安住の地 第五回本公演 無言劇『 であったこと』
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。安住の地の脚本・演出家の私道かぴさんにお話を伺います。最近、私道さんはどんな感じでしょうか。
- 私道
- 次の安住の地の公演の稽古が始まっています。今回は無言劇という今迄にやったことのないジャンルのお芝居なので、まるで初めて演劇の稽古をやっているような気がしています。稽古場で仕事出来ているのかどうかちょっと不安になってます。
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- 今まで使っていた会話劇という指標が使えないからですね。
- 私道
- 根本的な不安はそんなに無いんですけど、この間知人と話していた時に「次は無言劇なんです」って話したら「え?脚本を書く人ですよね。仕事ないんじゃないですか」って言われて。ほんまにそうですよねって笑ってたんですけど。確かにいつもと作っていく順番は全然違ってます。会話劇はセリフの順番が最初から全て決まっているんですけど、今回は言わば地図を描いたようなもので、輪郭しか決めていないんです。中は全然決めずに役者に演技してもらって一緒に決めていくみたいな、役者ありき感がすごいです。でもそういう事ができるのは、安住の地メンバーが役者として力がついてきたからだと思っていて。時間はかかるけどすごく贅沢な作り方をしていると思います。
安住の地
京都を拠点に活動している劇団/アーティストグループ。2017年結成。演劇を主軸に置きながら、音楽・写真・映像・ファッションなど様々なカルチャーとコラボレーションし「ミクストメディア」な作品を発表し続けている。複数の作家やジャンルの異なる作家や俳優が集い、ひとつの作品を組み立てていくスタイルは、SF劇・コメディ・メディアアート劇・VR劇・音楽劇・無言劇などすさまじい振れ幅で展開し、新感覚でカオティックな劇体験を生み出している。 Twitter @nochiradio
安住の地 第五回本公演 無言劇『 であったこと』
脚本・演出:私道かぴ 【あらすじ】 あなたがいま、その足の裏で感じるもの。 靴下のごわごわ。靴の底のつるつる。その下にある、硬いコンクリートのゴツゴツ。 そのさらに下に、感じるもの。 上部にぎゅっと押された、つめたい土。木々の根。かつての陶器の破片、生活の跡。 さらにうんと深くに、感じるもの。 質の変化した土。いくつかの生き物たち。ほそぼそとした草木に、細かい石。 生きているもの、死んでいるもの、ぜんぶ。 私たちの下 であったこと。 いきものが であったこと。 キャスト 中村彩乃 森脇康貴 日下七海 にさわまほ 山下裕英 武田暢輝 雛野あき 沢栁優大 吟醸ともよ スタッフ 舞台監督:玉井秀和 舞台美術:森脇康貴 セノグラフィー・音響・宣伝美術:岡本昌也/日下七海 衣装:大平順子/山井ひなた ヘアメイク:篁怜 物販:日下七海/大平順子 制作:にさわまほ/武田暢輝 主催:安住の地 京都芸術センター制作支援事業 公演日程 2020年3月5日(木)- 8日(日) 5日(木)14:30/17:30 6日(金)14:00/17:00 7日(土)14:00/17:00 8日(日)14:00 ※全7ステージ予定 会場 GALLERY maronie(阪急京都河原町駅から徒歩5分) 詳細・アクセスはこちら 料金 【前売】 一般:2500円 U-23:2000円 【当日】 各種料金+500円 ◎チケットピースが利用できます【当日券のみ】 ◎チケットピースとは? 安住の地によるチケット支援制度です。一口1000円の「チケットピース」を購入して誰かの観劇料金を支援したり、支援を受けたりすることが可能です。利用希望のお客様は清算時にお申しつけください。 ご予約 ご予約はこちらから ◎会場はギャラリーのため、お席の数に限りがございます。お早めのご予約をおすすめ致します。
地図型演劇
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- 今回のチラシのあらすじがですね、物語のあらすじにはなっていないのが面白いですね。地中の中のものに思いを馳せる。何が出てくるのか楽しみですね。
- 私道
- 今回は簡単に言うと地面の下の話です。私が住んでいた神戸のある町では、小学校の頃に不発弾がよく見つかっていたんです。立ち入り禁止のアナウンスが流れて撤去作業が行われたりしてたんですが、気づかなかったら今までと同じように普通に上で遊んでたなあって。そういうの、他の地方でもあるのかなと思ってたら、そんなことはないらしくて。日本の当たり前の風景だと思ってたけど意外と違う。それと、最近東北に行く機会が増えてきたんですけど、話の中に必ず震災のこと、土地のかさ上げのことが出てくるんです。まだ遺体があるかもしれないのに、土砂を投入して新しい地面を作る。そう考えると地面の中というのはものすごくたくさんのものがあるのに、全然気にしていなかったなと思って。でも災害を安易に引用することはやりたくない。お客さんがそこに想像を馳せるようなものにしたい。だから言葉がない方がいいなというところに落ち着きました。メッセージを発したらそれが全部になってしまうから。
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- そういうことであれば、テキストではなく地図を作るというやり方はぴったりなように思いますね。文章には結局一つの方向の線なので。それはやっぱり観客は前後関係から逃れられない。とはいえ地図型の演劇に関しても時間の前後関係からは逃れられないと思いますが。
- 私道
- なるほど。基準はなかなか難しいですよね。
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- あればあったでいいのかもしれないし、ないほうがいいのかもしれない。
二人の演出家
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- 稽古場で不安になるという事ですが、私道さんの場合はどんな不安ですか?
- 私道
- 学生劇団をやっていた頃にたまたま私が座長になったタイミングがあるんですよ。下の世代にたくさん人数がいたんですが、彼らがやりたかったのは私の一つ上の世代の作っていたお芝居だったんです。だから亀裂が生まれちゃって・・・
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- 正直に話しますね。
- 私道
- 「私達がやりたかったのはあなたのお芝居じゃない」って、まあそこまでハッキリ言われた訳じゃないですけど。その時に、「作演は稽古場で『この人すごい』と思われなければ誰もついてきてくれない」「尊敬されないといけない」、そう思ったんです。だから演出がすごく嫌で、苦しい作業だと思っていて。でも、前々回の公演で共同脚本・演出をやった時、気付いたことがありました。岡本さんって稽古場で「このシーン全然考えていない、どうしよう」って普通に言っちゃうんですよ。稽古場がうまく回って行かないことに、いい意味で責任を取ろうとしない。私は稽古が始まる時に「今日はこれとこれをここまでやって皆さんの時間を無駄にしません」というところまで言わないとちょっと耐えられないと言うか。でも、そんな岡本さんの稽古場では役者からのアイデアが出てくる、というのが結構衝撃でした。
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- それは、良い事とも悪い事とも一概には言い切れないですね。
- 私道
- 岡本さんと共同演出やった時、絶対に揉めるだろうと内外で言ってたんです。確かにお互いの演出に何かを思う瞬間はありました。でも「何だかんだそっちの方がいいかも」とか「終わってみればその演出でよかった」という事もあって、岡本さんとは「上手くいったね」という結論になりました。役者からは「結構揉めたと思う」とも言われていますが(笑)
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- そして今は、役者から様々なアイデアが生まれている稽古場なんですね。
- 私道
- そうなれてると思います。とてもありがたいことに。
人間ってどうやって・・・
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- つまり、お芝居の方向性も定まっているんですね。お話としても。
- 私道
- まだ全て出来ているわけではないので言い切れないんですが、性格的にストーリーがちゃんと無いと心配なのできちんと作ると思います。それこそ無声映画なのかな。大河ドラマを無声で追っていると思ってもらうと分かりやすいかもしれません。
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- なるほど。
- 私道
- 稽古の最初の方で、人間ってどうやって猿から進化したんだろうというのをエチュードでやってみたんです。最初に狩りがあって、次に稲作があって争いがあって、そういうことが地層に重なっていく。そういう感じになればいいかなと思っているんですけど。
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- 人の歴史が地面に埋まっていく、その様子が見られるんですね。俳優の調子はどんな感じですか?
- 私道
- 3人の新しい劇団員が入りまして。それまで我々は言ってみれば同じような界隈の見知った人で芝居を作っている、悪く言えば学生劇団の延長だった。でも三人は全然違うところから入ってきていて、それで、元からいたメンバーも「それぞれしっかりせなアカンな」という雰囲気が生まれてきたというのはあります。劇団員が増えると団体ってこんな感じになるんですね。
出会い
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- 私道さんがお芝居を始めたのはいつからですか?
- 私道
- 高校生の頃です。KAVCで高校生向けの演劇のワークショップがあって、そこでTAKE IT EASY!さんに教えてもらったんです。芝居のしの字も知らない2009年の時に。
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- めちゃくちゃ贅沢ですね。
- 私道
- 何でこの人たちはこんなに優しいんだろうと。その時のメンバーとは今もよく話しています。TAKE IT EASY!さんの「千年女優」が、今までに見た中で一番面白い芝居でした。その時の夏休みの経験が楽しすぎて、大学でも続けようと思いました。中学ぐらいから芝居を観ることはずっと好きだったんですけど。
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- そこから文章の方に入っていったのは。
- 私道
- 元々、文章を書くのが好きで後々行ってきたいなと思っていました。西一風に入ってすぐは、面白い先輩たちがいたので自分で戯曲を書くというのはなかなか出来なかったんですけど。
第2回本公演「来世のご縁ということで」
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- 私道さんの「来世のご縁ということで」。就職とアイドルのお話でしたね。モラトリアムの終焉か、自己の実現か、変身願望か。卒業を前にした大学生が必ず考えるテーマですが、そのどちらかを選ばざるを得ない。そうした複数の役所を、ほとんど衣装チェンジすることなく演じ抜けるというのは衝撃的でしたね。
- 私道
- それこそ「千年女優」の影響で、衣装が変わっていなくても全然見れる。
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- その時の状況とか設定とかで人があっさりと変わってしまうのが、また面白かった。
- 私道
- ありがとうございます。実は、「何を題材に芝居してるの?」って聞かれた時に答えるのが毎回難しいなあと思っていて。それこそ高校生の時に、テクイジの山根千佳さんが「もう私達の歳になると、高校生の時の言葉は使わなくなるから新鮮なんだよね」と言っていたんです。その時に初めて「その時期にしか使わない言葉」というのがあるんだなあと知りました。大学から社会問題とかに関心を持ち始めると高校生の時の言葉なんか忘れてしまう。文字にしておかないと全部忘れてしまうんだ、って。
- 私道
- それとは少し違うのかもしれないんですが、「人生で人間がぶつかる苦難ってどれも似通っているのに、何故誰もその対処を教えてくれないのか」とよく考えます。なぜそれぞれの問題に対応する本が書店に置いてないのが不思議なんですよね。こんなにも人はたくさんいて、本も多く書かれているのに、一人ひとりの問題にぴったりな作品ってほんとないよなあと。
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- というと。
第2回本公演「来世のご縁ということで」
公演時期:2018/2/15~18。会場:人間座スタジオ。
「からだの感覚を取り戻す」
- 私道
- 個人的な出来事ですが、病院で医師から大切な話を聞かないといけないタイミングがあって、その待ち時間をどうしたらいいのかわからなくて、とりあえず売店でファッション雑誌を買ったことがあったんです。もちろん、読んでいても頭の中には全く入ってこない。そういう問題にぶち当たっている人に対する「何か」は絶対に必要なのに。そういう時に適した物語がないってことがショックでした。
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- それぞれの状況への対応について、適切さを追求してるんですね?そこには体系的なメソッドは存在しないし、その場その場合の対処法に辿り着くまでの時間に戸惑っている。
- 私道
- この場合、二つの選択があるんじゃないかなと思っています。まず、今まではなかった、その状況に置かれた人への適切な物語を作る。
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- そうですね。
- 私道
- もう一つは・・・病院の待合室でファッション誌を読んでいる人って、傍から見たら動じていないように見えるかもしれません。でも「それは本人としてはその時できる最善の対応なんですよ」という、外から見てその人が誤解されないような、肯定される話を作りたい。
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- それは最近の私道さんのnoteにあった除毛の話に似ているかもしれませんね。毛を剃ることによって、自分は体毛が不要な安全な環境にいるイメージを装う。自分自身にそういうセーフティを何重にも示す事で、外界の不安から守るどころか、気付く事すら出来ないようにしてしまう。面白い事考えますね。
- 私道
- 本当に、どうしているんだろう皆。
質問 小原啓渡さんから 私道 かぴさんへ
本番までに・・・
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- 本番までに私道さんがやりたいことは何ですか?
- 私道
- 根本的には、稽古を通して一つの演技を高めて押さえつつ、毎回の稽古でびっくりして帰りたい。「同じ動きをやってるのに、こういうことがあるのか!」っていう発見がしたいです。そのためにはどこまで何をやったらいいんだろう。先ほども言ったんですが、稽古場で役者に指示を出すというのは「その人に制限をかける」ということとニアリーイコールなんじゃないかなと思っていて。
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- 何か方針がないと人は動けないものですが、その方針を出すことについて迷っているということですね。作品として一つのものにするためには方針というものは必要。でもメンバーそれぞれの広がりは大事ですね。
- 私道
- どこまで制限をせずに稽古をしたらストーリーに乗れるかという挑戦をしてみたいです。心配症なのでめっちゃむずい。でもこういう話が外の方にできるようになるぐらい、安住の地内部での信頼関係は出来てきてるんだなぁと思っています。
「安住の地」
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- 劇団名に引っ張られすぎてるのかもしれませんが、岡本さんは安住の地という幻想を追い求めるタイプで、私道さんは「ここに安住の地を作ろう」的に現実的に一歩一歩進めていくタイプのような気がしますね。
- 私道
- あはは。計画的に。
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- だから次が無言劇というのは結構、興味深い流れです。
- 私道
- でも軽い気持ちで見に来てほしいです。私はあんまり難しいことは書けないので。全然前衛的なことをやってないです。
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- 楽しみです。今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 私道
- 計画的に(笑う)?はい。個人としては細かいことを逐一書いていくんだろうなあと思います。それと、岡本さんに投げたら面白そうだなというアイデアを思いついて、共有して遊ぶ。
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- その二つが並んでるんですね。書くのが好きなんですね。
ショルダー
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。どうぞ。
- 私道
- ありがとうございます。(開ける)おお。何ですかこれ。ありがとうございます。めっちゃ丈夫そう。いいですね。