劇団ガバメンツ本公演「LAUGH DRAFT」
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- 今日はどうぞ、宜しくお願いします。劇団ガバメンツの脚本・演出家、早川康介さんにお話を伺います。早川さんは最近、どんな感じでしょうか。
- 早川
- ちょうど、次回公演の脚本が書き終わりました。今はその稽古中です。
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- 11月6日から始まる、劇団ガバメンツの「LAUGH DRAFT」ですね。脱稿、おめでとうございます。
- 早川
- ありがとうございます。締め切りに間に合うのはプロの仕事として、遅れる事はないようにしています。なるべく。なるべくです。
劇団ガバメンツ
「コメディしかできません、でもいろんなコメディができます」シュチュエーションコメディばかりがコメディじゃないラブコメディ、サスペンスコメディ、スクリューボールコメディ、トラジコメディにコメディコメディ。喜劇はこんなにあったのか。喜劇を愛する全ての人と、そうでもない全ての人へ。1年に1回しか演劇を見ない人の為に、さまざまなスタイルの喜劇に挑戦している。(こりっちより)
劇団ガバメンツ本公演「LAUGH DRAFT」
公演時期:2014/11/6〜10。会場:in→dependent theatre 1st。
LAUGH DRAFT、どんなお話?
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- 次回公演「LAUGH DRAFT」。兵役モノだそうですね。あらすじに主な内容が書いてあって、5人の男性が5枚のパンツを履き変えていく物語だとありましたが。
- 早川
- それがですね、脚本が完成した今、あらすじのパンツが全然出てこなくなってしまっていて。
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- あ、そうなんですか。
- 早川
- ある国の兵役を調べたところ、一人の兵士につき5枚のパンツが最初に支給されるそうなんです。それを2年間使い回していくそうなんですね。これは面白いなと思って使おうと思ってたんですが、執筆中にどこかへ飛んで行ってしまいました。
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- そうですか。
- 早川
- どんなお話かと言うと、兵役というのは禁欲生活なので、エロい記事のある雑誌も見ちゃ駄目だよと。エロ本なんてもってのほかだと。でもそうじゃない雑誌は見ても良いらしいんです(検閲はされますけど)。通販雑誌も大丈夫なんですけど、通販雑誌ってよく下着とかそういうのがあるじゃないですか。それを見つけた男たちが「これは凄いぞ」となって、その中で、「これは無いだろう」というおばちゃんモデルに恋していくという話です。
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- 素晴らしい!私、めっちゃそういう話が好きです。ニッセンの下着コーナーに欲情する禁欲劇・・・最高ですね。
- 早川
- そうですよね、海外のモデルの女性の下着の写真とか。
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- 後半のページには、かなり過激な商品の紹介もありますもんね。
- 早川
- 禁欲生活でそういうのを見たらそりゃ興奮するよな、と。そうした導入から始まるお話です。
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- とてもロマンチックです。「ショーシャンクの空に」の兵役版みたいですね。タイトルの「LAUGH DRAFT」、これはどういう意味があるんでしょうか。
- 早川
- DRAFTはそのまま兵役という意味があるんですよ。LAUGH DRAFTは荒い下書き、笑う方のLAUGHを掛けて。兵役まっただ中の下書きのような男たちを描きたいですね。
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- 意気込みを教えてください。
- 早川
- やっぱり、最新作が最高傑作だと誰かが言っているように、そうじゃなきゃ意味がないと思うんですよ。脚本の手応えと、稽古の調子から、多分今回がこれまでの公演で一番面白いと思います。ちょっと今までとタイプが違うお話ではあるんですが、これまでガバメンツを見た事がない方も、足が遠のいていた方も、見て下さったらうれしいです。今回日替わりゲストもお呼びしているんですが、全てのゲスト用に違う台本を書き下ろしたので、1ステージたりとも同じステージはないので、そこも見どころです。
劇団青年座創立60周年記念公演 第2弾Act3D ~役者企画 夏の咲宴~『UNIQUE NESS』
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- 青年座60周年 Act3Dで、早川さんが脚本演出した「UNIQUE NESS」を拝見しました。大変面白かったです。出演された高橋幸子さんへインタビューもさせて頂きましたが、個人的にもとても大きい体験でした。その中で一つお気に入りのネタがありまして。主人公の遺産を狙う叔母さんが、幸運のお守りであるウサギの足を持ってくる代わりに、足をもいだウサギ本体をお土産に持ってくるのがありましたね。集中治療室に運ばれる。
- 早川
- 瀕死のウサギですね。
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- それが何故か、もの凄く笑えてしまって。「瀕死のウサギ」が何故ギャグとして笑えてしまうのか不思議でした。
- 早川
- ですよね。あのウサギも青年座のみなさんはしっかり仕事して頂いて。ウサギの写真を何枚か持ってこられて、「どの種類がいいですか?」って聞いて下さるんですよ。
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- それは凄い!
- 早川
- ホントにそうなんですよ。作って頂いた瀕死のウサギは我が家で大切にしています。他にも、劇中で食べるビスケットも何種類かの実物から選ばせてもらって。役者のみなさんはもちろん、スタッフの皆さんもプロとして素晴らしい仕事をして下さいました。プロの仕事を目の当たりにしました。
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- 早川さんご自身にとって、振り返ってどんな体験でしたか。
- 早川
- 芝居を始めてから今日までで、一番センセーショナルな出来事だったと思います。凄いなと思った事も、違和感もあって。ポジティブな事もネガティブな事のどちらも大きかったんです。打ち上げで、「申し訳ないですけど僕は今回の経験が凄く大きかったから、次に書くものが一番面白いと思います」と言ったんです。それぐらいの。「LAUGH DRAFT」の脚本を書いていても、この台詞はどういう意味?って青年座の人たちに聞かれて答えられるかどうか、自問しながら書いているんです。
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- 青年座の役者さんたちは、綿密に脚本を研究して役に望むそうですね。高橋幸子さんはそういう中で勉強して来られて、ガバメンツの稽古の時に「ノリで作る」というやり方に出会って驚いた、との事でしたが。
- 早川
- もちろん緻密に組み立てるのも大事なんですけど、笑いを作る時には、理論をぐっと押してでも・・・という部分があるんですね。ちなみにそれは僕が言った訳ではなく、稽古場で誰かが言っていた事なんです。彼女にとっては印象が深かったんだと思います。
劇団青年座創立60周年記念公演 第2弾Act3D 〜役者企画 夏の咲宴〜『UNIQUE NESS』
公演時期:2014/8/1〜10。会場:青年座劇場。
まさに異文化交流
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- 「UNIQUE NESS」では、まさに異文化でしたね。戸惑った事等はありますか。
- 早川
- 初日の読み合わせで文化の違いを感じて帰りたくなった事かな。緊張していたというのもありますけど。
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- というと。
- 早川
- オールキャスト・オールスタッフで、社長さんを始め制作の方もいらして。突然大阪から連れて来られた僕が一人。とりあえず読んでみましょうと読み合わせが始まって、コメディなので「ここは笑えるだろうな」と思っていた箇所で誰も笑わなかったんですよ。普段の読み合わせだと笑ったりしてくれるんですけど、それがほぼ無いお通夜みたいな。ショックでしたね。
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- ああ・・・
- 早川
- どっちかというと自分を恨んでましたね。僕はなんという本を書いてしまったんだろうと。後ろの席で舞台監督の方だけが一人クスクス笑って下さったので「この人の為に頑張ろう」と思いました。後で伺ったらみなさん緊張していた部分もあったみたいです。初めての世界観で、本当に異文化交流でしたね。「この作品の舞台はイギリスですので、僕はみなさんの事をイギリス人だと思うようにします。みなさんも僕の事をイギリス人だと思って下さい。そうすればお互いイギリス人として繋がって、いつか分かり合えると思います」ってツカミのつもりで言ったら、それすらウケなかったんですよ。
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- ええー!
- 早川
- これをずっと前日の新幹線の中で考えてたのに、冒頭で言ったら笑ってくれるかなと思ってたのに。
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- 稽古はいかがでしたか。
- 早川
- 台詞の解釈についての質問や疑問をきっちりとみなさんが持っていて、僕は割と、脚本を理詰めで書いているつもりだったんですけど、これはつもりだったな、と反省しました。笑いの間などコメディの技術的なことに関しても皆さん勘が良くて、「そういう事ね、よし分かった」って掴むともの凄く早いんです。
早川さんの初期衝動
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- 早川さんがお芝居を始めた経緯を教えてください。
- 早川
- 元々何か文章を書く事が好きで、読書感想文が得意なこまっしゃくれたガキだったんです。中学の時、文化祭のクラスの出し物でみんな演劇をするんですけど、大体ああいう時って女子が全然おもしろくない劇をし始めるんです。それが耐えられなくて。中三で台本を書いたのが初めての脚本です。そこから高校まで書いてました。文化祭で毎年劇をやってたんですが、それがまさか仕事になるとは思わなかったです。大学は大阪芸大に入りました。父親のすすめで。
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- お父さんに薦められてですか。
- 早川
- 僕のやりたい事を察したのかもしれませんね。ちょっと不思議な人なんですよ。僕が、折り合いを付けるつもりで適当な大学の願書を取り寄せたら「お前は本当にそれでいいのか」と怒られて。「お前はこういうのが好きなんじゃないか」と、芸大の資料を持ってきて。まさか普通、親は普通、芸大は薦めないと思うんですけど。
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- そうですね。普通は。
- 早川
- 芸大に入っても、実は脚本を書いていた訳じゃなくて。僕はコピーライターとかそっちのがやりたいなと思ったんですね。企画とか。夢みたいな夢じゃなくて、可能な夢にシフトしたんです。それでも、大学の最後、卒業制作でやっぱり一本芝居をやろうと。学内で役者を目指している仲間も出来たし・・・そうしたらこれが面白かったんですよ。楽しかったし。その時東京の広告代理店の内定を貰ってたんですけど、蹴って。もしかしたら本当は今頃フェラーリぐらい乗ってたかもしれないと自分では思っています。そういう経緯から、放送作家になりました。
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- 素晴らしい。早川さんの初期衝動について伺いたいんですが、女子が全然おもしろくない劇をやってたのが我慢できなかったと。それを見てしまって火がついた?
- 早川
- 反感食らいそうですけどね。実は中一でルイ何世だかの王様の役をやってたんです。でもあまりにも台本が面白くないから、相手役の男子と相談して、勝手にちょこっとだけ自分達の台詞を作って、勝手に衣装も自作して、勝手なシーンを作ってやったんですよ。それがウケたんです。今思えば、役者としては最低ですね。
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- (笑う)
- 早川
- ほら見ろと。女子はちょっとおかんむりでしたが、僕は大満足でしたね。
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- それは、本番突然始めたんですか?予告なしに当日?
- 早川
- はい。当日。その来年の中二の時も、女子が企画した演劇でまたルイ何世とかの役が振られました。その時は衣装の子がいて全員分作ってたんですが僕は自分から拒否して。ロビンフッドの映画でのショーンコネリーが着ていた衣装を参考に、ちゃんとしたものを作りました。一人だけ衣装のクオリティが違うという。なんかそういう、ヤなガキだったんですよ。
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- 早川さんの笑いって、もしかして、誰かを驚かせたいという気持ちがあるのかもしれませんね。
悲惨さについて
- 早川
- それはあるかも。ちなみに僕はウディ・アレンが好きなんですけど、シニカルだとか、ペーソスだとか。ここ数年は僕もちょっとそっちに傾倒している部分があります。ああいう芝居って、演劇にはあんまりないかなと。
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- そうかもしれませんね。そういえば。
- 早川
- 辛い事と笑いって表裏の関係にあると思うんです。その、針の穴を通すようなとこをやりたいなと思っています。
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- ある程度悲惨さがないと、笑いはせり上がってこない気はしますよね。
- 早川
- そうなんですよ、でもそのさじ加減は本当に難しくて。自分は悲惨の方に寄ってしまう癖があって、そこが課題なのかなと。
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- 針を通した傑作。笑うというのは、確かに人間が持つ最高の感情かもしれない。
- 早川
- うーん、僕はその、笑いが崇高なものだという言葉はあまり言いたくないですけどね。例えば「笑い」と「お笑い」は違うとか言うじゃないですか。僕は笑いもお笑いも同じじゃないかと思うんです。「お」が付いたらお下劣とか言うけど、どっちも同じじゃないかなあ。
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- 早川さんは、お客さんに笑って貰う事で、どんな気持ちになってもらいたいですか?
- 早川
- とにかく笑ってもらう事が一番大事ですね。面白いと思って、笑ってもらえたら。それで人生を変えてほしいとかは思わないですし、影響を与えるつもりはないですね・・・その瞬間笑ってもらえれば、それでいいのかもしれません。
質問 せんのさくらさんから 早川 康介さんへ
僕を虜にした世界
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- 今、何かお考えになっている創作のネタとか、引っかかっているネタとかはありますか?
- 早川
- そうですね。「創作のネタ」としては、僕は料理が好きなんですよ。本書きになる前は料理人になろうと思ってたんですよ。料理の鉄人という番組あるじゃないですか。僕、あれが大っ好きで。
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- 私も好きです。小説持ってました。
- 早川
- ありますよね!僕も持ってました。小山薫堂さんの書かれた本でしたよね。ほかにも関連書籍は全部持ってます。食材を言ってもらえれば誰と誰の対決かとか、どんな料理だったかとか全部言えるぐらい好きなんですよ。
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- それは凄い。
- 早川
- それぐらいめっちゃ好きやったんです。金曜日の放送をビデオに撮って、一週間毎日見てました。今でも最終回のスペシャルを見てます。本当に好きなんですよ。
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- 今でもですか!
- 早川
- 中二くらいに自分でフランス語の勉強をして、5000円くらいの料理の専門書を買ってきて。自分も料理人になりたかったんですね。一回、そういうお話を書きたいと思っています。三ツ星とか、星に翻弄された男みたいな。それはちょっとやりたいですよ。
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- 面白いですよね、料理の鉄人。
- 早川
- あの設定とか演出が好きなんですよね。鹿賀丈史という富豪が道楽でやっている設定とか。あの世界観がたまらなく好きでしたね。自分でオリジナルの鉄人を作って遊んでました。サウンドトラックをバックドラフトから録音してきて、それをバックに自分で書いた台詞を読んで。ラジオドラマみたいに作りましたね。
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- それは相当好きですね。
- 早川
- 学校を早退して、陳建一さんのディナーショーに行ったりしてました。今これを言うとみんなに引かれます。
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- いや、私は良く分かるつもりです。あの番組はバブル崩壊後の夢であり、あれを見て腹の空かない人間はいませんよ。
- 早川
- そうですよね、あんな番組は無いと思うんですよ。確実にTV史に残る番組で。
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- あの演出は凄かったですよね。道場六三郎が紹介される時のVで、連勝している頃は途中で滝の流れる映像がカットインしますよね。あれが凄くかっこいいですよね。
- 早川
- 鉄人が出てくる時、せり上がってくるのがいいんですよ。こないだまでやってたアイアンシェフは、立っている状態からパネルが下がっていくんです。これはね、同じようで全然違うんですよ。やっぱりせり上がらないと。もの凄く不安だったんですが、やっぱりすぐ終わってしまった。僕に任せてくれれば絶対人気番組にしたのに。ガッカリでした。
笑い
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- コメディを始める若者に一言、お願いしても宜しいでしょうか。
- 早川
- 僕もそんな歳になったんだなあ・・・。とにかく、応援しています。新しい笑いが見たいです。言葉が難しいですけど、「そんな事でそんなに笑う?」って人が多くなっているような気がして。若い人を十把ひとからげにするつもりはないんですけど。そこへの切なさは若干感じているんですね。我々作り手がどんな笑いを提供するかによって、受け手の笑いが若干違ってくると思っていて。そこのレベルは上げていってもらいたいなと思いますね。
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- 高度な笑いでも丁寧に描けば、だれでも分かってくれる筈ですよね。私も期待しています
- 早川
- 笑うのは分かるけど、そんなにずっと笑うんだ。みたいな。瞬発力のある笑いに傾きすぎじゃないかなと。もちろんそういう笑いを否定する訳じゃなくて。色んな笑いが見たいんですね。
LAUGH DRAFTのヒミツ
- 早川
- 僕、最近役者の出ずっぱりに興味があって。役者は体力的にきついらしいんですけど、独特の空気と緊張感があって。
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- 「UNIQUE NESS」の時もそうでしたね。
- 早川
- あそこにいると嘘付けないんですよ。喋ってないのにかなりしんどいらしい。実は「LAUGH DRAFT」も出ずっぱりで、しかも生演奏があるんですよ。全員である方法で音を出すんですが、これが簡単なように見えて難しくて。「UNIQUE NESS」でギターを弾いていただいた福島さんに指導をしていただいています。いま、猛練習中です。
僕が料理の鉄人のドラマの企画があったら絶対に面白いものを書く自信がある
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 早川
- 大阪はもちろん、東京での活動も広げて行きたいと思います。ここ数年、東京で公演等の活動が続いているので、この調子で。舞台以外にも、映像など他分野での活動もしていきたいですね。
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- 早川さんの作品が色んなメディアで拝見出来るのを待っています。
- 早川
- そうですね、どこかで料理の鉄人のドラマの企画があったら絶対に面白いものを書く自信があるんです。誰か言ってくれないかあ。
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- ああ、それは見たいですね。
- 早川
- やっぱりね、得意なジャンルがあると声を掛けられやすいみたいなんですよ。PEOPLE PURPLEの宇田さんが消防所関連のドラマを得意としているように。僕の得意なジャンルは、料理・グルメ関連です。
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- 素晴らしい。
- 早川
- あと、朝ドラの脚本がやりたいですね。朝ドラの脚本を2回やるというのが夢なんですよ。
Lebel THEO ヘアワックス
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
- 早川
- ありがとうございます。(開ける)これは。
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- 整髪料ですね。
- 早川
- すごい。僕今日、髪切ったんですよ。切り過ぎてお坊さんみたいになっちゃったんですけど。
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- 香りがいいんですよ、それ。ちょっと緑茶成分も配合ですね。男性専用で、髪に優しいワックスです。
- 早川
- いいじゃないですか。セットし放題。しかも「G」の文字がガバメンツらしい。