満月動物園第弐拾四夜『ツキノオト』
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- 今日はどうぞ、よろしくお願い致します。満月動物園の園長・戒田さんにお話を伺います。最近、戒田さんはどんな感じでしょうか。
- 戒田
- とりあえず、脚本が終わってホッとしています。
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- そう、6月の「ツキノオト」ですよね。稽古がもう始まっているそうですが、どんな感じでしょうか。
- 戒田
- まだ3回目で、立ち稽古に入ったばっかりなんです。でも、俳優陣のレスポンスが衝撃的に良くて。なんといいメンバーなんだろうと。
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- 劇団の代表や演出をしているような人も何人かいらっしゃいますからね。死神シリーズ観覧車編。今年は満月動物園15周年という事で、観覧車の崩落事故から始まる1話完結の5連作を1年掛けて上演されるという事で。とても楽しみにしております。
- 戒田
- ありがとうございます。
満月動物園
おもな登場人物たちはいつもフツーの人たち。でも、ほんの少しメルヘンな世界におかれる。キュートな死神にとりつかれたり、 トイレに流されてしまったり、アタマからカサのはえてる人と仲良くなったり、ユメとネムリの境目をウロウロしたり。クスリと笑えるシチュエーションで日常をほんの少しメルヘンにずらして、ほんの少し優しく見つめると、ハードな現実も直視できます。(公式サイトより)
満月動物園第弐拾四夜『ツキノオト』
満月動物園が15周年記念にお届けする死神シリーズ[観覧車編]は、倒壊する同じ観覧車の別々のゴンドラを舞台にした一話完結型の5連作。突然の大事故に遭遇した人たちに取り憑く新米の死神が繰り広げる、笑いと涙の止まらないノンストップ・メルヘン!! 【公演日程】 日時 2015/6/19~21 6/19(金) 19:30 6/20(土) 15:00 19:00 6/21(日) 11:00 15:00 【会場】シアトリカル應典院 【料金】一般前売¥2,800 一般当日¥3,000 はじめて割¥4,000 学生3人割¥3,000(※要学生証)
無は白い顔をしている
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- その15周年記念シリーズ2作を両方とも拝見しました。どちらも應典院での上演でしたが、そういえば全て暗幕を吊るのではなく、白幕でしたよね。そういうところの印象が、何故か強くて。全体に、その独特な味付けをしているような気がしたんですよね。
- 戒田
- ありがとうございます。暗幕ってね、演劇の先人達の偉大な発明やと思うんですよ。あれは「何も無い」という表現なんです。僕たちはそれを借用してる。歴史上初めて暗幕を見たお客さんは「何やあの黒い布?」と思ったんじゃないかと思うんです。
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- ああ、そういえばそんな気がしてきました。
- 戒田
- 一方、應典院はベースが白いんです。だから、應典院で「何も無い」のは白色なんじゃないかと思うんですよね。
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- 應典院での無は白色をしているという事ですね。とても暗示的な観点だと思います。それは「ツキノウタ」 の時に凄く生きたと思うんですよね。冒頭のシーン、音響照明と共にカラフルな幕が捲れ上がっていき、一面が白色になる仕掛けがありました。非常に印象的で見事でした。色とりどりの世界が一瞬でめくれ上がり、白い無になってしまう。
満月動物園第弐拾参夜『ツキノウタ』
公演時期:2015/3/6~3/8。会場:シアトリカル應典院。
満月動物園=アングラ?
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- 満月動物園の、開園の経緯を教えてください。
- 戒田
- 開園、初めて言われました(笑う)。元々は大学でやっていて、ぼちぼち外部でのプロデュース公演にも参加するようになっていって。けれどもその内、先輩を含め周りが卒業して会社員になっていく訳ですよ。芝居を続けたいけれど続けられるかしら、と不安になる。なら、一つ形にしてみようと。
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- ありがとうございます。いつも思うんですが、公演のタイトルが非常に魅力的な付け方ですよね。あんまり、お褒めの言葉としては違和感があるかもしれませんけど。
- 戒田
- いえいえ、ありがとうございます。
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- そして、今の満月動物園。サイトにあるコンセプトの文章には「ファンタジー」「メルヘン」とありますが、それよりもとても、人間の心にどこまでも迫った作り方をしているように思うんです。これは本当にほめ言葉にはならないんですけど、「演歌」に近いんじゃないかなと。
- 戒田
- ええ。
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- 最近の二作は主人公が冒頭で自分の死に直面しますよね。そこから、観客が自分自身の世界に入っていってる気がするんですよ。死ぬなんて超個人的なテーマですからね。本編も家族と配偶者についてのお話が中心だし、最後には泣いてしまうぐらい感情移入しているお客さんがいるのは当然だと思うんです。自分の人生もいつか終わっていってしまう、というのを強く感じました。生きていて死んでいく、自分の物語だから。
- 戒田
- ありがとうございます。的確だと思います。まあ、死ぬというのも含めて、僕自身が無くすという事を恐れていると思うんです。例えば川を欄干から見下ろしている時とか、この眼鏡をもし落としたらもうずっとお別れだなとか思っちゃうんですよね。常日頃からそれを敏感に怖がっている。メガネに対してさえ、そういう意識がふと行ってしまうと怖くなってしまうんですよ。死神シリーズではそういうのがよく出ていると思うんです。劇団の紹介に関して言えば・・・最近の満月動物園は、もはやアングラとは名乗れないかも(笑う)。
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- いえ、私にとっては現役というか、最前線のアングラですけどね。
- 戒田
- あ、そうですか。嬉しいです。それを聞いて、嬉しいと思う自分が新鮮です。
転機の数だけ
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- 15周年を迎える満月動物園。これまでで転機となった作品はありますでしょうか。
- 戒田
- 転機といえば沢山あって。作風がよく変わるし、お客さんも変わっていくんですよね。死神シリーズを始めてからもお客さん変わったし。
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- 年齢層が高めなような気はしますね。
- 戒田
- 若い人にも観に来てもらいたいですけどね。来てもらいさえすれば、なにかしら響くと思うんですけど。どうしたらいいんですかね?
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- やりたい事をやってる感じが伝わればと思います。本当に、それだけさえあれば・・・難しいとは思いますが。でも、1年を通してシリーズを完結させるというのは大事業ですよね。追求しているのがただ心強いです。
不慮の事故から始まる、他でもないあなたの物語
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- 最近、戒田さんがお考えになっている創作のヒントについて教えてください。
- 戒田
- それは自分が知りたいぐらいで・・・自分のスイッチがどこにあるのか、自分も知りたいくらいです。今の連作、観覧車が倒れる事故が始まりという縛りでやってますが、そういう縛りがあった方が書きやすいんですよね、何故か。
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- では、観覧車が倒れるというモチーフってどこから出てきたんですか?
- 戒田
- それをね、忘れてしまったんですよ。あの時の創作ノートがどこかに行ってしまって、15周年が始まる前に1年ぐらい探してたんですけど、出てこなくって。プロデューサーの相内さんに企画を細かく説明出来るぐらい作ったのに。
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- 相内さんに聞いたらいいんじゃないですか?
- 戒田
- 彼もね、覚えてないみたいで。
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- うーん、何でしょうね。人生そのものと輪廻を表している、とかですかね? 観覧車のゴンドラ=人体でもあり、その中に閉じ込められて、誰もが全く同じ道を通るという提喩で、その事故だから早死を表しているんでしょうかね。
- 戒田
- そういう見方も出来るかも・・・でも、震災を挟んで意味が変わりましたよね。亡くなられた方々にとっては理不尽そのものですから。
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- 理不尽な死。
- 戒田
- そうですね、最初に「ツキカゲノモリ」 を書いた時とは、意味合いは変わっていると思います。
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- なるほど。では、この作品をご覧になった方に、どう思ってもらいたいとかはありますか?
- 戒田
- 正直に申し上げて、何を持って帰っていただくかはお客さん次第だと思っていまして、物語に感情移入していただきやすいように頑張るだけです。モチーフがモチーフなので、必然的に何かを持って帰って頂けるんですよね。そこを想定するのは放棄したと言ってもいいかなあ、と。
應典院舞台芸術祭 space×drama2009 満月動物園 子の刻『ツキカゲノモリ』
公演時期:2009/7/31~8/2。会場:シアトリカル應典院。
「ダムで芝居したい」
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- ちょっと話題を変えて。ありえない想定として、300億円あったらどんな作品を作りたいですか?
- 戒田
- ええと・・・ダムで芝居したいかな。
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- ああ、いいですね。300億は丁度いいですね。
- 戒田
- そう、ものすごいお金掛かるらしいですからね。
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- 1日借りるぐらいならいいですよね。
- 戒田
- コンクリートの巨大な壁を背景に芝居してみたいですね。決壊させたいな。300億じゃ済まないですね。
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- プロジェクションマッピングとかじゃなくて、本物の。
- 戒田
- 役者が流されていって終わり、みたいな。
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- カーテンコールは救命ボートで。いつかやってほしいですね。
役者がいてこそ
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- いつか、どんな演劇が作りたいですか?
- 戒田
- 緒形拳と芝居したいと思ってたんですが亡くなりましたしね。高倉健も亡くなりましたし。菅原文太も。立て続けでしたね。一気に時代が終わろうとしていますね。でも、やっぱり役者かな。
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- 役者。
- 戒田
- 劇団員もグイグイ成長していってくれて。世間的に評価が高いというよりも、僕がワクワク出来る方ともっと出会えて、一緒に作品が作れたらなと思います。出不精で、そんな努力をしているかと言われると・・・ですけど。
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- でも、役者にこだわっているんですね。
- 戒田
- 役者と一緒に舞台を作るのでなければ、家で小説書いている方が楽ですからね。
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- 演劇とは作り手にとって効率の最も悪いメディアでありながら、観客からすれば最も効率の良いメディアとも言えると思います。戒田さんは何故、演劇にこだわっているんですか?
- 戒田
- 一番、手になじむからです。若いときに美術部、文芸部、バンドと色々やってみたんですが、一番手になじむのは演劇でした。続ける理由は特に必要ない。
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- 役者と一緒に作品を作る。出来るだけ、良い作品を作る。
- 戒田
- そうですね、役者さんと一緒に新しい風景を作りたいです。人が変わればまた違う風景になりますしね。人が変わらなくても、例えば今回主演の上原君とは6年振りなんですけど、もの凄く巧くなってるし。実は劇団員の誰よりも付き合いが長かったりして。どういう経路を辿って成長してきたのかが、稽古を通して見えるような気がして。長い間続けている甲斐があるものだと思いますね。
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- つまり、上原さんのこれまでの全てが見れるかもしれない。
- 戒田
- と、思いますね。
質問 亀井伸一郎さんから 戒田 竜治さんへ
生きている、そして立ち上がる・・・
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- 戒田さんにとって、魅力的な俳優とは?
- 戒田
- 登場人物の人生をきちんと生きれる俳優。それに尽きますね。文法はアングラでもエンタメでも、静かな芝居でもいいんですけど。脚本を使って人間を表現出来る俳優じゃなければいやだと思っています。そういう人だけ集めているんですけどね。
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- 台詞の言い方だけ研究している役者は、正直すぐ分かるし、ちょっと注意して観れば役作りの深浅も分かってしまいますからね。誰にでも。
- 戒田
- 最後は俳優自身の人間力だと思うんですよ。舞台に如実に現れるんですよ。「上手にはなったら宜しいがな」とは思いますけどね。でもどういう経験をしてきたかは如実に出てくるんですよね。
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- ごく個人的には、観客からの見え方を研究して工夫してくれればもう、良いと思えてしまうんですよね。
- 戒田
- 仰る通りです。
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- 演劇は、その場に集う事から始まる。であれば、他者の思考の流れくらいは想像して作り上げてほしい。他者の認識に素直になるにはまず自己の素直な気持ちで今の役の気持ちと同調するのが大事で、そこには役者自身の経験や人間力がとても大切ではないかと思っています。
- 戒田
- ええ。
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- 満月動物園は個人に陶酔し生死を全うする場所なので、つまり、役者自身による総力戦でもありますよね。尽くされたものを観たいと思っています。
- 戒田
- 役に関しては俳優が専門家であるべきだと思っています。演出ではなく。だって、一人一人の役について演出家がそれを掘り下げていくんなら、何故役者を呼んだんやという話になってしまう。必要な時はやってますけど、でもやっぱり僕とは違う感性で掘り下げてもらいたい。
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- 必要な時。
- 戒田
- あまりいい時じゃない(笑う)。
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- 役の演技について、戒田さんから何も言う事はない?
- 戒田
- 稽古の仕上げの段階では言いますが。序盤ではあくまで、「こういう面があるんじゃない」とか「こうも考えられるよね」という事を提示し続けます。俳優は役の専門家なんだから、全ての可能性を考慮してその中から選択しないとダメだろ、と。人間を描く担当でしょ、と。俳優の中から人間が立ち上がってお客さんの前に寄っていく段階になったら、作品を整えるという意味で指示を出したりしますね。役者の中で登場人物が動き出さないと、物語になりえないので。
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- 満月動物園は、俳優にとってはやりがいのある環境でしょうね。
- 戒田
- そこにやりがいを感じてもらえる人が俳優でしょうね。・・・あえて足しておくと、登場人物が生きているというのはあくまで土台で(笑う)。
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- それはもちろん。最終的には・・・いや、作品によって違いますけど、向こうの世界に全員で行けたら、まあある程度は成功かな、というぐらいじゃないですか。だからこそ土台作りが重要ですけどね。
- 戒田
- そうですね。
死神シリーズの正体(?)
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- 世界における満月動物園の位置付けについて、伺っても宜しいでしょうか。
- 戒田
- ちょっと前から、演劇業界を引退したって言ってて。プライベートが忙しすぎて。一時期、付き合いが全く無くなってたんです。公演はしてたのに。
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- 公演しながらプライベートが忙しいって相当忙しいですよね。
- 戒田
- だから、つい最近まで、自分が満月動物園をどう世界に位置付けて作品作りをするかにまで手が回っていなくて。・・・俳優が、役を、もっと生きるようであって欲しいと思っています。でもそれは他の演出家の下では全く違う意味合いになると思いますし。
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- ええ。
- 戒田
- 僕たちの中で、ちょっとずつでも前を向いて進んでいく事で、やりたい事はどんどん増えていくんだろうとは思っています。元々は凄く実験的な事をやってたんですよ。満月動物園と言えば「実験」だったんですよね。
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- やっぱり前衛だったんですね。
- 戒田
- 死神シリーズは、そんな実験を繰り返していた僕が、どこまで分かりやすいものを書けるか、という、自分なりの実験、挑戦でもあるんです。
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- 死神シリーズ。本当は具体的な作品の筈なのに、ものすごく抽象的な感覚があります。そして、演歌の世界に入っていく。改めて言うと、観覧車が倒れるというのもとても象徴的なモチーフと言えるでしょう。不条理さすら覚えるほどの事故と、そこから始まる怒濤の残りの人生。それは観客個人の物語を語る事でもあり、輪廻を暗示する幕切れは、白幕の向こうの世界を黙示することでもある・・・かもしれない。
あなたに投げかける
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 戒田
- もっとお客さんに届く作品を作りたいですね。第15回公演「ツキノアバラ」 は十五夜という事で、ちょっと特別な意味合いの公演にしたんですよ。この豪華なキャストで。
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- ああ、本当だ。凄いですね。
- 戒田
- その公演頑張って、でも次がショボく見られたら嫌だと思って2本立ての公演にしたんですよ。「トラワレアソビ」と「ツキカゲノモリ」。本公演クラスの2本立てをやったんです。どちらもえらく評判が良くて。僕の作品は的を絞れていないカオスだったんだなという気づきもあったんです。
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- なるほど。
- 戒田
- そのあたりから、お客さんからの反応がビビットに届くようになりました。今更かもしれませんけど、もっとお客さんの心に届いて、反応の返ってくる作品を作りたいなと思っています。
満月動物園第壱拾五夜『ツキノアバラ』
公演時期:2008/10/24~26。会場:in→dependent theatre 2nd。
革製のリボンアクセサリー
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってい参りました。つまらないものですが、どうぞ。
- 戒田
- ありがとうございます。(開ける)あ、かわいい。
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- ジャケット等にでも付けて頂ければ。