今年のしようよ
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、大原さんはどんな感じでしょうか。
- 大原
- よろしくお願いします。最近は劇団の活動でてんやわんやです。あと、KAIKAでのプログラムディレクターをやっていまして。そのふたつで、思ったより慌ただしくしております。
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- 充実していますか?
- 大原
- まず、劇団の事に関して言えば、旗揚げ5年目に入ったんですけど、それなりに目標が出来たり、新しいお話を頂けるようになったり京都以外の活動場所が増えてきました。旗揚げの頃は初期衝動に従って表現をしていたんですけど、今は2・3年先までという長いスパンで考えないといけなくなったんですね。ただ、自分としては、楽しく演劇が出来ているなあという実感はあります。
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- 今は、旗揚げの時とは劇団についての意識が違う?
- 大原
- 旗揚げ当初から3年目ぐらいまでって、自分の中の「これを言わなければ苦しい」みたいなのがあって、恥ずかしながらそれが創作の根本にあったんですよね。だから路上パフォーマンスとかをやっていたんです。が、最近の作品は、ちょっとは自分と作品をちょっと切り離して作れてるのかな、落ち着いて作品を作れているのかなあと思いますね。
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- ありがとうございます。では、演劇を除くとどんな感じですか?
- 大原
- 演劇を除くと、演劇人あるあるかもしれないですけど観劇が趣味だとかになっちゃってて。演劇を含めて人生が充実しているんじゃないかなあと思っています。
劇団しようよ
2011年4月、作家・演出家・俳優の大原渉平と、音楽家の吉見拓哉により旗揚げ。以降、大原の作・演出作品を上演する団体として活動。世の中に散らばる様々な事象を、あえて偏った目線からすくい上げ、ひとつに織り上げることで、社会と個人の”ねじれ”そのものを取り扱う作風が特徴。既存のモチーフが新たな物語に〈変形〉する戯曲や、想像力を喚起して時空間を超える演出で、現代/現在に有効な舞台作品を追求する。2012年「えだみつ演劇フェスティバル2012」(北九州)、2014年「王子小劇場新春ニューカマーフェス2014」(東京)に参加するなど、他地域での作品発表にも積極的に取り組む。野外パフォーマンスやイベント出演も多数。2015年「第6回せんがわ劇場演劇コンクール」(東京)にてオーディエンス賞受賞。同年よりアトリエ劇研(京都)創造サポートカンパニー。(公式サイトより)
劇団しようよ『ドナドナによろしく』
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- 次回の『ドナドナによろしく』も、落ち着いて作っている作品なのでしょうか。確か初演は去年秋の「gateでの『こんな気持ちになるなんて』でしたが。
- 大原
- そうですね、じっくり1年を掛けて作品を考えていこうという考えがあったんです。去年の秋にgateで上演、そのあと今年の春にも上演して、夏には「第6回せんがわ演劇コンクール」でもバージョン違いをやって。小さい作品を重ねる事によって長編を作るという事に取り組んでいます。ある意味、落ち着いて作品を作れているのかな、と。気づけば毎月なにか稽古しているので、慌ただしいのかもしれませんけど、じっくりと腰を据えて作っていますね。
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- 『こんな気持ちになるなんて』。私が拝見した「gate」での初演は、ハンバーグを舞台上で焼いて、その材料の挽き肉を役者4人が演じて、彼らの来歴を想像するという作品でした。
- 大原
- そうです。最後には牛に戻っていくという。
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- 大原さんがフリップを用いて、お客さんに食物がどこから来たのか、どこへ行くのかを想像させるという演出がありましたね。何というか、道徳の教育番組?教育演劇?レポート演劇?というのかな。
- 大原
- 今年の5月にアトリエ劇研で上演した『あゆみ』 でも、フリップを使っていたんですよね。思い起こせば前回の本公演『パフ』 もそうだったんですが、物語があって、それとは別の目線というものが混在している、ということに最近興味があって。あるストーリーを見る、だけじゃなく、あるストーリーを見ている“誰か”を描く事によって、いろいろできることがあるんじゃないかと思ってるんです。肉の話を舞台ではしているけれど、僕がフリップで祖父の話を登場させたりだとか。
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- もう一人の、誰か。
- 大原
- 『あゆみ』は、本来は主人公の少女の物語なんですが、そこに父親だけのシーンを演出として加えることで、物語がどう変わるか、だったり。お客さんに何かを見せる時に、そういう事を意識しています。
劇団しようよ『ドナドナによろしく』
[作・演出・美術]大原 渉平 [音楽・演奏]吉見 拓哉 【出演】西村 花織 藤村 弘二 山中 麻里絵[以上 劇団しようよ] 木之瀬 雅貴 金田一 央紀[Hauptbahnhof] 工藤 さや[カムヰヤッセン] 田中 祐気 長南 洸生[悪い芝居] 【日程】 ◆東京公演 2015年11月21日(土) 19:30 2015年11月22日(日) 19:30 2015年11月23日(月・祝) 11:00 / 15:00 2015年11月24日(火) 15:00 料金:一般 2,500円 U-25[25歳以下] 2,300円 高校生以下 1,000円 会場:武蔵野芸能劇場 ◆京都公演 2015年12月4日(金)19:00 2015年12月5日(土)14:00 / 19:00 2015年12月6日(日)11:00 / 15:00 2015年12月7日(月)15:00 料金:一般 2,500円 U-30[30歳以下] 2,000円 高校生以下 1,000円 会場:京都芸術センター フリースペース
3ヶ年プロジェクト《movement 2015-2017》vol.1『あゆみ』
公演時期:2015/5/28~31。会場:アトリエ劇研。
さよならのための怪獣人形劇『パフ』再演ツアー
公演時期:2014/8/15〜18(東京)、2014/9/5〜7(京都)。会場:王子小劇場(東京)、KAIKA(京都)。
誰か
- 大原
- よく言われている事ではありますけど、演劇って、目の前にある事だけじゃなくて、イメージを膨らませて楽しむものだと思います。だから余計に、作品を通して、見てくれている人の人生だとか歩まれてきた道だとかを思い起こして下さったら嬉しいな、と。こういう事は2年前から思っていました。ストーリーとは関係ないレイヤーをあえて用意する事で、そういう事が出来ないか、と。
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- 物語と、例えばフリップが喚起させる思い出が交差する瞬間をお客さんが体験するような?
- 大原
- 劇団しようよの作品って、ここにあること・ないこと、を意識させる作品だったなあと思っていて。大なり小なり、誰でもそういう経験を迎えるものなので、そこに触れられる作品にしたいと思っていました。次の『ドナドナによろしく』は、他人の気持ちを考えられる作品にしたいなと思っています。だから、さっき「道徳」と言われてドキッとしたんですけど。
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- ええ。
- 大原
- 他人の気持ちって、突き詰めれば分からないものだし、分からないのなら我々はどうすればいいのか、というのを考えたいなと思っています。「他人の気持ち」を理解する、ってよく言いますけど、僕にはそれがすごく、よく分からない。
ほどけない事が多すぎて
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- 『ドナドナによろしく』は感情移入演劇だそうですが、そもそも「感情移入」とはどういう事なんでしょう。どう思われますか。
- 大原
- …ね。どういうことなんでしょう……。(笑)「感情移入」は、僕も良く分からないんですよ。よくドラマを見ている人が「感情移入出来たわ」とか言いますけど、僕にはそれが結構分からなくて。それはその人を否定している訳じゃないんですけどね。もともと僕は国語が苦手で、30点以上取れなかったんですよ。作者の意図とか、登場人物の気持ちを分からない(笑)。今から思い返したら、その裏返しで路上パフォーマンスとかやっていたのかもしれません。相手の感情を、さも自分が体験したかのように感じるって、どういう事なんだろう。相手の事を分かりきるみたいなイタコ的な事が出来ないという前提で、僕らはどう生きていくのか、という事ですかね。
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- 難しいですよね、人の気持ち。
- 大原
- 人のことを分かった、と思ったとしても、それはもう過去の事だと思うんですよ。先月の「gateで上演した作品『ここに居たくなさ過ぎて』も、いなくなった人物について話す二人芝居でしたが、ふたりとも自分にとって大切な人の話をしているはずが、じつは固執しているだけで、その人自身について本当は話せていないんじゃないか、みたいな。
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- 感情移入そのものを考えたい?
- 大原
- それはキッカケなのかな、と思っています。相手の事を分かった気になる、というのは、全ての問題に繋がっていく可能性があるのかな、と。人が集まって議論していて、でも、本当にみんなそこに参加出来ているんだろうか?とか。物事の本質と、自分の理想みたいなものに区別がついているのか、とか。そこに想像力を働かせたとしても、その奥まで及んでいるんだろうか?だから、「他人の気持ちを考える」という事が、今の僕たちがやらなければいけないと思っています。本当に、陳腐なアーティストの使命感なんですけど。
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- いえいえ。
- 大原
- それが、想像力を使って見る演劇というジャンルでやらないといけない事なんじゃないかと思うんですよね。
優しい演劇を見たいのです
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- 他人の気持ちが分からない。それは、テレパシーが実現しても変わらないでしょうね。
- 大原
- 他人の事を理解するには、その人に触れ続けたり、対峙し続けなきゃいけないと思うんですよ。理解出来たとしても、次の瞬間その人は変容していくと思うんです。といっても触れ続けたり対峙し続けるのはとても疲れる事で、僕たちは往々にしてそれを止めてしまう。カッコつけるんじゃなくて、人と人とは向き合わなければいけないんじゃないかという事を考えていきたいですね。
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- そういうものを作ろうと思ったのは、世の中の・・・?
- 大原
- 世の中の、分かる事分からない事の中で、自分は演劇をしているから、こういうことを考えていったのかもしれないです。やっぱり今までの路上パフォーマンスとか、自分勝手な表現があって、でも今はそうありたくない。今、作品の中でそれができているかわからないですけど、観客とコミュニケーションをとるということに非常に関心が高いです。実際にお客さんをいじるという事じゃないですけどね。なんか、お客さんはいま何を観て、何を想像しているのか、僕たちの演目がお客さんに触れていて、お客さんは僕たちの演目に触れられているか。そういう瞬間があればいいなと思っています。お客さんには、ふと、「これは、全然関係ない話だけれども、自分の物語なんじゃないか」と思えるというか。だから、間口の広い作品をつくりたいと思いますし、誰にとっても関係の出来る作品というのが、最近僕が考える「いい演劇」なんじゃないかなと思っています。
誰かのために
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- 劇団しようよは東京でも公演をされていて、存在感を増しつつありますね。
- 大原
- ありがとうございます。でも、きちんと京都をアトリエとして活動していきたいと思っていて。最近はKAIKAさんに応援してもらったり、京都芸術センターさんで稽古や公演をさせてもらったりしていますが、もともとすごくいい創作環境だと思うんです。それに甘える事なく、ちゃんと実のあるものを作って、東京はもちろん九州にも北海道にも、愛知にも三重にも、その他いろんな地域に行きたいと思っています。
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- 『こんな気持ちになるなんて』は「第6回せんがわ演劇コンクール」でオーディエンス賞を受賞しましたね。
- 大原
- そうですね、ありがたい事に。案外、演劇を見慣れていないお客さんにも楽しんでもらえる演目だったみたいで。「せんがわ演劇コンクール」は地元の方が多かったみたいで、老若男女の方に面白かったよと言ってもらえたんです。そういう作品を作るのは自分の目標の一つだったので、いい経験になったなと思います。
挑める劇場
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- 全国の話が出たので・・・「gateディレクターとしての事も伺えればと思います。「gateは今や、全国各地から京都という地域への受け入れの機会となっていますね。
- 大原
- そうですね。そういったことは意識しています。KAIKAというのは不思議な空間で。劇研のようにブラックボックスという訳ではないですから、むしろ、この空間に挑みがいを感じる方に来ていただきたいなという気持ちがありますね。
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- そうですね。
- 大原
- 作品をつくって、それをKAIKAの空間に流し込んでみたら、不思議なことにいろんなことがずれてくると思うんです。そりゃそうですよね、稽古場とKAIKAはまた違うから。でも、そこでやりたいことをおいかけていくうちに、作品がいい意味で変わったり、また、それでも変わらなかった部分が作品の核やなと思います。それがKAIKAという場所で上演する意味だと思うんですよね。KAIKAを遊ぶというか。
質問 稲田 真理さんから 大原 渉平さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、伏兵コードの稲田真理さんからです。「自分にとって逃れられないもの・目を背けたいものを作品に滲ませたいと思いますか?」
- 大原
- そうですね、そういうことってすでに作品に入ってしまってるんじゃないかと思います。
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- 「茶摘み」 もそうでしたね。
- 大原
- 最近、作品を作る上でのもう一つのテーマで「避けられなかった、どうしても抗えなかったこと」というのがあるんです。そういうものに対してどう立ち向かうか・関係するか、という事を作品の中で結構考えていて。たとえば、明日母親が亡くなるかもしれない、友人がどこかにいってしまうかもしれない。そういう避けられないこと、運命と言ってもいいかもしれないんですけど、それが最近の作品の主題のひとつになっているかもしれません。そういうものを潜ませながら存分に作品を作りたいと思うのはありますね。
劇団しようよvol.2「茶摘み」
公演時期:2011/9/2~2011/9/4。会場:アトリエ劇研。
誰かにとどけ
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- 劇団しようよの作品の主題は「やさしさ」なんじゃないかと思っています。ざくっとした伺い方ですが、そう言われてどう思われますか?
- 大原
- ああ、そう感じてもらえるのはすごく嬉しいなと思います。1年前、僕は「優しい作品」がいい作品だ、とよく周りにも言っていて。話が明るいかとか、子供向けだとかどうではなく、見ている人が、舞台上に自分に関係するものを見つけられるのが優しい作品だと。自分の人生を使って作品を見る瞬間が、いい演目だな、と。
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- 自分の人生を使って見る。
- 大原
- 自分の人生が見える瞬間というか。僕は、そういう事が見ているすべての人に起こるのが優しい演劇なんじゃないかと思っていて。人の気持ちを分かろうとして、触れ続けるのはすごくエネルギーのいる事だけれど、しんどい事だけど、それが優しさなんじゃないかと思うんですよね。
言葉の通じない君
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- しようよのオリジナリティは、そういう部分にあるんですね。
- 大原
- ああ、どうなんでしょう。昔は、山崎彬さんの影響を受け過ぎている、悪い芝居フォロワー、とか言われている時期があったんですけど。
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- ありましたね。
- 大原
- でもいつからかあまり自分でも考えなくなって、オリジナリティって何やろうと考えてたんですけど。今はもう変な事せんと、徹底的にシンプルにやろうと思うようになりました。そこで最後に残った部分、それがオリジナリティやと思えるようになったんです。他とどう違うかとかではなく、今やっている事がお客さんにとってどう作用するか、で作品を作っていると思います。
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- では、どんな観客に出会いたいですか?
- 大原
- うーん……日本語の通じない人ですね。やっぱり海外に行きたいとも思っているんですが、でも今はまだ、今の自分にはきっと無理。たとえば自分には演出論がまだないので、日本語の通じるお客さんにしか通じないんですね。で、もっと本音を言うと、海外に行くのが直行の目的というよりは、5年10年を掛けて確実なものを作って、そしていつか日本語の通じない人にも関係できる作品を作りたいです。
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- 言葉が通じない人々にも、ですね。
- 大原
- 例えば『パフ』という作品は、災害についての作品なんですけど、日本人が見るのとブラジル人が見るのとでは違うと思ってつくりました。今の日本人に見てほしい作品を作っているので。だから、いつか日本人を含めた、地球人に見ても耐えうる作品を、じっくりと頑張って作りたいと思います。
外に出たい本能?
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- もし、予算が300億あったらどういう作品を作りたいですか?
- 大原
- 一度、路上パフォーマンスの企画でつぶれたのが、50人ぐらいでブブゼラを吹く、だとか、町全体や星全体で演劇を上演したいみたいな事を考えた事があって。演劇のダイナミズムって時間や場所を越えていける事だと思っているので、実際にもの凄く巨大な規模でやってみたいなと。外でやってみたいですね。
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- いつか、どんな作品が作れるようになりたいですか?
- 大原
- さっきも言った、日本人以外にも通用する、地球人向けの作品を作りたいというのが一つあります。それから、新しい価値基準を作りたいというのもあります。面白い劇作家・演出家の方はたくさんいらっしゃいますけど、その中に自分が、新しい面白さを、すっと提示出来たらという野望はありますね。
迷い
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- 若者に一言いただけますか。
- 大原
- そうかあ……僕もだんだん若者じゃなくなっていきますからね……。僕はあんまり、就活とかは考えてなかったんですよ。卒業後は演劇をしようと思っていたので。でも、自分の道は迷いなく行ったらいいんじゃないか、と。迷いがないうちは。とはいえ、僕自身も迷いながらつくってはいるんですけどね。でも、自分より若い方がどんどん出てこられると思うと、お互い作品を作りながら、作品外の世界でもコミュニケーションを取り合うようになれたらと思います。
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 大原
- まずは本公演を成功させたいと思います。芸術センターでの公演ですし、これまでと大きさが全然違う空間で上演する機会も出てくるので、自分の出来る事を精一杯やるしかないのかな、と。
レターセット
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 大原
- ありがとうございます。(開ける)レターセットですか。かわいい。いいですね。母親とかに手紙書いてみようかな。ありがとうございます。大事にします。