主に発表しています。本公演の舞台設定は、古代ローマ、中世ドイツ、昭和初期日本、そして現代と多岐にわたっていますが、一貫して描かれているのは普遍的な人間の悲しさや苦悩であり、そこから私たちの「生」を見つめなおす作品です。哲学的な言葉を駆使しながらも、役者の熱や身体性を重視する、ストレートプレイ。(以下略)(公式サイトより)
これは発熱する祭
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- さっき仰った事が気になっています。「京都ならではの型にはまらない表現」。型に囚われないという事は、考え方に余裕があるという事だと思うんですよ。そこには、無知や不知が生む余裕もあるのですが、それはきっと歓迎すべき可能性でしょうね。創作においては、これはなおさら。学生時代をモラトリアムだと捉えた時、責任がない、自由に出来る、そんな環境に置かれている彼らは、優れた創作が出来る潜在能力を全員持っていると考えられると思うんですね。
- 沢
- ええ。
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- さらに、初期衝動というものがある。
- 沢
- そういう環境での創作がですね、次のステップにつながっていければいいですね。
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- それが一気に集合する京都学生演劇祭。祭という体裁を取っている事が大事ではないかと思っているんですが、いかがでしょうか?
- 沢
- そんなにお祭というものを意識して付けた訳ではないんですが、第二回ぐらいから「これは祭なんだな」と意識するようになりました。祝祭感を大事にしていきたいなと。
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- なるほど。今回のプログラムの組み方が、まさに祭らしいなと思いまして。一日に何団体もが、二つの会場を同時並行のショーケース形式で入り交じると。つまり同じ時間に、同じ建物内の別々の部屋で。それぞれの上演が終わった後、元・立誠小学校内にいる全員が同時代性を感じる事でしょう。その感慨こそが、次代の様々な文化状況を生む土壌となると思います。
- 沢
- そうですね。ちょうど上演が終わった後の猛っている時ですから。その辺の絡みはすごく、熱いでしょうね。
未知の価値を探しにきてください
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- これまでの学生演劇祭の開催の中で、印象に残った出来事を教えて下さい。
- 沢
- ホントに、色んな人に叱られながらもやってきた演劇祭だなあという印象が強いですね。それまで役者しかやってきてないので、企画書の書き方がなってないと劇団員に叱られ、実行委員会を作ったもののどう動かしていいか分からず学生に叱られ。足りない部分を色んな人に補ってもらいながら続けているなあと。
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- それでも、今でも続いているという事は進歩しているという事だと思います。
- 沢
- そうですね、ちょっとずつでも規模を拡大しているので、自分のキャパを強引に広げているような。それから、印象的な事と言えば・・・第一回の演劇祭に丸山交通公園が、京都産業大学の劇団ACTから参加してきてくれたんです。普段の集客は少なく、彼らの知名度もそこまでなかったんではないかと思うのですが、彼と劇団ACTの才能を、京都の中心で沢山のお客さんに見てもらえた事は大きいと思います。200人以上のお客さんに、彼がすごくウケて話題になって。彼らの、演劇を続ける理由にもなれたのではないかと。それはもちろん、劇団テフノロGも、僕の出身の劇団月光斜TeamBKCもそうだし。
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- 地理的な条件で出会えなかった劇団とお客さんを結びつけたという功績ですね。
- 沢
- はい、学生演劇祭の価値としては少しばかりはあったのかと。今年も未知の劇団が多いので、そこを楽しみにして頂ければと思います。
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- 楽しみです。参加した学生達の存在感がありますね。
- 沢
- 学生演劇祭は賞レースなんですが、観客賞と審査員賞の二つの評価軸があるんです。その観客賞で一年目は最下位だった劇団があったんですけど、劇団の中の一人がその打ち上げで「情けないっす」と深く沈んだ表情で言っていて。それが二年目は大躍進して、観客賞は三位・審査員から団体賞をもらったんです。演劇の勉強はしてないけれど、でもだからこそ大きく成長するというのもあるんですよ。そういう部分のドラマもあるのかなと。
「ここでしか聞けない先輩の本音。」
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- さて、祭についてもう少し。お祭という体裁が学生達にどんな影響を与えているのでしょうか。
- 沢
- 今回は時期が変わってしまって、申し訳ないんですけど・・・。色んな同世代と出会えて競い合える。そういう場として、認知されつつあるとは思います。
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- そうですね、何日かではありますが、交流しあわないではいられない場ですね。
- 沢
- でも、その交流もそのままにしていては何もならないですから。最近頑張っているのは、学生演劇祭の前にオープンステージという括りで番外企画をいくつもやっているんですね。
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- 番外企画。
- 沢
- 今回は5月末に合同稽古をして、学生自身にWSをしてもらうと。学生がその内容を考えるんですね。その次はMONOの土田英生さんや照明家の葛西健一さんをお呼びしたWSですね。大きい公演の舞台裏ツアーをしてもらうという企画もありました。KUNIOの「HAMLET」です。アフタートーク付きで。これは参加人数が限られているんですが、大きな刺激になったようです。上のステップが覗ける、いい機会になったんじゃないかと思います。
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- なるほど。
- 沢
- それから、先輩たちの本音が聞けるトーク企画も開催します。まあ、演劇を続けるって大変で。社会人として演劇を続けている方、バリバリ舞台で作品を作り続けている方をお呼びして、「ここでしか聞けない先輩の本音。」という。学生自身が、これからどういう道があるんだろうと考えて貰えるような企画を考えています。
質問 西岡未央さんから 沢 大洋さんへ
世代で橋渡しが続けられるような
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- 同時代の学生劇団というのはワクワクする存在ですからね。
- 沢
- 僕は滋賀でしたけど、京都から離れていてもワクワクしていましたね。
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- そういう出会いをプロデュースしているという事だと思うんです。これに今参加した学生が、6年後の2020年、第10回の学生演劇祭に来てくれて、その時の連帯感を思い出してもらえたらいいですね。
- 沢
- そうですね。そこは、実は全国的な仕掛けを作れたらいいなと思っています。
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- というと。
- 沢
- 学生劇団出身の、そんなOB・OGが沢山いらっしゃると。そうした方々を全国的に呼びかけて、今の学生を応援して頂ける仕組みを考えています。お客さんとして見に来て頂けるのがまず大きな一つです。さらに言えば、先輩後輩という人と人とのつながりが、文化への援助として連なっていく。金銭的な存続もその一環として視野に入れています。先輩から後輩に、寄付金という形で長い時間で存立していけるような枠組みが出来ないか。助成金にはなるべく頼らずに。もちろん毎年、この事業が必要なのかお互いに確認し合える場を用意し、世代で橋渡しが続けられるような・・・そんな形にしたいです。
個性がめまぐるしく飛び交う、そんな日
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- 学生演劇祭を通して、ご自身が一番好きな時間はいつですか?
- 沢
- それはやっぱり、学生の作品を一番最初に見れる時ですね。なんじゃこりゃ、というものもありますけど、でも、お客さんより大分感動しているとは思います。
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- なんじゃこりゃ、という作品もありますよね。
- 沢
- そうですね、面白いものもつまらないものも個性があって、自分の個性を好きなようにつぎ込める。それが許される。それは京都という土地柄の大きな魅力、懐の深さかなと。雑多な感じですね。小屋入りしてからはそういう個性がめまぐるしく飛び交っていて、面白いです。
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- 楽しみですね。どんなお客さんに見てもらいたいですか?
- 沢
- やっぱり、同世代の学生には見てもらいたいです。演劇に近い文化系のサークルの人と、ジャンルを越えた交流が生まれたらいいなと。お互いに刺激しあって化学変化が起きたら。
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- 反対に、演劇祭に来ないであろう方々に一言。
- 沢
- 演劇というジャンルの、それも学生の作品。演劇というジャンルで声を上げようとしている(社会に対してか、同世代に対してか、それとも自分自身に対してかは分からないですけど)。それが最も凝縮して集まっている企画だと思います。是非、複数団体見て頂けたらと思います。
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- 当日の現場の空気を感じてもらいたいです。きっと、普通の演劇とは違うし、もしかしたら他のどんな演劇祭よりも濃い熱量があるかもしれない。さらに、学生演劇を始めようと思っている方に一言頂けますか。
- 沢
- 中高校招待枠を去年から用意しています。今年も早速申し込みがあったんです。是非、利用してもらいたいです。
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- 学生演劇を辞めた方々に一言。
- 沢
- そうですね。学生時代の思い出って沢山あると思うんですけど、僕の場合は一つ上の先輩がいわゆる黄金世代。今でも忘年会を開いてくれるんです。後に続いている後輩が、今も母校で演劇をやっているんですよね。演劇をですね、是非趣味の一つとして。今住んでいる土地の演劇を見ていただきたいですね。
役者の価値って何なんだろう
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- さて、沢さんは映画にも出演されたという事で。映画『星を継ぐ者/Inherit The Stars』 。予告編を拝見したんですが、延命さんがカッコ良かったですね。高瀬川すてらさんも。そして、あの吉岡里帆さんが出てますね。
- 沢
- とにかく、時間を掛けた作品でしたね。演劇と映画がとても魅力的な出会いをしている作品だと思います。今回を機に、映画の方に演劇人を紹介出来たというのが大きいかなと。映画の方からは演劇が畏れ多いというものがあるらしくて。演劇側にもそういう思い込みはあると思うんですけど・・・その間の出会いを、名鑑のような形で紹介出来るような仕組が作れればいいなと思います。
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- 素晴らしい。撮影自体はどんな経験でしたか?
- 沢
- 一年半ほど撮影期間がありまして。その間、色々ありました。喧嘩もあったし、対話もしたし。深く交流のある作品でしたね。役者の価値って何なんだろうと、そういう事も考えました。役者になりたいという思いを小学校から抱いていたけれど、その時描いた通りに行くわけではないんだな、と。
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- そうですね。俳優が生きるというのは、それだけで難しいかもしれない。経済的な事情はどうあれ。
- 沢
- 一緒に演劇をやりたい仲間とも、いつまでも出来る訳じゃないんですよね。京都ロマンポップの作家であるよりふじゆきが上海で仕事してるんですけど、彼といつかもう一度演劇をしたいなとずっと思っていまして。この前の5月、上海に行ったんです。
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- おお!
- 沢
- 向こうでの彼の仕事や生活を見たり、お互いの考えを話しあったり。結果、やっぱり無理なんだなと分かって。そういう分岐がある節を迎えて、色々考えますよね。どうしても理想との乖離というか。それがきっかけとなってか、俳優って全く価値が無いなと思っちゃったりするし、演劇はもっと面白くなれるし社会に対して価値を持てるはずなのに、全然足りていない。そういう事を考えながらも、学生演劇祭をやってますけど。
映画『星を継ぐ者/Inherit The Stars』
2014年第6回福岡インディペンデント映画祭コンペティション部門正式出品となった-映画『爛れる/Becomes Sore』の監督・末長敬司と、2011年第5回京都造形芸術大学映画祭において作品-賞・撮影照明賞・録音音響賞・美術賞・女優賞の5冠を達成した映画『つくすみ』のスタ-ッフが、吉岡里帆を主演に迎えて放つ、インディペンデントのスケールを超えたSF大作!*2014年秋より順次公開予定*(公式サイトより)
企画あり
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 沢
- まずは東京と福岡で、学生演劇祭を向こうでもやれればいいなと思います。東京には有名所が沢山あるじゃないですか。早稲田とか。短編の作品を上演出来るような演劇祭を実現出来たら。もっともっと、関わってくださる方々を募集しています。
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- 東京の学生演劇で、こうしたイベントの持つ共時性が濃く感じられたら凄く面白いでしょうね。
- 沢
- そうですね、特に東京は絶対数が多いんですよね。でもこうしたイベントを続けるのはとりわけ難しいらしくて。学生が自立して継続できるような、そんな仕組にしていかなければならないなと。よそ者だからこそ出来る企画が生み出せたらと思います。
故郷に思う
- 沢
- 将来的な理想としては、実家で演劇や文化振興が出来たらと思っていまして。
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- 隠岐の島ですよね。
- 沢
- そうですね。隠岐の西ノ島というところは、段々と人が少なくなってまして。どこか贅沢な話ですけど京都での演劇をもっと盛り上げて、5年先ぐらいには隠岐でもそんな事が出来たらなと思っています。実は、京都ロマンポップで一度やってはいるんです。
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- あ、そうでしたね。「沢先生」。
- 沢
- 島民の約4000人の内、400人以上が観に来てくれて。島にとってもありえない事で。島に帰る度、その事を言われて、「またやってよ」と言われるんです。プロデューサーとしてはあれぐらい、あれ以上の事をやらないといけないんだろうなと思います。役者としても、道を見つけられて、何か島に還元出来たらと思います。
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- 俳優でありながらプロデューサーというのは結構珍しいですよね。
- 沢
- 先々週、祖父が亡くなりまして。火葬場で最後のお別れの時にですね、父の事も思い出して。火葬場の同じ場所で、最後に「僕は俳優になる」という事を誓ったんですよ。俳優としての自分も、ちゃんと考えていかなければならないと思っています。プロデューサーとかけ離れてはいるんですけどね。
小鳥のスタンプと鳥っぽいペーパーナイフ
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 沢
- ありがとうございます。照れくさくなりますよね。
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- ペーパーナイフと、ハンコです。どちらも小鳥をかたどったものです。封筒を沢山開ける職だと思いますので。小鳥のハンコは、まあ個人的なマークにお使い頂ければ。
- 沢
- 確かに。今日も封筒を2つ開けました。使います。