憧れの世界
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- 今日はどうぞ、宜しくお願いします。葵さんは、最近は。
- 葵
- 今月11月1日から10日まで、DX東寺で出演するので、そこでの新作の準備をしています。月頭から仕事なんです。
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- DX東寺、京都のストリップ劇場ですね。一度行ってみたいんですよ。憧れの世界で。
- 葵
- 実は、私も憧れでこの世界に入ったんです。
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- あ、そうなんですか。
- 葵
- 大阪のクラブで踊っているお姉さんがいて、その時は下着を付けていたんですが、すごくかっこよくって。あ、でも仕事にするとちょっと違ったりもして。
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- どういうところが?
- 葵
- 自分のやりたい事と、お客さんの求めている事が違ったり、コンスタントに新作を出さないといけなかったり。新作を作るのって大変なエネルギーがいるんですよね。同じ劇場に乗る時は新作じゃないといけないという掟があるんです。
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- そんなのがあるんですね。
- 葵
- ちょっとしたリメイクでも、お客さんは覚えているので、出来れば新作を出したいんです。
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- コンスタントに新作を作る。どんな風に作っているんですか?
- 葵
- 曲から入ることが多いですね。一曲、踊りたいというのがあって。それからベッドシーンにどう繋ぐか、とか。
DX東寺
京都のストリップ劇場。京都市南区西九条。
『work for the publick good』
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- 私が葵さんを初めて拝見したのは、chikinのイベント『work for the publick good』でした。ストリップ自体見るのが初めてで、非常にショッキングな体験でした。
- 葵
- どういうところが。
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- あの時掛かった曲は「東京ブギウギ」で、舞台中央で客席に背を向けてお尻を突き出すというフリがありましたよね。で、Tバックだったじゃないですか。その瞬間まで、ストリッパーがプログラム表に書いてあったけど本気にしてなかったんですよ。それがマジなんだって分かって、一気に会場の温度が上がったんです。
- 葵
- あの時のお客さん、ストリップってものが初めてな人が多かったでしょうね。
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- 最後のベッドシーンは歓声まで上がってね。それまで、ライブとコントとパフォーマンスのイベントだったのが一気にひっくり返った。・・・ちょっと悔しかったんです。女性が舞台上のあらゆるツールを使って、というか舞台芸術というメディアを使って脱いで踊るのであればそれは完全な夢の世界じゃないですか。それに敵うものなんてないだろうと。
- 葵
- いやぁ。
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- いや、実のところはダンスの技術が物凄く高かったからそこまで思ったんだろうけども。でも半年くらい時間が経って、それはもっと大変なことなんじゃなかろうかと思い始めたんですよ。もしかしたら、ストリッパーとは最も他人の視線に強い人種なのかもしれないって。
『work for the publick good』
公演時期:2010/2/14。会場:UrBANGUILD。
chikin
京都を中心に活動する劇団。京都造形芸術大学の卒業生3名で立ち上げ。ショート作品を連作形式で発表する。
お客さんの楽しみ方を即座に考えつく(!)
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- というのは、ストリップ劇場に来ているお客さんの目線って、性欲目的と鑑賞目的が同時にあるんですよ、多分。それに耐えうるものを持っていかないと、すぐにつまらない時間になってしまうのではないかと。
- 葵
- お客さんは踊って脱いで、という流れを分かってるから、そういう面では受け身なんですよね。ステージを見るぞ、というよりは消極的なんじゃないかなって。だから、「分かってくれるかな?」だと絶対伝わらないんですよ。
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- へえー。
- 葵
- 自分が興味がないと、見なくなるんです。持ってきた新聞を読み始めた人もいたりして。
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- ええっ!もったいない。でも、同じ事をし続けていると目線がそれるんだろうなあ。
- 葵
- うんうん、脱ぐっていう事に飽きる。
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- 演劇のように、柔軟に別のネタに接続したり、場面を転換できない。ダンスのように、芸術の追求もちょっと制限がある。その上、脱ぐというプライズを過ぎたら、すぐにハイハイってなっちゃうかもしれない。女性の体だって、お客さんによっては見飽きているものだし。貴重である事は代わりはないけど。
- 葵
- そうですね。10年15年の経験がある先輩の方って舞台上ですごく遊ぶのが上手で、見せ方を知っているんですよ。強い身体を持つ反面、観客の視線にめっちゃ敏感だと思うんです。空気によってはしゃべりだしたり。
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- へえー。
- 葵
- 常連さんばっかりの4回目の終わりとか。その場のノリを感じ取るのがすっごいうまいから、その時のお客さんの楽しみ方を即座に考えつくんですよね。
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- なるほど。それは凄いですね。
どこでも脱げるような人間になっちゃいけないんだと思う
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- 最近は小劇場でも、俳優が脱ぐという機会が増えているような気がします。
- 葵
- あ、私も京極さんのダンスを見て。上半身脱いでいて、やっぱり男の人って脱げるんだって。
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- 男はそうですよね。
- 葵
- でも、それを自然に見れるようになってきているんですよね。御法度だった時代もあったのに。もったいぶっててもしょうがないんじゃないかって気持ちはあるんですよね、こういう仕事していると。
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- 私は未だに、舞台上での裸はびっくりしますけどね。何かの届け出が必要じゃないかって思ったり。
- 葵
- そういう感覚は持っておかなくちゃいけないんですよ。どこでも脱げるような人間になっちゃいけないんだと思う(笑う)。本当に、恥じらいは無くしちゃいけないんですよ。ぱって脱いだら終わりな事も、少しずつ脱いでいくとハッとさせられる。裸を見せるだけのものじゃなくて、脱ぐのを見せるものなんだなあって思うんです。ベテランの先輩のお姐さんたちのステージを見ると、脱ぐのに時間を掛けるんですよね。ちらっと見えてくると、女の私でもドキドキする。髪をかきあげる動作だけでも絵になるし、かっこいい。ダンスのうまい人は、そういう演技というか。
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- 仕草が。
- 葵
- 仕草が上手いんです。一つ一つのフリを先生に決めてもらってそれをそのままやるって事じゃなくて。そういう姿勢はダメなんかなぁって。帽子を取るだけで「あ、脱ぐんだ」って、次の期待が出て引き込める。それも仕草だと思うんだけど、合間合間に遊びを入れると盛り上がるし、自分もステージに入り込めるんだなぁって。
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- お客さんの心理を考えながら、いや、お客さんに共感しながらやってるのかな。
- 葵
- そうかも。お客さんと会話しながら出来る人のステージは面白いんですよね。
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- 舞台も客席も一つになって、同じ世界にあるってなかなかないですけどね。
- 葵
- そういう、仕草と振り付けの間みたいな事がダンスと同じくらい大事なんだろうなって思います。
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- なるほど・・・。ガラスの仮面でいう、北島マヤが得意とするところですね。
- 葵
- ガラスの仮面はドラマ版しか見たことないですけど、えーと、あっ、フィギュアの村主章枝さん。
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- ああ、私も大好きです。
- 葵
- 表現がすごいですよね。主な点数はジャンプの回転で決まっちゃいますけど、あの人のはジャンプだけの踊りじゃなくて、それも組み込んだ作品になっている。
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- わかるわかる。果てしなく表現を向いている
- 葵
- 味わって踊ってるんですよ、アスリートとはちょっと違うんですよね。
やっぱり裸好き
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- 葵さんは、なぜストリッパーになろうと思われたのでしょうか?
- 葵
- 最近もよく考えていたんですけど、最初は人前で脱いで目立ちたかっだけというのもあって。それと、ブリッジとか、アクロバティックな体勢をとる事が多いんですよね。高校時代彫刻をやっていたんですけど、いびつな形を曲げたり伸ばしたり。頭の中でそんなこと考えて。
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- 彫刻を始めたのは?
- 葵
- それもやっぱり裸好きだからかな。アラーキーの写真とか、湿っぽい、アングラだなと思うところを見ていて。
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- ええ。
- 葵
- 体のラインをずっと気にしていたんです。彫刻って一つのラインを追求していくともう際限がなくて。
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- 葵さんの肉体への興味。どこから始まったのでしょうか?
- 葵
- 容姿へのコンプレックスがあるんだろうなと思うんです。顔だってすごい美女とかだったらこの仕事をしていないだろうと思っています。うーん、いろいろ、絡みあっている気がしてます。
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- コンプレックスの裏返し。なるほど。いつの間にか、興味を持つ準備が出来ていた感じなんですかね。
感情移入
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- 葵さんが今までみた舞台作品で、印象に残ったり、ご自身の転機になったような作品ってありますか?
- 葵
- 砂連尾さんと寺田さんの作品ですね。舞台作品ってあまり覚えていられないんですけど、ずっと見続けていたいような時間でした。寺田さんがずっと砂連尾さんにしがみついていて、後ろから赤ん坊の泣き声が聞こえているっていう。それがずっと忘れられないんですよ。何回もみたい気持ちになったんです。自分の何かとリンクした感じがしたんです。
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- なるほど。
- 葵
- 何かこう、ストリップをしている時でも、感情移入していないと全然だめなんですよね。大学で作品を作っていた時も、自分の感情でしか作れなかったのがいやで。子供の時から踊りをやっていた人は動きを先に作って、感情は後から来るんですよね。
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- 葵さんは、感情が先だった。
- 葵
- 未だにそうやって作っているのがイヤなんですよね(笑う)でも、私的な、まぜこぜの、湿っぽいいろいろな感情は忘れちゃいけないなって。それがなかったらストリップはやっていないし、そういうこだわりと、じゃれおさんと寺田さんのあのシーンが繋がっているんですよ。そんな気がして。
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- 大事にしたいんですね。
- 葵
- でも、そればかりでも限界がある。次にも行けないなって。その感情に頼りすぎていると、お客さんとの関係も一つしか出来ないなと思うんですよね。遊び方が下手なんだろうなって。
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- 遊び方。
- 葵
- KUNIOさんは上手いんだろうなと思います。
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- HAPPLAYね。インタビューで伺いました。
- 葵
- そのアフタートークで、「この企画には遊び方を上手い人を集めた」って仰っていました。大事なことなんだなあって。
砂連尾理+寺田みさこ
京都を拠点に活動するダンスパフォーマンスユニット。砂連尾理と寺田みさこのデュオ作品では、振付・構成・演出・出演をすべて共同で行っている。「人と人との間にあるもの、つまりそこに流れる空気、堆積した時間の重みが、どのように生まれ、形成されていくのか、私たちはそこに興味を抱いている。」(公式サイトより)
KUNIO
演出家、舞台美術家。
KYOTO EXPERIMENT フリンジ“HAPPLAY”
フリンジ・パフォーマンス企画として、アトリエ劇研で1ヶ月にわたって新進気鋭の若手アーティストたちの作品を紹介。(公式サイトより)
質問 杉原 邦生さんから 葵 マコさんへ
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- さて、前回インタビューさせて頂いたKUNIOさんからご質問を頂いてきております。「1.僕の事を知っていますか?僕の印象はどうですか?」
- 葵
- はい、知っています。見えない所ですごい仕事をしているのに、それを表には全く出さないで楽しんでいるっていう感じがして、尊敬しています。
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- 「2.好きな芸能人は?」
- 葵
- いまぱっと思いついたんですけど、バナナマンの日村さんですね。
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- 「3.その芸能人と、僕との差ってなんですか?彼と比べて、僕と付き合うのに何がダメなんですか?」
- 葵
- ああ、そういう質問をされるんですね・・・。良く知らない方ですしね。タイプとか、あまりないかなあ。理由は、特に思いつかないです。
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- ありがとうございました。
元気が出たよって
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- 葵さんは、今後どんな感じで攻めて行かれますか?
- 葵
- 明日からのステージは、演劇やダンスをやっている知人に宣伝してるんです。ストリップ自体下降気味なので、そうやって少しでも盛り上げていきたいなと思っていて。
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- 頑張ってください。今後は、どんな作品を。
- 葵
- 東京ブギウギみたいな、レトロ系の曲が好きなんですよね。そっち系はやっていきたいです。でもやっぱり、技術を上げたいです。ジャズダンスとか、体の鍛練も足りてないし。休みにちょっと怠けすぎちゃうんですよね。ストイックさが足りてないんです。
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- なるほど。最後に、見た人にどう思って貰いたいですか?
- 葵
- 元気が出たよ、って言ってほしいです。
DIESELのTバック
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- 今日はですね。お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。どうぞ。
- 葵
- ありがとうございます(開ける)。
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- あ、ちょっと周りには見えないようにお願いします。
- 葵
- あ、かわいい。スケスケや。