もう、別れの季節
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- 今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近、南風盛さんはどんな感じでしょうか。
- 南風
- 3月は本番の稽古と、卒業展があるんです。
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- 劇団速度 ですね。それと卒業制作の展示。忙しいですよね。お時間を頂きありがとうございます。
- 南風
- 卒展は、東京に行く事になった友達が忙しいのもあって、中々人手が足りなくて。でも間に合いそうです。
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- 忙しい以外だとどうですか?
- 南風
- 何だろうなぁ。卒業式に何着ようかなと思ってます。女の子は大体袴なんですよ。袴姿の女の子はほんとうにかわいいと思うんですけど、自分が着るのは・・・昔薙刀やってたんで、稽古着の感覚で・・・テンションが上がらなくて。
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- 京大の卒業式はコスプレをするらしいですね。
- 南風
- うちの大学では映画学科は結構コスプレするみたいですね。舞台芸術学科は大人しいですね。
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- 何をしたらいいかな。自分の生首を持って現れるとか?
- 南風
- 出来ます。授業発表公演でマクベスをやった時に、マクベス役の河井くんの、そんな小道具があったんで。
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- 河井君なら出来ますね。でも生首、自分で言っててありふれたアイデアだなあと気づきました。
- 南風
- あはは。
みだしなみ「蝶のやうな私の郷愁」 を終えて
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- みだしなみ「蝶のやうな私の郷愁」、去年でしたね。面白かったです。狭いアパートに夫婦二人が閉じ込められていて、でも外の世界の中心にどこまでも包まれている。絵画のようにまとまっていて見やすくて、けれどどこか不安定な舞台でした。まず、舞台セットも綺麗でしたね。
- 南風
- 抽象的な舞台セットが好きなんですけど、ト書きに「家」と書かれていたので、まず家って美術以外で出来ないものかなと思ってたんです。でも、家が家以上のものに見える瞬間ってあんのかなと思って。抽象的な美術だと四角いブロックがそれ以外の何かに見えるような。そういう風に、家が何かに見える瞬間があるのかな。お客さんが勝手に想像してくれるのかな。
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- 具象的でありながら、それ以上のものになる。照明も抑え気味でした。家の姿かたちでありながら、それ以上のものに異化する。役者が、自分以外のものになりたいと思う、そんな動きと同じかもしれませんね。
- 南風
- ああ、そうか。そんな願望あるかな。
みだしなみ 第3回公演「蝶のやうな私の郷愁」(京都造形芸術大学 卒業制作演劇公演)
作:松田正隆 演出:南風盛もえ 日程: 2015年 11月15日11:30 / 18:00 16日13:30 会場:京都芸術劇場 studio21にて 出演:近藤智子、蜷川敬太
「お客さんが勝手に想像してくれる」
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- 「お客さんが勝手に想像してくれる」。最近、匿名劇壇の芝居でも同じような事を言ってたかな。この間のフラッシュフィクションで言ってた気がする。
- 南風
- フラッシュフィクション、行きたかった・・・カストリ社のときにめっちゃ面白いと思って。
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- そう。超短編を立て続けに上演する作品形態。だからこそお客さんが勝手に想像するという状態になりやすかったんじゃないかと思うんですが、逆に言えば、そういう状態に確実にする、というのが演出家の成果かもしれないなあとふと思って。
- 南風
- アンケートに「何が言いたいのか分からなかった」と書かれる事もあるんですけど、その人には想像をさせられなかったのかなと思うんですよね。平田オリザさんの著書で「作品には作者からのメッセージがある、という考え方をしている人、それは現代国語の弊害で、この作者は何が言いたいか?この文章のテーマは何か?という問題を当たり前のように私たちは解いていて。自分の考え・答えではなく、誰かの考え・答えの正解を探すような見方で演劇を見てしまう」みたいなことを読んで。
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- 答えを予見して見てしまう人には、単純に見方が合わないのかもしれませんね。特に、どう取ってもよい演劇作品は。
- 南風
- そのうえ現実には、すぐには解決しないぐらい難しい問題の方がずっと多いですから。
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- ものの見方は一つではない。
- 南風
- 一回生の頃三浦基さんの授業を取ったんです。「何故演劇の人口は少ないのか」というテーマがあったんです。スポーツと比べて。一番大きいのはルールがあって分かりやすいから。もし演劇にルールがあって分かりやすければ違っていたかもしれない。でもそうではない。演劇は理解して見るものではなく、了解しながら見るものなんだ、って事を入学してすぐ、5月ぐらいに聞いて。一発で色んなものを見れるようになりました。そう、了解しながら見れば良いのかと。
舞台芸術研究会で
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- 劇団速度の公演「珈琲店」ですね。まず、この公演はどんな経緯で始まったんですか?
- 南風
- 舞台芸術研究会の野村さんを中心に、研究会のメンバーが集まって始まりました。研究会は名前の通り「研究」が目的です。一方、劇団速度は「実践」を目的にしています。
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- どんな作品になるでしょう。
- 南風
- コラージュ作品になります。テキストがガンガン入って、今は30分ぐらい出来ているんですけど、色んな本が混ざってきています。戯曲じゃないものも入ったりしています。
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- あの可愛いチラシからはちょっと想像出来ませんでしたね。南風盛さんはどんな役どころでしょうか?
- 南風
- 「珈琲店」のテキストで宛てられているのは、賭博にハマっている色男気取り男の貞操な妻で、その夫に「殺せるなら殺しなさい!」とか言う役です。
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- それはまた似合っているのか似合ってないのか分からない役どころですね。
- 南風
- はい。
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- あの、「舞台芸術研究会」って、ストレートなネーミングですね。
- 南風
- 京都大学のメンバーが中心になって出来て、今は40人ぐらいいるらしいです。
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- 多いな!京都舞台芸術協会とは違うんですよね。
- 南風
- あ、全然違います。今は劇団速度が忙しいから活動は抑えめですけど、普段はみんなで同じ演目を見たりして、感想を言い合ったりしています。誰でも全然、ウェルカムだと思います。気軽に来て欲しい。演劇を勉強したいんだけど何から勉強したらいいのか分からない人はとりあえず来たらいいと思います。場所としてアリだと思います。アルトーの残酷演劇とかを読む会をしました。哲学が混ざってきたら京大の哲学科が控えていて解説してくれたり。超贅沢ですよ。メンバーの京大生は割と、地点を見てたりするんですけど、「地点のああいう部分はどうなっているの?」って聞かれたら演出家の三浦さんの実技の授業を受けている京造生が解説するとか。
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- 一つの流れになってるんですね。そういう、人の流れというか、局を作れているんですね。
- 南風
- 人数が急に増えました。勧誘してと言われたから・・・大体みんな、アンダースローにたまるんですけど。学生が来ると、三浦さんが「怪しい会があるらしいぜ」って私達の方に紹介してくれるんですよ。じゃあ・・・って勧誘しています。
舞台芸術研究会
京都を中心とする舞台芸術の鑑賞・研究を目的とした団体です。劇団速度の主催団体でもあります(公式twitterより)
部品になる
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- 今後、どんな演劇をやりたいですか?
- 南風
- どうしようかなって感じなんですけど、一人では出来ないので仲間を探します。舞台芸術研究会は色んな人に出会えるし話せるから、いいですね。でも本当はもっと俳優をやった方がいいのかなと思っています。今は自分で作るよりも、色んな人の作品に出たいと思っています。わたし、俳優をやっていて褒められた事が特に無くて。演技ヘタだから。もうちょっと稽古場で、演出家と話して取り組む経験が欲しい。
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- 私は南風盛さんの演技好きですよ。
- 南風
- (笑う)、今褒められた。
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- みんなからは褒められない、って事ですね。褒めやすい演技って訳じゃないのか。
- 南風
- そうですね、印象薄い。
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- いや、南風盛さんは一度見たら忘れられない印象ですよ。ハマリ役に出会えていないという事じゃないですかね?
- 南風
- そうなのかな。1回生の時は個性派俳優に憧れて、例えばがっかりアバターの葛原君に憧れたりしました。今は、部品みたいな存在がいいなあと思ってます。
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- 部品。
- 南風
- 作品が大きな機械だとして、それを動かす部品達のうちの、ひとつ。でも超最先端の、超精巧な部品。他の部品に囲まれて見えなくてもいいですけど。そういう俳優を目指してみたいなあ。私は唯一無二って感じではないし。
波打ち際へ
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- 部品になっても残るのが個性、みたいな事を土田英生さんがインタビューで仰っていて。南風盛さんはキャラが強すぎて褒める云々の話に発展しないんじゃないですか?
- 南風
- 大学の同期に、「お前は何やっても南風盛になる」と言われたんです。「役作ってんな・・・」みたいな演技じゃない、ムリをしていないのは良い事かもしれないけど。でも、セリフを言える言えないという感覚は大事にしていて、普通に立ってたら言えないけど逆立ちすれば言える、って感じるセリフなら逆立ちして言うようにするし。だから全部、南風盛になってるのかな。
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- そういう在り方が似合う役者なのかもしれませんね。
- 南風
- 本当はもうちょっと、演出家にそった役者にならないといけなかったのかもしれない。そういう現場に行ったら、言えているつもりのセリフが「全然言えてないよ」と指摘されるのかな、勉強になるのかな。
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- 難しいですね。そういう現場を知ってた方がいいんじゃない、とも言えるし、行かなくてもいいんじゃない?とも言えるし。
- 南風
- わがままですけど、やっぱり自分に合った現場に行きたい、見つけたいというのはありますね。
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- どちらにしても、役者の演技がOKになる時のコミュニケーションって大事ですよね。自分が作ってきた表現を稽古場の中で了解を取って、OKを貰うこと。
- 南風
- 稽古、難しい、ですよ。コミュニケーションて自分が相手に何を差し出せるかというところだと思うんですけど、相手がどれだけのものを出してくれるか分からないじゃないですか。自分が500円のものを出しても相手が300円のものしか出してくれないこともある。そもそも自分出した500円が、相手にとっては300円の価値だったり。大学の先生に、「南風盛さんは作品を見る時、作る時、視力が2.0ぐらいある。けど、自分以外の人は0.8しかないと思った方がええよ」と言われて。なるほど、と思った。自分がどんだけ感動して感想を言っても、相手に伝わらなくて、「え、怒ってる?」と言われたり。些細なことに苛ついていた。
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- 南風盛さんが了解する力が、周りの人よりも深いのかな。
- 南風
- そうかもしれないですね、18歳の時にその力を与えられたから(笑う)
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- 感動するし、了解する。
- 南風
- ある日、サーファーって何故波に乗れるの!?と急に不思議に思って調べたんですけど、波にはどういう原理があるのかとかを詳しく解説しているあるサイトの文章に感動して。「サーファーは、崩れる瞬間の波にしか乗れません」って一文があって。その一文、ヤバくない?って話をしても、感心してくれる人はなかなかいないです。
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- なるほど。あの、それはですね、それを聞いた友達はおそらく感動してたんですよ。「崩れる瞬間の波にしか乗れない」の感動は伝わっているけれども、表現が追いついていないだけなんじゃないか。南風盛さんの意図は100%伝わっていると思います。
- 南風
- そうかな。今はこの感動をどうしたら伝えられるのか、それがテーマです。一回感動したものって、飽きるまで感動を繰り返したくて。その方法を探りたくて。「崩れる瞬間の波にしか乗れない」という一文を基に作品を作ったら昇華するのかもしれませんけど、今のところどうしたらいいのか分からないんですよね。誰かに喋ったりするぐらいで昇華出来ればいいですけど。
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- 簡単には昇華しない感動を得たら、もう取り憑かれるしかないのかもしれませんね。私の場合は、それは過去の風景と分かちがたく結びついている。ふとした時に、風景が私を完全に掌握するように包み始めるような感覚に陥るんです。自分の生き死にや自由も全て内包してくる風景が、私を一枚の絵の中に閉じ込めて、時間を奪い去っていく。しかしそれを表現して昇華しようとしても誰も受け止めてくれないから、個人の中で澱み始める。南風盛さんのサーフィンもそうかもしれない。
質問 柳沢 友里亜さんから 南風盛 もえさんへ
諸江さんと片桐さん
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- 一緒に作品を作ってみたい人や、劇団はいますか?
- 南風
- 地点は、三浦さんの実技の授業は本当に受けてよかったし、またオーディションとかあれば、受けるんだろうなあ。そうだ、諸江翔大朗さん。諸江さんも舞台芸術研究会のメンバーなんですけど。
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- あ、そうなんですか。
- 南風
- 大学の先輩だから、卒制のことも色々教えてくれて。もっとお話ししてみたいなと思います、できれば作品を作りながら。みんなのお兄さんですね。
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- 諸江さんの演技は面白いですからね。
- 南風
- あと、片桐慎和子さんが好きです。ピンク地底人版の「散歩する侵略者」がよくって、見た当時は片桐さんしか存じ上げてなかったんですけど。今思うとお2人が共演なさってますね、すごく良かったなあ。片桐さんは、AI・HALLのダンスのWSで初めてお会いしました。寺田みさこさんのWSでした。
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- 片桐さんは凄いですよね。
- 南風
- お会いしたいですね。出演作品はチェックしているんですけど、完全に片思い状態なので・・・
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- いつか三人で作品が作れたらいいですね。きっと。いい感じの雰囲気がするわ。
海に落ちる
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- 以前のインタビューで、「自分の需要が分からない」みたいな事を仰っていましたね。卒業制作公演を終えた今、何か分かりましたか?
- 南風
- あ、自分はこういうのが好きなんだなというのが少しは分かりました。
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- 例えば。
- 南風
- 色んな要素がいっぱい重なっているやつが好きです。色んなレイヤーが重なっていて、それは舞台の空間を作っている各要素が同時進行していて、それぞれのピークは重ならない方がいいらしいんですよ。音響も照明も役者も演出も、全部のピークは一つの瞬間に合わさらない方がよくて、バラバラな方が良いらしいんです。あと、俳優が目立ちすぎるのが好きじゃないらしくて。もっと音とか光とか物とかと俳優が同じ並びになるぐらいのが好きらしいんです。
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- ピークをずらす。それこそ大学で学ぶ価値のある知識ですね。
- 南風
- 作品を見る時も、そこを気をつけて見てみようかなと思っています。最後の5分間のためだけの作品もあるのかも。空腹が最高のスパイス、みたいな。
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- この間のKIKIKIKIKIKIの、Aプロはそんな感じでしたね。「崩れる波にしか乗れない」も、サーファーがその波に居合わせる事の出来た瞬間の事を言っているんだと思うんだけど。
- 南風
- そうですね。サーフィンって波を横に滑るんですよ!動画見るまでなぜか縦のイメージだった。うまく波に乗れたら1度も落ちずに陸には辿りつけるって思ってた。でも横だったな〜、地球のかたちに沿ってるから波ってああいう崩れ方になるのかな、全然わからない。みんな、絶対海に落ちるんですよ。泣けます。必ず海に落ちるんや、って。
木彫の小鳥
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。今回も大したものではないんですが・・・
- 南風
- 前回は大したものだったじゃないですか!美味しかった〜。私、2回飲めました。
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- ああ、「悪戯乞ひて」にも出てましたからね。梅!って感じでしたでしょう。
- 南風
- 梅でした。
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- 何か、フレッシュな梅感じゃなかったですか。
- 南風
- はい。「梅!」って感じ。
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- これ、どうぞ。
- 南風
- 何だろう。(開ける)まだなんか包まれてる・・・あ、トリ。
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- 単なる置物です。
- 南風
- 雑貨って、買う瞬間の心の豊かさヤバくないですか。
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- 分かります。
- 南風
- 今年のお正月、一年半振りくらいに雑貨を買ったんです。お金を出して、家で眺めるだけのものに。一回生の頃は京都の雑貨屋を探して買いまくっていたんだけどな。そういうのに囲まれた日々でした。私に似合うかな。飾ります。酉年生まれですし。