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イトウワカナ

脚本家。演出家

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寒いとね、気持ちが切れる

イトウ 
そうなんですよ、冬の間演劇作ってなかったんですよ。寒いから。寒いとやる気がなくなるので。
___ 
あ、わかりますわかります。
イトウ 
やりたくなさに去年の秋にプッと気持ちが切れたんです。それなら今のうちに思いっきり休んでやろうと。春から動き出して、そろそろ暑くなってきたのでやる気が出てきたんですよ。
___ 
気持ちが切れるって、いい感じの表現ですよね。
イトウ 
心が折れるよりはいいですよね。
___ 
「心が折れる」を言い出したのはアジャ・コングだそうですね。イトウさんは心が折れた事はありますか?
イトウ 
あります。折れる時は、「メキッ」と、自分が真横に折られた気分になるんです。
___ 
では、「折れた」という状態から、「戻った」?「立ち直った」?それとも「折れたまま生きている」?
イトウ 
うーん。戻るんですけど、折れたところまで可動域が広がったみたいな戻し方をします。知っているところが広がったというか。私はここまで折れる事ができるんだ、みたいな。経験というか。
___ 
という事は、ちょこちょこ折れたらその分・・・
イトウ 
そうですね、傷つくのは当然嫌いなんですけど、それ自体はとても良い事だと思っていて。他人に傷つけてもらう度に、自分の形がはっきりするというのはあるかもしれません。
___ 
素晴らしい。そして、寒くなると気持ちは切れる。
イトウ 
それは基本的なやる気の問題かもしれませんけど。
___ 
気持ちが切れるのを是としますか?非としますか?
イトウ 
今はもう、仕方のないこととして捉えています。だから雪が降る前に岩盤浴に通ったりしていますね。体温を上げていく、みたいな努力をしながら冬をやり過ごすんですけど。だから・・・非ですね。あったかい所に移りたいんですよ。
___ 
言ってしまいましたね。はっきりと。
イトウ 
自分からね、まあ前から言ってるんですけど(笑う)でも去年、薄暮という作品で雪の事を書いたんですけど、自分が雪のある国で生まれた事は認めていかないとな、と思っています。雪が降ると気持ちが切れる事も含めて。私、白い色が絶望の色だと思ってるから。
___ 
白が絶望の色・・・。
intro

2006年に俳優・イトウワカナのプロデュースユニットとして活動開始。2008年、札幌の小劇場演劇祭「遊戯祭08-太宰とあそぼう-」(主催:遊戯祭実行委員会、コンカリーニョ)で「5月1日」(原作:太宰治「女生徒」)を上演し最優秀賞受賞。その後、2009年6月より劇団として活動開始。メンバーは脚本、演出のイトウワカナを筆頭に俳優6名と技術スタッフ1名で構成されている。平均年齢37歳。「introの演劇はintroの演劇としか言いようがない」と言わしめる個性際立つ舞台表現、奇抜なポップ感覚、非日常を感じさせながらも日常的な言葉の数々を駆使し、観客の体感にコミュニケートしてゆく演劇スタイルは、「音楽的」「詩的」と評され独自の魅力を放つ。

白と色のあいだ

___ 
イトウさんにとって、白は絶望の色?
イトウ 
そうなんですよ、黒じゃなくて。ただただ白いのって怖いんですよね。距離感もなくなるし、寒いし。だから色が付いているような風景が嬉しいんですよ。南の国とか、大阪もそうですけど。札幌は、花が春にどばっと一斉に咲くんですよ。だからそれは好きな風景です。
___ 
この間、満月動物園の戒田さんにインタビューさせていただいた時、戒田さんは「白は無の色」だって仰ってましたね。
イトウ 
戒田さん!私、戒田さんと色々似てるんですよ。
___ 
シアトリカル應典院の既設の幕が白だから。
イトウ 
ああ、そういえば仏教的には無は白ですよね。色彩に黒はあんまりないかんじ。
___ 
そして、イトウさんにとっては絶望の色。
イトウ 
そうですね。怖いですもん。私の地元では人はあっさりと死ぬんですよ。冬場に酔っぱらって外で寝ちゃう若い人とかいるんですけど、自殺行為なんですよ。だから私あったかいところに住みたいんですけどね。なのに私、異常にロシアが好きで。(南北に)引き裂かれてるんです、最近。

intro再演公演「蒸発」

___ 
introは8月・9月に「蒸発」を再演するのですね。素敵なチラシですよね。
イトウ 
初演と全く同じなんですよ。
___ 
どんな感じになりそうでしょうか。
イトウ 
2011年に初演で、出演者も3人入れ替わっていて。でも今回の再演をやるにあたり、チラシと台本と舞台美術は初演と全く一緒にする事にしたんです。この作品は実験的な要素が強いんです。感情表現を言葉でやらない、全部肉体表現にするというやり方に決めています。だから役者が変わるとだいぶ変わるんですよね。さらに、今回は映像と音楽を入れる事になりまして。初演をリミックスしている感覚です。
___ 
初演を見た方にとってはまさにリミックス版ですね。
イトウ 
初めて見た人にはハードハウスみたいな。まあトンチキな感覚の作品なんですけど。
___ 
トンチキ?
イトウ 
初演の時のお客さん、結構、「なんだったんだ・・・?」みたいなポワンとした顔をして劇場を出ていったので。今回の再演もああいう感覚に陥ってもらいたいんですね。肉体感覚に戻したい。感情が動いたというよりは、「腕が動かない気がする」みたいな。
___ 
動物的な?
イトウ 
動物的な瞬間もありますね。
___ 
肉体感覚を通して、動物としての人間に近くなっていく?
イトウ 
でも、関係性はやっぱり入れたくなるんですよ。でも役者は沢山の事は出来ないらしくて。肉体表現でいろんな感情を同時にやるのが難しいらしいです。「気に入らないけどちょっと好き」みたいな事は動きはできないらしくて。凄くシンプルになっていく。みたいな。見ている方はそれは気持ち悪いのかもしれない。
intro再演公演「蒸発」

あらら、どこに消えたんだろう未来!!! 雨漏りのひどい一軒家を舞台に、現在過去未来の罪を擦り付け合う者たち。 僕らには大事な妹がいた。 けれど、妹はどこへ行った? 僕らの大事な妹を傷つけたのは誰だ? 僕らの大事な妹は、いつまで存在していたんだ? 僕にも、誰にもわからない。 けれど、今日は妹がうまれた日だった気がする。 さあ、祝おう。僕らは家族だ。 まぎれもなく、僕らは家族だ。 2011年札幌劇場祭Theater Go Round 演出賞受賞、体感必須のintro式エンタテイメント。 作・演出:イトウワカナ 出演:菜摘、のしろゆう子、佐藤剛 松崎修(静と動)、有田哲(劇団アトリエ) 潮見太郎(劇団オガワ)、宮沢りえ蔵(大悪党スペシャル) 札幌公演 <札幌演劇シーズン2015夏 参加公演> 日程:2015/8/6(木)〜/14(金) 会場:ターミナルプラザことにパトス 大阪公演 日程:2015/9/4(金)〜6(日) 会場:in→dependent theatre 1st

ボクシングを観に行こう

___ 
お話を伺っていると、俳優の肉体的なやり取りが見れるんですね。そこには徹底した間合いの感覚による見せ方が生まれるような気がします。「名前を呼ばないと届かない距離」「代名詞で届く距離」「呼びかけ言葉で振り向く距離」「手を伸ばせば届く距離」「いきなり話題を始めてもよい距離」「気配」「視線」「吐息」。それらのルールをいきなり破られたら怖いみたいな。そこの間合いを計算した芝居は、見ていて結構気持ちいいですよね。
イトウ 
ああ、なるほど。
___ 
原理的な感覚ですけど、要所要所でやられると、観客としてはコロっといってしまうんですよね。もちろん遊びも入るとして。ボクシング的な作り方を期待していまいますね。
イトウ 
ああ、ボクシング的なものを作りたいですね。プロレス好きなんですけど、プロレスって距離が絶妙じゃないですか。ああいう事がしたいですね。
___ 
そうですね。そして、予定調和じゃない間合いの戦争が入っているボクシング。
イトウ 
そうか。ボクシングが楽しく見れるのはそこかもしれないですね。
___ 
聞くところによると、札幌の方はさっぱりとした方が多いそうですね。言ってみれば情念が薄い人が多いとか。そうした方々がボクシングを見て、どう感じるのかが楽しみです。
イトウ 
情念、薄いと思います。薄いんじゃないかな。だから、楽しいものが好きですよね。

メッセージ 赤星マサノリさんから イトウワカナさんへ

___ 
前回インタビューさせて頂いた、赤星マサノリさんからメッセージです。「僕にまた一人芝居を書いて下さい」。
イトウ 
あっはっは。赤星くん友達です。「やりましょう!」。
___ 
どんな話を書いてあげたいですか?
イトウ 
どんなのがいいですかね?赤星くん、もう大概の役はやってきてるはずだから。でも、みんなが見たい赤星マサノリは提示したいんですよね。彼はそこを分かっている、いい役者だなあと思います。「見たことがない」「これが見たかった」の両方を成立させたいですよね。何だろう。気持ち悪い役?いまパッと出てきたんですが妊娠させたいかな。子育てもの。
___ 
赤星さんの母親役はちょっと、私の記憶にはないですね。ご本人は大抵の変態的な役どころはやってきているはずですが。
イトウ 
エプロン着せたいですよね。
___ 
理想的イクメンか。意外と、レディコミに出てくるような理想化された男性像はやられてない気がします。
イトウ 
壁ドンしかしない男性とか、客席に向ける角度が固定されている人間とか。ちょっと上目遣いの角度で固定されているから車にすぐはねられるみたいな。そういう扱いをして怒られないかなと思ってたんですけど。実は昔、一人芝居で赤星くんを演出したんですけど。
___ 
拝見しました。よく分からないヒモの役でしたね。
イトウ 
そうですそうです。ありがとうございます。ちょっとフェチっぽい役だったじゃないですか。お客さんから、「全部むき出しで女性に向かい合っていく赤星さんが見れてうれしいです」みたいな感想を頂きましてすごく嬉しかった。よりかっこいい赤星くんを見せたかったので稽古場で演出している間中、「キャーかっこいい!「今みんなキュンとしてます!」的なかけ声を入れてましたね。

おじさん性について

イトウ 
私、おっさんなんですよ。今回のチラシの紹介文で上原日呂さんが書いてくださってますけど、根がおっさんで。
___ 
自分の中のおっさんを、確かに感じているんですね。
イトウ 
よく「子宮で考えたような芝居だ」とか言われるんですけど全っ然そんな事はなくて。意外と理詰めで書いています。理詰めとロマンチック。
___ 
おっさんか。ストリップ小屋のおっさんが私にとってのスタンダードなおっさん像なんですよ。客席に座ってて、飽きてスポーツ新聞を広げているおっさん。でも、決められたところで一斉に拍手する、みたいな。
イトウ 
(笑う)もうアレですよね。スケベなのを見に来たのに、飽きちゃう。それ凄いな、その魅力。お金払って見に来て途中でどうでも良くなる。般若心教の世界だな。
___ 
でも結局、スナックの姉ちゃんに盛り上がるおっさんらという姿がどうしても好きなんですよ。

イントロダクションを誰かに

___ 
「蒸発」。どんな方に見ていただきたいですか?
イトウ 
他人と関わってて、若干飲み込めない事が多い人は面白く見れると思うんです。流せる範囲でのムカつきを日々自覚する人は楽しめるんじゃないかと。人にぶつかられて謝られなかったのを忘れずにいる小さな自分。
___ 
それを解消させる?
イトウ 
とにかく身勝手で自分の都合しか喋らない人しか出てこない作品なんです。思いやりのない、己の正義だけで動いている人達なんですよね。仕事終わりで見に来た人にはおすすめかもしれない。初演の時、平日20時の公演がほとんどが仕事終わりのお客さんで、上演中と終演後はおかしな盛り上がりでした。
___ 
それは、もっともすばらしい上演の形ですね。
イトウ 
それは本当に、そうなりたいんですよね。変な気分になって、普段食べないような果物を買って帰ってしまう。そんな作品が作りたいんです。普段しない事をしてしまう、その入り口みたいな事がしたい。そういう意味で「intro」なんです。観に来てくれた人のその後の時間のイントロダクション。私たちにあまり色はなくて、お客さんのものになりたい。

「無意識でやっちゃうのは怖い」

___ 
キャスティングする時、演出をする時、俳優に何を求めますか?
イトウ 
第一が体型と声質です。私、耳がちょっといいっぽくて。
___ 
あ、聴力が。
イトウ 
いやな声の人とはやりたくないというか。主観ですけど。それから、私たちは長い時間を掛けて作るのを大前提としていて。たくさん寄り道をしたいんですよ。全然立ち止まらなくていいところでわざと立ち止まるみたいな事をしていて。そういうめんどくさい作業につきあってくれる人とじゃないと、と。そういうめんどくさい事が待ってますけどいいですか、と聞いています。
___ 
「立ち止まらなくていい場所で立ち止まる」とは?
イトウ 
役者に、「何でそういう事をしたんですか?」と聞くんです。聞かれた人は「こうです」とか、「全然気が付いていませんでした」と。それに私が「ふーん。分かりました」つって。そしたら、考えるじゃないですか。「ん?」って。役者の考えるポイントを増やしたいんですよね。何となくやっちゃってる事を意識下に置かせたいというか。本番って役者さんのものだと思ってるんですけど、(私の性格でもあるのかもしれないんですけど)無意識でやっちゃってる部分を減らしていきたくて。そうじゃないと私が信用できないのかな。あと、無意識でやっちゃうのは怖い。
___ 
なるほど。
イトウ 
役者の育成も同時にやっていかないといけないという状況もあって、私が今のところたどり着いたのはこういうやり方です。
___ 
イトウさんと役者さん達の、意識と無意識の紐帯の束が出来て、その束の内部でも色んなやりとりが串刺し的に発生していると思うんですけど、そこから生まれる一体感というのがあるのかもしれませんね。
イトウ 
そうですね。そんな光景を見ている他の役者も「あ、そういう事を聞くんだ」ってなって。あと私もいじわるなので、「今の演技、良かったって思いましたよね?」って聞くんですよ。「良いと思ってます」と答えざるを得ない状況になって。
___ 
そうですね。
イトウ 
実際に良い芝居だったとしましょう。「まあその、自分でも良い芝居だったと思います」って答えた時の恥ずかしさ。この恥ずかしさを自覚した時に、何か、その役者さんの皮が一枚剥けたような気がするんですよ。楽しいですね。
___ 
あ、楽しいんですか。
イトウ 
楽しいですね。そういう事が、私には重要なんだと思います。どうしてそうなるのかは分からないですけど。
___ 
たとえば私も今回のインタビューの冒頭で戒田さんの「白=無」発言を出せた時は自分かっこいいなと思いました。いま言ってて確かに恥ずかしさはありますね。こういう時の皮が剥ける感じが、感覚的な橋渡しになっている?
イトウ 
そうですね。つまり、このインタビューでの「かっこいい」についての共通認識が出来ていくじゃないですか。それが恥ずかしくもあるんですけど、そういう一緒の言語や共通認識が出来たのが嬉しいんですね。これが沢山あると、芝居の底にあるものが変わると思うんですよ。なんか、グルーヴ的な事になっていったり。ただただ情報が多いんだな、って予感させたり。この物語だけじゃない、全然違う情報をこの人たちは共有しているんじゃないか。その為の時間を持ちたいですね。別に飲みに行ったりはしないんですけど、稽古場でそういう時間を持ちたいです。
___ 
一体感、という言葉では収まりそうにないですね。それは。
イトウ 
一体感、という言葉は使った事はないですね。みんな身勝手なので。それぞれ勝手でありながら、共有するものが増えていくというのが望ましいですね。
___ 
それは劇団力というものなのかもしれませんね。今回は客演の方が多いようですが。
イトウ 
そうですね。集団力。いつも、チームとして成立させようとしています。
___ 
しかしそれは大変、おっさん的な発想ですね。
イトウ 
そうなんですよ(笑う)。
___ 
おっさんのみならず、日本人の働き手の共通の美徳は仕事で成果を出すよりも「仲間である」事を重視しているらしくて。これは良くも悪くも・・・いや、悪いんですけどね。
イトウ 
ああ、嫌ですね。仕事に対して貢献していくチームじゃないと意味がないので。役者には役者としての仕事で貢献してもらいたいですね。そうそう思い出した。私、みんなには社長って呼ばれてるんですよ。劇団って家族的になっていくじゃないですか。でも私達、感覚的に近いのはお互いが同僚、なんですよね。そういう感覚は続けていきたいな。

音楽と私と

___ 
いつか、こんな作品を作りたいというのはありますか。
イトウ 
本当にひどいものを書きたいという気持ちがあり、一方、お祭り騒ぎの作品を作りたい事もあるし。やってる根幹みたいなものは一つも変わってないんですけど、表現方法があまりにも変わるので「芸風が定まらないintro」と良く言われます。でも最近ちょっと心境の変化があって。見てくれる人の、何だろうな、気持ち良くさせたいな、みたいな事ですかね。今までどちらかというと気分悪くさせたいなと思って書いていたんですかね。でももうちょっと楽しませてあげたいという気持ちが湧いてるんですよ。一緒に楽しい事を。
___ 
ええ。
イトウ 
元々私は音楽が好きでやりたくて、それは今でも変わっていなくて。演劇で音楽をやりたいんですよね。そこは変わってないんですよ。「どういう作品ですか」って聞かれて、「あの曲のリミックス版です」とか「ちょっとハウスっぽいです」とか答えちゃうんです。いまは、人の為に作りたくなっている。
___ 
人のために。
イトウ 
自分の為に作るのは飽きたし、誰か一人のためでもなく、大勢の人に向けた分かりやすいものを作るというものでもなく。体験として、はっきりと傷が付くものが作りたいですね。
___ 
お客さんにとっての事実的な傷になる。
イトウ 
そうですね。誰かにとって「すごく嫌だった」あるいは「とても楽しかった」。どちらでもいいんですけど、その間じゃなくはっきりとしたものになりたい。
___ 
「ところどころ嫌で、ところどころ楽しかった」というのも違って、はっきりとどちらかとした作品。つまり、お客さんへの歩み寄りはしない?
イトウ 
しないですね。
___ 
曖昧さの一切がない作品。という事は共感出来ない?
イトウ 
共感では絶対ないですね。私、共感には一つも興味がないので。だから「蒸発」に関しては全く感情移入出来ない芝居なんですよね。共感出来た人は教えてくださいっていうぐらい、共感を排除してる。演劇って、そういうものだと思ってるんですよ。多くの人が「共感」て言うんですけど、「ホントか!?」って思う。
___ 
その劇場にいる全ての人が孤立していて、その間にある作品に傷付いたり楽しがったりしている。ドライですね。
イトウ 
ドライですね。

どこまででも行けるから

___ 
これから演劇を始める二十歳に一言。
イトウ 
どこまででも行けるので、ちゃんと帰って来たほうがいい。日常生活とか劇団とかお家とか。

パンクのやり方

___ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか。
イトウ 
色んな町でやりたいんですよね。けして分かりやすい作品を作っているとは思っていないし、オススメしづらい作品なんですよ。たぶんお客さんも分かってると思うんですけど。去年大阪で初めて上演したときに腹を据えて「人にめっちゃオススメしにくい作品なんですけどオススメしてください」って言ったんですよね。今、作品をご覧になって分かったと思うんですがモヤモヤの残る作品です、それでいいんです、そのままの気持ちで良いので誰かにオススメしてくださいって。そういう言い方は札幌だと出来なかったんですけど、その大阪公演後は札幌でも言うようになりました。個人だけの体験になる作品を作っているので、そのモヤモヤで合っているんです。どの土地でも同じで(もちろん傾向の違いはあります)、一人一人にコンタクトを取っていきたいですね。そういう演劇が作りたくて、どこにでもいくしどこでやっても良いと思うようになりました。だからどんどん出ていきたいですね。いま札幌だと中堅になっちゃってるんですけど、若手も面白いのが出てきたし上には仕事の出来る兄さん姉さんが山ほどいるので、上にも下にも楯突いてやっていきたい。いまだにパンクスの気持ちは持っていきたいなと思っています。それはどの土地に行っても。
___ 
ロックというよりパンク?
イトウ 
初期衝動は大事に持ち続けたままバイエルをやる、みたいな。そういうバランスを持たないとやっていけない。同じ土地でやり続けると疲れてくるので。そして、どんどん訳の分からないものを作りたいですね。「introだよね」と言われるような。腹が据わってきたと思います。
___ 
まだ見ぬお客さんに一言。
イトウ 
訳の分からないスイッチを押すし、押さないかもしれません。ぜひ好きにしてください。勝手にしてもらうのが一番です。

早押しアンサー機

___ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
イトウ 
ありがとうございます。開けていいですか?
___ 
もちろんです。
イトウ 
(開ける)あはは。「早押しアンサー」。これ、めっちゃ嬉しい。これ稽古で使います。ピンポンピンポンってみんな止まるんですよ。うざがられるかなこれ使ったら。わあ、これめっちゃ使える。劇場入っても持っていきます。演出席でピンポン使ったら止める、みたいな。声出さなくてもいいんですよ。苛立ってるのばれない。こりゃいいや。
(インタビュー終了)