一瞬、南へ
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。第三劇場の江藤美南海さんにお話を伺います。江藤さんは最近、どんな感じでしょうか。
- 江藤
- この間、2、3日だけでしたが一年ぶりに帰省していました。実家は宮崎なんですけど。久しぶりに中学時代の友人に会ってどんちゃん騒いできました。みんな何だかんだ変わってないな、って懐かしくなりましたね。
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- そうなんですね。楽しそうで。江藤さんは、中学の頃は何をしていたんですか?
- 江藤
- 部活ばっかりしていましたね。ソフトボール部だったんですけど。
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- ああ、そうなんですね。
- 江藤
- はい、バリバリやってましたね。
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- ポジションは?
- 江藤
- ピッチャーやってました。サウスポーなので、利き手的にポジションが限られてはいました。運動はしててよかったなと思います。
第三劇場
第三劇場は1954年に設立された同志社大学を拠点に活動する学生劇団です。オリジナルの脚本の上演を主とし、同志社大学新町キャンパス別館小ホールにて年に5回の公演を行っています。(公式サイトより)
演劇集団Qプロデュース「少女仮面」
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- 演劇集団Q プロデュース公演「少女仮面」大変面白かったです。西井桃子さんとの掛け合いが良かったです。江藤さんは少女 貝、西井さんは春日野八千代。熱演でしたね。
- 江藤
- 西井さんとは、2015年に物忌み団さんのの『大陸ろまん伝』で一度共演しました。西井さんは当時高校生だったんですよ。その時からしっかりしてました。その時は会話の絡みはなかったんですけど、今回はたくさん絡めて嬉しかったです。
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- 江藤さんは会話の演技がずば抜けていたように思います。我が出ていない、というか。我はあるんだけど、それをコントロールできてると言うか。演技のデザインというのができているような気がしました。
- 江藤
- ありがとうございます。会話の構成を練るのは好きです。まだまだですが。
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- ご自身としては、どんな位置づけの公演になりましたか?
- 江藤
- 役と自分の距離を埋める難しさを改めて実感した公演になりました。普段、第三劇場ではオリジナル脚本ですし、外部も基本、脚本演出が同じ方だったので、今回は唐十郎さんの作品ということで、唐さんが目の前にいる訳ではないし、内容は難しいし、貝が何考えてるのかを読みとくのが本当に大変でした。
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- 貝の、「周囲を狂わせていく感」が凄かったですよね。
- 江藤
- 若さと老い、純粋の残酷さ、そういうところですね。知らず知らずに周りを傷つけてしまう。でも貝はそこに意識的になってはいけないんだろうな、と気付いて。無自覚を意識してましたね。
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- そうそう。ファムファタールですね。周囲の者を惹きつけるだけ惹きつけて、ふいとどこかに行ってしまう。手の付けられない奴。
- 江藤
- あはははは。ありがとうございます。
演劇集団Qプロデュース「少女仮面」
公演時期:2017/1/13~15。会場:スタジオヴァリエ。
第三劇場卒業公演「アプレゲール-〈賢者〉の時代」
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- さて、次は第三劇場の卒業公演ですね。作・演出は神田真直さん。
- 江藤
- ですね。(このサイトのインタビューに)神田君、出てるなと思って見てました。「少女仮面」の公演終わりの、すごく雪の降っている夜撮影をして、本人が「めっちゃ寒かった」って言ってました。雪を浴びながら写真撮ってましたね。
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- 寒かったです。神田さん、彼は面白いですよね。
- 江藤
- 語りだしたら止まらない。私はいつも、へいへいって聞いてるだけなんですけど(笑う)
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- ニーチェとかが会話に出てますからね。
- 江藤
- 真直くんは勉強してるからなあ。演出家にはあれぐらいの知識と考えがあるといいですね。
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- タイトルが「アプレゲール 賢者の時代」。賢そうですね。
- 江藤
- 哲学的要素がたくさん入ってて。私も勉強しなきゃなと。私の役は医大生なんですが、全然オツムが追い付いていない・・・
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- 意気込みを教えてください。
- 江藤
- 今回、主演を頂きまして。でも、自分に、というよりは後輩達の為になる公演にしたいと思ってます。後輩に女の子がすごく多いんですよ。女の子だけだと、力強さが足りなかったり、体がついてなかったりとかがありがちなので。その辺をビシバシと鍛えていって。私よりも後輩に何かを残せる芝居にできたらいいなと思ってます。
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- 学生劇団を途中で止めてしまった私にとっては、そうした悩みは非常に崇高に思えます。
- 江藤
- そうなんですね。学生劇団、実は辛い事多いですよね。私も苦しかった時期があります。何度かやめようと思ったことがあって・・・今、卒業する先輩の立場に立つと、後輩の頃は何もわかっていなかったんだなあ、自分、って。実は私、卒業公演に参加するのは初めてなんですよ(下回生の参加はしてこなかったんです)。卒業公演は先輩から受け取れるものが多いし。参加しておけばよかったなあと後悔しています。
第三劇場卒業公演「アプレゲール-〈賢者〉の時代」
「アプレゲール ---〈賢者〉の時代」 脚本・演出 神田真直 1970年11月25日、三島由紀夫が死んだ。既に五輪も万博も終わっていた。医学生の朝飛洋子は時流とは裏腹に学生運動に熱中する恋人、人見勝利の身を案じていた。2005年に愛・地球博を終え、2020年に東京五輪を控えた現代と当時が交叉する。 ■出演 星屑ロンリネス〜マンゴーは恋の味〜、Dr.ゴボー、木冬木、神田真直、チャリでチョコレート工場、蛍野闇、武士岡大吉、海老飯もぐも、叫べ!ユナイテッド、あだうち!サーキット、藤井寿美香、キュアリン★レボリューション、イマガシュン「鯛」、mamajon's、広田すみれ、マリーナシティガール、ヒナノニトン ■日時 3/10(金)14時/19時 3/11(土)14時/19時 3/12(日)14時 ※開場は開演の30分前です。 ■会場 同志社大学新町別館小ホール ■料金 前売り:800円 当日:1000円 高校生割引:一律500円(要身分証明) リピート割引:500円(半券提示) ※註 江藤さん=星屑ロンリネス〜マンゴーは恋の味〜
潜在的な・・・
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- 江藤さんが演劇を始めた理由を教えてください。
- 江藤
- 恩田陸さんのある小説を読んでから、というのが、背中を後押したと言うのがあります。でも潜在的には、人前に立って何かをやるというのが好きだったんだろうな、と。地元でその地域の偉人の劇を年に一回、6年生がやるんですけど、良い役を獲りに行ってたので。
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- 獲れましたか?
- 江藤
- 獲りました。やっぱりそういうのがあるんだろうなと思います。舞台が好きというか、潜在的な。
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- それを、「好き」と言えるのは素晴らしいですね。そんな江藤さんが頑張れる秘密を教えてください。
- 江藤
- 難しい。なんで頑張ってるんだろう。自分に負けたくないという気持ちがすごく強くあって。周りへの感謝という気持ちもあるんですけど、それよりも「ここで負けたら・・・」というのがあります。負けず嫌いで、何よりも自分に負けたくない。なんか悔しいんですよね、頑張るのをやめたり辞めようとしてる瞬間とか。まだいけるだろう、って。スポ根なんですかね。
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- それはかつて私も持っていたものです。今は減ったのかもしれないし、形を変えて残ってるのかもしれない。
- 江藤
- そうですね、忘れていたりとかもある気がしますね。
春から文学座研修生
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- 江藤さんはこの度、文学座の研修生に受かったんですよね。おめでとうございます。春から東京で研修生活だそうですが。
- 江藤
- ありがとうございます。募集の締め切りは12月の20日頃だったんですけど、思い立ったのが12月の15日ぐらいで。それもバイト先のパートさんに言われた事がキッカケでした。「就職せずに演劇を続けようと思ってるんですよね」と言ったら、「そんなんやめとき、食べて生きるわけないやん、公務員にしときいや。何なん、文学座でも受けるん?」って言われて。受けてみよう!!と思って、運よく通ることができて。
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- おお!
- 江藤
- ここ一年、東京に行く資金づくりをして、お金を貯めて東京に行こうかなと思ってたんですけど。何の基準もなしに東京に出て行くのも、良くないよなと思ってて、そこにその話が入り込んで来て。
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- 素晴らしいところですよ。
- 江藤
- でも予定していなかったとこなので、今てんてこ舞いです。自分の実力がどのくらいなのか量る為に受けに行ったので、受かると思ってなくて。でも頑張ります、本当に。これから厳しい日々が続くと思いますけど。
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- それはもちろん厳しいですよ、厳しいし難しいし、運もいるだろうし。
- 江藤
- 入ってから残っていくのがさらに大変だろうなと思います。
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- 普通の公務員の仕事の何倍も厳しい生活だと思いますよ。俳優ってマニュアルとか仕事のやり方とかがあるようでないような仕事ですから。方法論があって、自分の実力がそれに追いついていない、とか。そういう悩みがずっと続くと思いますよ。
- 江藤
- そうですよね。
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- でも負けず嫌いなら大丈夫でしょう。
- 江藤
- はい。毎日、ずっと、悔しいと思ってると思います。
目・の・中
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- 最近、役者の演技も作り方には段階をめぐる闘争とでも言うべきものがあるなぁと思っていて。役者が自分の演技を作るときに、その演技には無段階の幅があって、そこから選び取らないといけない。でもその前に、その場に行かなくてはいけない。そこに行くための資格をまず得なければならないのであろう、と思う。経験とか能力とか、アイデアとか、もちろん研究も。いろんな条件があって、でそれを、備えるというのが役者という仕事なのかなと思っている。
- 江藤
- 感性タイプの子をたまに見ると、すごく羨ましいなあと思っちゃいますね。天才だなあ、と。私は役に追いつくための策を色々と練ります。最初は本当に色々試してみないとわからないので、いろんなものを、いろんなところから。映像とか映画を見たり、音楽を聴いたり。役に共感して自分に落とし込むにはその役を構成するいろいろな要素が必要だと思っていて。本番でも、こんな感情もあったんだみたいに気付くこともあるし。人間自体がそうだと思うんですけど、いろんなことが詰まってその一つの動作になっていると思うし。沢山のものを吸収し続けていくことを大事にしています。
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- 経験から役を作ると言う意識なのかもしれませんね。ところで江藤さんは、いつかどういう演技ができるようになりたいですか?
- 江藤
- 私、大竹しのぶさんが好きなんですよね。どういう部分が素晴らしいのか説明できないんですけど・・・
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- みんな好きですよね。
- 江藤
- なんだろう、あの方の性格や人間性とかもあると思うんですけど、雑味がない、のかな。大竹さんなんだけど大竹さん自身の何かが出ていないじゃないですか。媚とか。お客さんに表現をすっと受け取ってもらえる。そういう役者になりたいです。
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- どうしたらあそこまでになるんでしょうね。
- 江藤
- ねー。
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- エゴを捨てればなれるんだろうか。洗練されていて、でも、他ならぬ大竹しのぶの演技なんですよね。
- 江藤
- バランスと言うか、滲み出るものがあると言うか。いつかあんな女優さんになれたらいいなと思います。
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- なれますよ、きっと。江藤さんはどんな道を選んでも、江藤さんにしかできない成功をすると思う。ちょっと話を戻すと、役者って、実は努力を裏切らない仕事だと思うんですね。インプットすればするほど演技は深くなっていく。そういう努力は降り積もる雪のように役者の瞳に反映されると思う。なぜなら、観客の瞳は役者の目を通してその奥にある知恵を感じ取るから。目で伝わるものって凄く重要ですしね。だから努力は裏切らないと思いますよ。
- 江藤
- 目は大切ですよね。目力は本当に。目が死んでる役者を見ると、うーん、ってなりますからね。そこに最初に気がいきますからね。
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- 文学座での経験はきっと大きいと思いますよ。
- 江藤
- そこに残れるかどうかはともかく、絶対糧になると思います。まず、ちゃんと教えてもらえる、というのが大きい。プロの俳優にちゃんと教えてもらえるなんて機会は本当にないから。一番下の所に、身を置けるというのが嬉しいです。
質問 岡本 昌也さんから 江藤 美南海さんへ
質問 杉本 奈月さんから 江藤 美南海さんへ
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- 前回インタビューさせて頂いた、杉本奈月さんからも質問を頂いてきております。「東京の地の演劇に期待していることは何ですか?」
- 江藤
- なんだろう、難しいな。新しい刺激。京都と大阪って全然違うじゃないですか。私、お恥ずかしながら東京の芝居をあまり見れていなくて、未知の世界なんですけど。あと、関西にいるとどうしても、東京の人たちが冷たい、みたいなイメージがあって・・・
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- いや、そんなことはないですよ。東京の人にはフレンドリーな人凄く多いですよ。飲み会がめっちゃ多いし、作品の批評も活発だし。
- 江藤
- そうなんだ。楽しみ。
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- あと、もう一つ質問です。「学生劇団でいけ好かないのはどういう部分ですか?」
- 江藤
- ええ、そんな酷な質問が・・・!わたし、仲良しごっこみたいなことしてるのが嫌いですね。馴れ合いが嫌い。稽古中も私、おしゃべりではないかも。
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- わかりますよ。
- 江藤
- 学生劇団では、友達だなって思わない方がいいなあと。友達じゃなくて仲間であり同士でありライバルである。その辺の緊張感は必要だなと思ってます。そういうのを全くなくしてしまっているのはあまり良くないなあと。
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- 連帯感は必要だと思うんですけど、足を引っ張り合うのはまあまああまり良くないですよね。それは私も警戒しています。
- 江藤
- 私は第三劇場で女子の同期が一人だけだったというのもあって良いバランスが取れているのかもしれないですね。
5年間
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- 今後、どんな感じで攻めて行かれますか?
- 江藤
- 芝居関係ですか?
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- 全体的に。
- 江藤
- 私、芝居を続けるのは5年ってタイムリミットを決めているので、5年の間で芽が出なかったら芝居を辞めようと思っています。
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- おお、そうなんですね。はっきりしてますね。
- 江藤
- 5年間の間に、詰め込もうと。一分一秒を無駄にしないように大切にして頑張ろうと思います。
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- 5年。その節目に、自分で満足のいく成果が出せていたら続行、という感じ?
- 江藤
- そうですね、何かしらの、大きい舞台に立てたりとか、映画に出させてもらったりだとか。そういうのがもしあったら続けようってなれるけれども。自分の納得するところに行ってなかったら、単純に私、結婚とか子どもとか、家庭の幸せも欲しいので、田舎に帰って掴みに行こうかなと。
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- いいと思います。
- 江藤
- 京都に戻って、でもいいですし。
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- ただ、その時の東京の方々は恐らく引き留めると思いますよ。
- 江藤
- でもタイムリミットを決めていないと、ズルズルいっちゃうので嫌いなので。ソフトボールで県内でトップの方まで行けて、高校からお誘いもあったんですけど、別にソフトボールで生きていける訳ないから踏ん切りが着きましたし。大事ですよね、見切りどころは。その時の体力とスポ根は役立っていますけど。
ブルーアイズのマグカップ
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。どうぞ。
- 江藤
- 私も、なんですけど・・・
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- えっ。
- 江藤
- バレンタインも近いですし、味はどうかわからないですけど。
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- あ、手作り!?
- 江藤
- いつもと違う作り方をしたらちょっとだけ失敗しちゃって。
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- いえいえ、ありがとうございます。凄く嬉しいです。
- 江藤
- 手作り感がすごいですけど・・・こう見えて好きなんです、料理とか。
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- いただきます。
- 江藤
- (開ける)あ、かわいい!嬉しい。私、ネコ好きなんですよ。実家で4匹飼ってて。でも灰色の子はいないんです。ブルーアイズだ。