鳥公園「緑子の部屋」
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- 今回は鳥公園の作家・演出家である西尾佳織さんにお話を伺います。さきほど「緑子の部屋」の大阪公演の夜の回が終わったばかりですね。とても面白かったです。
- 西尾
- ありがとうございます。
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- タイトルからは想像が出来なかったんですが、人間同士の「対話」をめぐる作品でしたね。言ってしまえば、人種を始めとする様々な差異から発する差別心が生活の中でどのように顔を出すのか、が大きいテーマだったんじゃないかと思います。持論ですが、今後日本は30年程度を掛けてだんだんと多民族社会になっていくんじゃないかと思っています。すると意識すらしていなかった差別心に突如出会う事になり、非常に戸惑う事になるのではないか。もちろん対話は色々なレベルで行われていく筈ですが。さて、「緑子の部屋」。演劇として非常に面白かったです。配役の切り替え方、空間の使い方がとかユニークで、語数の少ない詩が読まれた時の広がりのような印象を受けました。私が気になったのはラストシーン。「対話」が一方的にシャットダウンされてしまうという描写がありましたね。
- 西尾
- 一方的、そうか、はい。
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- 何というか、絶望を感じたんです。同棲している彼女と彼の会話。説明の難しい悩みを武井翔子さん演じる彼女は抱えていた。浅井浩介さん演じる彼は見るからに疲れていて、結論も出ないまま途中で対話を打ちきってしまった。こういう場面を見るにつけ、まずは対話する相手を受け入れる姿勢を持つべき、とは思うんです。でも、相手を許容しあう対話が全てを解決するかというと、それはどうなんだろう・・・?そこは個人的に悩んでいるんですが。
- 西尾
- ありがとうございます。嬉しいです。そうなんですよね、差別の心があるというのは、ダメだと言われても無くならないと思うんですよね。誰でも、何かに対して偏見とか差別心を持っているんだよなあ、って。無菌状態なんてありえないんだと思うんです。
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- 確かにそうですね。
- 西尾
- 一体、自分はどういう色眼鏡を掛けているのか?いや、自分の目自体にそういうものが備わっているのかもしれない。そういう事込みで考えていかないといけない。難しいですよね、話すって。
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- 色眼鏡というより、私の眼球にそれが入っている。
- 西尾
- じゃあ目をえぐり出せるかというと、それが良いとは全く言えない。
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- と言って我々は被差別者にはなれないから、彼らの気持ちを想像も代弁も出来ない。そんな絶望がありますね。
- 西尾
- 実は「我々」の中でも差別をし合っているんじゃないかと。種類は違うけれども、さらに差別し合っているのかもしれない。
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- というと?同じカテゴリー内の差別?
- 西尾
- 今、次に演出をする作品の関係でセクシュアルマイノリティの問題を日々考えているんですけど、LGBTの中でもゲイの人たちの発言が強かったり、トランスの人同士でも、性別適合手術をしている人が手術までは望まない人に「そんなのは本当に苦しんでない」と言ったりすることがあると聞いて。でも、きっとそうだろうなと思うんです。関係ない立場の人はもっと無関心で、素朴に「それは大変だろうねぇ」ぐらいに処理することしか出来ないことが多いと思うから。
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- なるほど。
- 西尾
- 「当事者」としての切実さがあるからこそ、同じカテゴリーに入れられている人同士の間で、差異にたいする意識がより強く働いてしまうこともあるんだろうかと、思った事があります。
鳥公園
2007年7月結成。作・演出の西尾佳織と俳優・デザインの森すみれによる演劇ユニット。「正しさ」から外れながらも確かに存在するものたちに、少しトボケた角度から、柔らかな光を当てようと試みている。モノの質感をそのままに手渡す言葉と美術、「存在してしまっていること」にどこまでも付き合おうとする演出が特徴。11年10月、「おねしょ沼の終わらない温かさについて」でフェスティバル/トーキョー11公募プログラム参加。12年2月、大阪市立芸術創造館主催・芸創CONNECT vol.5にて「すがれる」が優秀賞受賞。12年7月、広島市立美術館主催・ゲンビどこでも企画公募にて、「待つこと、こらえること」が粟田大輔賞受賞。同年9月、同作品が3331EXPO「おどりのば」スカラシップ受賞。鳥取、北九州、広島、大阪など、東京以外の様々な土地での滞在制作も積極的に行っている。(公式サイトより)
鳥公園「緑子の部屋」
公演時期:2014/3/21〜23(大阪)、2014/3/26〜31(東京)。会場:芸術創造館(大阪)、3331 Arts Chiyoda B104(東京)。
存在を許し合える場所
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- 西尾さんがお芝居を始めたのはどんな経緯があったのでしょうか。
- 西尾
- 中学校で演劇部に入ったんですけど、小学校から学芸会とか好きでしたね。中学校で鴻上尚史さんの「デジャ・ヴュ」をやっていて。意味は分からないけどカッコイイと思ったんですね。
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- 鳥公園を立ち上げたのはどんな思いがあるのでしょうか。
- 西尾
- まず、なぜ「鳥公園」という名前にしたのかというと・・・私、二人で話をするのが好きなんですよ。3人以上だと難しいなあと。なんか、聞いていよう、と思っちゃうんですね。どうやったら3人以上の人数で、個のままで自由にいられるだろうと思ったら、それは公園かなあと思いまして。
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- ご自身にとって、公園という場所で対人関係の可能性がより開けそうだと思ったんですね?
- 西尾
- そうですね、公園には話している人もいれば散歩したりお昼寝している人もいるので。でも、みんなお互いが視野に入っている。だから場としてまとまりながらも自由な空間なんじゃないかと思うんです。
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- 鳥は・・・?
- 西尾
- 鳥はただ単に好きだからです(笑う)
公園を、必要としてくれる人?
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- 「鳥公園」。いい名前ですよね。シンプルだけどユニークで、どことなく異郷っぽくて、でも懐かしくて。作品が独特の手触りだから、なおさらそういう風に感じるのかもしれません。「緑子の部屋」も、何だかとても、らしい作品だったんじゃないかと思います。配役が良かったですね。鳥公園の舞台にはどんな人に立ってもらいたいですか?
- 西尾
- なんか、自分の足で立っているというのがまず大事で。「私を輝かせて欲しい」とか、「あなたの作品世界で生きたい」みたいな事を言われるとちょっと無理だな、と。それと同じく、普段から面白い人は、多分舞台に立つ事は必要じゃないんじゃないかと思うんです。この人、舞台じゃないと切実にダメなんだな、と思わせるような、私が何もしなくてもこの人はやるんだろう、でも私の作品を必要としてくれる人、が私にとっては大事です。上手かどうかは別にして。
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- 西尾さんの作品が必要だと思えるような、そんな人。
- 西尾
- そうですね、私がやりたい事に付き合ってもらえる状態だと、逆に私はやれないんですね。私の作品を必要としている、自分から表現をしたい人が鳥公園という場を作ってくれる。私も、鳥公園という場の為に、費やすんです。
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- 鳥公園を、参加している人たちも求めるんですね。
- 西尾
- 私や参加しているメンバーが、気になっているものを持ち寄って鑑賞したり感想を言い合って、それが作品内容に残ったりするんです。今回の場合は日本画鑑賞とか、映画もそうだし、例えば「昨日見た悪夢」の話なんかも。そういうのが苦手な方はちょっと難しいかもしれませんね。
夢が続いてる
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- 「緑子の部屋」。俳優の方々が強烈だったなあ、って思います。わっしょいハウスの浅井さんは大分昔から知っていますが良かったですね。鳥島さんも印象的でした。そして武井さん演じる女性がですね、自立しているようでありながら本当は足場がない、そんな人間像。頼り無い背中でした。部屋の隅に追いやられて、同棲中の男性に相手にされない彼女は、本当にマッチ棒の折れたみたいな印象を受けましたね。
- 西尾
- 彼女がラストにする夢の話、友達のアヤちゃんがあられもない格好で走っていってビルから飛び降りる話なんですけど、それは実際に武井さんが話してくれた事なんですよ。夢の中だと気づいていて、これは飛び降りるなと予感して。逃げ出したくなったけれども、それでも夢の中で周囲に「あ、逃げた」と思われたくないから「ふんふぅん♪」とか鼻歌みたいなのをしながらその場から避けていって、でも「ああ、あたしは逃げた」という自覚は凄くあったと。
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- なるほど。
- 西尾
- 最初、その話を聞いた時は、「この子はそうなるんだろう、落ちるんだろう」という確信の話だったんですけどね。そのピースを私が物語の流れに組み込んで、「罪悪感を感じた後味の悪さの話」になりました。
叶いそうもないけれど言わずにはおれない
- 西尾
- アーティストとアクティビストの違いを考えているんですけど、アクティビストは現実の方で変えようとしていると思うんですが、それって限界があって。そこで扱えない事をアーティストが受け持つべきなんじゃないかと。今解決出来ない事を扱いたいです。
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- 「解決が難しい事」。今日のラストシーンも、それを巡るシーンでしたね。説明する事すら難しい、自分で完全に把握も出来ていない、しかも相手が拒否している、そんな不可能な対話。これを例えば演劇でやるのは意味があると思います。何故なら、情報量をいくらでも積めるメディアだから。
- 西尾
- 最近、森達也さんの新書『放送禁止歌』を読んだんです。同和地区で生まれた歌を扱っていて、どんな歌かと言うと今の辛さをそのまま歌にしたものなんです。あくまで、辛さを解決する為の歌じゃないんですね。何故なら、本当に叶い得ない事だから人の心に響くのであるし、そういう通路を持つ事は人の心を助ける。だから価値がある。森達也さんの取材に部落解放同盟の方がそう答えていたんです。それが、アクティビストとアーティストの違いでもあるなあ、と。
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- 通路。
- 西尾
- 叶いそうな事だったら口に出しても歌ってもそこまで響かないんですけど、叶いそうもないけれど言わずにはおれない事だから、そこにエネルギーが生まれるんでしょうね。抽象的だけど、そういう事柄を描きたい。人と人の間にある、難しい事柄。これを通して人を描きたいです。
私は戦っていたのか
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- 表現が難しい事柄を扱う鳥公園。西尾さんは、鳥公園の作品を見たお客さんにどうなってもらいたいですか?
- 西尾
- 見え方が変容してもらいたいなあと思います。例えば足を骨折して初めて駅のバリアフリーを考えるようになったり、普段必要ないから意識に登らないものが浮かび上がってしまう。そうすると生き辛くなってしまうかもしれないですけど(笑う)
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- 素晴らしい。そうした見識は豊かさと言って良いと思います。「違い」から生じる差異が、生活にある事を認識する。
- 西尾
- 私、大学生時代まで自分で勝ち取ってきた生き方じゃなかったと思うんですよ。色んな人に守ってもらってたまたま、この線引のこっち側にいる、っぽい。なんか危ういなあ、いつでも違いうるなあと。
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- 西尾さんは、芝居を始めたのは道を踏み外したと思いますか?
- 西尾
- 思わないですね。
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- それは、とても幸せな事だと思います。自分の道を歩いているんですから。まあ、演劇をやって不幸になった人もいるんだろうけれども。
- 西尾
- ウチはちょっと特殊かもしれないですね。両親は反対していないので。いや、気持ちでは応援してくれていると思うんですけど、突き放しているというか。でも、辞めなさいと言われた事はないですね。
質問 金田一 央紀さんから 西尾 佳織さんへ
話してみよう
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 西尾
- 仲間を増やすこと、かな。
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- 劇団員を増やす?
- 西尾
- という事じゃなくて、約束を決めていくより、もっと沢山話そうと思うんです。言ってみたら、結構なんとかなる事が多いんですよ。例えば、こちらの準備が整うまで話してはいけないとか、どんな条件を出してあげられるだろうか、とか。でもそれより、会って話した方が良いんですよね。
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- 関係性を深めたい、紐帯を強めたい。
- 西尾
- そうですね。それと、さらけ出すって感じですね。整ってからじゃないと話してはいけないと思っていたんですけど、「こんな事をしてみたいんだよね」みたいな状態で話したら「じゃあ、こういうのはどう?」って言ってきてくれる。生煮えの状態で話した方がいい流れになる事もあるんですよね。
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- 突然ですけど・・・最近、「黒子のバスケ」脅迫犯の陳述書を読んだんです。彼が本当に求めていたのは、憂さ晴らしではなく「誰かと話す事」だったそうなんですね。いま彼は留置所仲間とおしゃべりしているらしいんですが、ものすごく心が穏やかになっているそうなんです。気を許せる人と話が出来るという、自分の存在を許してくれる、そんな関係性が欲しかった、らしいですね。
- 西尾
- 私も許容してもらわなくちゃ、と思ってたんですけど。許させるというと言葉が強いですけど、やはりこちらから積極的に関係性を作っていかなくちゃいけないんですね。まず、私が相手に何をもたらせるか・・・
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- 与える自分になる?
- 西尾
- というと偉そうなんですけど、引き出しを全部使うという事ですかね。今持っている引き出しを使い尽くすと次が大変かと思いきや、むしろもっと入ってくる。今回の「緑子の部屋」は、キャストもスタッフも、それぞれがそれぞれに全部使い尽くした感じですね。
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- 最後に、「緑子の部屋」。ご自身としてはどんな作品でしたか?
- 西尾
- すごく楽しくやれた作品でした。全般的に、エネルギーが上手く流れていたと思います。去年、9月10月と連続で作品を上演したんですが、かすかすの雑巾みたいになるまで自分を絞ってたんです。そうじゃなくて、自分も潤す時間があって、それが返ってきて、みたいな感じで回せたかなと。
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- 循環型鳥公園ですね。
- 西尾
- サスティナブルな(笑う)。
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- そう、持続的発展可能な。
MUSICAのお紅茶
- 西尾
- 来年の1月に京都で公演をやるので、是非いらしてください。
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- とても楽しみにしております。また詳細決まりましたら教えて下さい。
- 西尾
- はい。
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
- 西尾
- ありがとうございます。(開ける)可愛い。MUSICA?
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- 芦屋のカフェだそうです。
- 西尾
- 台本を書いている時にコーヒーを無限に飲んでしまうので、ちょっと紅茶に切り替えていこうと思います。