「トカトントンと」
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- 今日はお忙しい中ありがとうございます。どうぞ、よろしくお願いします。最近は地点の次回公演の稽古ですよね。
- 小林
- 神奈川芸術劇場で来年2月に新作を上演するんですが、その稽古を現地で行ってきました。すごく良い劇場なんですよ。
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- そうなんですね。
- 小林
- 開館して1年なので、再新鋭の設備が整っているんです。そのKAAT(神奈川芸術劇場)の日本文学シリーズで、去年は芥川をやったんです。今年は太宰治の作品をやります。
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- 見たいですね。2月ですよね。
- 小林
- はい、2月9日から14日までです。劇場を見がてら遊びにきてください。
槍のようなもの
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- その「トカトントンと」。どんなテイストの作品になるのでしょうか。
- 小林
- 「トカトントン」という短編小説を、コラージュという形ではなくそのままやるんです。別の作品も挟む予定ですが、地点としては少し珍しいかたちです。
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- 地点の作品というと、戯曲を破壊して再構築するという事が多かったと思うのですが。
- 小林
- まだ稽古が始まったばかりなのでどうなるのかわからないんですが、今は頭から小説のシーンをやっているという状態ですね。その、小説をそのままやるというのがやっぱり難しいんです。戯曲は台詞が書いてあって、それはカットしたりつなぎなおしたりが出来るんですけど・・・
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- ええ。
- 小林
- 小説は情景描写の文章があって、その状況をどうやるかなんですよ。たとえば喫茶店に入って注文した・カップにコーヒーが注がれた・目の前のそれを飲む、って。僕らはその状況を実際にやるのではなく台詞で表現する事が多いので。その情景をどう発語するかが課題です。
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- 小説文の言語空間って、個人の読書体験の中でしか得られないものだと思います。そうした主観的だからこその広大な世界体験を、舞台化する事にどのような価値があるとするかですよね。
- 小林
- やっぱり、小説の世界観の出し方って情景描写をどうするかが大事なんですよね。それに、小説特有の回りくどい言い方というのがあるんです。たとえば「カップに沈む木漏れ日がまるでなんとかかんとかのようだ」って結局光だろ、みたいな。言いたいことは1行なのに比喩と隠喩だけもう1ページぐらいあるんです。そういうエビ天の衣みたいなのが世界観だと思うんですよ。結局中身はエビなんですけど。
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- 難しいですよね。読み手の解釈が刺激を呼ぶ場合もあるし。
- 小林
- そうなんですよ。文学作品を楽しむなら、一人でイメージを作ればいい。舞台化するのなら、実験を重ねて、槍のようなもので文学を刺す手法しかないんですよね。
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- というと。
- 小林
- 今試している手法は、中身が結局エビであるという事をバラしちゃうんです。「この人こんなまわりくどい事言ってるけど結局エビですよ」って。もちろん、実験中なのでそれがメインではないんですけど。
「かもめ」
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- 地点の前回の作品の「かもめ」 、お疲れさまでした。とても楽しかったです。トレープレフ役でしたね。私は和室での公演は拝見出来なかったのですが・・・。
- 小林
- 実は、2月に再演する予定があります。まだ詳細は決まっていないので、ホームページをチェックしてもらえれば。
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- あ、そうなんですね。是非予定を空けて見に参ります。
- 小林
- 席が少ないので、お早めに。
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- そうそう、三浦さんがアフタートークで、和室公演とアートコンプレックス公演は比較すると面白いと、自信作だと仰っていました。
- 小林
- 和室は、ほぼトレープレフしか喋らないんですよ。
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- あ、そうなんですね。アートコンプレックスの公演では全員喋ってましたが。
- 小林
- トレープレフは床の間にいて、ずっとぺちゃくちゃ喋ってるんです。時たま他の登場人物が覗いてくるんです。彼の寝室でもあり、お墓でもあるかもしれないという。
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- お話のスジ上、これはどこのシーンだろうという仮定がいくつか成り立つんですね。
- 小林
- もしかしたら、トレープレフの自作劇が失敗した後の事かもしれないし。
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- あ、あの超大ゴケした実験劇。すごい微妙な感じになりましたね。トリゴーリンがずっと苦笑いしてましたね。
- 小林
- デカダンな、頭でっかちな作品って言ってましたね。若者がメチャクチャやって、「それ見たことか」ぐらいになったらいいなと。
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- 事前にテキストを読んだお客さんはなおさらでしょうね。
- 小林
- 読んでいなくてももちろんいいんですけどね。事前に読んでいると、地点のあの喋り方に心構えが出来るかも(笑う)。
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- 原作を読んでおくことで、現場での解釈に幅が生まれるんでしょうね。
- 小林
- それに、アトコンでは三方客席で結構緊張感があったんです。やっている立場から言うと、想像していたよりもお客さんの目線の圧力がありました。
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- しかも、近いですからね。
- 小林
- その上、お客さんに喋りかける演出があったんです。難しい単語が出てくるとちょっと面白く注釈みたいに解説したり。その時に、お客さんがニコリともせず神妙な顔をしてると、一瞬心が折れ掛けそうになりました(笑う)。
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- 地点では囲み舞台は珍しいですよね。だから、冒頭に甘いお茶が出るのは面白いなと。変な言い方かもしれませんが、そう来たかと思いました。
- 小林
- あれは好評でしたね。入ってきたらみんなお茶をサーブしているって。
地点『かもめ』
公演時期:2011/9/28〜10/16。会場:京都芸術センター 和室「明倫」、アートコンプレックス1928。
「かもめ」の二つのシーンについて
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- その実験公演のオチで、ニーナとトレープレフがアトコンの壁に手を付いているシーンが面白かったです。
- 小林
- あれはもう、必死で左足をあげてました。二人でハアハア言いながら足を上げていました。
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- しかも左右対称じゃないですしね。色々と、見所のある公演でした。タップダンスも良かったです。
- 小林
- あれは実は、最初に地点で「かもめ」を上演したときにやっていたんですよ。
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- そうなんですね。
- 小林
- 昔、三浦演出の「かもめ」でやった事があるんです。それが残っていたんでしょうね。トレープレフの若気の至りが爆発するような。
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- そうですね。
- 小林
- タップを踏みながらニーナの事が気になってチラチラ見るんですけど構ってくれなくて、気が付いたらお母さんが泣いているみたいな。
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- 地団駄を踏むという感じでしたね。
- 小林
- そうですね。台詞のかわりに肉体を酷使するような。タップの音も結構暴力的に鳴りますし。
キャラは強くない
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- 以前拝見した地点の作品で、小林さんがお客さんに向けて無理矢理スピーチして扇動するという演出があって。私がすごくそれが好きなんですよ。話セバ解ルと、式典。
- 小林
- ああ、確かにね。ニヤニヤしながら。式典はMONOの土田さんが面白いテキストを書いて下さったので、お客さんに直接しゃべるのがとても楽だった印象があります。
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- あれも良かったですね。なんか、ちょっと溜めてちょっと溜めてちょっと溜めて出すみたいな節が。
- 小林
- その時は、何かを隠している気持ちなんですかね。
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- なるほど。そのあたりが、何か濃いキャラクター性があると思っています。
- 小林
- キャラが濃い・・・。地点の中で、僕はキャラは強くない方だと思っていて。
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- ええっ。
- 小林
- 色々動いているんですけど、印象に残るかどうか。
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- いや、お客さんの4割は小林さんの事を思い出しながら帰っていると思いますよ。何というか、地点の世界に足を踏み入れる上で、仲立ちとなる存在じゃないかと。
- 小林
- ああ、そういう役回りが回ってくる事は多いですね。地点もここまで回数を重ねてくると、役所が決まってくるんですよ。いいのか悪いのか。
質問 名越 未央さんから 小林 洋平さんへ
変な大人がいるんだな
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- お芝居を始めた理由は。
- 小林
- 中学の時に学園祭に出たり、高校の頃は美術部と演劇部をやっていました。でも初めて演劇を意識したのは高校卒業後に入学した舞台芸術学院です。その時の先生が、金杉忠男さんというアングラ演劇の雄と呼ばれた人で。
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- なるほど。
- 小林
- なんだか、変な大人がいるんだなって思ったんですね。演劇の世界でも変な人はたくさんいますけど、金杉さんは演劇的な言葉や空間を作るのに誠実に向き合っておられて。こんな人もいるんだって思ったんです。その時、本気でやってみたいと思いました。
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- 触発を受けたという事ですね。そのショックは、まだ小林さんの中にもありますか?
- 小林
- ありますね。原体験だったんでしょうね、ずっと頭の中にあります。芝居の現場にいるときに、よぎるんですよ。例えば金杉さんと稽古していて、ロッカーを殴るシーンがあって、演出をつけるために金杉さんが自分でロッカーを殴ったんですけど、けっこう思いっきり殴ってて。ちょっとひくぐらい。
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- ええっ。
- 小林
- 「ロッカーの殴り方はそうじゃないだろ。こうだろ!」って。時々思い出します。
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- いまそれを思い描いたんですけど、すごく瑞々しいですね。
- 小林
- 金杉さんはかなりハードな事をやっていて、例えば「突撃板」という伝説的な試みがあるんです。役者が台詞を叫びながら上手と下手にある壁に思いっきりぶつかるという。
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- 素晴らしい。
- 小林
- それで骨折した俳優がいたそうで、骨の折れる音が劇場に響いたそうなんですよね。だからロッカーを殴るぐらいは全然。
スリリング
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- 今まで、どんな俳優を目指してこられましたか? そして、今後はどう攻めていかれますか?
- 小林
- 特定の人を目指すという事ではないんですけど、金杉さんの劇団の俳優さんとか。金杉さんと同年代の方がメインなんですけど、稽古が煮詰まったりすると、「次のシーン、原っぱでやるよ」って言って、子供時代に帰るんですよね。50〜60代の大人が、子供みたいにきゃあきゃあ言いながら台詞を使って遊ぶんです。大人が、すぐに子供のようにはしゃげるという事がバカみたいだけど、いいなと思うんですよね。まあ、そうやってはしゃげるような演劇空間を作れる金杉さんがすごいともいえるんですけど。
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- ええ。
- 小林
- 演劇以外にはないんですよね、「次のシーン、子供でやってみて」なんて。そういうふうに、演劇の力を信じられる役者さんが素敵だなと思います。
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- 演じる事が許される場所は、人がそのままでも許される場所でもあるのかもしれませんね。
- 小林
- 地点の稽古場でいうと、あんまり考えて練ったプランを持っていってもその場の雰囲気によって思ったとおりのプランにいかないことがあるので、その場で柔軟に自分が考えてきたプランとその場の雰囲気をミックスして一番いい方向を見つける。もちろん、その場その場だけでは脊髄反射だけになって虫みたいになっちゃうんですけど(笑う)。でも、地点の稽古場は新しいアイデアが沢山生まれる場所なんです。スリリングではありますね。
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- ジャズみたいですね。
新しい風
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 小林
- 来年、KAATでやる太宰の作品と、ロンドンのグローブ座でシェイクスピアの作品をやります。しっかりしないとなと思っています。攻めでいうと、キャラが決まっていくという事にあらがっていきたいと思います。
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- なるほど。
- 小林
- 決まった役所に安住すると沈没してしまうんです。常に新しい風を吹かせないと、稽古場が持たないんですよ。
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- キャラ変ですね。
- 小林
- 稽古で、みんな色々やるんですけどあまり採用されないんです。今までの自分の雰囲気ではないものが、最後に残ってくれれば嬉しいですね。
ブックカバーとドナルド・J・ソボル「2分間ミステリ」
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。どうぞ。
- 小林
- あ、ありがとうございます。(開ける)手帳? 「2分間ミステリ」。
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- 手軽に読める短編集です。
- 小林
- このブックカバーも素敵ですね。ありがとうございます。