KUNIO09『エンジェルス・イン・アメリカ』
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- 今日はどうぞ、宜しくお願いします。
- 田中
- お願いします。
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- ついに再来週になりましたね、「エンジェルス・イン・アメリカ」。とても楽しみです。遊さんはどんな役柄なんでしょうか。
- 田中
- 僕は、悪役ですね。
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- あ、そうなんですね。どのような悪人なのでしょうか。
- 田中
- 実在した人物とはいえ、実際に会ったことがないので何とも言えないけど・・・先天的に備わった色々な性質を受け入れられずに、結果的には、現在は悪として取られるレッドパージという社会運動に参加していくんです。
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- 実際にあった社会的な運動と、人物の生来の性質が影響しあっているという見方が出来るんですね。その葛藤から逃避として、悪としてとれる行動を起こしていく。
- 田中
- そうかもしれない。
正直者の会
田中遊の作品を定期的に発表する場所として1997年より活動を開始する。各企画それぞれで参加者を集めて公演をする。多人数の役者によるお芝居から近年、展開している田中遊の一人パフォーマンスまで。つまり・・・田中遊が中心となってすすめる創作活動およびその公演=正直者の会で、いいんじゃないでしょうか。(公式サイトより)
KUNIO
演出家、舞台美術家の杉原邦生さんのプロデュース公演カンパニー。特定の団体に縛られず、さまざまなユニット、プロジェクトでの演出活動を行っている。(公式サイトより)
KUNIO09『エンジェルス・イン・アメリカ』
公演時期:2011/9/23〜25(京都)。2011/10/20〜23(東京)。会場:京都芸術センター講堂(京都)。自由学園明日館講堂(東京)。
8時間の演劇
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- 8時間の演劇というのはなかなか聞かないですよね。休憩を挟むとはいえ、ほぼ一日を舞台なり客席なりでそれぞれが過ごすというのは、けっこう、例を見ないと思います。遊さんは、その事についてどのように考えておられますか?
- 田中
- しんどい。
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- あはは。
- 田中
- これが奇妙な疲れで、実は僕はそれほど出番は多くないんだけど、トータル5時間ぐらいの待ち時間があるんですよ。
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- 5時間!
- 田中
- 他の人はもっと長いし疲れるから、そんな事を口に出す訳にはいかないけど、いや言ってるけど(笑う)、別種のしんどさがあるんですよ。何でこんな疲れてるんやろう?
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- 待つ間も、ずっと集中していなければならないから、かもしれませんね。
- 田中
- 5時間の待ちというのはなかなかつらい。
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- 何だか、上演時間の長さ自体に意味があるのかもしれないなあって。そういう長い時間を掛けないと、見えてこないものが舞台にあるのではという予感がするんです。もしかしたら脱水症状で倒れる人もいるかもしれませんが、私は寝ないと思います。
- 田中
- いや、分からないよ(笑う)。体力的にあやしい人は、無理しないでほしい。
たわごえについて
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- さて、正直者の会について少し伺っていければと思います。最近は戯声(たわごえ)シリーズが展開中ですね。
- 田中
- こないだ上演した「設計‐発掘」が2作目ですね。
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- 「戯声」。表現手法としてだけではなく、そのものテーマとしても非常に興味深いですよね。改めてですが概要について伺えないでしょうか。
- 田中
- 思いっきりかいつまむと、いわゆるキャラクターとストーリーがある演劇というよりは、アカペラライブぐらいのイメージです。でもアカペラ歌手ほど僕らは音感とか歌唱力がない。代わりに、俳優として言葉を使った表現が出来るし、そこから、身体の後ろに広がっている背景とか、その人がどう思っているかとかは表現出来る。演劇的な素材を使っているライブ、というイメージです。
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- 情景が豊かにイメージ出来る点が「戯声」の大きな可能性だと勝手ながら考えています。一作目「スナップ/スコップ」で、砂浜とコップという二つの情景が重なっていって、そこから具体的なイメージが、一気にバアッて拡散するのがとても刺激的でした。いくつもの、映画的に美しいシーンが言葉で表現され、それらが同時に重なるように扱われているようで。混乱すると同時に鳥肌が立ちました。前衛的というのは、こういう事なんだろうなって。
- 田中
- やり始めると可能性ばっかりで。縛りがないので、地図が書けないんですよ。上手く行ったときも何が良かったのかを分析しないといけない。その分析を積み上げないと方法にならないから。
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- それも難しいでしょうね。・・・。実際は私は、演劇作品が演劇としての価値を得るには、まず観客席と舞台が一緒になった状態を持つ必要があると思っているんですよ。これは本当に使い古された表現ですけど、軽く思っている以上におおごとではないかと。
- 田中
- 同じ事を言ってるかどうか自信はないけど、理想的には魔術であったりとか、祝祭であったりとか。語られる事の理解だけで終わるのではなく、語られた内容だったり理解する事だったりが力を持つようにはしたいなと常に思っています。
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- 分かります。劇場が、舞台作品だったり芸術の発表会場を越えて、群衆がデマゴギーに扇動されてしまうような一瞬のような。
- 田中
- そういう事が出来たら素敵やね。
「スナッ プ/スコップ」
公演時期:2011/7/8〜7/10。会場:西陣ファクトリーGarden。
「設計‐発掘」
公演時期:2010/11(京都)、2010/12(三重)。会場:西陣ファクトリーGarden(京都)、津あけぼの座(三重)。
質問 坂原 わかこさんから 田中 遊さんへ
質問 川那辺 香乃さんから 田中 遊さんへ
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- 前回インタビューさせていただきました、川那辺さんからも質問を頂いてきております。実はこのインタビューの時、折しも台風だったのですが・・・「台風の日って、家で何してるんですか?」
- 田中
- あー、実は先週の台風は、俺仕事で外出てたんですね。
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- そうなんですか!
- 田中
- 仮定の話、家にいるとしたら酒飲んでるかな。「風きっついなあ」とかいいながら、外のキツさをあてに飲んでると思います。
坂の先にある
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- 昔、遊さんが正直者の会で出した申請書を偶然にも盗み読む機会があったんです。そこに書かれていた団体の概要がずっと気になっています。曰く「舞台と客席の境が斜面で繋がれる状態を目指している」とあったと思うんですが。それはやっぱり、舞台と客席がほぼ対等に一緒になるという事ですか?
- 田中
- 当時考えていた事と今考えている事は違うんだろうけど、舞台から客席に、下り坂を付けたかったんですね。前のめりで眺めて貰える、引き込まれるもの、見ざるを得ない何か。きちんと傾斜を作った上で勝負をしたいと思ってたのかな。
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- なるほど。
- 田中
- というのは、あまりにもお客さんの優しい目線に依って、というかそれを前提にした作品が多いんじゃないかと思ってたんです。そうじゃなくて、まず興味のない人でも見ざるをえなくなるアイキャッチを付けて、客席に来て貰えるまで興味を持続して、それで上演したい。見てもらうではなくて、見る価値のあるものをまず作って、やっとお客さんと関係が作れるんじゃないかなと思っていました。
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- 確かに、小劇場、許しというか、それが前提となってしまう現象はありますね。会話やシーン立てが未熟で不自然でも、解釈したり我慢したりはままあります。
- 田中
- それが絶対に良くない、という訳ではなくて、それで成立しているならそれでいいと思いますけど。でも、舞台が坂の先にあるぐらい前のめりになって見てもらった方がいいと今も思っている。そうでなければ、世界や想像を共有したりだとかは出来ないだろうし。
それから
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- 遊さんは、今後どんな感じで攻めていかれますか?
- 田中
- 去年末から続けている「戯声」をもう少し続けていきたいなと思っています。もっと探っていきたい。その中で、一人か二人で動く事も多くなってくるかもしれない。本公演への準備としてね。それから、ショーケース等のイベントに短い作品を出して、そこから色々展開出来たらいいなと思います。
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- 正直者の会がショーケースに出す事が多い「メモリースイッチ」、大好きなんですよ。異彩を放ちますよね。
- 田中
- あれもやりたいね。
明和電機「チワワ笛」
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。
- 田中
- おっ(拍手)何やろう。ありがとうございます。何これ。でかいな。
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- どうぞ。
- 田中
- (開ける)やー。これ、うちの娘喜ぶわ。
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- チワワ笛です。それは、明和電機製の単純な楽器です。吹くと唸り声を発し、アゴを開くと犬の鳴き声を出します。
- 田中
- 娘にやらせてみるわ。