弱男ユニット演劇公演「友情のようなもの」
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。稲森さんは、最近はいかがでしょうか。
- 稲森
- 最近は、弱男ユニット次回公演「友情のようなもの」の準備ですね。
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- あ、そろそろですよね。では、ハウアーユーという意味では?
- 稲森
- まあ〜、ぼちぼちという感じですね。結構、公演がある時と無い時で上下が激しいんです。いまは公演が近いので、わりと元気です。
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- 公演が無い期間は? 落ち込んでいる?
- 稲森
- 落ち込んでいるか、普通です(笑う)。公演の準備が始まると「あ〜、またか」とか思うんですけど。本番が近くなり、仕事や稽古が佳境になってくると一気にテンションが上がっていく感じですね。
夕暮れ社弱男ユニット
2005年結成。当初はライブハウス、砂浜など劇場外での活動を主としていたが、2008年より活動の場を劇場へと移す。従来の客席・舞台という構造の認識を、骨太な戯曲により再構築することを試みている。過去には、客席を破壊/再生した「現代アングラー」(2008年/次代を担う新進舞台芸術アーティスト発掘事業「CONNECT vol.2」優秀賞受賞)や、劇場の真ん中に客席を設置し、その周りをグルグルまわりながら物語を紡ぐ「教育」(2010年/大阪市立芸術創造館セレクション選出)などがある。(公式サイトより)
弱男ユニット演劇公演「友情のようなもの」
公演時期:2012/3/7〜2012/3/12。会場:元・立誠小学校 職員室。
弱男の生け簀
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- 次回公演「友情のようなもの」。どんな作品になるでしょうか。
- 稲森
- チラシにも書いてあるんですが、とにかく全編、舞台上で全員が転がりながら芝居するんですよ。
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- なるほど。それは、お客さんからはどう見えているんでしょうね。
- 稲森
- そうですね、生け簀みたいに見えたらいいなあと思っています。
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- 生け簀! 個人的には、ころがった姿勢って、日常の会話をする姿勢ではないと思うんですよね。それを見ている観客は、どんな印象を持つのかなあと。寝転がると、会話の重要な要素である表情が見えにくいです。つまり、通常の会話を見る感覚では見れないのではないかと。
- 稲森
- そうなんですよね。かなり違うものになると思います。稽古している私たちも初めてなので発見があるんです。たとえば、立って行う演劇ではいまいち手持ちぶさたな役者が、転がって演技するとめっちゃ面白いやんけ、みたいな。演出と美術が話してたんですが、人間は立ってる時点で理性が働いていて何かしら抑制されていて。でも寝っ転がるとどこかが外れるんやろうなと。転がるのが得意な人もいれば、それが苦手な人もいるんですよね。
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- 転がる事に、得手不得手がある。それは、どこに起因するのでしょうか。
- 稲森
- 一言では言い切れないですが、動けるか動けないかですね。ためらいなく転がれるかどうか。その上で、言葉にベクトルをつけられるか、が役者としては勝負かもしれません。
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- 確かに、観客にとっては誰が誰に向けているかは重要な情報ですね。それは、かなりスムーズにこちらが把握出来る情報だと思うんですが、寝ている姿勢だとかなり難しい。だから逆に、刺激的で複雑な経験になるだろうなと思います。
- 稲森
- ありがとうございます。刺激的で複雑、そういう風になればいいなと思います。
見たいから
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- 「教育」 の時も、役者が島状の観客席を歩き回りながら演技するという舞台をされていたんですよね。面白かったです。
- 稲森
- ありがとうございます。
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- そして、賛否両論でしたね。
- 稲森
- うーん。客席によって見え方が違うというところもあるのかな? ないのかな? でも、そういう試みに興味を持って下さるかというのは大きな要素だと思います。
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- 面白く思えない、というのは本当に結構、受け入れられるかどうかというところがありますよね。個人的には、何でも面白がれるようになりたいと思いますが。
- 稲森
- もったいないとは思いますね。例えば舞台の構造を変えた作品に対して、序盤でシャッターを降ろしてしまったりとか・・・。
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- そうなってしまうと、何を見ても面白く思えなくなりますからね。
- 稲森
- 舞台構造の事はさて置いて、単純に面白かったといってもらえたらなあと思っています。
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- なるほど。そういう志向と、今回のような、転がって演技するという試みとの折り合いはどこでついているのか気になります。弱男は、何故そういったことをするのでしょうか?
- 稲森
- それは、作演出の村上が見たいからだと思います。見たこと無いから。でも、方法は全く構築されていない訳ですから、役者の間でも分からないんですよ。
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- 村上さんにも分からないんですね。
- 稲森
- だから、稽古場で実際にやってみるんですね。村上に実際に見せるんです。そこから全員で試行錯誤して・・・の繰り返しなんですけど。弱男にとって、面白がってもらうのが一番です。
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- 勝手な解釈かもしれませんが、弱男の舞台は劇場に熱を入れる役割があるのかもしれないなあ。
夕暮れ社弱男ユニット 第二回劇場公演『教育』
大阪市芸術創造館マンスリーシアター。公演時期:2010年3月25日〜28日。会場:大阪市立芸術創造館。
不器用
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- さて、弱男ユニットとはどのような団体なのでしょうか。
- 稲森
- 2005年ぐらいに村上がユニットとして始めました。2008年に「もっと出来るんじゃないか」という事になって、レギュラーを集めて劇団になりました。まあ、仲いいんじゃないですかね? あんまり呑みに行ったりはしないんですけど。
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- なるほど。
- 稲森
- 同い年が多いですね。私と向井と御厨と小川は同い年です。みんな好きな事やってる感じです。
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- これはもう、なんとなくのレベルでいいんですが、弱男ユニットの強みとは。
- 稲森
- これ、自分で言うのもなんですけど・・・役者が強みです。不器用な人が多いんですけど、そこのところは演出が見て上手いこと配置しているんじゃないかと。
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- 不器用さ。弱男らしい気がします。
- 稲森
- 弱男らしさ。そうそう、チラシ作るにしても、カッコいいデザインとかを色々出してもらうんですけどね。でも、弱男っぽくないものもあって選びきれないんですよね。「弱男っぽさ」が何かというと、それはまだ誰も言葉に出来ていないんですが。
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- 個人的には、終末感と失恋ソングみたいな感じかな。嫌な予感と絶望が同時にある感じなんだけど、汚くないしごちゃごちゃしていないというか。
- 稲森
- 素材感?
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- あ、ちょっと近いかもしれないですね。素の感じがあるんですよ。ナチュラルな。
- 稲森
- あんまり工業製品ではないような感じですかね。
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- そうなんです、それでよく見ると可愛くもあるし、パッケージ化されていない彼らを見るのは、自分の不安定さに優しく触れるられるような。失恋した時に失恋ソングを聞くような感じかも。
- 稲森
- あー、聞きますね。
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- 持って生まれた弱さを受け取る事によって、我々が抱えている不安感が形になるんじゃないかなと思うんですよね。その意味では、弱男を面白がれる人は分かれるかもなとは思います。そういう所に魅力があるのではないかと。
人間が見れる
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- では、稲森さんは弱男のどういう所が魅力だと思われますか?
- 稲森
- 人間。
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- おお。
- 稲森
- 人間が見れる所だと思います。人間像という意味ではなくて。私にとって弱男の舞台は、演じる場所というよりは、現実の地続きなんです。
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- 地続き。
- 稲森
- 私と向井さんは割と長いことやってるんですね。その二人の感じって、私達にしかたぶん出せないんですよ。舞台上にまで二人の関係性が延長している、という事ではなくて。阿吽の呼吸でもないんですけど、ノリですかね。
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- ノリが舞台に持ち込まれている?
- 稲森
- そうですね。関係性とか言っちゃうと、具体的になってしまうので。
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- 分かる気がします。クセというか、セッションというか。
- 稲森
- そうですね。音楽みたいな。
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- 触れ合いみたいな・・・つまり、関係性みたいな高レベルな層じゃなくて、もっと低レベルな、もっと深い層での接触があるんですね。
- 稲森
- そうですね。頭で考えたコミュニケーションじゃないんですね。
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- そういう関係を舞台で見て、我々自身の、リアルタイムな実生活を却って思い出すという事なのかな。ふれあいの記憶が呼び出されるような。だから、役者が不器用だというのは必要な条件なのかもしれませんね。
一つの劇団で
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- ところで、稲森さんが芝居を始めたキッカケは。
- 稲森
- 村上が造形大にいた時に、@カフェで上演していた「ここでキスして」という作品を見たんですよ。私も関わりたいなと思って、衣装を手伝わせてもらおうとしていたら、いつの間にか舞台に立っていて。出たがりだったのもあって、それ以降ほとんど参加しています。
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- どんな目標がありましたか?
- 稲森
- 一時は色んな劇団から呼ばれる人がカッコイイなと漠然と思っていたんです。いっぱいオーディションを受けてみたり・・・。でも、一つの劇団で続けるのもいいなと思ったんですよ。今回の作品で、より強く感じました。
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- ありがとうございます。では、今後はどんな目標がありますか?
- 稲森
- もうちょっと劇団員が増えたらいいなと思います。人が増えたら、色々なパターンが生まれると思うので。あと、個人的には、色々な事を並行して進められるようになりたいですね。
質問 森上 洋行さんから 稲森 明日香さんへ
実は一番おかしい奴
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 稲森
- 二都市公演とかやりたいですね。京都でしかやっていない訳ではないですが、色々な街を股にかけてやってみたいです。
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- 頑張って下さい。稲森さん個人としては。
- 稲森
- 夕暮れ社メンバーの中で、マジメそうに見られているんですよ。でも、まともそうに見えて、実は一番おかしい奴みたいになりたいですね。
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- 羽目を外したい?
- 稲森
- どうでしょうね。ギャップを欲しているんだと思います。
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- なるほど。
- 稲森
- まだまだ、色々出来るんだろうと。
白雪ふきん
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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントがございます。
- 稲森
- ありがとうございます。
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- どうぞ。
- 稲森
- (開ける)ふきん?
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- 白雪ふきんという、けっこういいものらしいです。
- 稲森
- 私、他人に与える印象が和っぽいんですよ。あ、この柄めっちゃ可愛いですね。