演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

橋本 裕介

プロデューサー

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落ち着いています

__ 
今日は、宜しくお願い致します。
橋本 
宜しくお願いします。
__ 
最近はいかがですか。
橋本 
最近は、落ち着いています。そんなに、バタバタと忙しくはしていないかな。

新しいものに触れた喜び

__ 
橋本さんは、これまでずっとプロデューサーという形でお芝居やダンスに関わっておいでですが。思うに、企画者というのはシーンの最前線にいると思うんですよ。そこで伺いたいのですが、最近何か、企画する事自体について考えている事はありますか? 
橋本 
もちろん、その企画のミッションは何かという事と、その目的に適う仕事の方法について考えますね。そういう事だけじゃなくて、あえて、僕が考える企画についての具体的な意識だよね? 
__ 
そうですね。橋本さん独自の考え方が伺えれば。
橋本 
舞台を通して、出会った事のないものに触れる驚きと喜びを創るためにはどうしたらいいか。とにかく、観客が「あ、これってまだ体験した事ない」という経験が、その人の感動と喜びになる企画がしたいと思いますね。
__ 
それは例えば、芸術的なイメージですとか、そういう事なのでしょうか。
橋本 
もちろんそれは色んなレベルがあると思うんだよね。例えば・・・今まで全然演劇やダンスに触れたことがない観客に対しての企画と、実際に作品作りをしている人達に向けた舞台芸術の可能性を探る企画とではやり方は違ったりはするんだけれど。
__ 
そうですね。
橋本 
でも、どちらにしてもまず、「新しいものに触れた喜び」を企画を通して参加者に感じてもらえることを目指してます。たとえば、前者の観客はもう一度舞台を見に来ようと思ってくれるだろうし、後者の実演家達には新鮮な気持ちで創作活動を続けて行こうという気分になるだろうし。

演劇計画

__ 
そういった、企画の立て方自体について具体例を挙げて説明が頂ければと 思うのですが・・・例えば、この間芸術センターで企画された「It is written there」ですが。私は拝見出来なかったんですけれども。これは、どういったミッションを持つ企画だったのでしょうか。
橋本 
あれは、実は、さっき言ったように「特定の層の観客に向けて、こういう結果をもたらすであろう」という見通しで作品を作る企画ではなかったんですね。「演劇計画」という芸術センターの企画で。
__ 
はい、演劇の「演出」そのものに着目して、芸術センターから支援を行うという。
橋本 
そのプロジェクトの目的というのは、そもそも芸術センターはアーティストを支援する為の施設なんだけれども、その目的をより具体的にするために作品のサポートをするというのが。
__ 
まさに「演劇計画」であると。
橋本 
舞台の演出の為に出来るだけアーティストが作品作りに集中出来るようにサポートするのが企画の大きな趣旨なんですね。
__ 
橋本さんはどういった形で関わっているのでしょうか。
橋本 
うん。まず話を持ちかけて、一緒に作品を作りましょうとなってから、どんな作品を作るかの打ち合わせをする。作品のラフが出来てきたら、こちらからも質問する。その受け答えの中で、アーティストは自分の意図するものがより明確になっていく事が期待出来る。こちらも場所と機会を提供するだけではなく出演者やスタッフなどの人材の面でも提案していくと。また、どういった観客と出会っていきたいのか、その辺も演出家と一緒に考えながらやってます。もちろん、最終的に決めるのは演出家なんだけど、こちらは色々な可能性を提示します。だから、そういう事をするにはこちらは色々な情報を持っていないと駄目じゃないかと思うんだよね。
演劇計画

京都芸術センター主催。関西のみならず、広く全国から演出家とその作品を募り、上演を含めた育成プログラムを展開する。

「It is written there」

京都芸術センター主催「演劇計画2007」ダンス作品。構成・振付・演出:山下残。公演時期:2008年2月28日〜3月2日。会場:京都芸術センター。

__ 
一緒に作品作りをするという事で、橋本さんももちろん稽古の現場にいらっしゃると思うんですが。その稽古の現場について、少しお聞きしたいです。稽古場というのは、まあやっぱりクリエイティブな現場だと思うんですね。そこで、例えばダメ出しを出された時に返事をしないとか、そういう常識的な習わしが無視される場合が結構あるんじゃないかと。
橋本 
稽古場はクリエイティブ、だから自由=ゆるい、というのは結びつかないと僕は思うけど。クリエイティブな作業とは、他者と出来るだけ厳しく意見を戦わせる事だと思いますけどね。特に僕が体験したコンテンポラリー・ダンスの多くの現場では、稽古場での共同作業自体に意味があると思いました。そういう意味では、相手が他者であり、その人にとって自分が他者である事が厳しく晒されなければ、自分や相手が持っているものが高いレベルで引き出されないと思う。
__ 
なるほど。
橋本 
別に、ダメ出しに対して「はい!」って威勢の良い返事をすればいいという訳じゃなくて、それよりも相手に対して強い緊張感がなければいけないと思う。それが他人と一緒にやる事の意義なのかなあと思う。僕も、他人の稽古を見たりするんだけど、怖いって感じるね。
__ 
怖い? 
橋本 
うん。自分の何が試されるかどうか分からない。舞台の本番だけじゃなくて、稽古場も本番の一部のような気はする。稽古で何十回やっても、本番で100%発揮するというのは人間がやる以上難しい訳で。
__ 
本当にそうですね。
橋本 
その中で最高のクオリティを発揮する為には、「(本番の)こういう場合ならばどうすれば良いのか」を判断する能力を普段から磨く事なんじゃないかな。その為の訓練の場が稽古だと思う。もちろん、振付や段取りを身体に叩き込むための反復作業という意味も勿論あると思うけど。
__ 
なるほど。
橋本 
それは、ダンスとかに関わったりすると考える事ではあるよ。
__ 
稽古は、作品を作る場であると共に、本番で高いクオリティで表現する為の緊張感や集中力や判断力を養う場である、という事ですね。

ボール

__ 
橋本さんは、今度どのように攻めていかれますか? 
橋本 
まず、攻められるような体力を身につけなければいけない気がする。具体的な意味でも抽象的な意味でも。やっぱり新しい物を考えたり、人と付き合って仕事したりする時にはスタミナがなければいけない。それから、抽象的な意味で知識のストックが足りていないなと思っている。勉強したいな。
__ 
勉強ですか。座学という意味での? 
橋本 
色々かな。とにかく、今世の中で何がどのような背景を持って起こっているのかを知らなければ、色々な作品を作る、あるいは見る目が養えないと思っていて。
__ 
自分達の置かれている世の中の状況を知らなければ創作なんて出来っこない、という事ですか? 
橋本 
うん。創作活動って、球を外に向かって投げる事だと思うんだけど、どこに向かって投げるのかを見定められていないと、その球の投げ方が分からない。強いのか、早いのか、軽いのか、駄目なのかの判断すら付けられない。野球だと、ストレートはどんな状況でもストレートかもしれないけれど、表現活動は状況が違えばストレートだと思って投げていたものが実はそうでなかったという事もありえるんじゃないかと思うんですよ。

受けた事のないボール

__ 
今後、橋本さんが実現したい企画は何ですか? 投げたいボールというか。
橋本 
まあ一つは、京都で国際的な演劇祭がしたいなと。
__ 
国際的な演劇祭。
橋本 
舞台を通して、今この世の中でこんな色々な人達がいるんだなあという実感出来るような。訳の分からないものがうわぁってあるような。そういうのがやってみたいね。
__ 
それは面白いですね。訳の分からないものが沢山ある。
橋本 
その横で、身近な作品も並べられていて、我々が慣れ親しんできたものに対しての新しい見方が生まれるかもしれない。と同時に、京都にいながら、自分の行ったこともない国の出会ったこともない人の生活や考えを知るきっかけが出来れば楽しいだろうなと。
__ 
国際ですか。いいですね。奇人変人が沢山観れるんですね。
橋本 
それは是非、実現させたいですね。
__ 
きっと実現します。
橋本 
ありがとう。
__ 
何故、そのような企画を考えられたのでしょうか。
橋本 
さっき、「企画するにあたって何を重要と考えているか」という質問の延長にあると思うんだけどね。
__ 
はい。
橋本 
表現する人が一体どこにどうやってボールを投げるのか、を考える為には、世の中の事をもっと知る必要があるし、それを受け取る側に立って考えれば、まだ受けた事のないボールを受けたいという欲求もある。そう考えると、国際という広がりになっていくんじゃないかと。
__ 
受けた事の無い、多種多様なボールですか。
橋本 
最初は受け止められないかもしれないし、魔球だったりするかもしれない。それも良しだと思うんだけどね。でも、難しいボールの方が受けた時の喜びは大きいんじゃないかな。

ファイルボード

__ 
今日は橋本さんにお話を伺えたお礼としてプレゼントがあります。
橋本 
ありがとうございます。
__ 
どうぞ。
橋本 
ありがとうございます。開けます。・・・何ですかこれ。
__ 
中を拡げて頂ければ分かるかと思いますが、ファイルボードですね。
橋本 
なるほど。何か仕事が出来そうな。ありがたいですね本当に。
__ 
地味すぎてどうなのかなと思ったんですけど。
橋本 
いや、かっこいいよ。
(インタビュー終了)