演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

植村 純子

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フルベース

__
植村さんは、最近どうですか。「フルベース」が終ったばかりですが。
植村
三月の「珠光の庵」の準備がいよいよ本格的に始まったところですね。
__
静岡ですね。
植村
三月頭に静岡と、末に京都。
__
「珠光の庵」、もう足掛け四年くらいですね。
植村
2004年7月が最初だったので、三年くらい。でも公演は去年の五月からやってないので、久しぶり。
__
役者も変わり。
植村
そう、今回から二人新しい人に代わるので。またちょっと、新しい感じになるのではないかと思います。
__
もう、前のキャストでの珠光は見られないのでしょうか。
植村
いや、今のキャストにしたって今後同じメンバーが揃うかどうか分からないし。あちこちで上演していきたい作品だと思っているので、まあスケジュールだったり、インスピレーションだったりが合えばという感じで決まっていくと思います。今回の「フルベース」で、一つの役を複数でやる面白さみたいなのを実感できたので、それを今回の「珠光の庵」でもやることになった、というのかな。意図した訳じゃないんだけども。個人的には、そういう面白さを味わいたいな、と思います。
__
そういった、作品ごとの変遷を稽古場で察知して、公演という、まあ、皿に載せるというのが植村さんの役割だと。そういう理解で大丈夫でしょうか。
植村
んー、でもそれはどっちかっていうと演出じゃない?作品をどう変えていくか、とか。でも、「珠光の庵」に限らず、衛星の作品全般に言えると思うんだけども、受付からの演出とか、情報宣伝の段階からの物語の提示の仕方だったりとか、そういうのを含めて蓮行の作品だったりするから。ここから制作、ここから演出というふうには分けてないかな。
劇団衛星

京都の劇団。代表・演出は蓮行氏。既存のホールのみならず、寺社仏閣・教会・廃工場等「劇場ではない場所」で公演を数多く実施している。

劇団衛星新春興業フルベース

公演時期:2007年1月27日〜2月4日。会場:東山青少年活動センター。

劇団衛星「珠光の庵」

劇団衛星作品。演劇と茶道を限りなく等しく融合させた「お茶会演劇」(公式サイトより)。初演:2004年7月1日〜6日。その後、全国47都道府県での公演を目指し巡業企画中。2009年11月現在まで、14都道府県25ヶ所での上演を行う。

ブーム

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確かに、小劇場ブームは落ち着いているなと思っておりまして。先日お話を伺った藤原さんによると、京都に関してだけなら特に盛り上がりを必要としていないのではないか、というような事を仰っていたんですよ。
植村
うん。
__
ワークショップの全盛ですとか。ポスト・パフォーマンス・トークですとか。そういうのがあって当たり前の。その中で、非常に過激な事をする人が少なくなっているのではないかと。
植村
過激、っていうと・・・?
__
受け止められないんじゃないか、みたいな・・・。どうですかね、小劇場の盛り上がりとかについて。
植村
うーんとね。昨日、精華小劇場に芝居を観に行って。そのアフタートークで聞いたんだけど。最近の関西の芝居は頑張ってきてる、と言ってて。20代後半から30代の劇団とかが。私が言うと語弊があるかもだけど。
__
はい。
植村
別に、盛り上がってる訳でもないけど、盛り下がってるわけでもない、かな。価値観が一つじゃないから、それぞれが色んな形で演劇をしてる。一つの大きなブームとしては捉えられないという状況なんじゃないかな。
__
多様性というか。
植村
うん。
藤原康弘

やみいち行動総務理事、小さなもうひとつの場所演出。

精華小劇場

大阪市難波。元・精華小学校をリノベーションした劇場施設。

難解

__
劇団と、劇団の公演活動をプロデュースする立場に就かれている訳ですが。衛星の、コンセプトが非常に強い公演についてはいかがですか。例えば、衛星のここ3〜4年の公演は、世界観をまず作って観客を取り込んでいく、という理解なんですが。
植村
一方的に何かこう、提示したものを消費してもらうだけじゃなくて、一緒に楽しんでもらおうと思ってます。その意味で、私は、衛星だけに限った事ではなく、パッと見て分からない、難しい作品ってのは結構好きで。
__
はい。
植村
言ってみれば、文学とかの古典でも、昔の和歌を分かってなければ本歌取りの面白さが分からないみたいな。賢い人にはより楽しめる作品ってのは私は凄くいいと思っていて。見る立場の人も勉強しなくちゃいけなかったりだとか。積極的に理解しなけりゃいけなかったりだとか。
__
ええ。
植村
もちろんそうしなくてもそれなりには楽しめるんだけど、こっちから踏み込んでいくとさらに楽しめるというか。そういう作品は私は好きで。衛星に入る前からね。だから、味わおうと思えばより味わえる、そういう手法もあるかな、と思います。
__
なるほど。衛星の芝居は、そういう面ではいかがですか。
植村
いや、ホントはね。お客さんには衛星作品の本当の面白さは伝わっていないんじゃないかと思うの。私は、作ってる過程で、何を入れようとしてたのかとか、何を削ったかとか、その隠れた部分も全部分かっているから、お客さんよりも楽しんでいると思うのね。それが伝わらないと、ああ勿体無いなあと思うし。
__
ええ。
植村
だから、本当、よく見るといっぱい何かがこめられている作品もあるのね。深く考えると、より楽しめる作品を作っていると思います。

距離

植村
作品と言うより、公演の打ち方としては、お客さんの方にこちらの方から近づいていこうというのがあって。物理的にね。
__
物理的に。
植村
地元だけじゃなくて、色んな土地にこちらから行くっていうのもそうだし。劇場という場所だけじゃなく、普段皆が使っている場所、たまたま通勤で近くを歩いていたら、演劇に触れる契機があったりだとか。そういう、日常生活の中に演劇作品を持ち込むというのが一つの大きなコンセプトとしてある。最初はそんなふうに言語化して持ってたわけじゃないけど、後から考えると、あ結構最初からそういう方向でやってたなと。
__
ビルの地下だとか野外とかでね。けして後付ではなく。
植村
衛星始めた当初から、あの頃から、考えてたかなと。

血の創世記

__
ええとですね、衛星団員だから思っている事でもあるんですが。この所衛星の活動は何か、落ち着いた感じだなあと思っていたんですが、こないだの「フルベース」を見て、ああやっぱり元気があるなと思ったんですよ。
植村
うん。
__
非常に魅力のある芝居をするなと。そこで。なんていうか、これは一観客としての希望でもあるんですが、何か、滅茶苦茶をやってほしいなと思っておりまして。まあ、正直に申しまして、「血の創世記」とかのナンセンスな作品群をもう一度見たいなと思ってまして。
植村
あれから衛星を見始めた人は多いな。
__
ああいう、派手な事をやっていた時代を見逃した身としては「惜しい」というのがあるのですが。
植村
「血の創世記」みたいに、野外でやるのはあの頃は学生という免罪符があったから出来たもので。それが今は無いので、大変と言えば大変なんだけど。言うとね、今でも、やってる身としては全然落ち着いた感はなくて。
__
ああ。
植村
例えば「コックピット」とかは、関係者みんなしんどくて「やだ」とか言うんだけど、私はもう一回やりたいと思ってて。で、こないだ喋ってる時も「やりましょうよ」って言ってくれた子がいたので。
__
ああー。
植村
もちろん、当時は無茶でやっていた事を今後はきちんとやれるようになっていかなきゃいけないと思っています。やる側としてはきっちりやって、傍目には無茶に見える公演をやって行きたいなと。
__
なるほど。
植村
「珠光の庵」も、ある意味無茶やねん。一年もないお点前の稽古で茶道関係者に見てもらっても納得してもらえるぐらいにしなきゃならんかったりとか、その上で芝居としても面白く作らなきゃならんかったりとか。ある種、色んな無茶をやってると思う。まあそれが楽しいけどね衛星は。私は凄い好き。
__
私もです。
植村
しんどいのはしんどいよ。地方に行ったりしたときは、無茶なタイムスケジュールだったりとかね。
劇団衛星興業「血の創世記」

公演時期:1999年7月9〜20日。会場:吉田神社境内。

劇団衛星アトリエ劇研演劇祭参加作品「Candle」

公演時期:1998年2月18日〜21日。会場:アトリエ劇研。

劇団衛星興業「コックピット」

50席限定の完全可搬型劇場を製作し、各地で公演を行う。初演時期:2002年6月12日〜15日。会場:アートコンプレックス1928。

蟻の絵のワンポイントが描かれた平皿

__
ありがとうございました。
植村
いえいえ。
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今日はお話を聞かせて頂いたお礼に、プレゼントが・・・。
植村
ありがとうございます。開けていい?
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どうぞ。
植村
わーい。(開ける)あ、かわいい。ありがとうございます。ワンポイントが。
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うん。蟻。
(インタビュー終了)