視点 vol.1 Re:TRANS
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- 本番期間中に、お時間を頂いて大変申し訳ありません。本日は、宜しくお願いいたします。
- ハセ
- よろしくお願いします。
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- さて、ハセガワさんが主宰するユニット、MUの主催イベント「視点 Re;TRANS」。3つの団体が集まってそれぞれ30分程度の作品を上演するという趣旨ですね。とても面白かったです。
- ハセ
- ありがとうございます。良ければ、京都からこちらのイベントに興味を持って下さったキッカケを伺いたいのですが。
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- 東京滞在中に、やはりショーケースの企画は見たいというのがあって。
- ハセ
- この3つの内、知っている団体はありましたか?
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- あ、鵺的もかな。MUはすみませんが、ちょっと。
- ハセ
- 関西まで届くように頑張ります(笑)。ちなみにコンセプトなんですが、東京では『15 Minutes Made』というイベントがあって、僕も主催の方とは親交があるので、あえて差別化を図っているというか。コント劇団だと15分でもOKだったりするんですけど、物語をやろうとする場合はどうしても「起承転結」でいうと「承」までしかやれないんですよね。
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- ええ。
- ハセ
- 僕は脚本家として、MUでは短編を売りにしていて。今回見ていただいた『無い光』も40分の上演時間なんですが、実は分かりやすく10分ごとに「起承転結」で区切れてるんですね。
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- あ、そういえばシーンも分かれている感じですね。
- ハセ
- 他の団体にもそういう短編をじっくり創って欲しいという提案があります。さらに、作品をただ並べるだけではなく、コンペ形式にしています。そうすると公演が終わってもイベントは続く。あの公演の評判ってどうだったんだろうとか、アンケートに寄る投票や審査委員の会議などが、ネットで追う事が出来る。そういう余韻が残ればいいなと思っています。
MU
ハセガワアユムが主宰とプロデューサーを兼ねる、演劇界では珍しく劇団ではない個人ユニット。名前の由来は、魑魅魍魎の劇団名が溢れる小劇場の中で浮くべく「徹底した意味の無さと妖しさ」を元に命名。(公式サイトより)
視点 vol.1 Re:TRANS
公演時期:2010/09/21〜26。会場:渋谷ギャラリールデコ4F。参加団体は「MU」「ミナモザ」「鵺的」の3団体。あるひとつの「視点」でセレクトされた劇団たち。テーマは『Re:TRANS』。あの『トランス』に対する返信のように「少人数・どこでも上演が可能」をルールとして、 新しいスタンダードの形を目指す、短編のコンペティション。(公演詳細より)
鵺的
鵺的は脚本家・高木 登によるオリジナル作品を上演することを目的とした演劇ユニットです。硬質な物語構造をそなえた劇作を通じて、アクチュアルな題材を悪夢的に描くことを特徴としています。現代社会の歪み、そこを生きる人間の姿、新しい人間関係の在り様など、「いま、このとき」を生きる表現者として描くべきことごとを、慎重に大胆に、鵺的は追究していきます。(公式サイトより)
ミナモザ
俳優・木村キリコとの2人の劇団。綿密な下調べと取材に基づき、リアリティを重視した舞台を作っている。ドキュメンタリーのように鋭く社会をえぐりながら、その先の地平へ飛ぶ作風が特徴。振り込め詐欺集団の姿を描いた『エモーショナルレイバー』(2009年初演)がシアタートラム・ネクスト・ジェネレーションvol.3に選出され、2011年1月の再演が決まっている。(視点 vol.1 Re:TRANSのインタビューページより)
15 Minutes Made
東京の劇団・Mrs.fictionsによるショーケース公演。6団体がそれぞれ15分程度の作品を上演する。
鵺的とミナモザ
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- 今回の参加団体について。コンセプトが鴻上尚史の『トランス』で、テーマも恋愛でしたね。ミナモザ、鵺的・MUというラインナップですが、これはどういうチョイスだっったんでしょうか?
- ハセ
- 非常にシンプルで、2009年に観た舞台のなかで面白い上に「シンパシーを感じた」のがこの2劇団だったんですよ。
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- なるほど。まず、鵺的はどのような。
- ハセ
- 鵺的主宰の高木登さんは、みんなが避けて通る暗いテーマを遠慮なく出すんですよね。演劇って笑いを使ってお客さんに寄っていくじゃないですか。暗い話でも同じく。鵺的はそういう事をしない、珍しく硬派な感じだったので。
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- そうなんですね。
- ハセ
- 次のミナモザですが、前回公演『エモーショナルレイバー』は2011年1月にシアタートラムで再演が決定しているくらい、傑作だったんです。でも今回はそれとは違う作風だったんですけど、それも挑戦かなと。この3団体は根底で通じていると思うんですよね。「ブラック」が前提にあるんだけど「大人」であることみたいな。酔ったり逃げたりしてない、自立してるブラックというか。
「少人数でどこでも上演出来る物語」
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- 今回のコンセプト「Re:trans」ですが、これはどうして。
- ハセ
- 鴻上さんの『トランス』ご覧になったことありますか?
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- やったことがあります。三蔵役で。
- ハセ
- ははは。あ、そうなんですか。いいですね。やっぱ、演劇人ならだいたい『トランス』は通ってるんですよね。何の役やったかとか聴くと盛り上がるんですよ(笑)。ゼロ年代後半からポスト演劇が最先端になっていると思われているかもしれないけど、『トランス』みたいな「少人数でどこでも上演出来る物語」としてスタンダードになっているものを再提案しようっていう意識があったんですよね。ファッションのリヴァイバルと同じように。
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- なるほど。
- ハセ
- で、僕の『無い光』に関していえば、『トランス』の3人のように愛されるキャラクターを確立したいと書いたものです。雅人、礼子、三蔵、のように。俳優なら、どの役かはやりたくなるような。だから脚本としてどんどん使ってもらえたらなと思っています。
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- それこそ、『トランス』のように。
- ハセ
- ええ。関西の方で上演してくれたらうれしいですね。もちろん、ほかの2団体も同じ意思だと思うし。脚本ありますので、気軽にお問い合わせ頂ければ嬉しいです。
同じ原風景が
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- 今回の作品群、私個人の感想としては、通してクラシックな感じでしたね。
- ハセ
- クラシック。
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- 今っぽいというよりは、カッコ良さから入っている感じでした。
- ハセ
- 様式から入っていた感じですか?
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- その上でMUはすごく面白かったです。セリフが生きている感じがして、緊張感もあったし。
- ハセ
- ありがとうございます。
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- 何というか、芸術方面やイベント性に凝るんじゃなくて、会話劇として最初から最後まで作られているという芝居を3本みたからかな。そういう訳でクラシックという感触がありました。
- ハセ
- 僕ら3劇団は、バックグラウンドに同じ原風景があると思うんですよ。最先端とされた現代口語演劇があって、最近では物語を放棄するポスト演劇があって。僕は子役出身だからそれこそ20年前から演劇を観ているんですけど、やっぱり物語性を強く打ち出した芝居が一番好きなんですよ。
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- ええ。
- ハセ
- で、結局は流行なんて時代ごとに入れ替わっているじゃないですか。今最先端と呼ばれているものだって、僕からすれば3週目くらいに感じるし。すぐ古くなるかもしれませんし。でもね、原風景はどうしても残ると思うんです。もちろん最先端へのアンテナは張っておきたいですが、根底にあるものは大事にしたいですね。ロックバンドと一緒ですよ。結局、ギター、ベース、ドラムの構成からは逃げられないし、逃げたとこでどこにも行けずにまた戻るんです。それはもう大人だから判ってるので、ならそこでこそ勝負したいと。
「ナマ」が一番面白いんですけど、そこに甘えてちゃいけない。
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- MUのサイト、これまでの公演の映像が沢山ありますね。ちょっとびっくりしました。
- ハセ
- 今までの作品のダイジェストをyoutubeにあげて、見られるようにしているんですよ。
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- あ、そうなんですか。
- ハセ
- USTREAMで短編がまるまる一本みれるのもあります。やっぱり、演劇って一般の人からするとかなりブラックボックスじゃないですか。そういうのって演劇が不人気の原因になっていると思うんですよ。「ナマ」にこだわってばかりで舞台写真とか映像を公開するのに抵抗がある人もいるかもしれないですけど、新しい楽しみ方を取り入れるのを恐れてちゃいけないと思うんですよね。
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- 演劇メディアの形が変わりつつある。
- ハセ
- 演劇は確かに「ナマ」が一番面白いんですけど、そこに甘えてちゃいけないと思うんです。作品をネットにあげてみたら、コメント欄で叩かれるかもしれない。けど、そういう恐れから逃げてもしょうがないと思うんですよね。確かに演劇村だけで盛り上がってて、一般人の目線観たら全然面白くない作品もたくさんありますよ(笑) でももしかしたら、一般の人にも「面白い」と思われるかもしれない。叩かれるかもしれないけども。でも逃げてる人は薄々ヤバいってことに気付いてるじゃないんですか? 無意識で。
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- だから、ネットで公開する事を恐れる?
- ハセ
- そうかもしれません。でも怖がらない方がいいですよ。だってそれこそ本当に戦うべき圧倒的他者であり、社会なんですから。演劇のそういう弱いところが大嫌いなんです。
質問 かにぱん。さんから ハセガワアユムさんへ
映画を撮ります
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- ハセ
- 映画を撮ります。演劇と同じくらい映画、大好きなんですよ。小劇場や演劇で長年頑張った人に「御褒美で映画を撮らせる」って企画が多いんですけど、それを待つんじゃなくて自分から。
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- なるほど。
- ハセ
- あと10年も待ってたら、ぼくの好きな俳優たちは、その役に合う年齢じゃなくなるんです(笑)。信頼している同時代の俳優を使いたいので、どんどん自分から撮って、コンペとか出品したいですね。演劇界だけの順位にこだわっていてもしょうがないですから。
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- どんな映画を撮られますか?
- ハセ
- 実際にあった、複数の女性がひとりの男と同居しているハーレムの事件があるんですよ。それを元にした短編を、映画の配給会社につとめている友人に見せたら一番食いつきがよかったので、それを映画化する形で。
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- 素晴らしい。ハーレムですか。
- ハセ
- やっぱり可愛い女の子が沢山出てくるのが食いつきがいいんですね(笑)。まあ、そういう映画を撮ります。
赤いカード立て
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- 今日はですね。お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。
- ハセ
- えー、いいんですか?
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- どうぞ。
- ハセ
- ありがとうございます(興奮して開ける)。何ですか、これは?
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- カード立てですね。
- ハセ
- (フライヤーを乗せて)おっ、すごい。かっこいい! え、いいんですか? 嬉しいなあ、ありがとうございます。