亀と冬眠
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- どうぞ、よろしくお願いします。今日は曇っていますね。
- 大庭
- そうですね。晴れれば良かったんですけどね。
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- 最近は不安定な天候ですね。暖かくなったり寒くなったり。今年は暖冬だそうですが。
- 大庭
- そうだといいですね。冬が大嫌いで・・・。昔に比べて体重が落ちたので、寒いのが大嫌いなんですよ。冬眠したい。
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- 動物は冬眠できますからね。
- 大庭
- 何で人間は冬眠できないんだろう。
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- 何ででしょうね? 出来てもおかしくはないのに。しかし動物の冬眠って、鼓動のペースを落とすだけで、よくも生きていられるもんですよね。
- 大庭
- 寝る前にいっぱい食べるんでしょうね。これだけ食べれば、俺、春まで大丈夫だという状態にまでして。幸せだよね。
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- ・・・うちの近所に沢があって、春になると冬眠していた亀が起きてくるんですよ。そのまま道路に出てきて、車に轢かれて、見ちゃいけない状態になるんですよね。
- 大庭
- うわ。僕も疎水のあたりで道路を上がってきた亀を見たことがあります。とりあえず疎水に落としておきました。これで大丈夫かなと思いつつ。
地点
多様なテクストを用いて、言葉や身体、物の質感、光・音などさまざまな要素が重層的に関係する演劇独自の表現を生み出すために活動している。劇作家が演出を兼ねることが多い日本の現代演劇において、演出家が演出業に専念するスタイルが独特。(公式サイトより)
地点『ーところでアルトーさん、』
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- さて、地点の前回公演。「ーところでアルトーさん、」非常に面白かったです。
- 大庭
- 本当ですか。何がですか(笑う)
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- 放送局の人たちが、アルトーさんの結構意味の分からない言葉を頑張って放送している姿が印象に残りましたね。いや、もしかしたらそんな設定ではなかったのかもしれませんが。
- 大庭
- 具体的な設定はないですね。あの微妙なロングコートが制服にも白衣にも見えて、放送局にも研究室にも見えると思うんですが、でも僕らの中であれはどこでどういう人たちという設定はないんです。もちろんそういう話はしますけれども。
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- 人間関係とかは全く見えてきませんでしたね。
- 大庭
- 全部、モノローグだったんですよね。今回はとにかく、観客に対するアルトーの言葉の押し売り、という感じでしたね。アルトーさんの言葉はリアリズムでは出来ないですし。
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- 舞台に出てきたテキスト。あの時代のヨーロッパの雰囲気に対する感情や、戦争に対して逃げたり立ち向かったり。それを肉声で語っていた言葉は攻撃的だし、恨みや自尊心も籠もっていて。かなりぐったりする時間でしたね。
地点『ーところでアルトーさん、』
多様なテクストを用いて、言葉や身体、物の質感、光・音などさまざまな要素が重層的に関係する演劇独自の表現を生み出すために活動している。劇作家が演出を兼ねることが多い日本の現代演劇において、演出家が演出業に専念するスタイルが独特。(公式サイトより)
一つの空間で
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- 地点の舞台作品。難解な演出から、お客さんを選ぶと言ってしまって過言ではないと思うのですが、地点では観客をどのように存在だと考えているのでしょうか?
- 大庭
- 演出の三浦は「無視しちゃいけない」存在だとよく言っていますね。一般的には、客席と舞台の間には第4の壁が存在していると良く言われますね。ですが、それだと三浦は寂しくなっちゃうんだそうで。「何言ってんだ」と思うんですが(笑う)。
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- 無視して置いていく訳じゃないんですね。
- 大庭
- そうですね。本当は、お客さん一人一人の顔がみえるくらいが理想です。そういえば、今回の芝居の冒頭の文が「私はラジオ放送をやめて演劇を始める。見に来るものも舞台に立つものも一つの空間で」という。
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- 一つの世界に行くんですね。劇中思っていたのは、このアルトーという人は相当寂しかったんだろうなと。変態扱いされて、もてはやされもしたけどそれも一過性のもので。でも演劇をもう一度始めようとして。そういう、人間らしい欲求が浮きだして見えるようでした。
- 大庭
- 孤独で、寂しかったんでしょうね。
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- 現代のここから、天国にいるアルトーさんに放送という形で追悼を送っているのかなと、そういう気がしていました。追悼劇といえるかもしれませんね。
三浦 基
地点、代表・演出。
質問 砂糖 浩美さんから 大庭 裕介さんへ
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- 前回インタビューをさせていただきました、京都の劇団・nono&lili.の砂糖さんから質問をいただいてきております。この砂糖さんは文房具好きだそうですが、1.文房具で好きなアイテムはなんですか?
- 大庭
- 文房具のアイテムだからってことじゃないかもしれませんが、ペンギンの形をしているクリップがあるんです。有名なブランドのものらしく、それを友達から貰って。それが好きですね。鳥が好きなんで。
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- ありがとうございます。2.自分の体で好きな部分はどこですか? ちなみに、砂糖さんは手の甲の部分が好きだそうです。暖かくなると血管が浮き出すのが面白いと。
- 大庭
- 手か、言われちゃったな・・・歯が好きですね。歯並びがいいらしいんですよ。糸ようじも入らないくらい詰まっていて。虫歯もないし。
nono&lili.
京都を拠点に活動する劇団。泥臭くて人間味溢れるファンタジーを好んで描く。(公式サイトより)
別の人になんか
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- 大庭さんがお芝居を始めた理由と続けている理由を伺いたいのですが。
- 大庭
- 始めた理由・・・。僕は中学高校と、アメリカに住んでいたんですよ。大学から日本に戻ってきたんです。
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- 帰国子女ですね。
- 大庭
- 当時、英語を話している自分がどうしても好きになれなかったんです。常に誰だかわからないけど、英語をしゃべる人を演じていた訳です。だけどうまく演じられていないのはわかっていました。そのもどかしさがずっとあり気持ち悪かった。周りからは「人と違う経験が出来ていいね」と言われるんですが、いやいや、僕はみんなと同じ経験が出来てないんです。妹が定期購読していた少女マンガを読んで日本の生活が羨ましいなとずっと憧れていたんですよね。日本に帰ってきて、アイデンティティとかについていろいろ考えちゃって。おかしいんですが、みんなと一緒が良かったんです。それで周りと違う自分が嫌いになっていたんです。
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- なるほど。
- 大庭
- ある日、帰国子女の先輩が大学の演劇サークルに誘ってくれたんですよね。ここに入ったら、嫌いな自分ではない別の人間になれるって、バカみたいに思い込んだんですね。最近はそんなのは幻想で、別の人になんかなれる訳はないって思いますが。
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- そうした経緯があったんですね。
インクの一滴
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- 東京から京都に移ったのはどういう。
- 大庭
- 僕も三浦も青年団にいて、独立するときに誘われたんですよね。京都を拠点にして劇団を旗揚げするから、来ないかって。その時に、年齢的なこともあって、芝居をこれから続けていても良いものか、出来るのかと色々考えていたんですよ。
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- ええ。
- 大庭
- 三浦の芝居は好きだったし、このあたりで思い切って、賭をしようと思ったんですね。青年団にいてもちょっとした安定はあるんですけど。ここで、いっちょやってみるかと。京都行ってダメだったら辞めっか、みたいなね。オリザさんにすみませんって言って出てきました。「まあ3年で戻ってくるだろ」とか「ダメだったら戻ってきてもいいよ」とか言われましたけど(笑う)
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- よくそんな、決断をされましたね。
- 大庭
- 東京から京都に来た大きな理由は、さっきの賭の話と同時に、ただただ自分の存在や演劇の公演が消費される状況が怖かった。・・・東京で芝居を見に行くと、もうタウンページのようにぶ厚いチラシの束が渡される訳ですよね。そしてそのほとんどは1回きりの公演。
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- ありますね。
- 大庭
- あれを見るとね、なんかもう、簡単に消費されるんだなあと。僕が参加している公演のチラシなんてこの束の中の一枚にすぎず、プリントされた名前なんてインクの一滴程度なんですよね。マクドナルドのハンバーガーみたいに無碍に消費される存在、それはやっぱり嫌だなと思って。単純に自己顕示欲が強いってだけなのかも知れないですけど。みんなと一緒がいいって始めたのに矛盾してますね。(笑)とにかく再演される様な芝居をつくっていきたかったんです。
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- 東京のチラシ束はすごいですよね。
- 大庭
- 京都にくるとチラシ束が薄くてほっとしたというか(笑う)。もちろんこれはある意味、演劇界の辛い状況でもあるんですけどね。
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- そうそう、私も東京にはここ数年、休暇をとって芝居を見に行ってるんですよ。最初は、その回転率の早さというのがもしかしたら俳優の演技にある種の薄さをもたらしているかと思えば、単に思いこみでした。
- 大庭
- なるほど。
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- それでも、やっぱり京都における俳優の身体のミステリアスな雰囲気って特殊で。京都にいてないと染み着かない感じなのかなと。地域びいきな感覚なのかもしれませんが。これって、どういう事かなあって。
- 大庭
- 僕らはどうですか?その、東京の俳優っぽいですか?
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- 全然感じないですね。なんか、京都の人たちなんだってバイアスが掛かっちゃってるかもしれませんね。矛盾しているような気がしますけども。京都の水と時間で生活していると、そういう雰囲気になっちゃうかもしれませんね。
- 大庭
- 京都はやっぱり、変ですよね。閉塞していると言えば言える。でも、抜けてるという感じは与えてくれる。囲まれているけど、息苦しさは感じない。鴨川もあるし。
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- 鴨川?
- 大庭
- 鴨川があるから逃してくれるというか。あの川がないと、苦しいような気がします。
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- 街の中にある、自然との境界であり自然そのものというか。ふっと橋をわたると、ドキドキする気がしますね。川の中に足を浸してみたり。結構気持ちがいいですよね。
- 大庭
- 亀がいるじゃないですか、飛び石の。いつか近づこうと思っているんですけど、行かないんだよなあ(笑う)。今度こそ行こう。
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- その亀を踏みに行かなくてもいい雰囲気があるかもしれませんね。
役を、演じる
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 大庭
- 地点の予定としては2月にロシアにいきます。「ワーニャ伯父さん」と「桜の園」の2本です。本場の、しかもアウェー。ボコボコにされるかもしれないので怖いんですが(笑う)。3月に芥川作品の舞台化ですね。
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- 頑張ってください。楽しみにしております。
- 大庭
- 今後も地点の公演には出るんだろうなと。でも何があるかわからないですね。来年には京都にいないかもしれないし。
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- げっ。
- 大庭
- あたらしい賭けに出ているかもしれないし。飽きっぽいと思われるかもしれないですけど。一般論ですが、明日のことはわからない。
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- いえいえ、いつまでも過去の選択にとらわれている必要はないんじゃないでしょうか。
- 大庭
- あとはまあ、映画が好きで、年200本ぐらい見ています。機会があれば、映画に出たいなと思っています。地点の舞台があれなので、俳優よりパフォーマーと言ったほうがしっくりされる傾向もあり(笑う)。変な事になってますよね僕ら。それももちろん好きなんですけど、やっぱり役を演じるというのを映画や舞台でもやっていきたいなと思っています。それから、ここ数年ダンス公演にはまっています。2、3年前にデラシネラのきたまりさんにも声をかけてもらいました。演劇の演出家からは全く話が来なくて、ダンスの振付家からは声がかかるんです。2011年にもKIKIKIKIKIKIの再演がある予定です。身体性にすごく興味があるのでこれからもダンス公演は積極的にやりたいと思っています。
カンパニーデラシネラ
マイム、演劇、ダンスといった様々なジャンルを取り込み、フィジカルシアター的手法で注目を集める演出家。
藤田桃子
1995年、パフォーマンスシアター水と油結成。国内外で公演活動を行う。以後2006年3月水と油活動休止までの全ての作品に出演。2003年に自身のマイムユニット「蜥蜴」を結成し、小作品を発表している。(公式サイトより)
KIKIKIKIKIKI
03年京都造形芸術大学 映像・舞台芸術学科在学中のきたまりを中心に活動開始。以後ダンサー個々の特異な身体のフォルムから湧き上がる独自の振付の世界観を追求し実験的に作品の上演を重ねる。06年大学卒業を期にカンパニーとして本格始動。(公式サイトより)
adequateのレザーブレス
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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントがございます。
- 大庭
- ありがとうございます。開けてもいいですか?
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- どうぞ。
- 大庭
- (開ける)お。これは。
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- アクセサリーですね。腕輪なのですが。
- 大庭
- ありがとうございます。これはこうするのかな。
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- はい。
- 大庭
- いいかも。新しい自分への挑戦という感じですね。ありがとうございます。