演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

大原 渉平

脚本家。演出家。俳優

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直結エンジン

__ 
今日はどうぞ、宜しくお願いします。悪い芝居 「駄々の塊です」 、お疲れ様でした。盛況だったそうで何よりです。
大原 
ありがとうございます。何とか東京も終わりました。いつもは作演出・出演をしているんですが、今回は役者だけなので、いつもとは全然違う頭を使いました。書いた人が何を考えながら作ったかを考えて、そのレールに乗る事が求められるので、難しいなあと。当たり前ですけど、役者って凄いなーと思い直しました。
__ 
作家がそれで正解だと言っても、本番でそれが正解だとは限らないわけですからね。
大原 
演出助手として山崎さんの書くのを手伝っていたので、相対的にどのような役を自分は演じるべきなのか?という第三者の視点があって。役者としてはまだまだなので反省点も多いですが、その分、もう少し役者としての自分を知りたくなりましたね。
__ 
役者としての自分。
大原 
高校から脚本を書き始めて、それは当然自分が俳優として演じる、と直結しているんですよね。作・演出・出演というのが。自分が書いたものに自信がないから役者として出ているのかもしれないんですが・・・
__ 
というと。
劇団しようよ

2011年4月、作家・演出家・俳優の大原渉平と、音楽家の吉見拓哉により旗揚げ。以降、大原の作・演出作品を上演する団体として活動。世の中に散らばる様々な事象を、あえて偏った目線からすくい上げ、ひとつに織り上げることで、社会と個人の”ねじれ”そのものを取り扱う作風が特徴。既存のモチーフが新たな物語に〈変形〉する戯曲や、想像力を喚起して時空間を超える演出で、現代/現在に有効な舞台作品を追求する。2012年「えだみつ演劇フェスティバル2012」(北九州)、2014年「王子小劇場新春ニューカマーフェス2014」(東京)に参加するなど、他地域での作品発表にも積極的に取り組む。野外パフォーマンスやイベント出演も多数。2015年「第6回せんがわ劇場演劇コンクール」(東京)にてオーディエンス賞受賞。同年よりアトリエ劇研(京都)創造サポートカンパニー。(公式サイトより)

悪い芝居

2004年12月24日、旗揚げ。メンバー11名。京都を拠点に、東京・大阪と活動の幅を広げつつある若手劇団。ぼんやりとした鬱憤から始まる発想を、刺激的に勢いよく噴出し、それでいてポップに仕立て上げる中毒性の高い作品を発表している。誤解されやすい団体名の由来は、『悪いけど、芝居させてください。の略』と、とても謙遜している。(公式サイトより)

悪い芝居vol.12「駄々の塊です」

公演時期:2011/11/2〜2011/11/9(京都)、2011/11/17〜2011/11/21(東京)。会場:ART COMPLEX 1928(京都)、王子小劇場(東京)。

見えないものを探していく

大原 
与えられた脚本だから、書いた人の視点は得られない訳で。だから、見えないものを探していくという作業があるんです。自分自身を問い直しながら。そのストレスと対峙し、自分と合わせてゆくという・・・なんだか役を演じるということにことさら興味が出てきました。
__ 
ご自身を問い直して、視点を探っていくんですね。
大原 
相対的に役を作っていくタイプなんですよね。周りがこういう感情だからこういう感情だと考えて・・・まあ演出をやっているからだと思うんですが。反対に、絶対的に作っていくタイプ:その役がこういう人間だから、その時はこのような感情であるとしていわゆる掘り下げて役作りをする人は、演出者の意図であるとか、アンサンブルであるとかの調和をどこかで調整しないといけないんじゃないかと。
__ 
大原さんは演出家タイプなのですね。
大原 
だから、それまでは役者だけやっている人をある種、損なんじゃないかというのがありまして。
__ 
個人的には、能力のある役者って、事件性を持つ人なんじゃないかと思うんです。90分間の作品で、観客を引きこんで作品を見せて、そういう当たり前の事の上の次元に、一つの絶対的な価値のある演技があると思うんです。それを見つけるのが稽古なのかもしれませんね。
大原 
そうですね。周りは全員、役者を主にやっている人で。自分と違う演劇のエンジンでやってはるんですよ。だから、役者専門の人のエンジンというものに興味が出てきています。

サムくならないように

__ 
大原さんにとって、作品を作る基本的な態度とは。
大原 
どこかしら、第一稿から既に完成しているものを求められるんだという思い込みがありますね。だから、チラシに「作・演出」って書けなくて・・・恥ずかしいんですが、「策・演出」って書いちゃうんですよね。
__ 
そうなんですね。あれ、いいと思いますよ。演劇作品は本番で完成する、みたいな感じがあります。
大原 
サムくならないようになりたい。売れたらサムくならないでしょうか。「策・演出」。売れたらいいなあと思います(笑う)。
__ 
劇弾ジャスティスアーミーの頃からそうでしたね。
大原 
はい。それまでは成安造形大学でやっていたのですが、3回生の頃にはじめて公演を京都で上演しました。大きな一歩だったと思います。あの時の気持ちは忘れちゃいかんと思います。
__ 
中谷さんもそんな事を言っていましたね。
大原 
そうですよね! 僕が1回生の時の4回生で、カズさんすげーって。

確実に何かが残っていくような

__ 
劇団しようよで拝見したのが、第二回公演「茶摘み」 でしたね。面白かったです。一つの台本を2回繰り返すのが、延々と続く茶畑のループを表現していたように思います。
大原 
ありがとうございます。実は、2回目の公演をする前に、「京都だと面白い芝居を作れなくてもずるずると演劇を続けられちゃうぞ」って聞いたんです。大阪でも東京でも同じかもしれませんが。それは、凄く怖いなと思ったんですよね。
__ 
なるほど。
大原 
僕は好きな事をずっと続けられたらいいな、なんてこと思いたくはないです。将来結婚したり家庭を築いたりしたいと思っているんです。自分の表現が、いつかそこに結びついていったらいいなと思っています。「茶摘み」を書く時、確実に何かが残っていくような作品を作らなければならないと思って書きました。
__ 
どのような作品になったと思いますか?
大原 
実は、劇弾ジャスティスアーミーの時は自分の痛みを、見せびらかすじゃないですけど、それ自体を作品にしていたんですね。劇団しようよを旗揚げする時、もっと大きく広く伝わる作品を作りたいと考えました。が、その広げた世界に自分が追いつけていないなと。「茶摘み」では、自分が出来る事をしっかりやろうと思いました。あれ、実家が茶畑農家というのは実話なんです。
__ 
あ、そうなんですね。
大原 
大学卒業して第一回公演終わって、バイトして家に帰ったら「茶摘み手伝えよ」って言われて。僕は何をしているんだろうと。その衝動があの作品の核でした。そういう自分自身というノンフィクションから始まって、最後はフィクションで終わるというのがやりたかったんです。
__ 
最後に散らばる赤いビー玉が印象的でした。お茶の緑と赤は補色でしたね。
大原 
そうですよね。補色というのは大きなポイントなんです。「茶摘み」も、旗揚げ公演のチラシも反対の色の組合せを使っているんですよ。黄緑とピンク、オレンジにブルーの組合せ。
__ 
なるほど。
大原 
演出でも意識しますし、お話でも大きなヒントになります。僕、作品を色味から作るんですよ。まずそこがアイデアの取っ掛かりですね。まず、何色の芝居を作りたいかから考えていくと転がって行きますね。
劇団しようよvol.2「茶摘み」

公演時期:2011/9/2〜2011/9/4。会場:アトリエ劇研。

印象

__ 
それはいつ頃からですか?
大原 
物心ついた頃から絵を書くのが好きで。イジメられたら帰ってその日のことを絵に書いたり塗ったり、陰湿な子供でした(笑う)。人を、パッと見の印象から原色で振り分けるんですよね。3人いたらこの人は赤色だ、この人は青、黄色・・・みたいな。
__ 
なるほど。
大原 
あと、今思い出しました。高校の頃書いた台本、タイトルに全部色の名前が入っています。
__ 
どんなタイトルですか?
大原 
処女作が、「黒いサンタ」という。泥棒が貧乏の子の家に入って、盗むものがないから代わりにプレゼントを届けてあげるというクソみたいな話でした(笑う)物語の中の登場人物にも色を振り分けてましたね。このキャラは赤、青みたいに分けてました。

質問 佐々木 峻一さんから 大原 渉平さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました、努力クラブの佐々木さんから質問です。「1.童貞ですか?」
大原 
SEXする事に関して、嫌悪感があったんですね。中学校で保健体育を習うまで、男が手を洗わずに女に触ると妊娠すると考えていたんですね。大学でも、4回生になるまで童貞の方が良いものが書けると思っていました。そうですね。守りたいという意識がありました。
__ 
ありがとうございます。それで答えになっていると思います。「2.演技をする上で、どのような演技が好きですか?」
大原 
どういうのが好きか。あんまり好き嫌いで演技をしたことはないんですけど、基本的にアニメの声優さんの演技は、上手すぎて冷たく聞こえてしまうんですよね。だからあまり好きではないというか・・・割と、自分の好きな俳優さんも下手ウマな人が好きですね。クセとして噛んだりとか。テクニックに逃げない演技みたいなのが好きです。

伝える言葉

__ 
今後、劇団しようよで描いて行きたい世界は。
大原 
毎月、4の付く日に路上パフォーマンス「ガールズ、遠く」をやっています。この間は奈良と和歌山と三重に行きました。そこで出会うお客さんは、劇場でのお客さんと全然違うんですよね。たまたまそこで出会った方だから、その人の感動の起こり方というのが、凄く純粋で。運命感じてくれはる・・・
__ 
劇場のお客さんは、選んでそこにいる訳で、さらに出会おうとしているわけですからね。しかも、最初から劇場で起こる事件を予想しているし。
大原 
巡り合わせなんですよね。そうして出会えるってすごく素敵だなと思いました。そういう事もやっていきたいと思っています。そして最後にはこのパフォーマンスを劇場に引き戻すというイメージもありますね。
__ 
なるほど。
大原 
もしかしたら、言葉だけで共感を呼ぶという訳ではなく、伝え方によって千差万別なのかもと、今思いました。言葉を変えれば、例えばこの人には響かなくなるけど、あの人には届く。でもそれはキリのないことで・・・じゃあ、同じ言葉でどうあの人に迫ってゆくか、あの人の心のどこまで響くことができるか、「伝え方」という事に興味があります。
__ 
同じ言葉でも、届くか届かないか。
大原 
「茶摘み」で頂いた一番嬉しかった感想が、「共感出来ないし嫌いだけど、凄く面白かった」。共感出来ないけど、心に入れたんですよ。これ以上うれしいことはないと思いました。好きになってもらうよりも。
__ 
その、嫌いだと仰った人のモデルがあったとして、その方とどのような接し方をしていけば良いと思われますか?
大原 
やっぱり、共感出来ないというお客さんに対しても、あえてこちらの世界を拡張していきたいと思っているんです。それよりも、伝え方、見え方を考えたい。感情は同じでも表情を変えてゆくというイメージといいいますか・・・。結構、自分の演劇の伝え方については方向性を確固として持っていないんです。でもそれが悪い事とは思っていないんです。周りから思われているよりも静かな雰囲気のお芝居が好きだったりするし。
__ 
ええ。
大原 
自分の持っている言葉は変えずに、伝え方を変える事で、共感できない誰かに届けばな、と思います。次はふんわりとした、やさしい感触の作品にしたいですね。
__ 
おお。
大原 
舞台上にチワワがいて、一時間ずっと、可愛いと言われるような芝居がいいと思うんですよね。今までとは違って、肯定的な。

交錯

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
大原 
うちは劇伴があるんです。一緒に劇団しようよをやっている吉見君にお願いしているんですが、作品の柱の一つなんですよ。ガールズ、遠くの劇場版では、彼の曲を全部入れるぐらいのものにしたいと思っています。
__ 
吉見さんがしようよに参加したきっかけは。
大原 
彼とは劇弾ジャスティスアーミーの最終公演の時から一緒に組んでいるんですが、初めてオリジナルの曲を作って貰った時に「既成の曲じゃなくても、全然行けるんだな」って思ったんですよ。自由さを感じたんです。
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ええ。
大原 
むしろ、彼の作品にインスピレーションを受ける事もあります。僕の、一番最初の色から始まるイメージに彼の音楽が入ってくる事に、期待と希望を抱いています。

モザイクハット

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今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
大原 
ありがとうございます。(開ける)これは帽子ですね。嬉しいです。僕は帽子を被らない人間なので。ありがとうございます。
(インタビュー終了)