演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫
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スアシ倶楽部「妹の人形の話」

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。りゃんめんにゅーろんの水木たねさんにお話を伺います。最近、水木さんはどんな感じでしょうか。
水木 
最近はまあ、緊急事態宣言のあおりを受けていて家でのんびりしていたのと、お芝居的には今年の1月に三等フランソワーズさんに参加させてもらっていました。それと、私自身小さい頃から持病があるので胸にペースメーカーが入っているんですけど、それの交換がちょうど今年だったので演劇系は全部ストップしていました。今は、次回出演のスアシ倶楽部さんの次回公演に向けてようやく動き出せるようになりました。
__ 
7月ですね。
水木 
この前顔合わせをしたんですがようやく次が動いた、って。どうなるかと思ったんですが本当に良かったです。
__ 
とても楽しみです。
水木 
お相手の橋本浩明さんも、舞台で拝見したりすれ違うぐらいで。もう「うはあ」って方なのでとても光栄です。
__ 
ご自身らしさを発揮して臨まれてくださいね。
水木 
本当にそうですね。今回の作品が再演らしくて。人が変われば全然違う作風らしいです。しかも初めての野外公演なのでめちゃめちゃ楽しみです。元々お芝居を始めた頃はアングラ芝居によく出ていたんですよ。だから唐十郎さんのテント芝居に憧れていた時期があったので。演出は全然違うかもしれないですけど。
__ 
野外って独特の何かがありますよね。
水木 
お祭りみたいな空気感にも似ているし、それぞれ独特なんですよね。
りゃんめんにゅーろん

1991年大阪シナリオ学校の卒業生が中心となり「舞台創造集団りゃんめんにゅーろん」として旗揚げ。 座付作家が多い時には4人という作家集団として活動。公演ごとに演劇界各方面から多彩なゲストを向かえるプロデュース公演の形式をとっていました。 良質な舞台の創造と演劇人の交流を目的に年間1~2本の公演を行い、20年間で28回の本公演と2回の番外公演を手がけてきました。 現在作家1名、役者2名で活動し座長南出がテーマとしている「日常生活の中でふと生まれるきゅんとする一瞬」を舞台で表現すべく日々精進しています。(公式サイトより)

スアシ倶楽部 No.22「妹の人形の話」

場所 キタの北ナガヤ「露地庭SALON」 日時 2021年月7月6日(火)7日(水) 開演時間 20時

三等フランソワーズ「uyisnep’nat!」

__ 
三等フランソワーズさんの『uyis nep’n at!』につきまして。大変面白かったです。
水木 
タイトル読めた!私最後まで発声出来なかったです。反対にすると「たんぺんしゅう」になるんですよ。
__ 
水木さんが出演されたのは3本目の「ラフストーリー」でしたね。
水木 
すごく楽しかったんですけど、難産だったんです。うまくできなくてなかなか苦戦したんですけれども。多分あの公演の中で一番稽古していただいた作品だったと思います。私は元々会話劇への出演の方がコメディ作品よりも多くて、何がウケるのかわからなかったんですよ。しかも私は全力でやることしかできないんですね。今回私、上演中にセリフが飛んだんですよ。しかも三等フランソワーズさんのハイスピードな掛け合いで。怖かったんですけどそれがきっかけで(本当にあってはいけないことなんですけど)なぜか色々とやりやすくなって、狙ったところに行けた。たぶん中川さんもそう感じていらっしゃったと思うんですが。これしゃべって大丈夫だったのかな。
__ 
劇場に行かなければ掴まえられない物があった。
水木 
結局会話じゃないですか。会話劇出身なのにそこを見失っていた。セリフをしっかり聞いて、それに反応する。当たり前の事なんですけど見失っていた。会話はやっぱり大事だなと思います。お芝居の段取りや構想が稽古で身について行くんですが、最終的にはやっぱり会話に戻っていくものなんだなと思いましたね。
__ 
お客さんが、こちらの意図通りに会話の流れを理解してくれないとそもそも難しいというのはありますね。そのために役者が、会話のタイミングやニュアンスなどの物理的な設計を組んでいって上演してもたまさか追いついてくれない場合もある。
水木 
それをテクニックでフォローできないので、私の場合は全力でやるしかないんですよね。最終地点に行くまで全力でやるというのが自分に合う方法なんだなと気付きました。
三等フランソワーズ「uyisnep’nat!」

公演期間:2021/1/22~24。会場:in→dependent theatre 1st。

全力で

__ 
水木さんがお芝居を始められたのはいつからですか?
水木 
中学校の演劇部でしたが、その時の拍手が忘れられなくて。高校演劇もやろうと思っていたんですがその部活が思っていたところと全然違っていて。結局そこには入らずに中学校の演劇部の仲間と劇団を立ち上げたんですよ。地元のホールとかを借りて公演してました。
__ 
すごいですね。
水木 
高校では結局新聞部と放送部に入部しました。何かを創作できる場に入って3年間。それが大学に繋がって、演劇も続けて。
__ 
そうした活動を続けてこられて、何か変わっていった事ってありますか?
水木 
芝居の取り組み方が変わった時があって。小劇場に出始めたのが二十歳ぐらいで、20代前半は次の公演が決まっていないと不安になっていたんですよ。たくさんオーディションがあるわけでもないので、人の繋がりで出演機会を得ていたんです。でも20代後半になったとき、知り合いの漫画カフェバーみたいなところでいろんな人に出会ったんです。旅人もいるし歯医者さんもいるし、紙芝居屋さんもいるし。そういう空間で面白い人達と知り合って。演劇しかやってきていない、それも自分を削って演じるようなやり方しか知らない、そう自覚したんですね。そんなやり方だと体も壊すし、心も病むし。削るのは自分の中で正しかったんですけど、変に削るよりも多少作ってやることの方が全然楽なんですよね。もちろん新しいことをするので最初からアウトプットできるわけはない、そう思うと肩の力が抜けて。リラックスしてやることが出来るようになったんです。演劇以外の色々をする楽しさも知ったし。ありがたいことに今までずっと舞台に立てるご縁があるので。ありがたいことですよね。
__ 
そういう態勢が整ったからですよね。
水木 
そうだと思います。年齢を重ねるにあたってこれだけ続けてきてるから。好きで続けてきてるわけじゃないですか、それで自分を傷つけるってどうなのかなという考えになって。そうなったら楽しく行こうと言う。それまでも楽しかったんですけどもっとヘルシーに出来るようになった。
__ 
自分を削って掘るしか出来なかったのが、自分の中にあるものにノブを付けて開けられるようになった。
水木 
引き出しのノブって、台本をもらって読んだ瞬間にきっとできてるんですよね。自分で付ける必要は無かった。後はそこを開けてみて、違うなと思ったら次のものを開ければいいと思うんですよ。空だったら詰めてもいいし。
__ 
昔はノブがついていない空間を探っていたのかもしれない。
水木 
そうですね。実はすぐ近くにあるかもしれないし、とても高いところにあるのかもしれない。今は、付いているノブにわりとすぐ気付けるぐらいリラックスできるようになりました。

歯車になりたい

__ 
作品を作る過程で、どのようなことがあれば(もしくは無ければ)充実しますか?
水木 
気を使わずに色々と質問ができる場であること。作家や演出家さんの言葉、分からないものは分からないので。すぐ聞いて意見をすり合わせられるような環境が凄く大事。無知であることを恥じないんですよ。やりにくくてもやるんですけど突破口があればよりやりやすいので。
__ 
なるほど。
水木 
ない方がいいものは、ケンカ。ぐらいですね。リラックスして楽しくできる空間であれば。基本的に良い物が作りたいんですよ。役者として、作品の歯車になれたらいいと思っています。ピンポイントで褒めていただけるのはもちろん嬉しいんですけど、それよりも作品の面白さに自分が関われていたら最高に嬉しいと思います。
__ 
坂本企画の坂本涼平さんにインタビューさせて頂いたときにですね・・・
水木 
うぇーい。元気?
__ 
元気そうでしたよ。
水木 
坂本さん、意見が言い合える場所の心地よさを教えてくれた人間だから。
__ 
そうなんですね。インタビューの後半で坂本さんがおっしゃっていたんですが、お芝居の盛り上がりのために、キャストやスタッフの人選に多少、不定要素を入れる必要があるのではないかという話になりまして。それは、例えるなら歯車におけるスポークの木材の節のようなものなのかもしれない。それが本番において、波と言うか揺れになるのかもしれませんね。
水木 
坂本企画さんには昔何度も出演させてもらったんです。一人芝居の脚本も依頼させて頂いたこともあって。ちょっとちぐはぐな部分と言うんですか。作品としては少し掛け違えてるかもしれない、その部分をうまく表現できること。それは結局歯車がハマっているんだろうと思います。舞台上にも何かを掛け違えている人が出てきて、言葉では理解出来ないような手触りが美しいんですよね。そういうところが好きです。

ゲネプロと本番

__ 
先ほど本番でつかんだものがあるとおっしゃいましたね。では、本番とゲネプロでは何が違うのでしょうか。
水木 
ゲネプロは本番さながらのリハーサルという大前提としてあるんですが、私にとっては確認と調整の場という意味合いが強いです。全力でテンションを上げて臨むんですが、小道具の位置であるとか、稽古場で培ってきたことが本番でも出来るかの確認をしつつ、えもしれぬ緊張感に苛まれる場ですね。本当は駄目なんですけど、ミスってもゲネプロだし。最終調整の場ですね。
__ 
ゲネプロの方が面白かったとかそういうことはありますか?
水木 
それは今までにないかも。
__ 
それはなぜでしょう。
水木 
やっぱり本番の面白さとは違うので。演劇ってよく言われるように総合芸術ですが、最後のピースはお客さんなんですよ。実際にお客さんを客席に迎えようが配信であろうが同じ。ゲネプロで面白いということは、自分たちでやっていれば良いということになってしまうので。生でできる演劇の良さだと思います。それと、生配信の演劇を去年劇団でさせてもらったんですが、まだ慣れないんですがやっぱり、見られてなんぼなんだなあと思いますね。
__ 
配信演劇もコロナ禍では増えてきましたね。
水木 
最終的に映像を見るとおおーってなるんですけど、まだまだ舞台で演じている時のような実感はないですね。自分が思っている演技とはまた違う形になっていて。これからやり方を見つけていきたいと思っています。
__ 
難しいですけどね。
水木 
配信ができるようになったことで、劇場に来られなかった人たちにもお送りできるようになったのはとてもいいことですね。
__ 
ゲネはお客さんがいないから演劇の面白さは成立しない。配信演劇はお客さんはいないけど本番だから面白さが成立する。
水木 
あれですよ、ドリフ。ドリフってお客さんはいますけど劇場でやってるじゃないですか、それをテレビで中継していた。テレビの前の皆に向けても作られていた。これから必要な観点ってそれなんじゃないかなって。今は変化の時ですが、その渦の中に生きていられるというのは幸せなことだと思います。

質問 坂井 美紀さんから水木 たねさんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、トイネスト・パークの坂井美紀さんから質問です。生きる上でのやりがいは何ですか?
水木 
やっぱり私は何度も生死をさまよっている人間なので、全てのことが割と嬉しいと思います。喋ることも食べることも。だから全てかな。

りゃんめんにゅーろん入団

__ 
りゃんめんにゅーろんさんに入団されたのはどのような経緯があったのでしょうか。
水木 
最初に南出さんの本に出演先で出会って。その時の脚本の感想としては「なんだかよくわからないな」だったんですが、りゃんめんに客演で呼んでいただいて「優しい顔ぶれ」をやって、めっちゃいいなと感じて。些細な質感が伝わるような感触があったんです。(あ、いまぽこっとした)とか(なんだかザラっとしている)みたいな。会話の妙と言うのか、その質感が私は心地よくて。あと、メンバーの方々との時間が大変リラックスできたんです。自分が現場に求めている空間でした。もし入団するならりゃんめんさんがいいな、と。そこで入団意思をお伝えしたところ、1年間ぐらい信じてもらえない期間がありまして。
__ 
そうなんですか!
水木 
南出さんから長文のLINEが来て。客演としてお招きしているから、自分たちのいろいろな面を全て見せられていない。一度作品作りをしてお互いのことをみませんか?と。1年間、映画や舞台を一緒に作るというお試し期間でした。そしてやっと、という感じですね。これまでずっと野良役者(この言葉は坂本涼平さんが生み出された言葉で私は気に入ってます)でやってたんですけど、飼いになっても良いじゃないかと。

その役のナチュラルな演技

__ 
ご自身としては、いつかどんな演技ができるようになりたいですか?
水木 
ナチュラルと言うと簡単な言葉になってしまうんですけど、飾らない演技かな。無理やり作っていない、身体に自然に落ちている演技。役の考えが自分の考えとは全く正反対だとしても、無理やりではなくごまかさず嘘をつかずにちゃんと理解してあげること。
__ 
意見のすり合わせや忖度を両者ともにしていない、つまり役柄との間に嘘はないということ?
水木 
そうですね。やっぱり、うまくハマっていない時には自分の方に違和感が生じているし、それは舞台上で出てしまって余分な情報になってしまうのではないかと。作品を作る歯車としてはそれは怖い。寄り添うために、考えを否定しない。
__ 
厳しい道ですね。
水木 
出来うる限りそうできたらなと思っています。複雑な感情だったとしても自然に演じたいんだと思います。
__ 
複雑な感情を分析してその気持ちになってみせるという方向性がありますよね。または、複雑な感情をあまり研究せず理解出来ないままにしておくスタンスもあるし、複雑さを段階的に咀嚼していくスタンスもあり得る。
水木 
ええ。どちらにせよ、自分と考えが違っているとしても、その役にとっては当たり前の自然であればいいなと思っていて。滅茶苦茶虐待を受けている役も、それを虐待と思っていない場合もあるじゃないですか。派手な演技じゃなくても、その世界観にウソなく自然に。私はそうなりたい。

ベージュのサングラス

__ 
今日はですね、お話しを伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
水木 
ありがとうございます。開けてみてもいいですか?
__ 
もちろんです。
水木 
うわ、サングラス?すごい。めっちゃ可愛い。季節ですね。ちょうど探してたんですよ。ちょっとレトロな感じがいいですね。
(インタビュー終了)