演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

三名 刺繍

脚本家。演出家

一つ前の記事
次の記事
同じカンパニー
福田 恵(劇団レトルト内閣)
同じ職種
FOペレイラ宏一朗(プロトテアトル)
大原 渉平(劇団しようよ)
蓮行(劇団衛星)
早川 康介(劇団ガバメンツ)
松居 大悟(ゴジゲン)
川本 泰斗(BokuBorg)
押谷 裕子(演劇ユニット昼ノ月)
鈴木 友隆(ともにょ企画)
司辻 有香(辻企画)
田中 次郎(枠縁)
合田 団地(努力クラブ)
芝原 里佳(匿名劇壇)
大熊 隆太郎(壱劇屋)
根本 コースケ(ベビー・ピー)
黒川 猛(THE GO AND MO's)
北川 大輔(カムヰヤッセン)
高間 響(笑の内閣)
勝二 繁(フリー・その他)
長谷川 直紀(突抜隊)
村上 慎太郎(夕暮社弱男ユニット)
四方 香菜(フリー・その他)
河井 朗(ルサンチカ)
山崎 彬(悪い芝居)
嘉納 みなこ(かのうとおっさん)
ちっく(笑の内閣)
筒井 潤(dracom)
たみお(ユリイカ百貨店)

「9」

__ 
レトルト内閣の作演出である、三名さんは最近はどんな感じでしょうか。
三名 
オフ期間なので、実験的な企画や新たな音楽や、短いテキストを作ったりして、本公演にフィードバック出来るように挑戦しています。直近ではnu things(阿波座)というクラブでイベントを企画しています。即興音楽家とパフォーマーのコラボ作品でインスタ的な作品にする予定です。レトルト内閣は「安定志向」 というお笑いユニットや「白色テロル」 というシアターバンドといった多方面の表現を追求するユニットを抱えています。今回も本公演では出来ない尖った表現に挑戦したいと思っています。
劇団レトルト内閣

劇団レトルト内閣の舞台はエンターテインメントでありながら「振り切った暴走アート」とも評される。無駄のないストーリー構成に、 エレガンスロックと呼ばれる劇中歌、 B級レビューと銘打つショーシーンが作品を彩る。豊かなセリフ表現や、多彩なキャラクター、唐突なナンセンスギャグ、めまぐるしいほどにスピーディーな展開も近年の作品の特徴。華やかなのにダーク、B級なのに耽美という独自路線を開拓し続ける。(公式サイトより)

「9」

開催日時:2012/10/21。会場:nu things(阿波座)。

安定志向

お笑いで市民サービスを!大阪の公務員二人が、ありあまる市民サービス向上意欲を満たすため結成した漫才コンビ、安定志向。公務員らしい地味で細かい着眼点で漫才・コントを展開。(公式サイトより)

白色テロル

2006年10月結成エレガンスロックバンド。(公式BLOGより)

劇団レトルト内閣とその変遷について

__ 
さて、レトルト内閣とその変遷について今日はお話したいと存じます。
三名 
細かく説明しだしたらキリがないんですけど、どういう感じでいきましょうかね。
__ 
まず、私の経験から良いでしょうか。5年前に楽園狂想曲という作品を芸術創造館で拝見し、それから一作品くらい飛ばして全て拝見しています。
三名 
ありがとうございます。
__ 
これは大変失礼な言い方ですが、最初に観たその作品からほぼ別の劇団なんじゃないかというぐらい作品の質が上がったと思っています。偉そうな言い方にならざるを得ないんですが、成長されたなと。最初に観た作品は、下手というよりかは、表現を伝えたいという意思と手法がマッチしておらず、安易な作りに見えたというか・・・やりたいようにやってるだけのように見えてしまったんですね。しかし5年して、演出方法に劇的な変化があり、ほとんど変身しているように思えます。驚きました。何があったんでしょうか。
三名 
楽園狂想曲に関しては、まあ失敗したなというのがあったかなと。
__ 
そうなんですね。
三名 
演出方法として、大劇場寄りの作り方をしてしまったので・・・これではちょっとあかんなと。どこまでいっても大劇場を超えられないし自分達の良さを引き出せない。そういう意味では絶叫ソングもそうでした。社会に訴えるようなというテーマを選んでしまったために、焦点がぼやけていて。演出の面でも、ポイントがハッキリと分からなかったんですよね。
__ 
しかし、「さらばアイドル、君の放つ光線ゆえに」 から一転、全く違う演出方法が取られるようになりましたね。「さらばアイドル」は非常に場面転換が多い、暗転と出ハケと映像のテンポが良く、恐ろしいスピードでイメージの切り替わる芝居でした。それまでのレトルト内閣の持っていたイメージを受け継ぎながら、とてもシャープな仕上がりでした。強烈なイメージを伝えるのに必要な、切れ味のあるやり方。演劇に形を借りたパフォーマンス作品と言えるんじゃないかと考えています。そういう作品はあまり観たことがなかったので、新鮮でした。そうなったのは、内から来る表現欲求だけに拘るよりも、演出方法に目を向け始めたからじゃないかと考えているのですが。
三名 
それはありますね。従来の手法を変えようと言い出したのがレトルト内閣の代表でした。
__ 
というと。
三名 
「さらばアイドル」以前は演出に向いていないんじゃないかと思っていて。それならお芝居の鉄則、一場一シーンに則って作ったらクオリティが高くなるんじゃないかなと。ウチは台本を決める会議を毎回するんですが、そこで私が「鉄則通りの大人しい演出をしたい」と言うと、代表の川内が「それは可能性を狭めるから嫌だ」と。「そんな発想ではもうどこにも行けないから、抜けだそう」と。じゃあ思い切ってやってみましょうかという事になって、逆にシーンを細かくぶった切って映画のシーン作りを意識した演出になりました。
__ 
そう、映画みたいな演出でしたよね。
三名 
次の「猿とドレス」 はデビッド・リンチやジョーン・ゾーンを研究して、訳の解らない演出をやりました。
__ 
あれは凄かったです。強烈なイメージがあるんですよね。
__ 
しかし、そうした転換は会議で決まった方針なのですね。
三名 
会議はいつも作品が幅広い客層にウケるようにというスタンスで、焦点のボケるものだったんですけど・・・。その時は珍しく、変化や挑戦していこうと代表が言って、すごく感謝しています。
__ 
それからなのか、俳優の会話もモノローグも凄く上手くなっていったような気がします。自分の保守範囲を守るような演技じゃなくて、演じる事に捧げているように感じます。見せ方が変わっただけじゃなくて。この間の「金色夜叉オルタナティブ」 も非常に面白かったし。そうなんですよ、劇団って頑張ったら成長するんですよね。少なくとも変わる。でも、俳優の方々は苦労されたんじゃないですか?
三名 
凄く苦労しました(笑う)。早替えであったりとか、複数役があるとか、数秒で暗転するとか。技術も気合もいる(笑う)
__ 
でも、よく訓練されている感じはしますね。全然不安にならない。
三名 
やり始めたら、技術がだんだん蓄積し始めているんですよ。俳優も苦労しながらノウハウを蓄積して、根をあげず助けてくれました。
__ 
たった一作品で変わる事ないですもんね。
三名 
ウチの特徴として、セリフのテンポが早いんですね。以前伊藤えん魔さんがゲストで来て下さったとき、ものすごく多忙な時期を融通してくださって来てくれたんです。バタバタだったので段取りだけ確認して、本番が始まってから、自分の出番までの時間で台本を覚えてはったんです。そろそろ自分の出番かなというシーンで。そしたら、すごいスピードでシーンが変わっていくから「今、どこ?こんな早いんか、間に合わない」って(笑う)。
__ 
それは伊藤えん魔さんが面白い話ですね(笑う)。
三名 
知れば知るほど凄い方です(笑う)。

ネーミング

__ 
三名さんがお芝居を始めたのはどのような経緯があるのでしょうか。
三名 
小学校の頃に、「安寿と厨子王丸」という森鴎外の山椒大夫から題材を得た音楽劇を見て、それがすごく印象に残っていて。その曲コピーしてずっと持っていたんです。そこから興味があったのかな。高校の文化祭の時に、クラスの出し物で劇をしようという事になって、その時に担任の先生がなぜか私に「書けるんじゃない?」って言って下さったんですね。何でなのかは分からないんですけど・・・15分ぐらいの、受験かなんかの台本を書いたら結構楽しくて。
__ 
なるほど。
三名 
大学では、演劇のサークルを選びました。
__ 
そこから始まったんですね。レトルト内閣を旗揚げしたのは。
三名 
大学のサークルの時は俳優をちょっとやったり美術や音響をやったりとうろちょろしてたんですけど、卒業の辺りで演出をやらせてもらって(野田秀樹の「桜の森」でした)。もっと追求したいなと。自分で台本を書いてみたら、代表の川内が「一回やってみよう」と。劇団名もその時付けた適当なもののままで、今も続いています。
__ 
ありがとうございました。レトルト内閣って命名、適当なんですか。
三名 
その時の、森内閣が崖っぷちだったからかな?他に色んな案が出てたんですけど、瞬間的に印象の残る名前を選びました。
__ 
笑の内閣とどんな思想的な違いがあるのかと思ってました。
三名 
あ、笑の内閣。この間ディベートする作品を見ました。代表の方がめっちゃ面白かったです。ネーミングに根拠付けがあるんですよね。
__ 
笑の大学のもじりでしょうね、きっと。
三名 
何回も改名案は出てきているんですけど、せっかく今まで頑張ってきたのに、もったいないと。
__ 
まあ、検索しやすいですからね。
三名 
でも、名前と作品内容の違いというのがあるので。
__ 
どうでしょうね。私はレトルト内閣でイメージが固定されていますからね。
三名 
世界一団さんみたいに、ビシッと変えられるんちゃうかなと思っています。
__ 
狙って行って下さい。

質問 小林まゆみさんから 三名 刺繍さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂いた、小林まゆみさんから質問です。「稽古の時のストレッチはどのようにしていますか?」
三名 
基本的には俳優に任せていますが、公演が迫っていない時は例えば・・体の90度・45度を取る練習をしますね。一番キレイと言われる角度で動いたり。あとはリズムに乗って体を動かす、発声のワークがあります。
__ 
ありがとうございます。「大阪と京都で芝居の違いを感じるところはどこですか?」
三名 
京都は悪い意味でも良い意味でもスケール感の小さい芝居が多いんじゃないかなと思いますね。多分、客層もそういうのが好みなお客さんが多くて。
__ 
ああ、多分それはそうですね。
三名 
小さい、ミクロに宇宙を感じるというか。
__ 
そこからの広がりを期待するというか。
三名 
土地柄や家の作りがこじんまりとしている、そういう生活感が関係あったりするのかなって思いますね。大阪はごっちゃりしている。そういう風土と、笑いが求められるのは関係があるんじゃないかなと。そうなんですよ、大阪は笑いが出来る俳優がまず評価されるんですよね。

存在していなかった

三名 
うちも「安定志向」という笑いのコンビを抱えていますが、笑いは突き詰めると難しいスキルだし、敬意を持つ分野です。でも大阪でそれだけが重宝されすぎると、それで一元化してしまいますよね。アートという視点で考えると、それはあんまり良くないのかなと思います。
__ 
うーん。なるほど。三名さんにとって、アートとはどういう事を意味していますか?
三名 
見ている時に、舞台の上の事象とは別のイメージが脳内に湧き上がる事ですね。音楽でも何でも。漫才やヒーローショーを見ていてもそういうことはないじゃないですか。
__ 
そうですね。
三名 
見ている時に、舞台と観客が共鳴して、インタラクティブな関係が出来て、これまで存在していなかった違うものが生まれる事をアートと呼ぶんじゃないかなと思います。
__ 
凄く面白い見方だと思います。シーンを面白いとか美しいとかにする技術をアートだと呼ぶべきなんじゃないかと思っていたんですが、そうですね、そういう事かもしれない。この間観た地点 の「はだかの王様」 がそうだったかもな。教育劇だったんですけどね、風刺そのものを対象化する事によって、リテラシーという感覚に触れる事になる。そういう複雑な体験を子供達に感じてもらう事に成功していたんじゃないかと。
三名 
面白かったんですか?
__ 
はい。
三名 
好きなんです、地点。白(空白)の見せ方、思い切りの良さとか。想像力をかき立ててくれるんですよね。日曜日までやってるかな・・・。観に行きたい。
地点

多様なテクストを用いて、言葉や身体、物の質感、光・音などさまざまな要素が重層的に関係する演劇独自の表現を生み出すために活動している。劇作家が演出を兼ねることが多い日本の現代演劇において、演出家が演出業に専念するスタイルが独特。(公式サイトより)

地点『はだかの王様』

公演時期:2012/9/22〜26。会場:京都芸術センター講堂。

劇団レトルト内閣 第19回本公演「金色夜叉オルタナティブ」

__ 
今後、どんな感じに攻めていかれますか?
三名 
そうですね。演出はもっと突き詰めて行きたいと思います。この間、本公演で初めて原作モノに挑戦して。手応えもありましたし、好きな作品を舞台化してみたいという欲求もあります。VJさんと近松作品に挑みたいねと話してました。
__ 
日本文学寄りになってきましたね。最新作の「金色夜叉オルタナティブ」も原作が尾崎紅葉ですね。大変面白かったです。「猿とドレス」は短い上演時間ながら、かなりエッジの効いた表現で、「演劇を使った映画」と言ってもいいんじゃないかと思っていて。でも、金色夜叉はもう一度演劇に戻ってきたような印象です。役者の出ハケとか、段取りとかに一つ一つ意味があるようで。
三名 
金色夜叉は熱海の名シーンがクライマックスなんですよね。原作でもあそこが頂点で、結構だらだらと続くみたいな。
__ 
で、そのバッドエンドの前にお笑いが入るのがすごく良かったんですよ。凄く狂おしい感じがしました。
三名 
ゲストのうえだひろしさん(リリパットアーミーII )が上げてくれた感じですね。

適切さについて

__ 
ちょっと話を戻して・・・。三名さんは、演劇をアートだと考えている。
三名 
やっていくうちに、考えるようになりましたね。演劇を作る時に、演劇を参考にしなくなったのがあります。絵画だったり映画だったり、音楽だったり。自分のやっている事もアートの一つなんじゃないかなって。お客さんに届けたい、違うイメージを届けたい。そういう時に、演劇というくくりの中で考えていたのが、少なくとも自分にとっては限界を感じたんです。
__ 
そうなるまでは、演劇をやっているつもりだったと。
三名 
そう、そうかもしれません。
__ 
いや、演劇をやる事を否定するつもりはないですけど、巨視的に捉えたら、お芝居を成立させる事が最後のゴールではないですからね。はっきり言って。
三名 
最近気付いたんですけど、京都の人と話していると「私達アーティストは・・・」と言うのに対して、大阪だと自分達を「演劇人」と呼ぶんですよね。
__ 
ああ。
三名 
という、不思議な光景が。
__ 
なるほど。ただ、どんな形態にしても、自分達のやりたい事で、自分たちに合った形態を見つけられればそれが最高だと思います。男肉duSoleil のように。
三名 
一度、観たことはあります。
__ 
あれを、アートと呼べますか?
三名 
本公演を観た事がないので、なんとも・・・。
__ 
でも、あれが彼らに本当に合っている表現だと思うんですよ。しかしそれを見つけるのが、きっと一番難しい。
三名 
人がどう呼ぶかというより、自分たちがどう考えているか、アイデンティティにも関わってくる問題ですよね。
__ 
そうですね。そして、男肉もレトルト内閣も、自分たちの根本を見失なっていない。しかしレトルト内閣は演出の面から徹底的に姿を変えた。そんなレト内が、私にとっては、成長していける劇団のモデルケースだと、自然に思えるんですよ。
三名 
ありがとうございます。でも、未だに、自分達を適切な言葉で言い表す言葉を探しているんです。
男肉duSoleil

2005年、近畿大学にて碓井節子(うすいせつこ)に師事し、ダンスを学んでいた学生が集まり結成。J-POP、ヒップホップ、レゲエ、漫画、アニメ、ゲームなど、さまざまなポップカルチャーの知識を確信犯的に悪用するという方法論のもと、唯一無二のダンスパフォーマンスを繰り広げている。

プリザーブドフラワー

__ 
今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
三名 
ありがとうございます。
__ 
どうぞ。
三名 
(開ける)わぁ!
__ 
プリザーブドフラワー です。
三名 
可愛いですね。ありがとうございます。
(インタビュー終了)