演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

大石 達起

演出家

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gateユース IN SITU 「結婚しようよ」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い致します。gateユースでのIN SITUの上演、「結婚しようよ」とても面白かったです。お疲れさまでした。最近はいかがでしたか?
大石 
ありがとうございます。3月の末まで、京都造形大学主催の演じるシニア企画の演出助手をしてまして。年明けから忙しかったんですが、ようやく落ち着けそうです。
__ 
ありがとうございます。さて、IN SITUの「結婚しようよ」大変面白かったです。元々ドタバタ劇である原作、チェーホフの「結婚申込」を、本当に下らないドタバタの笑いに仕上げた感じですね。肥後橋さんの芝居が好きなんですけど、彼の演技と顔芸がもの凄く良かったです。
大石 
ありがとうございます。
__ 
IN SITUは前回公演も近代の海外戯曲を上演されていますね。その、翻訳劇につきまとう、口語ではない故のまわりくどさや、掛け合いのリズムが崩れる、あれが気になるかと思いきや、今回はそうでもなかったですね。
大石 
前回の「ロング・クリスマス・ディナー」 はあまりにも戯曲に寄り添いすぎてしまおうと、まじめにやりすぎて堅くなってしまった、という部分があったと思います。この表現にはどんな意味があるのか、細かく作り込みをしよう、とか。一方で僕はくだけた表現も好きで、京大のNFとかではすごく下らないものをやっていて。今回は自由なやり方に振り切って海外戯曲をやりたかったんです。
IN SITU

ラテン語で「あるべき場所」という意味で、イン・サイチュと読む。大石達起が、劇団ケッペキ卒団後に自らの新たな表現の場として立ち上げる。主に近代の海外戯曲を上演し、そこに描かれた普遍的な人間の生活、人と人との繋がりを現代に復活させる事で演劇の、あるいは自分自身の「あるべき場所」を追求する。(こりっちより)

パイロット版シアターシリーズ「gateユース」

公演時期:2014/4/17〜20。会場:KAIKA。

IN SITU「ロング・クリスマス・ディナー」

公演時期:2013/12/13〜15。会場:京都市東山青少年活動センター。

まわりくどい冒険

__ 
今回、チェーホフ原作「結婚申込」を選んだのは?
大石 
何をやろうか考えている時に、オニールの短編を読んでみたんですが、その、強度が強すぎてどうしようもないなと。それを25分で上演するのはとても難しいし、しかし崩すことも出来ないなと。チェーホフの作品はいい意味で軽いし、くだらなさというところもあって。短編の中で、コンパクトで短い点に惹かれたんです。話がまとまって崩されてを繰り返す構成で、僕のやりたい作り方が出来そうだと。
__ 
実際やってみて、いかがでしたか。本日の上演を経て。
大石 
僕は面白いと思ってたんですけど、実際はどうか分からなくて。でもフタを開けてみると温かく迎えて頂けました。
__ 
出演されている方々の表情に、お客さんが乗っていけてる感じがありましたね。
大石 
そうですね。始まる前に音響でインターナショナルが鳴って、照明が付いたら肥後橋さんが腕立て伏せをしてる。そこでいかに古典戯曲とされる作品への緊張感をほぐせるか。割と狙い通り出来たんじゃないかなと思います。
__ 
なぜ身構えるのかと言うと、単に海外の言葉遣いだけじゃなく、常識や間合いの取り方を受け入れるのに抵抗があるだけでしょうね。逆に、日本の常識内の対人的な間合いやリズムで書かれたら、物語の舞台が海外のどこであろうと平気ですから。
大石 
前回公演の「ロング・クリスマス・ディナー」の時にそれを感じましたね。アメリカの近現代戯曲なんですが、向こうの人たちがばさっと言い切るような台詞を僕ら日本人は感情を組み立ててお互いの反応を見ながらさぐり合って会話するんですよね。今回はまわりくどさを逆手に取って面白さにする、みたいなのも狙っていました。結果はどうだったのかは、また別の話ですが。

だったら僕は演劇の事を知らなさすぎる

__ 
IN SITUを旗揚げした経緯を教えてください。
大石 
高校から演劇をしていまして。大学でも劇団ケッペキで4年間やってたんですけど、将来の事を考えた時に、やっぱり演劇続けて行きたいなとなりまして。だったら僕は演劇の事を知らなさすぎると。そこで海外の戯曲を読み始めたんです。
__ 
なるほど。
大石 
ここ百年ぐらいの戯曲が凄く好きで。それこそ、ワイルダーが出てきたあたりからです。家族という概念が強く出てきた段階のが凄くいいなあと。今の時代に書かれているのは、個人に重きが置かれてるんですね。
__ 
共同体から、個人に興味が移ったという事ですかね。
大石 
そして、個人の絶望と再生が描かれるようになるんです。携帯やインターネットがない、コミュニケーションが容易に取れない時代。人と人との距離感に対する絶望とか、枯渇したものへの思いや願いがあるんです。対面しないと伝わらない。(離れた相手にどうするかと言うと手紙を書くんですけど、今は絶対ない距離感や時間の差も興味深いですね。)今なら解決出来ないものがあって、どうしても人と向き合わないといけないんですよね。
__ 
近代戯曲を積極的に取り上げているのは、その時代のコミュニケーションの不自由さと、家族に興味があるから、ですね。

__ 
そうした作品をお客さんに見てもらって、どう感じてもらいたいですか?
大石 
いかにお客さんに、身構えずストレートに戯曲を楽しんで頂けるか、というところです。お客さんの反応によると、期待以上に深く受け止めてくれる事もあれば、予想も付かない受け止め方をされる事もあって。でも、一緒にこの物語を楽しんでもらえればと思うんですよね。僕がいつも役者に言っているのは、第四の壁を境に舞台側に物語の水が溜まっていって、ある瞬間を境に客席側にそれが溢れて言って欲しいんですね。お客さんに物語を体感してほしい。「ロング・クリスマス・ディナー」は時代がハイペースで流れるんですけど、USJのバックトゥザフューチャーライドのように、客席が時代の激流を下る乗り物のようになってほしかったんですね。
__ 
なるほど。昨日、ミジンコターボの解散公演を見たんですよ。
大石 
はい。
__ 
大阪の芝居の最たるものだと言ってもいいんだと思うんですよ。彼らは兵庫ですけど。大石さんの仰る、水が流れ出してくるというのが最初の10分で実現していたような気がするんです。それはもちろん彼らの作品が良かったというのが前提なんですけど、もしかしたら客席が大阪の観客で、既に水を共有しているんじゃないかと思うんですね。
大石 
なるほど。僕らも、今回は一緒に盛り上がれたんじゃないかと思うんです。次も頑張りたいですね。

質問 伊藤 泰三さんから 大石 達起さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた伊藤泰三さんから質問を頂いてきております。「人生最大の後悔は何ですか?」
大石 
難しいですね。凄く小さい後悔はたくさんしているんですけど。うーん。強いて言うなら、演劇にかまけて大学の勉強が遅れた事ですかね。

そこにしかない自由さ

__ 
IN SITUでやってきた事を伺ってきましたが、では、IN SITUでしか出来ない事が伺えたらと思います。いかがでしょうか。
大石 
一つは自由度の高さなのかな。芝居に対する切り込みの角度というか。僕は作家ではないので、そういう自由さはあると思います。
__ 
大石さんにとって、魅力的な俳優とは。
大石 
自分の良さを分かっている人は見ていて気持ちいいですね。それから、言葉に対して誠実な人。おざなりに台詞を言ってしまうのではなく、テクストを理解して構成立ててくる。そういう人の台詞は濁り無くすっと入ってくる気がします。あと、がむしゃらな人。矛盾してるかもしれませんけど、演劇に命を掛けて、自分の生活に影響が出るくらい、役と自分が同化していく人には憧れますね。僕は絶対、そういう事が出来ないので。

美しい1ミリのために

__ 
いつか、どんな作品を作りたいですか?
大石 
いつも思っていて、でも中々出来ないのですが・・・小手先の面白さや見た目の派手さじゃなくて、人間関係の心の機微で、重厚な時間を作れたらいいなと思いますね。物語を見せるのに、派手な機構は必要じゃなくて。人間の会話の中で話される事や、裏の心の動きの変化で、描けたらいいなと思うんです。
__ 
少しの変化を鮮やかに描く。
大石 
暗い作品、何も起こらない作品をやりたいという事ではないんです。派手な作品は好きなんです。その一方で、小さくて微妙な変化が生きてくるような、そんな演技の積み重ねがある芝居が出来たらいいなあと。小さな変化が大きな事件になるような。凄くこう、芝居の転換を作る時に分かりやすく作ってしまいがちなんですけど、その描写ひとつでお客さんがはっとするような、それに耐えうる時間作り、芝居作りがしたいんですね。
__ 
きっと、そこに持っていく為にはお客さんの集中力を高め続ける必要があると思うんですよ。個人的な経験として、見入っていたと感じる作品に出会うと、自分の思想も影響されるような感覚がある。そういう重力を持つ作品が生まれればいいですね。

IN SITU、暑い夏へ

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
大石 
8月の『gateリターンズ』に参加することになりました。今回のgateユースとは逆に、派手な事はしないで純粋に人間関係を見せる作品を作ってみたいと考えています。この2回のgateを経て、10月ごろの本公演でベーシックな会話劇に戻りたいと思っています。インプットにつきましても、gateリターンズまで少し時間があるので、本や映画をみたいと思っています。
__ 
とても楽しみにしております。頑張って下さい。

小型折りたたみナイフ

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
大石 
すみません。ありがとうございます。開けてもいいですか?
__ 
もちろんです。大したものではないので、あまり期待はせずに・・・
大石 
あ、凄い。これは。
__ 
ナイフですね。
大石 
ありがとうございます。こんなオシャレなものを持っていないので。
(インタビュー終了)